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4話目-⑨メメントモリ

今回も(ry

夕餉(ゆうげ)の時まで暫し待って欲しい。」



話が終わり玉藻ちゃんにある部屋へと案内された。場所は246階。どうにも、俺たちがこのバルドラ王都であるフリューゲルに滞在するにあたっての部屋を充てがわれたらしい。


入ってみると部屋はかなり大きかったが、内装自体はシンプルで無駄な物もあまり置かれておらず、どこか生活感が薄い殺風景な景色が部屋の広さを際立たせ、うら寂しく感じる。俺たちの国は物が溢れていて、そんな国で生きてきたせいか、俺は物に囲まれている方が安心感を覚えてしまうな。



「《ん?》」



と、部屋を一通り何気なく見ていくと、前の世界でも馴染みが深い物があった。それに自然と目が吸い寄せられ止まる



「《こ、これは、掃除機!!?》」



そう。それは紛れもなくやつだった。そんな馬鹿なと思いつつも、近づいて掃除機らしき機械のスイッチをONへと入れる。ブォーンと掃除機らしき、いや掃除機が駆動音を立てて床の上の微細物を吸い上げようと驚きの吸引力を発揮していた。



掃除機に俺の目は釘付けだった。ってか目が釘付けって怖くない?字面だけ見るとまるで拷問である。

いやいや、そんなことよりこの掃除機はコンセントに刺していないのに動いているということはまさかのコードレス!

というか、何であるの?俺の目は興味深さの余り、もう異世界の掃除機から目が離せなくなっていた。

一つ分かっているのは吸引力が変わらない、ただ一つの掃除機ということだけだ。化学の力ってすげー!



感動した。掃除機を持ち上げて、隅々まで観察していると、掃除機に何やら掃除機本体の三分の一程度の金属の樽らしき物が取り付けられている事に気が付いた。ひゅー俺じゃなきゃ見逃しちゃうね。



樽には魔法石&魔法種燃料純度10%【吸】、と書かれている。これは憶測だが、文字の方は俺の脳がこの世界の言語を、俺が理解できる言語に変換して認識しているのだろう。エキサイト翻訳常備ってわけよね。

樽だけ取り外し、バーテンダーみたいにシェイクしながらこれは何だろうかと姫の方を見て目配せをする。



姫は何やら片手にすっぽりと収まりそうな小さなガラス玉を手に持ちながら電話みたいに話しかけていたが、俺の呼びかけに気付くと此方に近づいてくる。



「それは魔導具ですよ」



「《マドウグ?》」



魔法の道具ってことかな?ファンタジーの世界で良くある魔力を帯びた道具みたいな。



「魔導具っていうのは私たち魔導師が創り上げた道具です。その容器の中には魔石と魔法種燃料が内蔵されていて‥‥‥ざっくり説明しますと、一定以上の魔力を含有している鉱物を魔法石若しくは魔鉱石といいます。今は魔石というのが一般的ですね。

この樽に魔石と燃料を混ぜ合わせて魔力を抽出します。

魔法種燃料は『青』を冠する魔導師が創った"霊薬"ですね。魔力と混ざると魔力の質と燃費効率を良くします。容器に刻まれてるのは簡易的な魔法術式です。この術式に魔力を流して魔法を発現しています」



「持ち主の魔力の有無に関係なく誰でも使える物、それが魔導具です」



……姫は舌に油が乗ってきたらしい。少しずつ饒舌になってくる。



「少し長くなりますが、こういった魔導具の発展の背景を掻い摘んで話しますと、先ず従来の魔法は差別化を図るために便宜上、旧神魔法と呼ばれていますが、この魔法形態は完全に個人の資質に依存していて、更に旧神魔法は感覚的な部分も大きいので、他者に伝授することが魔力の有無に関わらず容易なことではありませんでした。1世代限りで魔法を研磨しても世代踏襲も出来ずに終わることを先人たちは歯痒く感じたでしょうね。」



「そこで満を持して魔法術式。俗に言う現代魔法が生み出されました。……待ってください!魔導具はもう少し後に出るので」



あれ?気付けばお勉強の時間になっていたでござるの巻。生憎、俺は記憶力が余り宜しくない。ので、歴史などは覚えられずに毎度苦労している。完全記憶能力が欲しい。そしたらどこぞの腹ペコシスターよろしく勝手に魔導書なりなんなりを10万3000冊位読み漁るのに。



「魔法術式の発端は、全ての魔法は魔法文字(ルーン)を使う事で証明する事が可能である。魔導の開祖と云われる始祖。天魔エニシダ・サバトがそんな言葉を遺したことにあります。天魔の言葉に触発されて初代魔王であり天魔の眷属でもあったルーテン・ブルグは実に200年かけて全てのルーンを発見し、更に100年かけて魔法をルーンで表す術。魔法術式を編み出しました。あまり使われませんが呪文とも呼ばれたりしますね」



「魔法をルーンで表すことが出来るということは、後世に生み出した魔法を余すことなく遺すことが可能になった訳です。それが新たな問題を多々引き起こすことの原因にもなりましたけどね。」



「その一つが個人の魔力保有量です」



噛まずにペラペラと話す姫の顔が思いの外に活き活きしてる為に止めるに止められない。



「旧神魔法は他者との共有ができず個人でしか扱わないので、今まで魔力量に焦点が当てられる事はありませんでした。使える人がそもそも少なかったのもありますが。

ですが、こうしてルーンを覚えてさえいれば、魔法術式を用いれるわけですので、全ての魔法を理論上は使える形になりました。この結果、魔法においては魔力量こそが重要であるという考えが浸透し始めることになります」



「人間の性ですね。ここで魔力の大小のみで全てが決まる新たなヒエラルキー社会が生まれました。」



「恥ずべき考えですが、魔力量が多い人間こそより優れていて支配すべきと考える人が一時期大多数を占めてしまいました。出来上がった魔力至上主義社会は魔力の少ない者たちを差別して、奴隷のような扱いを強いたそうです」



何処の世界でも差別や偏見はあるのね。



「当然それを良しとしない人間が出てきて、事態は次第に大きくなり、気付けば人間は魔力を多く持つ者とそうでない者たちとに別れて戦争になっていました」



「戦争‥‥という言い方は適切ではないかもしれませんね。あんなものは虐殺と表現すべきですか。強大な魔力を持つ人間と持たない人間の差は圧倒的ですから」



「力を持つ者が一方的に持たない弱者を殺戮していき、実に100万人を超える人が命を落としたそうです。その現状に嘆いたルーテン・ブルグは自責の念に駆られて、自ら命を断ちました。ここで事態は急転して、今度は魔族側が魔王が死んだ原因は人間にあるということで宣戦布告を行いました」



「第一次人魔大戦が始まり、この戦いで人間と魔族の両軍共に数十万が死んだそうです。戦いは長引き疲弊した両者は互いに停戦協定を結んで人から距離を取るために魔族はとある大陸に移住します。そこからルーテン・ブルグの息子であるオルガ・ブルグが戦いの火種になった魔力量問題を解決する為に、個体の魔力量に影響されずに魔法を使う研究に着手しました。その結果、こういった使用者の魔力を必要としない道具が生み出された。というわけですね」



ご静聴ありがとうございました。笑って言う彼女は、何故か手慣れた様子で軽くお辞儀までする。

パチパチと俺が拍手を送ると姫は少しだけこそばゆそうにはにかむ



「少し前まで、後進たちの成長の為にというお題目で、偶に学院で教鞭を執ってくれと呼ばれることがありましてね。ついつい知らないことを相手に教えることが、板に付いてしまったというか、ええ、ごめんなさい。偉大なる龍王様(アーカーシャ)には少しばかり退屈だったかもしれませんね」



「 《‥‥‥学びは大事だからね。機会があるならまたお願いするよ》」



無知は罪とも言うし、此処で生きる以上はこの世界のことを知る努力はするべきだと、俺は思う。ただ俺に何かを教える時はもっと短く簡潔に頼むぜ。忘れちゃうからな!

コンコンと突然ドアが軽くノックされ、誰かが入ってくる



「雪姫殿。アーカーシャ殿。ご飯の時間じゃぞ。今から出られるかえ?」



開かれた扉から玉藻ちゃんがひょこりと顔を出す



「ええ、大丈夫ですよ」



姫はそう言って振り返ると、俺に手を伸ばす



「行きましょうか」



夕陽に照らされて輝く姫が俺に対して初めて優しく微笑んでいる様に見えたのは、多分目の錯覚か何かだろう。



ちょっとした補足

魔導師が作った製品→魔導具

魔族側が作った製品→魔道具

霊薬はその種族にしか作れない特殊な薬。同じ工程を経ても同じにはならない。

魔法はだれもが使える力の総称。故に魔法文字で再現出来るものが魔法。再現出来ないものは魔力を使っているだけで全く別物の力。魔力を筋肉とするなら、魔法はあくまで格闘技の一つと置き換えると分かりやすいかもしれません。

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