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5話目-⑦甘い花になる 毒の実にもなる

今回はあまり変更してません

「流石にもう分かっただろう?」



影絵が投げた鞠に触れるとどうやらその部位の魔力を奪われるようだ。そう気付いた時には既に致命的だった。魔力を奪われ過ぎた俺の体は既に縮小し、そして俺の魔力を奪った分に比例して鞠は大きく強く育ってしまっている



「《くそがっ!》」



「やれやれ。無駄なことをする」



そして厄介極まりない事に、この鞠を投げつける影絵たちは物理的な攻撃が通用しない。正確に言うなら、影だからだろうか。殴ろうと地面を投げつけようと俺の攻撃が全てすり抜けるのだ、こうなってしまえば物理攻撃しか持ち得ない俺としては本当に手の打ちようが無かった。



相性が悪すぎる。せめて魔法が使えたらもう少しやりようがあったが、こうなると……いや、待てよ……I think soいえば日本語を書いた時に魔法使えてたよな?

姫様よ。どうやらあの数日前の実験は俺にとっても意味のある事だったみたいだよ



思い出せ、あの数時間の修行の日々を。姫は言っていた。俺が文字の内容を理解して魔力を流せばこの文字は魔法文字(ルーン)に変換されると言っていた……気がする。いやきっとそうだ。



や、やるしかねえ。しかし影に効く魔法か。

インド洋……間違った。陰と陽。光と影。光が当たらない所に影が出来るのだ。そんな事、誰もが知ってる。当たり前のこと。つまり、光を当てれば影など簡単に消えてしまうのではないだろうか?



「随分と愛らしい姿になったものだ。時間稼ぎのつもりだったが、存外このまま削り殺すのも一興だな」



「《吠え面かきやがれぇぇぇ!

これが!!光の力だ!!!》」



"光"と地面に書いた。その字が魔法文字に変換され、眩い閃光が辺り一面に迸る。効果としては一瞬で瞬き程にも満たない時間で視覚に強烈な刺激を与えてきた。俺の目にはカケラのダメージもないが、普通の人間が食らったら間違いなく一時的に失明するだろう。効果は一瞬だったが、それで十分だった。影絵は消えていたからだ。鞠だけなぜか残っているが、影も形も無いとは正にこの事である



ヒャッハー!散々調子に乗ってくれちゃって。こっからギッタンギッタンにしてやるから覚悟しろよなと言わんばかりにはしゃぐ俺の姿を見て、アナムは余裕を崩さず尚おぞましく笑っていた



「最初にそれをやるべきだったな」



判断が遅いと言いたいのだろうか。ハッタリではなさそうなので、まだ奥の手があるのだろうか



「む?」



瞬間、気を失っている桐壺の目や鼻や口からドロリと汚水のように黒く濁った血液が溢れる。それを拭いながら確認したアナムが僅かに視線を細めた



「これはいかんな。私の存在に肉体が壊死しかけてる……」



「座興はこれで終いとしよう」



巨大に膨らんだ影絵の鞠を右手に宿ったアナムが大きく口を開けて果実に齧り付くみたいにムシャムシャと食べ始めた。一口食べる毎にアナムの力が爆発的に上昇していくのが分かる。負のオーラのようなものが既に意識が無い桐壺の全身を包み込み始める



真の恐怖には理由がないとは誰の言葉だっただろうか。体が小さくなって脳味噌まで縮んでしまったとしか思えないほど頭が上手く働かず呆然とする。

その姿は生物が持つ理由のない恐怖を大きく形作っていくようであった。凡そ生き物と言うには程遠いその総身は刃で出来た怪物であり、正しく怪奇であった。絶対に人と相容る事の出来ない同じ生物とさえ呼ぶのも憚かりたいほどの圧倒的な忌諱。異形へとその姿を変貌させていた



見ただけでSUN値をゴリゴリ削ってしまう、醜怪な巨獣は天に向かって吠え上がる。山のように大きな獣が自己を世界に誇示するように地鳴りのような声で天地を鳴動させた。



「■■■■!!!!!」



吠え終わると巨獣の黒く澱んだ単眼が俺をゆっくりと見下ろす。見つめられるだけで、恐怖とも緊張とも言い知れぬ悪寒に体が僅かに硬直する



「素晴らしい魔力だ。忌々しいエニシダ・サバトにより討滅され一欠片程度だった魂でこれだけの力を取り戻した。桐壺との契約を成した暁には、この国全ての命を我が糧にするとしよう。さすれば更に力を取り戻し、私はかつての姿に一層近付ける事になるだろうからな」



「そして今度こそ天魔のやつに……いやそれよりも」



発声する器官は見当たらないが、話し終えた後に巨獣は俺から視線を外し、明後日の方へ顔を向ける。それは花ちゃんが項遠王を連れて逃げた方角であった



この巨躯に追われて暴れられたら、それだけで一体どれだけの命が消えることになるのか。考えたくもない。そんな光景を想像するだけで、俺の肝は冷える。絶対に城壁の外に出すわけにはいかない



「《おいおい連れないな。俺の相手をしてくれないのかい?》」



「お前とやるのは飽いた。今の私の全力の一撃を手向けに消えるといい。紛い物め」



単眼が膨大な魔力を込め始める。マズイ、これが、こんなのが、撃たれたら俺所か後方にある全てが消失する。

咄嗟に俺は被害を抑える為に、アナムを飛び越えるほど上空へ高々と飛び上がろうと試みる。



「逃がすものか。さあ消えよ。終末を告げる息吹き(フレアデス)



死の光が収束して、その全てが俺に向けて撃ち放たれ全身で受ける。たちまち鱗が剥がれ肉体は焼かれてるというのに不思議と痛みはなかった。だがこのまま受け続けると間違いなく死ぬ確信があった。考えろ。どうする、どうすれば────アーカーシャの身体が魔力で出来ている。ならば、魔法を構成している魔力も体内に取り込めるのではないかとふと頭によぎった。出来るのか?そんな事が。いややらねば。俺は魔法の海の中で大きく息を吸った。そして……



「ふ。ふははは。ふはははは。なるほど。こうするのか。大声で笑うというのは確かに気分が良いものだな」



「さあ。これで何者にも邪魔はさせぬ。鏖殺だ。何もかも」



『マイクテスト。マイクテスト。あー、あー!ヴルカーン管理人かぐやでーす』



『聞こえていますかー?今の攻撃は防壁機能で止めました。次は貫通されるので撃たせないでくださいね』



「誰に言っている?あの紛い物なら討滅したぞ」



『今の程度で?』



「なんだと‥‥‥」



アナムは自身の攻撃で消し飛ばした方へ顔を向けてそのまま表情を凍りつかせた。流石のアナムも動揺を隠せなかった。何が起きたのか理解ができなかったのだろう



「《勝利宣言をするには気が早いな。そして次にお前が言う台詞は、馬鹿な!?なぜ生きていられる。だ》」



「馬鹿な!?なぜ生きていられ……ハッ!」



「《俺たち始祖ってやつの身体は魔力で出来ているんだろ?なら魔力を元に構成している魔法も内部に取り込んで魔力に変換できる。違いますか?》」



魔法を食べて莫大な魔力を得られたからだろう。俺の体は元に戻り、更に今まで以上に力が漲っている



「ま、魔法を食べる、だと。無知がすぎるぞ。それらは魔力によって発動しているだけだ。始祖であろうと全く異る発現した力を魔力に変換できるわけがない!」



「《でもできてる》」



そう言ってアナムは攻撃する。

ムシャムシャムシャ



「こんな。こんな事が…!仮に食べられたとしても、私の権能の蝕により貴様の身体は瞬く間に朽ちて果てるはず」



「《それはなんでだろうな》」



諦めずにアナムは攻撃する

ムシャムシャムシャムシャムシャムシャ



「有り得ぬ、有り得ぬ、有り得ぬ。こんな事が出来るわけが……!」



無駄と理解してもアナムは攻撃し続ける

ゴクリッとその全てを俺は飲み込んだ。少し口元が痺れるな。まあさして問題はなさそうだが、これなら桐乃さんの料理の方がよほどキツかった



「《ご馳走様》」



純度の高い魔力を得たせいだろうか、頭が随分と冴え、全能感と多幸感に包まれている。少しだけこのアーカーシャという存在を理解出来たようだ。今なら誰にも負ける気がしないな



「《さて 来いよ、ド三流。俺とお前の格の違いってやつを見せてやる》」



「馬鹿な馬鹿な馬鹿な。あ、雨乃三具鞠!!」



「《そいつはもう攻略してみせたろうに》」



「《今の俺はこういうこともできる》」



アーカーシャは空気を触れる。そしてその空気を捻じ曲げて、光を屈折させていく。今の俺なら此処ら一帯に降り注ぐ光全てを捻じ曲げて、闇にする事が可能だった。空気のカーテンを幾重にも被せる。そしてそんな簡単な事で案の定影絵たちは消えてしまった



光だけでは無い。淡い影などより濃い闇で塗り潰す事もできる



「ひぃ」



化物は化物らしからぬ悲鳴を上げた。暗闇であろうと、昼間のように俺にはその顔が恐怖に歪んでいる様がハッキリと見えた


後は醜悪な汚らしい生き物の体を細かく解体するだけの簡単な作業だった





キャラクター紹介

【アナム 毒魂ver】

始祖/悪性変異


【ステータス】

パワー  SS

魔力   SS +

臭気   測定不能

能力   測定不能


【呪法の智慧 権能"蝕" 終末を告げる息吹き】

呪法の智慧:呪術という自身の魂を消費して爆発的なエネルギーを得る技法を下地に魔法体系を丸ごと組み込みアナムは呪法を生み出した。万全の状態のアナムであれば魔法よりも出力が大きく呪術発動の為の条件も無視できるのに加えて魔法ではないので魔法効果を防御魔法でも防げず、呪術同様に発動したら回避もできない概念攻撃となる。本編では呪装霊具の効果再現のみに留まっている

権能"蝕":始祖は個々に権能という力を有する。権能とは凡ゆる万物と万象よりも優先される力である。"蝕"は理を侵食する権能である。例えば傷が決して癒えないと蝕まれると、ありとあらゆる負った傷が致命傷になるといった具合である。

終末を告げる息吹き:アナムの必殺技その1。相手は死ぬ。


【説明欄】

契約と魂を司る"始祖"。今回は桐壺の肉体をベースに自身の魂の残滓をアーカーシャの魔力で肉付けしていった結果、醜悪な姿となっているので本来の姿とは異なる。過去に天魔と戦い討滅されている。

存在自体は善も悪もない中立であったが、人々の魂の負の側面に傾倒し過ぎて汚染されてしまい現在に至っている。また魔女に呪術を授けたりもしている。

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