表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/233

5話目-⑤but your heart got teeth(心に牙を突き立てろ)

ーーアーカーシャsideーー


こんにちは。役立たずアーカーシャです。

どうして自分をそんな卑下しているのかって?本気を出したら桐壺を止められると思ったのに、止められない所かあっさりと国外追放(物理)されてしまったからです。

ぐぬぬ、聞きました!?奥さん!あの時の桐壺の捨て台詞「バカなんだな…」

俺はバカじゃない!俺はバカじゃない!!こうなったら真の仲間を見つけてあいつを、その、なんだ、ギャフンと言わさなきゃ気が済まない!



しかし問題は今の状況だ。



現在進行形で桐壺の攻撃を前に為す術なく俺は遥か遠方まで飛ばされているのだ。このビッグウェーブに乗りすぎて、もはや王都が影も形も見当たらないのは言うまでもない。後生だから神様、助けてくれよー



【ほんと手がかかる】



若い女の声が聞こえた気がした。その直後に刻まれた紋章の色が失われて突然全身に力が漲り、身体が元の大きさに戻る。抗えなかった強力な斬撃の波が途端に鬱陶しく張り付いてくる錆びついた刃物のせせらぎ程度になり、腕を振るうと消し飛んだ。姫と距離が離れすぎたから、契約が効力を失ったのだろうか?だとするなら、いまここでトンズラこいたら、脱使い魔じゃん!まっ、やるべきことがあるからそんなことしないが



「《どこまで飛ばされたんだ、これ》」



元の大きさに戻ったのなら、あの悪趣味なパワーアップをした桐壺を止めることも可能だろう。しかし場所が分からない。此処はどこ?俺は誰だ?思い出せるのは、龍王になる前世の俺には可愛い彼女がいたという情報だけだ。



「《ここを一直線に進めばいいのかねぇ……おろ?》」



異世界で初の迷子。うわぁ…どうしよ。途方に暮れていると背後から誰かが近づいてくる気配を感じたので反射的に振り返ると犬っぽい獣人の女の子が空を飛んでいた。なにやら高そうな紀章を身につけている。



ま、まさか!迷子を助ける為の犬のおまわりさん的なやつ……ではなさそうだ。何やら剣呑な空気を感じるが無視してとりあえず挨拶をしよう。挨拶で友好さをアピールしよう



「《ニーハオ、サンハオ、好ハオ》」



「フリューゲルに急いでる時に、よりにもよってなんで龍が……!」



誰に言うでもなく、ボソリと毒づく獣人の彼女はトレンドマークと言わんばかりに立派な犬に似た獣耳が頭頂部にはあるのだが、その髪の毛は逆立ち2mはある黒い鉄棒のような物を俺に向けて滞空しながらギラギラと瞳を鋭くして睨みつけている。ふふ、怖い……



「《それにしても》



どうやら空を飛ぶ技術がこの世界では確立されているようだ。なぜそう思ったのかというと、桐壺みたいに力技で宙を蹴って飛んでいるのではなく、彼女は身につけているブーツから魔力を噴射して滞空しているのが分かるからだ。魔法で空を飛ぶといえば、俺たちの世界でいえば箒だったり、絨毯だったんだがな。



それにしても、魔力を噴射して空を飛ぶ靴なんてあるんだな。魔導師がこういうの創るんだっけ、確か魔導具、っていうんだよな。だとするなら、この世界の文明基準って結構、いやかなり高いレベルではないのだろうか。思えばバルドラもインフラ方面はしっかりしていたし。

しかし道具がここまで高性能だとこの世界のスポーツってどういうふうに公平性を保ってるんだろう。ちょっと気になる




ってか今は一分一秒が惜しいというのに、思考を切り替えろ。やるか?やるしかないのか?どうする? どーすんの オレ? ライフカードを確認!!

【戦闘】 【逃走】 ▶︎【説得】



「《暴力は良くない。何も生み出さない。それに同じ赤色同士仲良くやれたら嬉しいなって。だからそんな殺気をさっきからださないで……な、な〜んてね。うぷぷ……》」



表情を険しくしたまま彼女がその手に持つ武器を起動した。



「……何か話しかけてる?玉手箱起動。この龍の言葉を翻訳できる?」



《起動開始。蓄積データと既存情報リンク共に問題無し。おはようございます主人様、6時間ぶりですね。そしてログを確認しました、先程の命令はどうやら実行可能なようです。私の名前はタマ。こちらは魔導師の赤空花。貴方様の名前をお聞かせ願います》



姫と同じ魔導師か。それにしても某スマホのAIはシリで異世界のAIはタマとは困惑せずにはいられないな。これを環境型セクハラとして提起したら批判は免れないんじゃなかろうか。まっ俺はやらないけど



「《やっはろー。俺はアーカーシャ。迷子なので挨拶ついでに道を教えてくれると嬉しいなって》」



《なんですって!?俺様の名はアーカーシャ。現在人生の迷子になっていて、あなたに導いて欲しい、ですって。これは、そのあれです!》



「《ニュアンスが若干異なる!!!》」



「え、えぇぇ!!?それってプロロロポぼぽ!!?

こここ困るよ。自分まだ16だしっ!……そりゃ君はかっこいいよ!アリなしでいえばアリだし。いやいやでもまだまだ魔導師として頑張りたいというか……で、でも生まれて初めて告白されたし、やっぱり。でもでも、雪先輩と同じ仕事をせっかくしてるのに、やっぱナシ!……ま、まってまって自分、これを逃したら《まあ告白はぜーんぶ嘘ですけどね。道を尋ねて…》



「うぁぁぁ!乙女の純情を誑かしたなぁぁぁ!!!恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい。こうなったらお前を殺すしか」



「《お前のせいじゃん!どうにかしろよ!》」



《てへっ。場を賑やかすためのわたしなりの喜劇(ユーモア)のつもりだったのですが、それに主人は男に縁がなくて、なんというか、可哀想でしょ?》



「《そんなんで惨劇が引き起こされる俺がダントツで1番可哀想だろうが!!》」



《人間関係を円滑に進めていける潤滑油のような存在にわたしはなりたい》



「《滑り過ぎて衝突事故起きてんだよ》」



今のやり取りだけで何となく人柄は掴めた、情熱的にして思い込みが強く子供の様に直上的な印象を強く受ける。

泣き喚く少女を表すイメージカラーは間違いなく赤と誰もがそう答えるだろう。所々が跳ねているショートヘアは豪奢で憂愁を思わせる夕焼けと同じ茜色と同じであり、頬はりんごの様に赤みを帯びている。見てるだけでうっとりとする紅玉のような瞳も、身に付けているアクセサリーや着ている高級感あふれるモフモフのコートも。その全てが赤ばかりであるのだ。赤は危険。はっきりわかんだね



「《っていうかそれもこれもこのAIタマのせいだよ。人間関係捻ってるんだが。最早捻りすぎて捻切れてるレベルなんだが?お前が悪い!お前だけが悪い!》」



《そんなこというんだ。へぇーそっか、分かりました。わたしの本気を見せてあげます。

主人!龍とか亜人とか関係ない。俺様にはお前が必要なんだって言ってます!》



最早言ってもないことを翻訳し始めたんだが、おい業者はよリコールかけてくれえええ!ここに!今ここに被害者がでてますよぉぉ!!



「えっ!そ、そうなんだ。あ、あ、アカシャ様!」



《ね?止まったでしょ》



この子情緒不安定なの?初対面の相手に対してON /OFFのスイッチがおかしいよ。獣人だから感情の起伏が人間より大きいんかね



「所で自分のどんな所がいいなって思います?」



「《犬みたいで可愛い所》」



《犬みたいで可愛い所》



「は?」



ゾッとするような今日一番の真顔だった。ハイライトがまたしても消失しているが、もうね、ブラックホールばりの深淵。引き摺り込まれそう。このおぞましい流れ止めない?



「ほほ誇り高いライカンを、よりにもよって犬畜生と同じにするんですか?

確かに自分は人とライカンの混血種(ハーフ)なんですけど……侮辱です!酷い。責任とってよ!」



「《なんの?》」



知らなかったとはいえNGワードだったみたいだ。容姿に関する発言は迂闊だったな。今度から控えよう。誠に遺憾ながら俺の配慮に欠けた今の物言いが、思いがけずかなり癪に触ってしまったらしいので、謝罪を述べることにした



「《ごめんなさい。悪気があったわけじゃないんだ。気を悪くしないでくれ。》」



「《そういえば、君たちって白雪姫って魔導師知ってる?俺は姫と契約している使い魔なんだけど。ほれこの主従の証を見よ》」



《……自分は魔導師白雪姫の使い魔だと言ってます》



胸に刻まれていた、対等には程遠い奴隷契約を交わした哀れな紋章を見せつける。

初めこそ訝しげであったが、俺と姫の契約の証を見たら徐々に顔を青ざめさせていく



「え、えぇぇ!?雪先輩の使い魔!

ま、まさか。自分が遅かったのでわざわざ迎えに来てくれたんですか!?」



……。姫に呼ばれた?つまり向かう先は一緒ということか



「《そうだよ!チンタラしてんじゃないよ!早く俺の背に乗りな!》」



このビッグウェーブに便乗する事にした。まあ便乗するというか、便乗させるんだけどね





序列8位『赤』を冠する魔導師赤空花。それが彼女の名前だった。魔導学院時代の姫の後輩にあたるらしい。そういや姫って何歳くらいなんだろう。俺とそう年は離れてないはずだが年上、だよな?



どうやら2日前の夜。つまり清正さんと戦ったあの日の夜に先輩である姫に呼びつけられたので、急いでバルドラ首都に向かっていたと話してくれた。



「クンクンクン。確かによく嗅ぐと雪先輩の魔力の残り香を感じる。ハァハァ……」



「ああ〜先輩に早く会いたい」



スンスンと花ちゃんが鼻を鱗にくっ付けて、恍惚感に包まれた声色と尻尾を振りながらそんなことを洩らす。

名前通りに百合という名の立派な花を咲かせているみたいですね。あと嗅ぐのやめろ



そういえば、神の子を産んだ聖母様と白百合には深い繋がりがあるとかないとか聞いたことがある。

百合。純潔。受胎告知。天使の祝福。ここから導き出される答えは……そう、つまり、百合こそジャスティスという天からの啓示的なやつなんじゃないかな……あと嗅ぐのやめろ



「《姫のこと随分と慕ってるのね》」



《白雪姫の事を尊敬してるのかと聞いてます》



「尊敬?そんな俗な言葉で片付けないで欲しいです。これは崇拝。そう何を隠そう雪先輩は唯一神様に並ぶ女神なのです。あの美貌に頭脳。アカシャ様は知らないだろうから、雪先輩の伝説を教えてあげましょう。先ず史上最年少で魔導学院オーウェンに入学し、入学時点で特級魔導師に認定されていた神童。更には知識の乏しい1回生の時点で数多の魔導具や魔法術式を創りあげた事で銀杖星位勲章を授与されました。まあ後に四賢人と揉めて特級の方は剥奪されてますけど……」



「ともかく!雪先輩のこと聞きたいなら教えられる範囲で教えますよ。自分と契約している人の事は知っておいたほうがいいですからね。使い魔契約は契約者とどれだけ適合出来るかで発揮できる力が大きく変わりますからね。」



「《そうでせうか》」



そうこうしている内に王都が見えた。その瞬間に突然全身に強い魔力が覆い被さってきた。これは桐壺の魔力だ。だがさっきよりも更に巨大に膨れ上がっている。危ういほどに



花ちゃんも獣耳を澄ませて何か感じ取り、何かのスイッチを切り替えたように真剣になる



「あの1番デカい建物近くに大きな魔力反応が2つ。でも急がないとアカシャ様!!その内の片方がもう消えかけてる!!」



「うおおっ!」



花ちゃんに急かされるまでもなく、既に俺は全力で空を蹴り視界に捉えた桐壺の目前に向かっていた



ーーー



「アーカーシャ」



そして今に至る。桐壺が震える様な声で俺の名を呼ぶ。俺が離席した僅か数十分の間に、項遠王と桐壺の決着は着いていた。

王は片腕を切り落とされ、傷口からは水道の蛇口でも捻ったかのように止めどなく血が溢れ出てており、血溜まりの池に体を沈めていた



そして勝った桐壺が今まさに敗者にトドメを刺そうとしていたのを俺が阻んだ形だったのだが、桐壺の表情を見るとそう単純な状況ではない様だった。

よく見ると、攻撃しようとしている右手を左手で掴んで必死に抵抗しているように見て取れる



「コイツを止めてっ……!」



コイツとは、誰かなど論じる暇もなく、それは口を開いた



「なぜ邪魔をする。もういい、幸せな夢を見せてあげるから少し寝ていろ」



桐壺は何処からか声が聞こえたかと思うと突然意識を奪われたのかガクリと項垂れる



右手にある黒いエネルギーが桐壺の全身を徐々に満たしていくのが分かる。このエネルギー自体にドス黒い意思のようなものがあることが俺には分かる。そして相当な悪いやつだ。なにせゲロ以下の臭いがぷんぷんとしやがるからな。



「状況分かんないけど、怪我人は自分に任せて。きちんと雪先輩のとこまで連れて行くんで、だからあいつ任せますよ」



「《おう任された》」



「玉手箱起動。10番の棺桶で怪我人を保存。自分の魔力も回して可能な限り治癒お願い」



《かしこまりました》



花ちゃんは項遠王の巨体を変形させた棺桶に詰め込み、それを軽々と担いで、一目散にこの場を離れようとするが、眼前の奴がただ見ているわけがなく、攻撃を仕掛けて来る



「誰が逃げて良いと言ったかな?」



右手が斬撃を飛ばしてくるが、俺はそれを指で両断する



「《誰か追っても良いといったか?》」




キャラクター紹介

【空蝉 桐壺 】

人間/殺し屋



【ステータス】

パワー  B+

魔力   A+

呪具   S

ムラっ気 A


【呪装霊具 切り断ち 呪胎転変】

切り断ち:本来はギロチン型の呪具であり、触ったものを切断する呪いを持っている。更にギロチンの特性上、首に当たれば、それが例え擦り傷でもたちまち悪化して首を落とす呪殺を成立させる凶悪さを持つ。

呪胎転変:呪具に高レベルで適応出来ている所持者のみ毒魂アナムの力を行使できる禁忌の理。使用後は必ず魂が喰われるがその喰われる割合は術者自身の強さによって変わる。

【説明欄】

魔獣災害孤児。先代桐壺に助けられたことで彼女に憧れ彼女を目指したことで今に至る当代の桐壺。なるべくしてなった他の殺し屋たちとは根本的に動機が異なっており仕事を選ぶし相手も選ぶ。純粋な戦闘能力が極めて高いが空蝉篝火以外の指図は基本受けないので空蝉本家もめちゃくちゃ手を焼いている。

正義の味方に憧れ、勧善懲悪を旨としているが、思想と行動が著しく逸脱しているので、どちらかといえばアンチヴィランと定義するのが正しいだろう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ