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5話目-⑥you got nerves but they never show

アナムの一人称は今後のために我から私に変更しました

シソ。それがアーカーシャという存在を表す言葉らしい。俺みたいな凡百でもこの力を扱って数日だが嫌でも理解できたことがある。得体が知れず強さの桁が違うということだ。間違いなくこの世界の頂点の存在。だが姫の口振りからしても唯一という感じではなかった。

なら仮に同類が居たとして、事を構えるなど想像もしたくない。そんなことになれば……



「人は弱い。痛みに涙し、血を恐れ、死を遠ざける。この脆弱さで何を期待する。無駄だ。何も掴めない。何一つ成せない。惰弱で醜悪だ。終わりを乗り越えるなど夢のまた夢。そうは思わないか、アーカーシャ……ではないな?失礼した。君は誰だ」



「《……俺はアーカーシャだよ》」



「ナンセンスな答えだな。私は魂も司る始祖だ。存在をどれだけ酷似させても魂は偽れない以上、私にその手の誤魔化しは効かない。もう一度聞く。君は誰だ?」



魔力だけで空間が今にも焼き切れて息が詰まるこの感覚を一体何と表現すれば良いのだろう。直感的に理解する。目の前の存在はアーカーシャと等しい。

シソとは始祖ではなく死祖が正しいのではないだろうか。それほどまでに重厚な死を感じさせてくれた。

桐壺の右手の甲に突然口が出現して流暢に喋り出したそいつは、いつの間にか桐壺の右手の掌に大きな単眼も出現させていた。洞穴の様に真っ暗で虚無としか言いようの光を知らない眼が俺の事をまざまざと穴が開いてしまいそうな程に凝視している。



「《だからアーカーシャだって言ってるだろ。》



そしてソイツは何が面白いのか突然、醜悪に。下品に。ゲラゲラと聞いてるだけで身の毛もよだつ嗤い声を恥ずかしげもなく辺りに響かせる



「《笑うなよ》」



「いやなに、紛い物の方が幾らか健気そうで面白くてな、あの時に君のような奴がアーカーシャだったのなら夜叉も死なずに済んだろうに」



「《突然何の話だ?》」



「もう終わった話だ。"魂"と"契約"を司る始祖アナム。この名に賭けてこれより逃げた武王を殺す。何者にも邪魔はさせぬ。」



アナムは言い切るや否や歌うように攻撃を仕掛けて来た



「"汝。咎人ニ罰ヲ与エルモノト知リ給エ"切り断ち」



アナムはノーモーションだ。だが首に強烈な違和感を感じる。直感的に攻撃を捉えて何かが首を迫っているから守らなければいけないと教えてくれている。即座に腕で首を守る、その1秒にも満たない刹那に目には見えないが鋭い切れ味を持つ何かが飛んできた



「不意打ちを直感と認識による事象の先読みで防いだか。何よりも忌々しい鱗は健在で中身がどうであれ、今の我では詠唱有りでもアレを突破して首を飛ばすのは流石に無理だな」



「なら今度は力比べといこうか」



斬撃による攻撃を諦めたのかアナムが歌いながら指を振るうと空間からハンマーのような武器が宙に現れる



「"汝。塵ハ塵ニ灰ハ灰ニ帰スモノト知リ給エ"火具槌」



火具槌と呼ばれた黒い炎を身に纏ったハンマーが俺の直上に突然出現したかと思うと、持ち手もいないのに勢い良く振り下ろされる。何よりも俺の度肝を抜いたのが、その槌の余りの巨大さである。優に俺の身体の倍以上の大きさを誇っている。

そのまま巨大な槌の打ち下ろしに対して俺は拳で押し返す。



「《オラオラオラ!》」



俺の拳と同じ分だけ槌が振り下ろされるがその度に余波で地面が粉々に砕け散り互いに一歩も譲らないといった様子である。



「埒が開かないな」



「"汝。黒キ涙ハ悪魔ヲ呼ブモノト知リ給エ" 愚九ノ血」



突然空が暗くなり、爪が不気味に伸び、骨ばった老婆のような手首だけが宙に現れた。手には怪しい試験管を持っており、それをゆっくりと地面に向けて傾ける。試験管の中身がこぼれて、地上に降り注ぐと、地面から泥をこねくり回した9体の化物が現れる。


数を頼みに押す気かと一瞬だけ警戒したがそうではなかった。初めからアナムの目的は俺ではないのだ。



「我が僕たちよ。逃げた奴らを追え」



「《んなことさせるかぁぁ!!》」



奴らが動くより先に翼を高速で泥人形に振るう。左右それぞれで2体ずつ刺し貫くと、人の形を維持できなくなったのか泥人形たちはドロドロになり溶けていく。残った5体もその調子で全滅させたかったが、アナムがそれをただ見ている訳がなく、いつの間にか俺の真横に入り込んでおり、火具槌を叩きつけてくる



「《くそっ。邪魔だっつうの!》」



「モロに直撃したのに目眩の一つも起こさないとはな」



何度か殴られながらも無視して更にもう1体を手で捕まえて握り潰す。残りは4体だが、アナムに更に追撃を加えられ真上から思い切り地面に叩きつけられ、ダメージこそ無いが生まれた僅かな時間で残りは取り逃してしまう



「《こ、のやろう。調子に乗りやがって〜!》」



「お前の相手は私だろう。遊んでやる」



「"汝。影法師ハ死ニ向ケテ手ヲ引ク者ト知リ給エ"雨乃三具鞠」



遠くから子供たちが笑い声と共に。鞠が地面を跳ねる音と共に。小気味良い鈴の音と共に。近付いてくる。いや俺の周囲に既にいて取り囲んでいる



「直ぐに終わる」



無数の子供の影絵は俺を取り囲みながら、ポンポンと黒いシャボン玉の様な黒い鞠を突きながら俺めがけて緩慢に投げつけてきた。破壊力がありそうには見えない。



「《そんなものが効くわけ……》」



ソレを受けようとした瞬間にアナムの口角が僅かに、だが邪悪に緩み吊り上がったのを確かに見た。その瞬間、反射的に身体が鞠を避けてしまったが、僅かに腕が触れてしまう。

痛みらなかったが、ある事に気付いて、俺は大きく飛び退いて距離を取る



(腕の力が抜けたな)



「《物理ではなく特殊能力系か。能力とか教えてくれたら助かるんだが》」



「後、何回か当たれば嫌でも分かる」




影絵の子供たちは笑いながら一斉に黒い鞠を投げつけてきた

ちょっとした補足

アナム本体は既に討滅されている。だが元々用心深いアナムは魂の一部を隠していた。その隠していた魂を更に分割してとあるプロセスを通した時のみ呪具に出現するようにしている。

現存する呪具の情報を呪法を通してインストールする事で使用することが可能となっている

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