9話目-㉒
結婚。それは恋に落ちて愛を育む男女の関係性の終着点と呼べるだろう。愛してると I tell you
国も思想も人種も問わず、多くの人が経験することになる人生最大のビッグイベントの一つであると言っても過言ではないだろう。まあ我には縁の無い話であるが。羨ましいことこの上ないがどうやら猪頭族である彼も例に漏れなかったらしい。
しかし良いことばかりでもない。その特別さ故に一度関係を構築したら関係性の破棄は容易ではなく、結婚は人生の墓場なんて後ろ向きな言葉もあるくらいだ。
因みに前向きに捉えるなら、お墓まで一緒に入ってくれる決意表明である。
【ごめん。もっかい聞くわ。結婚ね。誰と誰が?】
「オレと彼女がです」
シンドゥラは人を遥かに超えたガタイであり骨格からして造りが違う。そんな彼の隣にいる女性は否応なく小さく見えてしまうことだろう。だがどうだ?並び立つ彼女ことベイビー・フランクリンさんはその彼に負けないだけの屈強なフィジカルと2m近い長身を併せ持ちオマケに美人である。むっちゃお似合いやん
【……ごめん。我はしたことないから面食らったぜ
それにほら、なんかオークって他所の種族を無理矢理手篭めにしてるイメージあるからさ。意外っていうか】
「お前誰だか知らないけど随分と失礼ですよ」
【気分を害したのは謝る。ごめんなさい
他意はないよ。ここは素直に祝福の言葉だけを述べるべきだった。おめでとう シンドゥラ。だから怒らないでね】
失言であったのは自覚している。だからこそ、彼女フランクリンさんの反応は至極当然だ。誰だって自分の特別な人にケチをつけられるのを見るのは面白くないのだから
「ありがとうございます。
それに怒りませんよ。アーカーシャ様の言う事が分からないわけではありませんしね。
オークにそういう輩が一定数いるのは否定しませんし、何よりも渡航者にして世界を混乱させた機関の一員"表現に罪はない"ガハクの作品が余りに根深く普及しすぎている。俗世から離れているアーカーシャ様も作品を目にしたことがあるのでは?」
【ガハク?すまん知らんかも】
「そうでしたか。ガハクは屈強なオークが他種族の女性を陵辱したり弱いゴブリンが強い女性を屈服させたりする"ウスイホン"なる書物を多く描き記し、更にはそれを世界中に流布して人間と多種族の関係性を大いに捻じ曲げた大罪人です」
【相手をよぉ!悪く誤解させる本の存在なんて許せねえよなぁ!?その薄い本は今どこにある!我が全部責任を持って管理する!!】
「今その書物は封印指定され魔導教会に全て収められてると耳にしました」
【そう】
「なんかこの龍落ち込んでません?」
「こらっ!フラン!アーカーシャ様と呼べ!」
話が逸れてしまった。結婚以外にも聞かなければならないことがあったのだった
【それはそうとあの後はどうなったんだ?】
その問いかけにシンドゥラは少しだけ懐かしそうに目を細めた
「アーカーシャ様がお隠れになられた後、ただ悲嘆に暮れていた我々を奮い立たせるためにフィファニール様とイオスガドルが仰ってくれました。
この様な事態を見越してアーカーシャ様は予め自分たちを呼んだのだと、戦後荒廃していた土地の復興を行うのが我々が任せられた使命なのだと」
2体の応龍。青のフィファニールと黄のイオスガドル。彼女たちも色々骨を折ってくれたのか。しかも我を立てる様な物言い。本当に頭が下がるな
「そして貴方様はそれだけに留まらず、魔国リーブルNo.2のフィファニール様の他に軍国バルドラの王項遠の孫娘にして勇者項星様と懇意にすることで迅速に手を回していた」
「だからフィファニール様と項星様の異例とも言える二つの大国が後ろ盾となりバルディア地方一帯の国家即時承認。そしてそれだけでなく、国家承認により冒険者ギルド"略奪者たちの王様"を武力行使による国家侵略の罪で解散させましたね」
【……】
「貴方様は戦った後の先を見据えていた。そして方向性をアヤメ様に話していたのですよね。限りあるリソースを民の生活に充てるのは最低限に留めて。つまりはバルディアで発掘できる大量の魔石炭や魔鉄鋼やマナジウムといった稀少な鉱石を中心とした基幹産業の再建と生産設備の復旧を最優先して取り組みました。
アーカーシャ様の当初の目論み通り、僅か数ヶ月で最低限の経済基盤の復興を果たすことになります。それらを活かすことでこの国に財源を発生させ立て直しを図りました。更には莫大な富を持つイオスガドル様と隣国にして大陸最大の国家ガリア連邦のルネデド公爵家とのコネクションを最大限に活かして他国との貿易交渉にも成功しました。
全てはアーカーシャ様の計画通りでした」
傾斜生産の話は確かにしたが一介の高校生に専門性の話など出来るわけもない。ウンチクレベルであったが、それをアヤメが項星やフランソワールさんと色々協力して実現してきたのだろう。今度彼女たちに何かお礼をしなければいかんな。
「ですが急激な復興と発展に予期しない問題も発生しました。国家でありながらも我々バルディアに棲まう民の大部分は魔物でした。人々を脅かす巨大な武力を持っているということで管理局と冒険者ギルドの一部から危険視する声が上がったのです。一時は大規模な武力衝突にまでなりかけました。
頼もしいことに今回の事態の為に味方に付けていた"怪物たちの檻"を中心とした複数の冒険者ギルドによって、バルディアに住まう者たちを魔物ではなく亜人として認めてもらえる様に抗議活動などして尽力して貰いました。
ですが要求は受け入れられずに管理局と再三に渡って揉めた結果、複数のギルドが冒険者ギルド組合から解散を余儀なくされました。
そこから解散した冒険者たちで冒険者ギルド組合に属さない独立した超巨大冒険者ギルド連合"新天地の開拓者"を新たに設立しました。その役割は主にバルディア地方と外界との調整クエストを行なっていくというものでした。管理局には目をつけられていますが今のところうまく行っています」
【すまん。そいや三王同盟ってのはなんぞ。そっちの国は我不在の間、誰が王になったんだ?】
「三王同盟をお耳に入れていましたか。それはですね」
シンドゥラの話途中でフランクリンのお腹が鳴る。
不満そうに彼女は唇を尖らせた
「シン。貴方私のことほっぽいて話しすぎです!そうやって仕事のことばっかり」
「し、仕方ないではないか!アーカーシャ様にはお伝えしたいことが山のように…」
「うがー!まだいうですか!このっ!」
【いや、シンドゥラ君。君は公私の分別をつけるべきだ。話を振った我が1番悪いが。今は奥さんを優先してあげて。時期に帰るし、その時に詳しくはアヤメ達から伺うさ】
「ほら、アーカーシャサマは話分かるね。ほら行くよー!あそこのお店横から全部制覇していくよ」
「首絞まってる!お前!
で、では、アーカーシャ様。また会いましょう。失礼します」
シンドゥラ。お前あんな亭主関白みたいな雰囲気出して滅茶苦茶尻にしかれてるじゃねえか!
まあでも家庭における女の人の立場は強いからな。我の家族もバリバリのアマゾネス家系で男の地位は限りなく低かったし、親近感を覚えずにはいられなかった
【っと、少し話混みすぎたな】
振り返ると弥生さんは姫たちと合流しており、我も改めて姫たちの所へと戻ることにした
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