9話目-㉑
突然だ。まるで雷にでも撃たれたかのようにあくる日の朝、突然に天啓が舞い降りてきた。
これに従えと我の本能が訴えかけてくる。
【……に行きたい!】
「はい?」
【海に行きたい!!】
姫は幾許かの間を置いて視線を開いてる原書ヴァンダーリへと戻した。なんで原書が手元にあるかだって?
無事に取り戻したヴァンダーリであるが何故か本人が暫くは我らと一緒に行動を共にしたいらしく、桐壺たちが魔導王から許可を得て今に至るというわけだ。
そんなわけで姫の最近の日課は原書と睨めっこである。
「どうぞ。ご自由に。遅くならないうちに帰ってきてくださいね」
【期待してた返事と違う。もうホンマ姫はイケズなんやから。我が言いたいのはみんなで遊びたいって事だよ!!】
かれこれ我と姫がこのウーリー島で過ごして一月以上は経ったろうか。この間、姫と話してアナシスタイル大陸に戻るという旨を睦月さんたちに伝えたわけですが、皆が別れを惜しんで引き留めてきたわけだが、とりわけ葉月ちゃんが普段の様子とは激変するほど泣き喚いた。花宴が亡くなったし、少し気持ち的にナーバスなのだろう。そんなわけでもう少しだけ時間を置いて帰るということになった次第である。
「わたくしも海に行きたいわ!」
最初に乗ったのは迎えが一向に来ない紀伊國屋のご令嬢紀伊國牡丹ちゃんだった。勢いよく立ち上がるとそれを皮切りに睦月さんファミリーと桐壺たちも手を挙げて同意を示してくれた。全員の視線が姫に集中する
【ジーっ】
「あの、私はお留守番」
【G!!!】
「!!?分かりました……私も一緒にいきましょう」
我々の想いが通じて姫はパタンと原書を閉じて快く賛同の意を示してくれた。満場一致である。素晴らしいかな。同調圧力。どうだみたか!これが民主主義の力だ!
太陽が眩しく輝き、砂浜が照り返す。波が海風と共に引いては寄せてを繰り返している。ってわけで
【海だーーー!】
海。水着にBBQに花火。イベントに事欠かないこの場所で可愛い子とランデブーして淡い一夏の思い出を胸に少年は大人の階段を登ると云われている。
はは、おかしいな。そのイベントこれまでの人生に配布されてなかったがそれも今日までである。よくよく考えると我以外女子しかいない。メンバーに中々難があるとはいえハーレムであるのに変わりはない。皆が着替えてくるのを嬉々として待つ
「アーカーシャ、お前はいつも通りなんだな」
「……これ、着るの…懐か…しい……」
初めに桐壺と鈴虫がやってくる。その姿に言葉を失った。水着ってこう色々露出してナンボって考えるの我だけ?
は?ウエットスーツで来てるんだが?似たようなのならせめてモノキニだろ!ほんまいてこますぞ!ワレェ!
「ごめん。この子たちの着替えに手間取りました」
「うみだー!」
「はやくいこー!」
「こらっ!あんたたちそんなに走らない!」
【マーベラス】
睦月さんと弥生さんが霜月ちゃんと文月ちゃんに手を引かれながらやってくる。感嘆の息を洩らしたね。
睦月さんは左手と左脚を無くして義手と義足にして長いらしいが、それでも日頃から鍛えているのだろうか。レースアップタイプの水着でこんがり焼けた肌と無駄な脂肪が無い見事に割れた腹筋を見せつけていて健康的なエロスを感じました。
対して弥生さんは自身の持つ大人の色気とフロントをリボンで結んだ水着で下のボトムと合わせてとてもキュートな印象を合わせたいいとこ取りだった。どちらも甲乙付け難くとても良いと思います。まる
「葉月はもう少し準備に時間かかるみたい。雪姫が見てくれてるから、先にいっとくよ」
【あー。我は待っておくよ】
「分かった」
海に皆が入っていって暫く経ってからだろうか。背後に気配を感じた。姫が立っていた。いつものドレスによく似たタンクトップビキニであった。新鮮味があるかと聞かれると微妙なところである
【あれ?葉月はどうした】
姿が見当たらない葉月は、少し奥の柱に恥ずかしそうに身を隠していた
「葉月」
「う、うん。」
姫に優しく誘われて、葉月がおずおずと前に出てくる。
暫く暮らしてたから否が応でも分かるが、葉月は我に少なからず好意を持っている。それは小さな子が年上の男性に持つ憧れに近いものだというのは分かりきっているが、そんな相手に自分をよく見せたいと考え抜いたのが痛いほど伝わってきた。
「どう?」
葉月は我の反応を待っている。【似合ってる】そう伝えると、こそばゆそうにしていた。背中から睦月さんたちが呼びかける。それに応えるように我と姫と葉月も海に入った
所で海とは泳いで楽しむ所ではないだろうか。
だがここは異世界だ。やはり楽しみ方も色々と違うのだろう
「桐壺。貴女、魔法ではなく魔力だけを使って水面歩きできますか?」
「雪姫ちゃん。すごーい!」
「……結構、難、うわっ……」
「ふんっ。空を蹴って飛べる私は、こうすれば余裕だ」
「桐壺お姉ちゃんもすごーい!」
「アーカーシャだってそれくらい出来るもん」
【お、おう。】
やってみたら、魔力の強弱が難しくて水面がモーゼよろしく割れてしまった。そんな中、一足先に海岸に戻っていた弥生さんだが、彼女みたいな美人が1人でいたら放っておくわけもなくナンパ目的の男たちに絡まれてるのが目についた。
「こ、困ります。家族と来てるんです」
「いやいや、少しだけあっちで飲もうっていってるだけじゃん」
「ってかネーちゃんオッパイでかいね」
「止めてください」
【平和的にギッタンギッタンにしてくるわ】
だが我が着くよりも先に男たちは目の前で退散する事になる。
1匹のオークが颯爽と現れて男たちを睨みつけて威圧で追い返したのだ。
「大丈夫か?」
「あ、はい」
「ありがとうございます」
「困ってそうだったからな」
あれ?オークとかの魔物って人里に現れたら、危険だから討伐って以前トーチカさんたちから聞いたような。というか、このオークに我は見覚えがあるぞ
【あ。シンドゥラ?】
その呟くような声に反応して驚いたようにオークは辺りを見渡した。そして我を見つけると、数秒だけ硬直してそして我の下へ膝を折って口を開いた
「アーカーシャ様!ま、まさか、この様な場所にいらしたとは!」
【すまん。色々あってこっちの方に来てた。
シンドゥラはどうして此処へ?】
「それは……」
シンドゥラは実直で真面目だ。言うべきことはハッキリ言ってくれる。そんな彼が珍しく言い澱む。
「シン!なにしてるですか」
1人の褐色で上背のある女性が我とシンドゥラの間に入ってくる。彼をシンって呼んでたし随分と親しそうな間柄だ
【この人は?】
「お、オレの妻です」
【!!?】
「その、報告が遅れてしまいました。僭越ながらこの度、彼女ベイビー・フランクリンと結婚致しまして、そこでエルガルムにはハネムーン旅行で来ていました」
彼の報告に我は衝撃を受けすぎて、言葉を失っていた。そばで見ていた弥生さんが小さく「おめでとうございます」と伝えていた。