9話目-㉓
スポーツアニメを見てたせいです。おかしな点はふんわり流してくれると嬉しいです
「今からビーチバレーをします」
その提案をしたのは誰であっただろうか。あれよあれよとチームが組まれる。白雪姫・空蝉桐壺vsチームアーカーシャ・夕霧鈴虫によるチーム分けが瞬く間に行われて遊ぶ運びとなる
【よろしく、夕霧さん】
「…う、ん……よろし…く……」
というかこの世界にもビーチバレーがあるんだな。どうにも渡航者が持ち込んだものらしいがルールとしては、ルールは7点先取の3マッチで、大きく違うのは相手にケガをさせないのであれば魔法や魔力使用もありとのことである。
1プレー目はサービス権を姫が手に入れたことで始まる。姫は風向きを確認しながらサーブを打つ。あちらはGOODSIDE(向かい風側)でありながら風を読み恐ろしいほど流麗でエンドラインギリギリを狙った正確なサーブを放っていた。
しかし理論上、サーブを受けて攻撃を初手で展開出来るサイドアウトの我々が有利なのだ。故にサーブ側がブレイクポイントを如何にして多く取るかが勝敗を左右すると考えられている。
それはこの世界でも同じはず……
【だが遅い。これなら、夕霧!】
「う、ん……」
「フリーズ」
対角線にいた夕霧がレシーブしようとしたが発射と同時に姫は即座にフリーズという魔法を使用する。術者を中心として青白いサークルを展開し、中にいる生物の時間を凍結する魔法だ。
魔法の効果により夕霧の動きが止まる。いや、強制的に止められる。そして夕霧に何もさせないまま無情にもサーブが決まり1-0となる。
【ず、ズルだーーー!それはズルだよ!!】
「おかしな事を言いますね。偉大なる龍王様?
魔法使用はアリですよ。ケガさせてないですよね」
【怪我してなくても勝負を穢してるんだよ!】
「なら審判に確認をとりましょう」
【し、審判ーーー!今のは反則でしょ!!?】
我の抗議の声を上げた。審判は(牡丹、睦月、弥生、葉月、霜月、文月)ヒソヒソと話しあい問題無しと判断したようだった。試合が再開される。そして今の先方でなす術なく瞬く間に4点を取られてしまう
「…ご、ごめ…ん」
【大丈夫だ。攻略法は見えた】
姫がサーブを打ちフリーズを使用する。
我は横から思い切りボールに息を吹きかけた。ボールが風により軌道が乱れて勢いよくラインを割る。4-1
【ひゃっほー!見たか、こんちくしょうめ!】
「やりますね」
サービス権がこちらにうつる。サーブを打つのは夕霧だ
「とられ、た……分は…取り返、す…!」
「疾走…せよ…我が眷属…フェアリュックトハイト!」
夕霧の放ったサーブ球は微精霊たちが定着し魔弾と化した。
天高く撃たれたサーブは舞い上がり、縦横無尽に動き回り姫と桐壺の反応を超えた弾丸に等しい速度をもって砂浜に着弾する。4-2
【いぇーい!】
「がんが…ん……いく、よ…!」
姫と桐壺の身体能力は明らかに人間離れしている。弾丸の速度にすら反応し始めているのだ。だが瞬間的に反応できようと弾丸より早く動ける訳がない。なにより、サーブ球は微精霊たちが姫たちが触ろうとしても寸手のところで回避している。
4-6。スコアは完全に逆転した。
「桐壺」
「ああ、準備に時間がかかった」
桐壺は自陣全体を覆うスペースで膝上程度の高さに煙のカーペットを敷いた。なんだあれは?
「勝、つ…」
弾丸、いや球丸が放たれ、姫と桐壺が物理的に守りきれないコート隅を狙い撃った。だがギュルルと音を立てながら球が弾力性のある煙によって阻まれる。少しずつめり込んでいくがあまりに遅い。姫が蹴り上げる。そして桐壺が見事なアタックを決めた。5-6
サービス権が再び移る。今度は桐壺がサーブを打った。今度は対角線にいる我に球が迫ってくるが、正面から息を吹きかけて敵陣に押し返そうと試みる
【な、なにぃ!?】
ボールは煙の膜を張っていて、我の妨害を相殺した。勢いは殺せずまさに一閃。我の足元に見事に着弾した。6-6
「アーカーシャ。その状態のお前と今の私の力は拮抗している。だから"一速"これでお前を上回る」
正確にはエーテルを纏った小龍状態と桐壺の力が互角なので、その状態は明確に我を何倍も上回る。放たれた一撃は今の我ではとても受け切れるものじゃなかった。無情に着弾する。スコアが動く6-7
「今のは僅かにラインを割っています。ですので、1セット目はチームアーカーシャ&夕霧の先取となります!」
「あー!?コースアウトしてたか。力みすぎてミスった〜!すまない白雪」
「仕方ないわ。次に切り替えましょう」
コートチェンジして2ラウンド目が始まる。サーブは我からである。我の打った球を受けるのは姫であった。
(狙いは姫の右真横。死角を突いた。もう間に合わない)
だが姫が不自然に反応してボールを上げ、それを桐壺が決めた。1-0
【なんだこの違和感】
「今、の…桐が……煙で…白、さん…使って、た…」
なるほど。超反応した桐壺が煙を使って姫の身体をアシストしたのか。桐壺の圧倒的な能力値によるゴリ押し。2セット目は桐壺のみで7-3とあっさりと奪い返された
「解説の葉月さん。今までの試合を振り返ってどう思いますか?」
「アーカーシャがかっこいい」
「現場からは以上です」
3試合目が始まる。魔力による底上げだけじゃ、今の桐壺を上回れない。勇者たちが発露していた体の力。あれは聖気というらしい。あの力が必要だ。魔力の出し方を自覚したことはない。だが出せる。聖気は……。しかし我の思いは届かぬまま試合はほぼ一方的に動いていく
『出せないのよ、聖気は。』
【コトア起きたのか!で、出せないってのはどういうことだ】
『私様結構寝てたかしら……なんでもなにも魔力は心により生じて、聖気は体によって生じている。けどその肝心要の体は生きてないもの。なんだ。気付いてなかったの?その体は、アーカーシャの眷属赤の応龍ニーズヘッグよ。死んだ体にアーカーシャの存在を押し込んでいる。本物のアーカーシャは白い龍なのよ。エーテルを取り込み全力の姿がそうだったでしょ』
【……肉体が死んでいるから聖気は使えないってこと?】
『そうね。その認識であっているわよ』
つまり今の我にできることは……
『そんな顔しないで欲しいのよ。仕方ないわね。私様がサポートする。児戯とはいえ負けるのは癪だものね』
色々気になることが出来たが、先ずはこっちに集中しよう。だがどうするか。すでに0-5
「アーカー…シャ!……協力、しよ…う」
【……力を貸して夕霧】
今回は桐壺からサーブが始まる。此処を落としたら後はない。
だがそれを受けるのは夕霧である。彼我の戦力差は絶望的である。ボールを辛うじて受けた夕霧だがそのままボールに押し込まれていく
「うぐぐっ」
『権能発動』
コトアがアーカーシャの権能"虚空"を使用する。球の力が即座に0になり大きく打ち上がる。それを我が思い切り力任せに打つ
「今のお前の力じゃ私の力は突破できない!」
【それはどうかな】
「疾走…せよ……我が眷属フェアリュックトハイト!!」
我の放った球の力に夕霧の魔法が合わさる。それはどれほどの神速のインパルスを持っていようと、煙のカーペットが敷かれていようと関係ない。最強の矛となった
「ここに来てアーカーシャチーム!大きく覚醒!」
「かっこいー!」
「いー!」
そこから我と夕霧の力を合わせたことで試合は6-6ともつれ込むこととなった。ラストプレーが始まる。最後のサーブは姫が打つ。受けるのは我だ。
「……力じゃ貴方には敵いません。でもね、人がこの星の生存競争で勝てたのは力が強かったからじゃないんですよ」
姫は氷雪を操る魔法を好む。だから冷気を纏ってこそいるがそれ以外は何の変哲もないサーブ。受ける。返せる
『────この球は!?××魔力回路をフル回転させろ!』
「もう遅い」
受けたボールはその瞬間我の腕に氷結してくっ付いたのだ。氷は人体にくっ付くことがある。同じ原理だ。ボールが離れない。審判たちはサーブを返さない我を見てスコアを動かした。7-6チーム雪姫&桐壺の勝利で幕を閉じる事となった。
「久しぶりに運動しました」
「……疲れ、た……」
「今日は私が作ろう」
「なら桐壺さん!貴女の料理ならあれが食べたいわ!」
日は既に暮れており、紅い空の下で子どもたちの何人かはおぶさりながら寝息を立てていた。ふと手を繋いでいる葉月が落ち込んでいると思ったのか我を励ましてくれた
「負けちゃったけど、アーカーシャが1番カッコよかったよ!」
【ありがと。おろ?】
竜宮への帰路に着く中、店の入り口に誰かが立っていた。長い髪の毛に淡い紫と黒が混ざった女性受けしそうな美青年である
「お兄様!お迎えに来てくれたのね」
牡丹ちゃんがその人物の元へ勢いよく抱きついていた。なるほど家族であったか
「遅れてすまない。本家でも色々あってな、時間がかかってしまった」
次の更新もできるだけ早く頑張ります