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3話目-⑨下 龍とゾンゲリア



伝説の鬼 羅刹。彼の存在に力を分け与えられ、"六凶鬼"に加わり戦いに身を投じ死を経験するたびに死に対する恐怖が遠のき次第に希薄になっていくのが分かった。

だがこの短時間の間に何度も死を経験したことで閉じていた感覚は既に限界まで研ぎ澄まされている。



しかしそれでも尚、攻撃の速度が速すぎて目で追えない。辛うじて視界の隅で赤龍の背中付近の影が伸縮したのを知覚することしか出来なかった。そこから導き出される結論は……



「翼、か……!」



「《正解(エサクタ)》。まあ見えるようにゆっくり攻撃したから、当たり前か」



「《こういう時、こいつなら翼のことを、命を刈り取る形をしてるだろうってボケるところ……って"私様"が誰かを知った風に語るなんて滑稽極まりないのよ》」



「《そういえば、お前も随分と人に怖がられていた。まるで怪物みたいに。所で。人を恐怖させる怪物の条件は三つ必要らしいのよ?不完全な私様もお前もそのどれも満たしていない》」



手を仰々しく広げる赤龍はまるで我に何かを問いかける様に空気を震わせている



「《……失敗した。言葉が通じていないのよ》」



もしや、この龍は我と対話を望んでいるのか?



「これで、いいのかしら」



「なっ…」



「あ、あー〜。答え合わせ」



龍は指を3本立て、その口から初めて言葉を発した。その威容とは相反する、まるで少女のように美しい鈴の音のような声に全身が包み込まれる。この声色は"魔声"の一つか?まずい。毒に侵されるように声で思考が麻痺するのが分かる



「一つ、怪物は声を喋ってはならない」



龍が指を一本折った次の瞬間、何かの代償と言わんばかりに我の右足首から先が身体から引き離される。

突然の出来事に立つことが出来ずに体勢を崩す我は前のめりに地面に倒れこんだ。



「二つ、怪物は正体不明でなければならない」



二本目の指が折られ、次に左足の脹脛に痛覚が走ったかと思うと、直ぐにプツリと何も感じなくなった



「三つ、怪物は不死身でなければ意味がない」



最後の三本目の指が折られ、左腕が肩から付け根ごとばっさりと切断され、そして目の前で左腕が跡形もなく消滅した。そして、それっきり肉体はどれだけ待っても復活しなくなった



「私様は一つで、お前に至っては何一つとして満たしてないのに、みんなはお前の何をそんなに怖がってたのよ」



「ひ、あ……あ、わ、われは、ふふ不死」



その言葉に堪え切れなくなって、龍はげらげらと嘲笑っていた。心の底からバカにするように。不愉快そうに。どこか自嘲も含んでいたように感じたのは気のせいだろうか



「不死?全能を持ち得た神にすら死はあったというのに、それをお前は。たかだかゴキブリ並みにしぶといだけで、死を超越したと。そう曰うのね。

ここまでくると愚かさも極まって憐みすら感じるのよ」



「例え話をしてあげる。攻撃が通らないほどの全身を分厚い鎧で覆われた兵士を剣で殺す場合にはどうすればいいと思う?

簡単よね。鎧の隙間に剣を差し込んで殺せばいいだけなのよ」



「な、なにが、いいたい」



この先を聞いては駄目だ。これを聞いてしまっては取り返しがつかなくなると本能で察知する。でも、それでも。続きを求めてしまった



「お前の"能力"も言ってしまえばその程度という話なのよ。その能力を鎧と見立てるなら腕の悪い剣士相手なら確かに殺されない。ただ相手に恵まれただけなのにね。実際はそうじゃないのよ。

まあ私様とお前の力の差を考慮するならば、鎧の隙間に刺しこんだと言うよりは、山より大きな剣で鎧ごと押し潰したと言った方が正しいのかもしれないか」



「そもそもが愉快な勘違いをしているのよ。お前が仮に死に対して絶対的な無効を発揮する力を保有しても、じゃあ恒星が爆発しても死なないのか?では宇宙が消滅するほどの大爆発をくらっても?そんなわけがない。死ぬに決まってるのよ、バカバカしい。

炎熱絶対無効の力でも太陽をぶつけられれば蒸発するし、物理完全無効の力でも巨大隕石が衝突すれば砕け散る。

どれだけ小難しい概念や事象の類を並べ立てて無敵と錯覚しても、エネルギーの桁が違うモノに対しては、適応されるルールが異なる。当然なのよ」



「話が長くなった。つまり端的に言うのなら、お前は死ぬのよ。無様に灰になってね。その様子だと精々一時間、といったところなのよ。」



我の中のなにかに決定的にヒビが入る音がした。

身体から力が抜けていく。言葉が上手く紡げない



「うぁ……ぁ」



今こいつはなんて口にした。脳がその結論に行き着くのを必死に邪魔をする。その答えを排除しようとする。

それでも止まらない。消えたりはしない。何かが心の中から吹き上げてくる。

止めようのない湧き上がる衝動

自分には永劫無縁だと考えていた感情


それは死への恐怖だった



初めて味わう命を失うという恐怖。その事を自覚した時、自分の中のなにかが完全に壊れる音がした



「あああぁぁぁぁぁああぁぁぁ!!!」



「いやだぁぁ!やだぁぁぁああ!!」



気が付けば絶叫していた。この感情を理解したくなくて目の前の現実が受け止められなくて、許容出来ない恐怖に対し何も出来ない子どものように、大きな声で叫んでいた。もう叫ぶ事しか出来なかった



「そんなみっともなく童みたいに喚かないで欲しいのよ。あれだけ死を経験して、まさか今更死ぬのが恐いだなんて言う気なのかしら。」



「じにだくないぃぃ。いやだぁぁぁ!」



「じぬのはダメ。だって、長生きしないと……あの子ど約束じだんだから……」



龍は明らかな失望と侮蔑の目を向けて隠そうともせず溜息を一つ吐き出し翼を大きく広げる



「何の話をしているのやら。……こいつの影響ね。忌々しいけどお前に速やかな慈悲を与えても良いと思うのは。

とは言っても不完全な顕現と未熟な主人格では今の私様の存在と釣り合いが取れる筈もない。この状態で龍王の権能をこれ以上行使するのは諸刃の剣なのだけれど仕方ない、多少の負担は私様が負ってやるのよ」



翼が白く強く輝き始める



「塵に還れ "鈴鹿" 」



立ち上がりたいのに立ち上がれない。立ち上がる為の手が無いのだから。逃げ出したいのに逃げ出せない。逃げる為の足が無いのだから。四肢を削がれて出切ることはたった一つ。泣き叫ぶだけだ。まるであの夜のように。



視界の全てが眩い光に覆われ、直ぐ近くで何かがゴリゴリと削られる音がした。その瞬間、さっきまで感じていた恐怖が嘘みたいに消えて無くなっていた。

光が収まると音も一緒に止んでいた。



今度はさっきまでとは正反対の無音で真っ暗な闇の中に突っ立っていた。上も下も右も左も分からない。分かっているのは自分は死んだということだけだ。それだけがぼんやりと理解できた。

此処が地獄なのだろうか?いやそうに決まっている。静寂が考える時間をくれた。思えば何のためにこんなことをしてしたのだろう。何か大事なことを忘れて……



『おかーさん!ここにいたんだ!おとーさんはこの先で待ってるよ!急がないと!』



────ッ。思わず絶句した。突然我の手を引いたのは、死んだはずの娘であったからだ



『どうしたの?いそがないと!おとーさんがまちくたびれちゃうよ!』



いつの間にか暗闇が晴れて1番幸せだったあの頃に戻っていた。我が……私が1番幸せだったあの瞬間に。

道の端端には赤と白の涅槃花(ニルバナ)が所狭しと敷き詰められていた。


羽を休めていた鳥たちと音虫が仲良く優しい音色で鳴いていた。緋色と純白が入り混じった涅槃花は悠然と咲き誇り、月下に見守られながら照らされて激しく輝き色を競い合っている。その様は絢爛華麗と言う他ない。

突然、私の背中を風が強く吹き抜けていく。追い抜いた風に驚いて花々が大袈裟に舞い上がった。赤い涅槃花が真紅に燃える花火の様に夜空で花弁を美しく散らせて、白い涅槃花は零れ落ちる月明かりを集めて、死者を慈しむ灯籠の様に流れていた



『きれいでしょ!もっと見れるからね!だから、いそご!』



燦然と完成されたその花天月地の光景を横目に娘は急かすように手を引く。それだけで何かが満たされていく。幸せだと感じる。きっとこの先は天国に繋がっているんだろう。だけど、私は……



『おかーさん?』



呆気に取られている私に対して瞼を瞬かせながら、娘は首をひねる。

足を止めた愛しい宝物をそっと抱きしめた。



「あの時守ってあげられなくてごめん。幸せにしてあげられなくてごめん。約束も守れなくてごめんね……

駄目なお母さんで。弱いお母さんで……」



震えるような声で諭すように吐き出した。言葉と一緒に双眸から涙がとめどなく溢れていた。娘もつられて泣いていた。



『そんなこと……いわないで!』



『……わたし おかーさんのこどもでよかった!

おかーさんがおかーさんでよかった……ッ!』



『だからむこうでも家族やってよっ!おかーさんやってよぉ!』



「お母さん。りんがいなくなってから悪いこといっぱいしたの。だから同じ所に逝っちゃだめなんだ」



『……そんなことないもん!いけるもん!だれだって!天国は!イイ人もワルイ人も。幸せになって良いんだもんっ!』



「りんっ!お母さんをあんまり困らせないで」



『おかーさんがこまらせてるんだよっ!』



「お願い。お願いだから……」



「こんな所で立ち往生しないでほしいのよ、全く」



振り返るとあの龍がいた。だが色が異なっていた。

まるで最強の始祖と謳われる『白』龍王アーカーシャのように。真っ白であったのだ



「阿呆なのよ、お前は。鬼にとって住み慣れた地獄なんかに逝かせる訳がないじゃない」



「天国なんかにいけない。こんな罪悪感を抱えて、この子といれるわけない!」



白龍は邪悪に微笑った



「だからこそよ。私様は邪悪で不幸をばら撒く怪物なのよ。怪物は誰かを苦しめるために存在するの。お前運が無かったわね」



娘の顔を見る。記憶に焼きついていたあの時と全てが瓜二つであった。本当に良いのだろうか。こんな終わりで赦されるのだろうか。光が強く背を打っている。



私はりんの手を握り返して一緒に眩い光の先へと歩む決心をした。そして────。



キャラクター紹介

【鈴鹿 飢餓状態】

鬼/レヴナント


【ステータス】

スピード C -

パワー  C -

魔力   B

能力   A +


【能力 超克】

変化した状態を元に戻す力。例えば『石化』という状態にならないのではなく、『石化』しても直ぐに元の状態に戻る。死ぬ度に復活したのもその延長である。ただし鈴鹿は封印中の環境に適応できず『自食作用』と『餓死』を延々と繰り返していた為に本来の姿形より歪になっている



【説明欄】

記念すべき最初の敵。始祖の眷属から力を分け与えられた特殊個体でアルファと定義される存在。大幅に弱体化しているがそれでも並の冒険者を全く寄せ付けない位には強い。レヴナントであるが珍しく身体が弱かった。享年25歳(封印中はカウントしないものとす)

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