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4話目-⑰流る血潮

(私の観測魔法にも引っかからない隠密能力。そして扉一枚隔ててるとはいえ、気取られずにこれだけ人を殺せる腕)



起こっている現状を正しく認識した雪姫は、ああ そうか と心の中で静かに呟いた。



空蝉の手にかかり項遠が命を落とす。だから敵は空蝉だけという安易な思い込み。だが眼前の女は『宿木』と名乗った。つまり実際には空蝉を含めた幾つかの殺し屋たちが共謀して結果的には空蝉が項遠の首を取った。こういうことなのだ。



こうなってしまっては話が変わってくる。どれだけの暗殺者がいるのか分かったものではないからだ。そして正直な話をすれば雪姫としては項遠が生きるも死ぬも何方でも良いのだ。

故に天秤にかける。勝てる勝てないの話ではなく、未知数の強敵に対して自分たちがどの程度のリスクを負うべきなのか……と



「何で笑ってんの?」



そう指摘されて雪姫は、そ知らぬ内に自身が薄く笑みを浮かべていることに気付き驚く。

花宴はその表情に警戒を示したのか、訝しげに眉をひそめたまま、一定の距離を保ち続けたままだ。



「特に意味はありませんよ。それに理由があったとしても興味はないでしょう?」



雪姫が冷たく言い切ると、花宴はまるで野犬のように獣じみた犬歯を覗かせながら「確かにな」とヘラヘラ笑い同意して言葉を続ける。



「これからあんたは其処に転がってるやつと同じになっちゃうんだ。聞いたところで意味はねーな!」



言葉が言い終わらぬうちに鈍い光を放つ戦斧を大きく振りかぶり、そして花宴は戦斧を投擲した。

戦斧は風を裂いて豪速で押し迫る。が、雪姫の顔色に大した焦りを見せずに対処した。



雪姫が手を翳すと先程攻撃を防いだ氷壁に意志が宿ったかのように、ぐにゃりと柔らかく曲がる。氷は雪姫を守るように周辺を球体状に覆った。

投擲された戦斧の刃が氷にめり込んでいく。想定してた以上に投擲の威力が強かったらしく、凄まじい破損音と共に氷球にその刃を深々と突き立てていた



(清正と戦った時も感じだけど、彼との契約にリソースが割かれてて、他の魔法を使用するとかなり出力が落ちるな。)



(消費量はいつも以上。この出力は普段の10%にも届いているか怪しいですね、これは‥‥…)



自身の状態に雪姫は少しだけ煩わしそうに顔を歪める。



「あっはー!じゃあ次は数を増やすからどうすんのさー」



対して攻撃を防がれたからなのか、まさに満面といった様子で笑みを浮かべる花宴の両手にはいつの間にか戦斧が握られていて、そして先ほどと同じに、今度は二本となった戦斧を立て続けに投擲した。



花宴は雪姫の次の行動を注視していた。1本を防ぐのもやっとなのだ。ならば氷の盾を張ろうと盾に2本を受け切る度量はない以上、防御はなく、取りえる手段は回避しかない。



花宴はその隙を窺っていたが、雪姫の周りで変化が起こる。周囲の氷が今度は両手に纏わり付いていくのだ。氷は徐々に龍の鉤爪を思わせる手へと変化をみせる。その氷を身に纏った雪姫はさも簡単そうに回転する戦斧を二本とも掴み取った。



「おぉーすげえ反射神経。ほんとに人間かよ、お前」



流石にこの対処方法は花宴の予測の上を行っていたらしく、笑みが僅かに引きつる。何よりも目を引くのは雪姫の反射能力以上にその膂力だろう。



魔力による肉体強化をしたとして、戦斧の回転数を見極め、壁を紙のように裂くほどの威力を秘めた戦斧の柄を精確に掴み取る。

言うほど実行にうつすのは容易なことではない。掴み損なえば、手を切り落とされる所か最悪死んでしまうだろう。危険を冒してまでそんなことをする意味はない。いやそもそも常人なら仮に掴めたとしても、凄まじい回転に巻き込まれて腕の筋がネジ切れてしまうだろう。



「目が慣れたら案外どうにかなるものですね。貴女もやってみると良いですよ」



自慢気ではなく、只淡々と事実を言う雪姫は手に持つ戦斧を一本投げ返した

花宴の投擲よりも遥かに速い速度で投げ返されたソレを防ぐ暇すらなく、花宴がとっさに跳び上がると同時に靴底の爪先が僅かに裂ける。



「あっ!ぶなー!!」



食らってれば間違いなく即死だ。攻撃を目が無意識的に追ってしまい、花宴は僅かに雪姫から目を離してしまう。真下を通る戦斧から視界に雪姫を戻した時には既に遅かった。



次に目に入ったのは、二本目の戦斧を跳んで無防備な的になった花宴に容赦なく放つ所だったからだ。こうなれば回避する暇など与えない。両者ともに終わったと確信した。だが次の瞬間、花宴の後方から何かが高速で横切りぶつかったのか、火花を散らし戦斧が弾かれる。



「……危ない…から、助けた……けど、邪魔?……」



颯爽と奥の廊下から現れたのは長髪の女性だった。丸眼鏡をかけていて、身体つきはとても細く、女性にしてはかなりの身長がある。特徴的なのは男性用の燕尾服を着ていることだろう。



長身の女性が担ぐようにして握りしめているマスケット銃の銃口からは煙が出ており、辺りに火薬の臭いを漂わせている。

誰かは分からずとも、その行動で襲撃者である花宴を助けたということは、長身痩躯の女性もまた雪姫の敵であることは明白だ。



「いやいや、助かったぜ 夕霧ちゃん」



素直に礼を告げる花宴に対して、女性は控え目に提案する



「……2人……で、殺った方が良い……と、思う……」



花宴は手を顎に当て悩むように唸った後に何かを気にかける様子で長身の女性に問いかける。



「なぁー?前菜はあとどれだけ残ってるんだー?」



そう尋ねられて、長身の女性は胸の内ポケットの中からコンパクトに折り畳まれている羊皮紙を取り出し目を通す。高度な魔法が内蔵されているのだろう。



「……経過時間13分弱……現在のキルスコア……宿木25……東屋68……夕霧102」



長身の女性の話途中で事態に気付いたのか、物々しい武器を携えた数人の男たちが、長身の女性の更に奥の方から向かってくるのが見える


「貴様ら、なにもの‥‥た"''」



男の1人が武器を構えて声で威圧するよりも早く、長身の女性は振り向く事すらせずに、明後日の方向を向いている銃の引き金を引く。



銃口から青い魔法陣が展開され、魔法陣を高速で通り抜けた1発の銃弾が青い光の残光を発しながら駆け回ると、青白い閃光が帯のように描かれる。そして、青白い閃光は男たちの体を織物をする針のように何度も何度も刺し貫く。


雪姫が瞬きする程度の時間で、あっさりと男たちは絶命したが、命を奪った長髪の女性もそして花宴も、別段興味が無いのか、表情に喜怒哀楽すら浮かべず話を続行した。



「……夕霧106……護衛、9割除去……」



「ってことは残ってる大きな仕事は、ターゲットにくっ付いてる狐の巫女と親衛隊の1人だけ、のはずなんですけどー……こいつが誰か知ってるか?」



花宴が雪姫に指を刺して聞くも、夕霧も困ったように首を傾げる。



「……正体不明……けど、強い……危険……」



夕霧は単独では手に余ると言いた気であった。それに対して少しだけ面白くなさそうにしながらも気持ちを切り替えた様子で花宴も言葉を漏らす



「しゃーね。っし、夕霧!一緒殺るか」 



花宴の言葉に夕霧はコクリと頷いた。

了承の意を示すと、直ぐに夕霧はカチャリとマスケット銃を構える。


「……疾走せよ……我が眷属……フェアリュックトハイト」



夕霧が引き金を引くと同時にマスケットから弾丸が撃ち放たれる。先ほどと同様に弾丸は青い魔法陣を突きぬけて、青白い光を纏う。

放たれた弾丸は真っ直ぐにではなく、三次元的に飛び回り、そして雪姫の反応速度を上回り、身体に突き刺さった。




ちょっとした補足

腕に覚えのある殺し屋たちはみんな"縮地"と云われる歩法の極みを会得している。単純な素早さではなく、体捌き、歩法、呼吸、死角、様々な現象が関係し合うことで、相手との間合いを瞬時を詰める技術。

例えば宿木花宴は自身の気配遮断の魔法と掛け合わせて、ほぼ完璧に相手に気付かれずに不意打ちができる。


雪姫が纏った龍の鉤爪の魔法は小さい状態のアーカーシャと同じくらいの力がある。

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