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9話目-⑳

魔獣描写は消化試合が否めないので取り止めました

今回のダリス島フェスティバル中に突如発生した魔獣災害及び二次災害によって、我らが暴れた分を含めても今回の件では余りにも大勢の死傷者が出たそうだ。フェスティバルに集まっていた組員五万人のうち、様々な要因が合わさり3万人の死亡者。そして三頭竜が裏で支配してるって言っても、当然普通に生活している人もいたわけなので……。多数の民間人が犠牲となった事を加味して膨大な数に膨れ上がった。

たった一体の魔獣が島に生きる全てを滅茶苦茶にしたのだ。



「葉月!怪我は無かったかい!」



「ちょっとした。けど平気!アーカーシャたちが助けてくれた!」



「あんたたちも!こんなになって……でも本当にありがとうございます」



「かすり傷ですのでお構いなく、ね。偉大なる龍王様」



【うん】



事態の収拾をつけるにあたり実はあの場で紀伊國牡丹を助ける為に密かに聖国アイトルードの勇者たちも複数潜入していたようだった。様々な思惑があったにせよ、その内の何人かと揉めてしまったのは此方としても頭の痛い話だ。だがそのうちの1人スパスって人が事後処理は全て行うということで任せることになって島を後にした。



「あら、あんたは……」



「わたくしの名前は紀伊國牡丹!葉月のお友達よ。迎えが来る数日間お世話になるわ!あ、心配しないで金は出すわよ!」



【こらっ。その前に先ずはよろしくお願いしますでしょ!】



「よろしくお願いします!」



「え、ああ!金なんていらないよ!ボロッちい家でよければ幾らでも住んでおくれよ」



その代わり、紀伊國牡丹は此方で預かる次第となった。色々とシガラミがある身の上みたいだが、我らのことを信じてくれたのだろう。そしてそこから数日が経った。魔力は回復しているがバルディアに帰るにはまだ一つだけ懸念事項が存在した



「ただいま。帰ったわ」



【花宴どうだった?】



「……大丈夫よ、きっとね」



【?】



宿木花宴の肉体はカビサシの肉芽によって汚染されてしまった。魔力は澱んだ。それも我の魔力で抑え続けているのだが、どうにも体調を崩してしまっているらしい。その為、ウーリー島にある唯一の修道院(この世界の病を対処する機関)の方に検査で数日間入院しているのだ。

前提として魔物より脆弱な人間は瘴気による変異に耐えられない。だからその変異を抑制してるとはいっても、花宴は体の内側から確実に衰弱していっていたそうだ



【スターリンゴ差し入れするかな】



「アーカーシャが行くなら私も行く。改めてお礼も言いたいし」



「ならわたくしも当然行くわ」



我と葉月と牡丹ちゃんで修道院を訪れた。全てが白く清潔なまるで病院のようである。受付の人に案内されて、1番奥の部屋に通された。 



【ハロハロハロワーク。ご機嫌いかが……ッッ】



「んだ、来たのかよ」



軽口を叩きながら部屋に入って花宴を見た瞬間に言葉を失った。あの日から、まだ数日だ。なのに不自然な痩せ方をしていた。頬はこけて骨と皮しかなく存在が弱々しく希薄だ。今にも消えて無くなりそうな程に。

あの日の花宴の姿はもはや見る影もなかった。



(アーカーシャだからこそ分かる。死臭と死相が嫌というほど感じ取れる)



隣の2人も子供ながらの勘の鋭さで何かを感じ取ったのだろう。正直、何を話したかは覚えていない。ただ頭の中でどこからやり直せば無かったことにできるのか。そんなありもしないたらればばかりが駆け巡っていた。やるせなさから唇を噛む。

何回目かのお見舞い。体調は悪くなっていく一方で、意を決したように牡丹ちゃんが口を開く。



「そうだわ。助けてくれたわたくしの眷属にしましょう!"ツクヨミ"と対を為す"アマテラス"に!それがいいわ!」



「いやだ!」



「なっ!断るってばかなの!?このままじゃ死…!」



「そうだな。死ぬかもな」



「でも良いんだよ。あたしは人殺しのヒトデナシだ。けどなぁ、あたしみたいな奴はだからこそ人間でなくちゃいけねえんだと思うんだよ」



【……】



「そんな顔すんなよ……お!なんか表情が分かるぞ。1回死にかけたせいかよ!やっべ、ラッキー!お前ら全員の似顔絵でも描いてやる!紙とペンくれ!」



別れの雰囲気を敏感に感じ取った子供たちは涙を堪えていた。花宴はみんなの絵を1人ずつ描いていった。

日が沈み暮れていく。もうじき夜が来る。彼女は明日を何回迎えることが出来るのだろうか



【遅くなったしもう帰る。】



「おう。なあ……アーカーシャ、少し良いか」



チラリ、と花宴が葉月たちを見る。2人で話したいということだろうか。



【外で少しだけ待てる?】



「うん」



扉が閉まる音がした。気配が離れていくと花宴に向かい合う



【どうした?】



「別に改めて話すことでもねぇんだけどさ」



「生きてりゃそれなりに躓いて失う時もあるし疲れて足を止める時もある。何度もな。でもいいんだよ、それでな」



【なんだ、それ】



「あー、気にすんなって言いてえんだよ。色々とな」



【……でも我がもっとしっかりしてたら、こんな事には】



「おうこら!お前ふざけた物言いをしてんじゃねえぞ。

あいつらを助けに行って右腕を失った。あいつらを庇った。そして結果的に死ぬ。

だがなぁこの命はあたしのもんだ!お前のじゃねえ!テメェのツラと抱いてる罪悪感はな!あたしのあの時の選択と決断を馬鹿にしてんだよ!」



「また同じ失敗をするぞ。そんな曇りきった目じゃな。

お前は正しいと思った事をした。それが理想だ。だったらひた進め。眩しくいろ。翳るなよ。そして振り返るな」



【……】



「いつだってさ。人は得たものより失うものばかりを見てしまう。でもさ、失ったものを数えて涙を見せたら人は不安になるばかりだ。だからヒーローってのは笑顔でいなくちゃいけない。いつもさ。そういうもんなんだよ、な、お前らも」



【え?】



その瞬間に扉が開く。桐壺と鈴虫がいつの間にか立ち尽くしていたらしい。



「花…宴……!花宴!…いやだ、死なないでよ…!」



鈴虫が泣きじゃくりながら抱きつく。我の隣で桐壺も肩を小さく震わせていた



「だから言ってんだろ。笑ってくれ。泣かないで。お前からも言ってやれ」



「……なれるかな?私みたいなやつでも。正義の味方ってやつに」



「ハッ!今更分かりきったことを言わせんなっての。

あたしは思うんだけどさ。正義の味方っていうのは、善行を積むことじゃない。世界を少しでも己の理想に変えようと殉ずる者のことを言うんじゃねーのかな」



「だからさ。なれるよ、望めば。なんにだって。お前たちはさ。あたしはここまでだけど見守ってるぜ」



幾つか言葉を交わして我は部屋を後にした。3人で話したいこともあると思ったからだ。

帰り道、夜の闇だけが長く続いていた。それでも我の目にはハッキリと道は見えていた。


その日の朝、修道女が起こしにいくといつもと同じ姿勢で壁にもたれかけながら宿木花宴は亡くなっていた。手には紙とペンが握られていた。枕元にはみんなの似顔絵が何枚も描かれていた。何枚も。何枚も。意識は混濁していたのだろう。線が乱れていた。だがその全ての絵には表情があった。

9話目自体はまだまだ続きます。

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