9話目-㉙
問題提起された魔獣がいて我がそいつを倒していた。そして証拠となる魔石があるよと言った。
簡潔に言ってしまえばそれだけのことなのだが、倒したのが本当とか嘘だとかいうこの騒ぎようからして、どれだけあのカビサシという存在に皆が煮え湯を飲まされてきたのか窺い知れる。
「その魔導具は何ですか?」
「えーっとですね。これは団長さんが創って今現在下級魔導師からは標準装備となりました次世代型汎用魔導具玉手箱ver3.71です。
膨大な数のデータを内部に保存していて、しかも超小型精密な魔素粒子加速器を搭載しているので半永久的に使え、尚且つ凡ゆる事態と環境に対処ができる万能具です」
「彼女が創る魔導具は拡張現実をコンセプトにしていたけど、万能と言わしめるなんて凄いわね」
「……玻璃さんはもしや団長さんとお知り合いですか?」
「ええ、そうね」
「やっぱり!よければ昔の団長の話とかお聞きしたいです!」
「おい、ナターシャ班長。準備手伝え
部下にばかり働かせるな」
「……」
姫が我に目配せしてきた。どうやら姫は魔導師の人の鑑定に付き合うみたいだし我はどうしようかな……
【隅っこで物置きになっておくべきか】
《おバカ。クリカラの所に行くといいのよ。分かってるでしょ。これからの事を考えるなら、眷属の力は必要になる》
【‥‥‥へい】
将来的に最上位魔獣の問題を解決する予定なので、確かに応龍が増えて困る事はないだろう。
早速感覚を広げてクリカラの気配を捕まえたので金壺殿を出る。我の動き出しに合わせてタイミング良くあちらも動き始めた。速いな、引き離されると我の範囲外に離脱されるな。こちらも速く動く
【日課のジョギングってわけじゃ無さそうだが】
《私様たちがあちらの位置を把握していることを向こうも気付いているわね。このまま行けば扶桑を出ることになるのよ。》
【わざわざ場所を変えたいのか。嫌な予感】
《……戦いになる可能性があるのよ。応龍を相手にするなら私様のエーテルを少し使う?》
【いやいい。エーテルを使うのはお前に掛かる負担が大きいからな】
《変に気を回さなくてもいいのに》
推測するにエーテルはコトアの命かそれに類するものだろう。だから分け与えた反動で表に出てくる余裕が無くなる。
口にこそしないがこのエーテルを与える回数には限度がある筈だ。で、あるならば、毎度戦いの度にそんなことをしてもらう訳にはいかない。ここは我だけの力で解決するのがベストだろう。
《龍王の眷属の戦闘能力は始祖に引けを取らない。いくら龍王とは言え、魔力にすら一定のブレーキがかかっている今の状態だと勝てるかどうかは五分五分だろうな》
【魔力ね。我の生み出す分と姫との契約で回されてきている分だと全力戦闘は短い時間しか出来ないから上手くやらないとな】
手を抜いて勝てる相手では無いだろう。まあ戦いにしなければいいだけなのだが。
そう思ってると突然体の内側から膨大な魔力が湧き出した。
【これは…!?】
《良かったな。淡雪の奴と繋がりが強くなった恩恵だな。あいつが魔力を僅かに貸してくれるんだと》
【これで僅か?】
不完全とはいえアナムのフレアデスを食べた時を遥かに上回る魔力が身体を駆け巡っているんだが
《本気のあいつは魔力だけで星の自転を止めれたからな。
なんにせよ、これなら長時間の全力戦闘も容易だな》
身体を元のサイズに戻し、加速速度を更に高める。
瞬き程度の時間で即座に追いついた。
「!?」
クリカラはギョッとしたように顔を驚愕させていた。そこから並走して、暫くして廃墟ばかりの巨大な島に辿り着いた
【どうしてここに?】
「……初めに言っておく。俺は記憶喪失だ」
「そしてここはかつて赤城と呼ばれていた国だ。記憶を無くし死にかけで海上に漂っていた俺を受け入れてくれた。
まあ数年前に上位魔獣ギョウキによって国内で魔獣が大量発生して滅んでしまったがな。今はもう魔獣なんてとっくに討滅されたのに誰も怖がって近付かない」
【……】
「今代の大王である弥栄大和も幼少期この国で過ごしていた。俺と彼女に取ってこの国は第二の故郷と呼べる場所だ。
俺は彼女とこの国に大きな恩がある」
【そっか。それで何が言いたいのかな、クリカラ】
「だが心の内からお前に従えという叫びが聞こえる。
お前は俺のなんだ?」
クリカラは自分の掌をギュッと固く握り締めて俺を見定めるように鋭くなる。その場の空気の色が変わる。返事一つで戦いになる予感がした
【お前はアーカーシャの眷属。黒の応龍クリカラ】
「俺の主人だから従えと?」
【まさか。ただ困っているようだから協力しようってだけさ。記憶が無くてお困りのようなら取り戻す手段が我にはある】
正確にはコトアがアーカーシャの記憶で把握している部分を植え付けるだけなので完璧にとはいかないらしいが。
「……無償で。というわけではないのだろう」
【我が困っている時に力を貸してくれ。】
「それだけか?下につけとかそういうのは?」
【協力関係だ。どちらが上とか下とかそういうのは無い
それに眷属だから一方的に下って言われるのはお前も嫌だろ】
クリカラは僅かに逡巡して、そこからフゥーっと大きく息を吐いて胸を撫で下ろしていた
「正直戦いになるのを覚悟していた。お前に力付くで連れ戻されるのだと。だからそうなってもいいように場所を選んだ。皆を巻き込まないように」
【まさか。そんなことするわけがない。我はラブアンドピースがモットーだぜ】
「俺の記憶喪失の原因は戦闘によるものだ。多分俺は誰かとの戦いで敗れたのだろう。その相手があんたじゃないって分かっただけでも収穫だ」
コトアに頼んで記憶を植え付けた。険しい顔を浮かべていたクリカラは少しだけスッキリとした表情を浮かべていた。そこから黒の龍へと姿を変貌させていた
「これが本当の俺の姿か」
【んじゃ、戻りますか】
「……競争でもするか?」
【子供じゃあるまいし────】
我とクリカラは言うや否やほぼ同じタイミングで空を駆け抜けていた
戦いにする予定でしたが長引く感じがしたので取りやめました。
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