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9話目-㊴

アーカーシャの事実上の宣戦布告はその日のうちに黒の応龍である彼が急報として届けていた。詳細も踏まえてだ。だがそんな焦りを見せる黒い彼とは対照的に何人かの国司は鼻で笑った。



「バカバカしい。御庭番の事はともかく、今回の件で一介の魔物が怒って攻めてくるから何だというのか。その程度の些事はそっちで内々で対処しておけばいい」



と最後に朝臣が吐き捨てた。



「いやいや朝臣殿!仮にあの小さな魔物が本物の龍だとしたら危険かもしれぬ。家の窓を破られてはたまらぬぞ」



「なんと臣殿!それは気付かなんだ。確かに一大事であるな。戸締まりをしっかりするように歯車の者たちに厳命せねば!」



朝臣一派の道師と臣が茶化してきたものだから黒い彼の視線が鋭くなる。彼らは魔物の台頭を快く思わない一派である。今回の件を仕組んだのは奴らの可能性が非常に高いと踏んでいた。いや今はそんなことはどうでもいいと黒い彼は振り払い、初めて宮中を震わすほどの大声で国司たちを威圧した



「お前たちは!!事の重大さを理解しているのか!!!」



「ヒィッ!」



普段から國の政を双肩に宿しこの首都山城にて専権を振るい言葉巧みに交わす国司たちですら身が竦むほどの言葉の重みが彼らを飲み込んだ。驚きのあまりひっくり返る者までいたほどである。



「伽羅よ。あの小龍の事を随分と知っているような口ぶりだ。話せ」



弥栄大和大王に促されて黒い彼は端的に話した。彼という存在を。それは余りにも現実味の無い話であった。直ぐには信じてもらえないほど。



「つまり、アーカーシャは此の國の礎を授けた鳳仙カムイカグラ様と等しい存在であり、また三王同盟の一角である彼の国の龍王である、と?」



「ああ」



「嘘をつけ!そんな報告は八咫烏からは一切なかった!」



朝臣一派が指を指しながら唾を撒き散らす。だが絶大な権力を誇る国司たちの中でも一際強い力を持つ真人が手を上げた



「事実だ。八咫烏の頭領からは既に報告があり俺が止めていた」



「な、なぜ情報共有をしなかった!国の王直々の来賓であると知っていたら……!!」



「知っていたらなんだというのか。あのような直接的な蛮行はしなかったとでもいうつもりか!!そもそもお前たち一派は裏で聖国の方に肩入れをしていた。目を瞑っていたがもはや目に余るぞ」



「証拠はあるのか!」



「そうだ。証拠をだせ!我らが犯行を企てたという証拠をな!」



「直ぐに尻尾を掴んでやる!」



真人の弾劾に苦し紛れに朝臣一派が騒ぎ立てる。



「いい加減にしろ!!」



大和が初めて声を荒げて国司たち全員を叱責した。彼女はこの場で最も若く青い。だが最も尊大で苛烈であった。魑魅魍魎たる他の国司たちと大王という位のみで言葉を交えているわけではない。彼女の生まれながらに人の上に立つ資質と圧力により全員が押し黙り、天蓋に立つ彼女の言葉を待つ



「此度の騒動。御庭番の者どもにお前たちの誰が命じたにせよ、その暴挙に走らせたのは手綱を握れなかった私の責である」



「ならば私と私の持つ全ての財で怒りを納めてもらうとしよう」



時に。現在の宮中に存在する3つの派閥の力関係はほぼ等しい。仮にこの問題の首謀者が分かったとして大王や真人が裁くのは難しいほどに。

大王である彼女は本当にそれこそが上の責務と言わんばかりにあっけらかんとそう言ってのけた。その魔眼を燦然と輝かせて。だからこそ大和の言葉が理解できずその場にいた全員が静止した。



「何を言っているのですか!この中の誰かの愚行のために御身を捧げると?」



大王一派の稲置が言うと首を縦に振った。



「そうだ」



「責任を取るために貴女の人生を捧げるのですか!」



大王一派の連が言うと首を縦に振った



「だからそう言ってる」



(((それをさせてはいけない!!!)))



彼らには彼らなりの思惑がある。一枚岩とは到底言えない。反目し合っている。だがこの時ばかりはこの場にいる全員の考えが一致していた。



そこからの宮中での会話はなんともスムーズに進んだ。

アーカーシャがやってきた時にどうやって止めるのか。その話題のみであったからだ。

だがやはり過るものもある。仮にアーカーシャを止めれたとしてその後はどうするということだ。彼は今や三大列強である三王同盟の一角を成す王だ。建国戦争による伝説は未だに語り継がれ心酔する者も多いと聞く。

どんな理由であれ、アーカーシャに危害を加えたと知れたなら彼の国とその配下は黙っていないだろう。最悪の場合、同盟国である軍国と魔国まで参戦を許す羽目になってしまう。もうそうなればお終いだ。この國を護る名目で皇国と聖国連合国も参戦し歴史上類を見ないほどの大戦争に発展するだろう。



「なんだか上は騒がしいねぇ。そんな強いんだ アーカーシャ」



黒い彼の隣に立つ一級王兵夜行が沸き立つ彼らを傍目にいつも通りに呑気にあくびをしながらそういった。



「こら夜行 会議の場で欠伸しない」



それを嗜めるように同じく一級王兵の最上が口煩く注意をさへるがいつものことなので夜行はへらへらと受け流していた



「強い」



「君よりも?」



一級王兵。事実上の此の國の最強戦力が集められており、一級王兵伽羅はその中の最高戦力である。つまり大陸最強の存在である彼を持ってしても彼の存在の力量を測れなかった



「多分な」



その答えを聞いて夜行は見透かすように告げる



「大王から聞いたよ。君はそいつの眷属なんだってね。

で、どうするの?眷属のクリカラとしてあっちに着くの?それとも一級王兵の伽羅としてこの國を護るの?」



「オレは……」



その問いに黒い彼は言葉に詰まって答えられなかった




そこから暫くして、変化を感じ取った。

原因は直ぐにわかった。海の彼方から何かがやって来る。彼の存在の怒りが目に見えて空間を膨張させ海を熱している。家畜たちが怯えて騒いでいる。鳥たちは羽ばたいて逃げ出しネズミ達が我先にと海に身投げをしている



【返事を聞かせてもらおうか】



彼の声は遥か彼方にまで届いたと錯覚するほど高らかに盛大に響き渡る、まるで天からの啓示のように。

黒い彼は眼鏡の奥にある目を更に鋭く細めた。魔力にも純度がある。今のアーカーシャの魔力は極限に濃縮された神にも等しいものである。

あれと比較したらその他全てが十把一絡げの有象無象の何者でもないだろう



「なにあれ神様?だったらいますぐ入信したい」



夜行が顔を歪ませてそんな呆けた声を出した。神であると言われても信じてしまうほどの圧迫感。

最初に仕掛けたのは海に所狭しと敷き詰められた軍艦たちである。その砲火があっさりと弾かれる



【我の怒りを見せてやる】



アーカーシャがグッと空間を引っ張った。目を疑うような光景だ。空間ごと大海が桶の水でもひっくり返すみたいに津波となって押し寄せた。目の前にある軍船がなす術なく飲み込まれていく



【民の避難は済んでいるようで安心したぞ】



「いやいや避難どころかあんなのやられたら一発で國丸ごと全部アウトなんですけど」



一級王兵亜面はそんな軽快な言葉とは裏腹に無表情である(これはとある代償によるものだが今は割愛とする)だが対価として自身の魔法の効果範囲を数十mまで広げることが可能である



「グラビティボール!」



強力な引力の魔法により津波の半分が引き摺り込まれて消失する。だがそれでも残り半分。だが直撃する瞬間にピタリと止まる



「勝手は許さん」



一級王兵櫛灘。彼は自身の魔眼をエニグマと称しており、その能力は自身の視線にあるモノの魔力の流れを掌握するという強力なものである



【へえ】



その常識外れの力を前にどこか浮ついた空気は一瞬で霧散した。一級王兵を除く全員が見せつけられた力の差を前に戦おうと考える者はいなくなった。誰が好き好んで天変地異を引き起こしてしまう存在と事を構えたいと考える。



「魔物の暴力なにするものぞ!」



だが夜行が奮い立たせるように武器を天に掲げて決死の覚悟で拒絶した。彼は自身の感情を伝播する魔法符術を使用してその姿に戦意の折れかけた皆が共鳴して武器を構えた。どこか嬉しそうに目の前の龍王は笑った。



【素晴らしい】



アーカーシャが歓喜に満ちた笑みを浮かべて向かって来る中で黒い彼は未だ動けない。

アーカーシャが如何様な力の使い方をしているのか、空気がまるで鋭くしなる鞭のように変化していた。数にして50は下らない。その全てが一斉に振るわれた。

空気の鞭に一切合切が叩きのめされて地に臥していた。黒い彼を除いて



【お前だけだ。どうする】





ーーー

我は激怒した。必ずかの邪智暴虐の輩を取り除かなければならないと決意した。我に政治は分からぬ。元はただの学生である。だが邪悪には人一倍敏感である。ゲロ以下の臭いがぷんぷんするのだ。あの宮殿からな!!



【お前だけだ どうする?】



その問いかけにあいつは苦悶の表情を浮かべて突っ立ているだけだ。



【通るぞ】



我がその横を通り過ぎようとした瞬間、衝撃が身体を襲った。殴られたのだ。



「ああ ダメだ。

オレは一級王兵伽羅!大王とこの國を護る!!」



黒い応龍に姿を変えた伽羅と我は同時に動き絡みつくようにぶつかり合った

そろそろ9話も終わる予定です。あと数話くらい

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