9話目-㉗
火事と喧嘩は江戸の花。金と女は外道の罠。今の遥か後方まで吹っ飛んでいった彼はどちらだろうか。花か罠か。はたまた花輪か。
この國で1番偉い人たちが集まる金壷宮に呼ばれた紀伊國崑峯さん。その彼に半ば無理やりついて来させられたらこれである。足を踏み入れるや否やこの様な事態を目の当たりにして鉄火場の予感に緊張してしまう。くわばらくわばら
『××見て。面白いのがいる』
【本当だ。この人って……いや人じゃ無い。龍か】
『今しがたアーカーシャの記憶を覗いた。間違いないのよ。こいつはクリカラ。"黒"の応龍』
【クリカラ】
「……ッッ!?」
龍が人の姿を模していた。漆黒の色と同じ髪とワンポイント眼鏡、それとどことなく陰があると思わせる男性だ。しかしどう見えようと中身は龍。しかもフィファやイオスと同格の応龍である。
だがそれなら彼はアーカーシャの眷属だ。未だ健在なら我が呼んだあの時になぜ来なかったのだろうか。理由は幾つか考えられる。
「なぜオレの名を知っている」
名を呼ばれたからかクリカラさんの眼鏡の奥に垣間見える鋭い目つきが少しだけ驚愕に包まれる。あれれ。この反応は面識ないのか?彼はアーカーシャの眷属だ。そんな訳はない。赤いから気づいていない可能性もあるが十中八九そうじゃない。惚けてるようには見えないしそんな腹芸が得意そうにも見えない
【我はアーカーシャ】
「アーカー……ウグっ!
……オレは……」
頭の痛みに苛まれているのか、頭を押さえながらクリカラは辛そうにしている
「貴方顔色が優れないようですが大丈夫ですか?」
「……部屋に戻らせてもらう。用があったら呼べ」
一介の兵士の振る舞いとは思えぬ言動である。重鎮たちが揃い踏みしている中、それを諌める者はこの場に誰一人としていない。それが彼という存在の特別さをありありと物語っていた
「朝議の場だというのに相変わらず自由ですな。それに先程追い出したのは聖国の者でしょう」
「帰り方が分からないというから、見かねた伽羅が手伝っただけのこと」
「手を出したの間違いでは?大王、次はもっと大勢で来ますよ」
嘯く大王に崑峯は冗談混じりに返す。だがそれを静止するように稲置が口を挟む
「貴様、崑峯!一介の商人が國の象徴たる大王になんという口の聞き方だ!」
「だが厄介毎を抱えたのも事実だ。万が一戦争にでもなれば國の信頼を失う。ひいては扶桑の今後の存亡と民の生活がかかっている。そうなったらどうするおつもりか」
宿禰が大王に厳しい指摘を浴びせると彼女は顎に指を当てる
「戦争とは国同士の対立による争いのことだ。扶桑は大王が聖国は教皇が牽引している。我々が聖国の象徴たるカタリナ教皇と事を構えて公的な宣戦布告を為されたらなるほど戦争と呼べるだろう。ラザロ総司教枢機卿は国政を管轄している。とはいえ、あくまで教皇の補佐。戦争をするにはカタリナ教皇の印璽が必要だが、教皇と総司教は現在反目しあっている。容認させるのは難しいだろう。当然無断で軍事行動を起こして我々と戦いになる可能性もあるがその対処に関しては何とでも言い訳が立つ」
「予想に反してカタリナ教皇とラザロ総司教が手を結ぶことがあったら?」
「そんな事は起こらない。だがカタリナ教皇を暗殺した後に新たな教皇を擁立してラザロ総司教が完全に全権を掌握なんてことをしでかした日には私が責任を取って腹でも切るさ」
「これは失礼を大王様。お上の難しいお話はわしのような下々がいる前では控えてもらってよろしいでしょうか。
宜しければ紀伊國崑峯が上奏致します」
「許す」
崑峯さんは高御座にいる人物に恭しく頭を下げると、さっきまでの剣呑な空気が霧散する。臣下と民に対しては接する態度が明らかに違うようだ
「新たに発見した18個目の魔迷宮ですが攻略隊を何度か送った所、最深部まで到達しました。魔迷宮主は大精霊ディオウロだと判明しました。試練の内容はエリドゥエンシの封印されし遺物を破壊して欲しいと」
【試練?】
「魔迷宮を攻略するには、最深部まで行き着き魔迷宮主の試練を踏破する必要があります。私たちも一度行きましたよね?あの時はカムイを倒したことで攻略しました。だが必ずしも毎回そうであるとは限らない。」
【そもそも魔迷宮って何だっけ?】
「長くなります。帰ったらきちんと説明しますね。偉大なる龍王様」
【か、簡潔に!お願いしますよ!】
魔迷宮って種類があるんだっけ?カムイのやつしか挑んだことがないから詳しくは分からないが、大精霊ディオウロと名を聞いたときの反応は芳しくない
「狂王の製造した遺物か。前回は破壊までに1500人余りが死んでいたな。今回もそれくらいの犠牲は覚悟すべきか。金は出すから人を用意しろという頼み事か?」
「いえ、その必要はありません。名は明かせませんが此処に座すお二人方は相当な実力者。わしの目に狂いが無ければかの伝説の渡航者テスタロッサ様にも勝るとも劣らないものと自負しております」
「ほう、それほどの人材を用意してきたか。では魔迷宮を攻略した暁には何を望む?」
「三王同盟との貿易を我が紀伊國に一任して頂きたく」
「いいだ「ちょっと待ったーー!」
突如として背後から待ったをかけて、1人の痩せ細った男を先頭に一団が入ってくる。
「これはこれは奈良茂さん。そんなに急いでどうしました」
「黙れ!紀伊國の狸ジジイめ!油断も隙もない奴め。
奈良茂田村麻呂、大王の言葉を遮ったこと深くお詫び申し上げます。ですが、偶々発見した魔迷宮攻略可否だけで例の件を一任するのは些か早計かと」
「というと?」
「紀伊國はとある問題から事業で無視できぬほど大きな損失を出しています」
ニヤリと奈良茂田村麻呂はキツネのように妖しく笑みを作った。まるで勝ち誇るかのように
「上位魔獣カビサシの存在です。東の航路は彼の存在により多額の被害を被っている。國の経済をまがりなりにも脅かされているにも関わらずです。大王より賜っているお役目を放置している。これは職務怠慢という他ありませんな!」
「よく言う。國を脅かしているクライムコミュニティが活動しているのは西回りの島々が中心だ。そもそもお前たちが私服を肥やす為に色々と奴らに横流ししてきた結果、力を付けすぎてわしの愛しの孫娘が誘拐されるに至った!」
「し、証拠はあるのか!奈良茂がそんな事をしてきた証拠が!それに話をすり替えるな。お前たち紀伊國はカビサシという問題がを放置している!それは紛れもない事実だろう!」
【倒したよ】
「は?つーか、え、飛竜?喋って、え?」
【だからカビサシ倒したよ。我が】
「う、う、う、嘘を吐くんじゃねえええ!!!」
奈良茂田村麻呂が絶叫した。なんだこいつ
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