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4話目-⑳あざみの如く棘あれば


銃弾が突き刺さると同時に雪姫の身体がくの字に曲がる。だがそれだけであった。

生身で銃撃に遭ったにも関わらず、彼女は血の一滴も。片膝すらつくこと無く。何食わぬ顔で直ぐに面を上げた。



その顔は苦痛に表情を歪めているというより、どちらかと言えば恰好をつけようと失敗して、それを誤魔化す子どものはにかんだ笑みの印象を受ける。

そんな表情に戸惑いを覚えるのと同時に今自分達はとんでもない敵と相対しているのではないかとぞくりと夕霧の身の毛がよだっていく。



「銃というのも中々どうして侮れない物ですね。魔力操作で弾丸を動かした……いや、違うわね。あの手からすり抜ける時に、僅かに意思のようなものを感じました。存在が確立されてない弱い微精霊でも憑依させたのかな?」



「面白いね。そういう使い方もあるのか。」



初見の攻撃に対して可能性がありそうな推論を立てて勝手に自己完結していく雪姫は、少しだけ夕霧に興味が惹かれたのか軽やかに口角を上げていた。

雪姫の服には確かに先ほどの銃撃により弾痕がまざまざと残っているというのを再度思い出したのか、雪姫は腹部の方に空いてしまった穿孔に指を突っ込みソレを摘まみ出す。取り出されたのは彼女に撃ち込まれたであろう銃弾である。



「ふぅーん?」



驚くべきことに弾の状態はまるで硬いものにぶつかったかの様にベシャリと潰れてしまっていた。雪姫はぐるりと注視しながら銃弾の状態を確認していたかと思うと、突然弾に息を吹きかけて、興味が失せた子供みたいに夕霧たちに向けて銃弾を指で弾いて返した。

銃弾は跳ねながら廊下を流れて転がり夕霧の爪先にぶつかって止まる。



夕霧はゆっくりと転がってきた銃弾を見る。銃弾には確かに自身の魔法が付与されていた。それを受けたにも関わらず僅かな血痕の付着も確認できない。魔法を使われた所か魔力の流動も特に大きな変化は無かったのに、生身でどう防いだのか、夕霧には分からなかった。理解出来なかった故に恐怖した。



再度銃口を構える。普通の攻撃で効果が薄いのなら、人間の弱点の狙撃を試みたのだ。雪姫の眼球に狙いを絞る。数十メートル離れた小さな的に命中させるのは至難の技だ。だが夕霧はいともたやすくそれを実行できる。なぜなら、彼女の魔法"狂った(フェアリュック)|者たち(トハイト)"は夕霧が見ている場所へと必中するからだ。



そして夕霧の所持するライフルの有効飛翔時間は14秒。初速はマッハ1を上回る。つまり、14秒という時間制限こそあれ、夕霧は自身の魔法が運動能力を失うその瞬間まで自由に攻撃を加えることが出来るということに他ならない。

人間が音速より速く動くことはない以上回避は出来ず、そしてどれだけ優れた反射神経があろうと音速を上回ることもあり得ないので防御もできない。

放たれた弾丸は縦横無尽に動き────



「それはもう見た」



次の瞬間には弾丸が壁にめり込んでいた。雪姫はまるで鬱陶しく飛び回る蝿でもはたき落とすように、横から平手で薙いだようだった。



「……嘘。あなた…何、なの?……」



そんな夕霧の、自分を信じられないものを目の当たりにしたかのような目が可笑しいのか、雪姫はその容貌に似つかわしくない邪悪さを滲ませた小さな声をくつくつと漏らした



「そこまで驚くことでもないでしょう?」



これは自分たちの手に余るという確信。顔色の悪い夕霧の表情に更に深い影がかかった。

そんな中で花宴だけは能天気そうだった。



「夕霧ちゃ〜ん。呑まれんなよ。弾丸なんて下位の騎士でも反応できる。身体強化でこいつが騎士相応の能力を発揮できるにしても最初あたしの攻撃を避けた。別に無敵じゃない。首を飛ばせば殺せる」



花宴の指摘に対しても、あーそんなことかと雪姫はどこか残念そうなため息まじりに手斧を指差す。



「自分の武器を見て。血と脂がべったり付いてる。そんなのをわざわざ受けたら服が汚れるでしょう。

それにあの程度を避けるなという方が難しい。」



雪姫の挑発に花宴の前額に血管がピキピキと浮かび上がってくる。



「くくく、舐めやがって。いいなー早くその顔ぐちゃぐちゃにしてやりてぇな!」



「やるぞ、夕霧ぃー!」



鼻息を荒くして手がプルプルと怒りに震えている花宴は今にも向かっていきそうだ。雪姫は花宴の様子を無視して見逃してあげますよと蔑んだ目で話が通じそうな夕霧に訴えてみる。温情はどうやら夕霧の方には伝わったらしいが、だが夕霧も覚悟を決めた目で睨み返し拒絶した。



「……仕事、なので……」



苦しそうな笑みを浮かべながら、構えた銃に力を込める。そんな彼女らの楽観的な見通しに呆れたようにため息を再び深く一度ついて、雪姫の右手が指鉄砲を形取る



「お前たちは簡単に命を奪いすぎる。だからそんなにも簡単に命を捨てられるのね。」



雪姫の言葉が終わると同時に花宴たちの足元が突然爆発した。爆発の原因は、雪姫が先ほど投げ捨てた銃弾であるあの数瞬の間に冷気を圧縮し解放する魔法を弾に組み込んでいたらしい。



冷気の咆哮によって、花宴と夕霧の両名の身体は竹とんぼの様に空中を駆けて床に身体を強く打つけたのか、蹲り呻いていた。



「不快ね。キツめに矯正してあげるわ」



凍りついた通路一帯を眺めながら雪姫は白い息を吐き出した。



「魔導教会上級魔導師 白雪姫といいます」



「よろしくお願いしますね お二人さん」



キャラクター紹介

【宿木 花宴】

人間/殺し屋


【ステータス】

パワー  D

魔力   D

隠密性  A

能力   C+


【魔法 気配遮断 指定複製】

気配遮断:本来なら存在感が薄くなる程度の魔法だが、花宴の場合は天性の才能も合わさり第六感的な気配察知はおろか観測魔法でも感知がほぼ不可能となっている。

偶然目視でもされない限りは攻撃を食らうまでは相手も気付けない上に気付いた時には大抵相手が死んでる為、能力は凶悪。また触ってる間は他人にも同様に気配遮断が発現するのでその気になれば白昼堂々人を殺しても気付かれないくらいやっぱり凶悪。

指定複製:幾つか簡易的な道具をほぼ無制限にコピー出来る魔法。例を挙げると花宴のジャケットの内側には手斧が1本しかないが雪姫戦闘中にコピーして複数個出している。


【説明欄】

宿木という殺しの名家の分家筋にあたる人。言動が小物くさいがプロの殺し屋なのでそれなりに腕は確かなはず。

仕事内外に関わらず色んな人を殺しまくってるサイコキラー。

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