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9話目-㉞

「これで試練は終わりだ。さて魔迷宮攻略の報酬を与えないとね。何が良いかな」



動かなくなったかつての剣聖と聖女に別れを告げて振り返りざまに大精霊ウロは本題に入った。その目はどこか私たちを値踏みでもするように細まる。何か思惑がありそうだが、こちらの狙いは魔迷宮の報酬だ。私たちはそもそも紀伊國が魔迷宮の管理権を得るために来ただけだ。だから仮にどれほど魅力的な提案をされようと貰うものは初めから決まっていた。



「通常の精霊魔迷宮であればその精霊が持っている霊具だったり精霊の加護を与えたりしますよね。後は大量の財宝に魔迷宮の管理権ですか」



「そうだね。精霊の格と力の度合いによるけど。まあ普通は霊具あげるかな。余程気に入った相手には加護や寵愛を与えたりもする。財宝はオマケ程度だけど管理権の方は選んで魔迷宮主になって貰っても全然構わないけど個人的にはおススメはしない。この魔迷宮でしか手に入らない物とかも独占できる代わりに魔迷宮主は外に出られなくなるからね」



【閉じ込められちゃうってこと?】



「……出られないってのは言い過ぎた。ただ魔迷宮主と魔迷宮は存在が繋がるから永続的に魔力を循環し続けるハメになる。そしてそれは外に出た場合でも続く。だけど外の場合は循環がうまく行われないのでトドのつまり魔力が一方的に吸われ続けることになる。普通の人間なら長くても1日で衰弱死するレベルだ。存在が囚われてるってことは、もう出られないってのと一緒だろう」



鳳仙が創った鍵みたいな存在がいれば違うんだけど、ウロはそう最後に一言付け加えていた。彼は口にしなかったが魔迷宮主にはもう一つ利点がある。一つの異界を手に入れ大量の魔力のバックアップを受けられるので魔迷宮主は通常よりも強力な個体になる傾向にあるということだ。まるで富と財宝と書店を守る屈強な門番のように



「初見。確か貴方たち紀伊國は管理権を得るつもりだったのよね?誰がどう得る算段を立てていたのかしら」」



「当然貰いますがその前にこれを使います」



初見が特殊な印を刻まれた割符を見せる。だが雪姫はその道具を初めて見るのか用途を尋ねるように小首を傾げたので彼が説明し始める



「龍王アーカーシャ様が治める国には優れた従魔士がいますよね。その方の協力を得た"金"を冠する魔導師が従魔の魔法と契約魔法を改良することに成功したと聞きました。それにより生まれた隷属魔法の術式を我々扶桑は符術にしました」



符術。この大陸独自の魔法体系。魔力を補助し繊細な操作を可能とするのに長けているらしい。また熟練者は種火のように符術は術者の力を増幅させるので遠隔操作も可能らしい。



私と同化しているアナムの知り得る情報が自然と脳内に流れる。契約魔法の元となった魔法の一つに召喚魔法というものがある。本来なら自身と縁のある魔物が応じた場合に限り呼び出すことが出来るという術式だ。しかし触媒を用いることでほぼどんな存在でも術者にデメリット無く呼び出すことが可能となった。だがこれには思わぬリスクがある。まず術者の力量を超えている魔物ですら召喚できるので一時期戦争で自爆ありきで強力な魔物を召喚しまくるという方法を使う場合が頻発したのだ。これにより禁術として皇国に封印された。

それを白雪姫は術者が魔力消費と対価を支払うことと更に召喚条件を付け加えるという形で契約魔法の術式に組み込んで新たに完成させた。

そしてもう一つの従魔の魔法は術者と対象者の関係性により大きく効果が変わる。単純に強くなる者から特殊な能力を発現すると言った具合に様々だ。

その2つを掛け合わせた隷属魔法は一部龍脈を汲み上げて使用する魔法術式である。術者と所縁のある者、もしくは触媒で呼び出された対象者と同等の力を持つ複製体(ドッペルゲンガー)として一時的に召喚する。またメリットとしてその存在に自我は存在せず術者の意のままであるので反抗されることが無いということだ。



「"金"を冠する魔導師……隷属魔法……」



「……まあやってみたら早いですね」



「来なさい、イエティ君」



初見の呼びかけに手に持つ割符が発光して、光の中から全身が白い毛むくじゃらで猿のような大柄の生き物が顕現した。

見るのは初めてだがこれが本体の情報をコピーした存在か。私も仮に隷属魔法を使われたらもう1人の私が生まれるのだろうか



「イエティ君今日から君はここを僕達の代わりに護るんだ。OK?」



「ウホッ!」



「じゃあこの子を魔迷宮の主にしてください。ウロさん」



「外の世界はどんどん便利になってくねー。ほいよっと」



ウロが管理権をイエティに渡したのだろう。その瞬間、魔迷宮主となったイエティの体躯がこれまでの倍になり腕が四つになった。更には存在そのものが高まり高い知能も得たのだろう。言葉を発してみせた。



「ハイイエティに進化した、のかな?」



「オレに名をください、初見様」



「……わかった。ならお前の名はこれからイチバンだ」



「イチバン。オレの名前!イチバン!ここ護る!オレ初見様の代わりに!」



「よろしく頼みますよ」




その名前と呼べるかも疑わしいイチバンと名付けられたイエティは更に存在の格が上がったのか魔力が上昇し舞い上がっている。しかしコピーなのに進化もするのか、ここまでくると寧ろ怖いなこの魔法。劣っている本物の存在価値が‥‥‥。まあそこら辺は魔導師たちが考えるべきことか



【そういえば仮死状態の奴らをどうやって元に戻す気だ】



「あー忘れてた。全く元通りって訳にはいかないが、まあ半殺しって感じで今扉の外に放り出したよ。でも君、始祖なのに随分と弱者に気をかけるんだね」



【悪いか?じゃあ報酬も貰ったし帰るか】



「待て待て。まだ報酬を渡し切ってない。今僕は気分が良い。だから折角だし渡せるものは渡しておくさ」



【まだくれるのか。まあ貰えるなら貰うが】



「僕は精霊だから始祖に直接力を貸したりはしない。だからお前にはえっと、これだな。うん。これをやる」



ウロは空間に手を突っ込みガサガサと何かを探しているようだ。そして取り出した一冊の本



【こ、これは創作の書の下巻!】



「お前上巻持ってるだろ。僕が持つより本がお前がいいって呼んでいた」



【読んでいたと今かけてた?】



アーカーシャは大層お気に召したらしい。随分と喜んでいた。そんなに良い物なのだろうか。だったらあの本、私も読んでみたいな



「‥‥‥次に君だ。君からは居心地が良い感じがする」



「え、わた…し……?」



「君は微精霊に愛されているんだね。今時珍しい。精霊の眷顧を強化して加護にしてあげる」



「あり、がと‥‥う」



精霊の加護。中位以上の精霊の力を借りることができるスキルか。鈴虫が何気に良い拾い物をしたようだった。



「後は魔迷宮の財宝だけどいる?」



「財宝は桐壺、あなたが貰えば良いわ」



「私かよ、金には困ってないんだが」



【姫は貰わないの?】



「私はさっき彼女から貰いましたからね」



「まあ貰えるなら貰っておくさ」



「攻略おめでとう。これから君たちを外に出すわけだけど最後にあの2人を止めてくれたんだ。感謝している。

あ、折角だし遺物の核を持っていけ。彼らの魂の欠片がはいってる。何か使い道があるかもだし」



「ありがとうございます」



「では皆さま、ディオウロの魔迷宮御利用ありがとうございました。またのご来店を心よりお待ちしております」



景色が変わる。潮の匂い、流れるせせらぎ、小鳥の囀り。

そして大量の死体が築き上げられていた。

その顔ぶれは奈良茂が用意した三千の兵隊であった。その死に様はまるで一方的に虐殺されたかの如きである。



「なんだお前らは」



人の屍を踏み荒らし、近代的な装甲に身を包んだ者たちがいた。手にはその頭身に匹敵するだけの長さを持つ見たこともないほど大きな銃が握られている。どうやらこの銃でこの場にいる彼らに虐殺の限りを尽くした人物たちのようである



「赤い龍がいるぞ。ならこいつらが紀伊國のやつらか」



「依頼ではどっちにしろ全員殺せって話だ。逃げた奴らもいるし早くゴミ掃除を終わらせるぞ」



2人が巨大な銃口をこちらに向ける、より早く鈴虫が引き金を引いていた。どれだけの装甲に身を包んでいようと、僅かな隙間に入り込む彼女の弾丸の前には鎧など無意味である。バタリと2人同時に力無く倒れる



「な、に‥こいつ、ら‥‥」



「さぁな。分かるのはこいつらは間違いなく紀伊國と奈良茂どっちも殺そうとしているってことか」



剣呑とした空気に他の全員も遅れて事態を理解したようであった。

キャラクター紹介

【トバルカイン 生前ver】

聖人/剣聖


【ステータス】

パワー  S+

聖気   SS

技術   SSS

速度   SS


【聖剣目録 心眼 極めし武芸】

聖剣目録:剣聖は星の加護を受けた刀剣を聖女の力を介して呼び出し使用する事ができる力。特定の一本ではなく様々あるので状況に応じて使い分ける。出力は当代の剣聖と聖女の資質に依存する。

心眼:数多の戦いを繰り広げてきたが故に培われてきた第六感。簡単に言えば危険察知能力でトバルカインの剣の技量と合わせたらほぼ全ての事象に対処できる。

極めし武芸:後天的に身についたスキル。凡ゆる道具を武器として扱えるだけでなくその武器の性能を限界以上まで引き出して使える。

【説明欄】

アンジュが様々な悪党に襲われた際に巻き込まれて渋々旅を一緒に続けていた人。元々はそんなに強くなかったが戦いで死ぬたびにアンジュに蘇生させられて文字通り死ぬほど強くなって最終的には剣聖に行き着いた人。時代的には人類最強のアストールより前の世代なので、以前は剣聖=最強の人類という扱いであった。

一定以上の名剣であれば距離を無視して空に浮かぶ星ですら斬れるが本人は戦いの戒めとして武器は鈍を持つようにしている

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