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4話目-㉘軌道共鳴

ーーアーカーシャsideーー


ドゴォン!そんな冗談みたいな音と共に壁がまるでクッキーみたいに砕け散った。向かい合う俺たちと桐壺たちの間に、壁を突き破って転がって来たソイツがため息混じりにムクリと立ち上がる。



「やれやれ」



一言で言うなら異形。人型であれど随分と人間離れした体格をした人外である。長身の姫達と比較しても肩にすら届いていない。何という亜人なのだろう、これは。というかこの人全身紫色である。これはピープルですか?いいえ パープルです。

パープルは赤に近い紫色でどちらかというとこの人?は青色よりの紫なのだが、んな細けえこたぁいいんだよ!



そもそも全身青いのは元からなのか鬱血のせいなのか。

後者だとしたら、いくら初登場はインパクトが大事っていっても、限度があるだろう。井戸から這い上がってきたり、壁ぶち抜いて来たり、どうして俺とエンカウントする奴らってのはこう身体を張るんだい?まったく、元気良いなぁ。何か良いことでもあったのだろうか。俺も登場の時は膝に悪いスーパーヒーロー着地でもやろうかな。



「これはこれはみなさん。お集まりでお楽しみいただけてますでしょうか。我が名はラドバウト。魔国将軍が1人」



「ラドバウト…?もしや "腐食"のラドバウトですか。

宥和路線を取っている現魔王と相容れずに一線からは退いたと聞いていますが、観光にきた…訳じゃなさそうですね」



「観光さ。但し敵情視察という名のな」



そいつの瞳が俺の瞳と交錯する。悪意と害意を折り混ぜた混沌とした何かが背中を這い寄る。生理的な嫌悪感。それざ得体の知れない不気味さとして場を支配しており、誰もがそれを感じ取ったのだろう。

気持ちを落ち着かせる為に、どこぞの凄腕会計士よろしくソロモン・グランディでも口遊みたいところだが、身体に染み付いた無意識な防衛本能がこの危険を排除しようと勝手に動き始めていた。



「2人がかりか」



桐壺の行き着いた結論もどうやら俺と同じだったらしく、示し合わせた訳でもないのに互いに動き出したのは同時であった



「《ちぇりお!》」



「二速!」



「動きは悪くない」



俺と桐壺の拳に挟み込む形でそいつに容赦なく打ち込む。小龍と少女と思うなかれ。俺はともかくとして、向こうは凄腕の殺し屋であるかして、正に一撃必殺。と、いきたかったがどうにも一筋縄じゃいかない。



「ふむ‥‥」



俺の力を込めて強く打った筈の拳を右手で軽々と受け止め、背後の桐壺の攻撃に至っては見ることすらせずに左手で易々と受け切っている。この魔人強い!



「驚いた。力も強い」



「では今度はこちらの番だ」



ラドバウトは桐壺を左手で払い飛ばし、そのまま勢いをつけて俺に振りかぶってくる。



「触らせるな!アーカーシャ殿!」



遠くから玉藻ちゃんの忠告が飛んできたが、そんなものは間に合わない。声が届いた次の瞬間には、俺の小さな体が上から下の地面へ虫の如く叩き落とされていた。



「ほう?魔法銀(ミスリル)をも腐食させるこの力が全く通らないなんて‥‥‥一体どんな身体を」



「《5秒やるからさっさとこの汚い手をどけろよ》」



俺は翼を伸ばして、玉藻ちゃんに刻まれている魔女の死印を"力付くで剥ぎ取った"。玉藻ちゃんが「はっ?」と間の抜けた声を出すが、気にせずそのまま俺を取り押さえてる左手に向けてその呪いを付与した。焼印のように皮膚に死印が刻み込まれる。



「ッッ……これは手痛い反撃だな。既に発動している呪いの移し替えなんて」



そいつは驚いた様に咄嗟に飛び退いて俺から離れるが追い打ちをかけるように桐壺が向かっていく。



「悪は断罪です!」



「おおっと。流石に片手だと色々と手間だな。少しこの子を止めてもらっていいかな?」



ラドバウトは桐壺の次々と繰り出す技を難なく片手のみで払いのけていく。今の言葉を聞いてキセルを口にして傍観している桐壺の師匠は仕方なくそれを諌めるように言葉を発した。



「‥‥止めろ桐壺」



しかしそれはより一層桐壺を激昂させた。止まらなかったのだ。仕方なくといった様子で、吐き出した煙で無理やりに桐壺を拘束する。それでも無理矢理動こうとする。凄まじい馬力である



「なにを!止めてくれるなです 師匠。こいつは!」



「止めるだろ。目の前にいる相手は依頼主だぞ」



その徹頭徹尾冷静な言葉に桐壺は怒りを露わにしながらもそこで彼女は漸く足を止めた



「は?」

ちょっとした補足

魔族:かつては初代魔王ルーテンと共に北の最果ての大陸ミューヒンラフィーネに移住した氏族達のことを指していた。

現在では魔国の勢力拡大に伴い、魔国に帰属意識がある者たちのことを指しており、特定の種族ではないとされる

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