幕間 最良の従魔士とスライム その3
様々な事情で本編執筆が煮詰まってるので幕間を使わせてもらいました
この時代において最も興隆を迎えていたのは冒険者でもましてや魔導師でもない。従魔士と呼ばれるテイムという魔法を用いて魔物を従える者たちである。その人気は絶大であり今や従魔士の数は数十万にも登る。一握りの頂点に君臨するグランドテイマーともなれば使い切れない程の富と爵位を得ることすら難しくない。
そんな時代に四大大会メルクリウスを制した若きグランドテイマーがいた。人は彼女のことを"最良の従魔士"と呼んだ。
これは最良の従魔士と1匹のスライムが出逢い、成長し、悲劇へと至る物語である
「いまなんていったんだ ぶらねっ!」
修行の合間にスライムである彼?(ちなみにスライムは無性である)が従魔士であるプラネの呼びかけに首を傾げていた。表情の機微こそ分かり辛いがどことなく戸惑いの色が垣間見える
「だーかーらープラネだっつーぅの ってか名前だよ お前の。いつまでも097番とか呼びずらくてしゃーねえし。"ケイオス"っていま適当にパッと考えたんだが」
「おおっナマエ!でもなんかなんかっ!テキトーなわりになまえおれのかっこいいなっ!」
核心を突かれて図星だったのかプラネが少しだけ誤魔化すように咳払いをした。隣に控えていた3歩下がって主人を立てる礼節と謙虚が服を着て歩いているカイネが悪戯っぽくコソりと耳打ちをした
「ああ言ってますがマスタープラネは一晩考えていたんですよ。因みにケイオスは渡航者たちの世界では"無秩序"を表す名のようです」
「むちちゅじょ!かっけー!」
「無秩序な。スライムは最弱。そんな顔も知らんやつが決めた評価をぶっ壊す意味を込めてな。お前が最強のスライムになる。その第一歩だ」
「おれやるよっ!ツギのシアイぜったいかつぞー!」
「それはまたな。今回は勝たせてやるってなわけでケイオス、午後からお前のスキルを見せてみろ」
「オレのスキルでドギモぬくなよなっ!ぶらねっ!」
スキルとは魔法と違い誰もが使える力ではない。希少であるが故にその原理の殆どは謎に包まれている。
しかし魔力噴射というスキルはその中でも比較的メジャーなスキルに分類される。このスキルを端的に分かりやすく言うなら本来生物が無意識のうちにリミッターが設けられてる魔力放出の制限を取り払うスキルである。
「魔力噴出を活かした体当たりか、カイネ嬢はどうみる」
「私にはなんとも。マスタープラネの評価をききたいです」
「ふむ」
プラネ曰く。ケイオスの魔力噴射レベルは5段階評価で最低ランクの1である。これは同じレベルの者よりも魔力放出が1.1倍程度大きくなるといった程度のレベルであった。
「どうだっ!オレいままでこれでかってきたんだっ!」
ネーテルガル宰相のコンドラッドは国で管理している魔物たちを同族同士で競わせ戦わせていると言っていた。ケイオスはスライム全体の中で見れば強い部類に入る。それは間違いない。
現にケイオスは自信満々に得意気である。それとは対照的に見学していたカイネとライオットの反応はイマイチであった。
魔力噴射して得た推進力での体当たり。その威力は彼らにしてみればなんともお粗末なものであるからだ。だが……
「悪くない」
「だろーっ!さすがぶらねっ!わかってるー」
「いやいや。岩が少し凹むくらいって、あんなんでゴーレムとやり合っても百回は打ち込む必要がありますぜ」
「つまり100回打ち込めばゴーレムと同程度の岩も砕けるということだろ」
「いやいやそんなの現実的じゃ」
「ケイオス。お前今の体当たり何回できる?」
「えっと、いち、にー、んと、いっぱいっ!」
「最高だ」
その言葉にプラネは嬉しそうに口角を上げる。そしていつも通り見透かしたようにアドバイスを送った
「パスを通して私が魔力操作を手伝ってやるから、とにかく魔力を腹の底に出来るだけ集めてタメを作れ。時間がかかってもいいから、可能な限り長くな。放出は私がする」
「えっと、魔力をあつめればいぃーんだなっ?」
「おう。そして今までの鬱憤も込めて力いっぱいライにぶつけろ。んでその攻撃をライは試しに受けろ。まあラガシュの怪物に限って無いとは思うがケイオスの攻撃がヤバそうだったら避けても良いけど」
「カチンとくる言い方をしますね、マスター?
俺っちはこれでもラガシュの怪物と恐れられた魔物だよ。幾ら何でもスライムの攻撃なんぞに恐れをなすわけがない!」
「どうかな」
ーーー
スライムの体はゼリー状であるがその実態は小さな核をもとに微弱な魔力で全身が一つの細胞となって動いている特殊な魔物である。
彼らはその核を破壊されると原形を保てずに崩壊するのだが、元々が魔力の塊である性質であるが故に魔力操作を人よりも容易に扱うことができ、それに伴い随伴する肉体の流動操作は他種族よりも圧倒的に高い。
つまり現在魔力を体の一箇所に蓄え続けたケイオスの肉体はそれを抑えるために全身が鋼のごとく固く強くなっていった。
「ぶ、ぶらねっ〜。なんかでそう」
「ケイオスは魔力噴出で攻撃をする際は1秒か2秒程度の魔力噴出を瞬間的に行っていた。だが今は3分溜め込んだ。それが今の君の最強の攻撃だ」
「いけ」
その合図でケイオスの身体はまるで砲弾の如く発射された。ライオットの頭には既に受けるという選択肢は消え去り、ほぼ反射的に躱していた。
「まじですか」
カイネは驚いたように大きく目を見開いていた。ライオットも同様である。軟弱であるスライムの攻撃により大岩が穿たれていた。
「ぶらね……おれ、なんか」
「これくらいできて当たり前だ。お前は強い。
それをこれから他の奴にも見せつけてやるぞ」
最良の従魔士はこれからの光景を瞼に浮かべてゆっくりと不敵に笑った