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9話目-⑯

変えるかもしれませんが今のところ魔獣関連はダークファンタジー要素なので登場人物はそれなりに退場させていく予定です。

「う、動けないわたくしたちを庇って」



「んな、わけあるかよ?避けようと思ったら、当たって、偶々、お前たちが後ろに、いただけだっての‥‥‥」



「……嘘おっしゃいっ!」



どうして今のを防げなかった‥‥‥

対処できないものではなかった。即座に行動強化すれば今の自爆ごとこの手で握り潰せていたはずだ。だがどうだ。

勝ったと思った。闘争の最中に油断した。だから敵にみすみす反撃を許した。許してしまった。またしてもこのザマだ。なにをしているのだ。バルディアの時といい、何度ミスをすれば気が済む。完全に息の根を止める瞬間まで気を抜くべきではない。当たり前のことだ。なのに何故そんな当たり前のことが出来ていないのだ



「頭痛ぇ…」



「目を開けなさい!おまえわたくしに恩を売って死に逃げなんて絶対ゆるさないわよ!」



「……頭に響く。死なねえって、あたしは」



「どうしよ、ねえどうしよぉぉ!アーカーシャ!この人呼吸がどんどん浅くなってる。し、心音も弱くなってくよぉ!」



虚空の力を使えば花宴の命を救えるのか?

汚染された肉片は血や魔力と既に溶け合い混ざり合っている。瘴気だけを都合よく0にする手段を我は持ち得ない。

いや、待て。似たような状況があった筈だ。シンドゥラとエウロバの時だ。彼らは黄金の果実を食った反動で魔力が澱んで魂が変質して魔獣化しかけた。

原因となったものをアーカーシャの巨大な魔力で抑え込むことで彼らは戻ってこれたのだ。なら同じことをすれば……



【死なせねえぞ、バカヤロウ】



大量の魔力を花宴に送り込む。

魔力が腐敗し肉体まで少しずつ変異し始めていたがそこで状態は止まる。

どうやら成功したようだ。大量の魔力を用いれば瘴気による魔獣化の進行は止められる。

ごっそり魔力は減ったが、人が死ぬよりはよほど良い。

バサバサと島中の鳥が一斉に飛び立った。まるで何かから怯えて逃げるように。魔力感知を広げると100近くの人と生物の魔力が異常な速度で変異し始めている。

島にはもう魔獣が産声を上げているようだ。この事態の責任の一端は我にある。止めてこなければ



「アーカーシャ、ここにいて」



【……葉月も怖いよな。でもちゃんと我が怖いの全部退治してくるから。少しだけ我慢できる?】



「行きなさい。わたくし紀伊國牡丹が一緒にいますもの。怖い者なんているはずがない。そうでしょ、葉月」



「う、うん。でも早く来てね」



【────おう】



悲鳴が既に彼方此方で木霊している。

我は翼を広げてこの場を後にした。






現・聖国最強マーベリック・スパスと元・聖国最強カラスマ。

互いに勇者であり、同じ武術を極めた両者であるが突き主体のスパスと蹴り主体のカラスマとではその戦闘スタイルは大きく異なっていた。スパスは精密さと手数で分があり、カラスマは破壊力とリーチで僅かに勝る。

距離を詰めようとするスパスを寄せ付けたくないカラスマの鞭のようにしなる蹴りが弧を描くように放たれ、スパスはそれを掌をコロコンのように回すことで受け流して強引に距離を潰す。距離が近くなると攻防の形が逆転する。数秒の交差。されど交えた攻防は数十。瞬き一回で両者の立ち位置が入れ替わり、目まぐるしく主導を握ろうと駆け引きが行われる。

傍観し戦いの掌握に努めていた夕霧鈴虫はレベルの高さに呆気に取られる。彼女は眼鏡をかけているがこれは目が悪い為ではない。逆に見え過ぎてしまうのだ。目を凝らせば発射された弾丸の回転数すら見極められる。しかし見えているだけの彼女では、一連の戦いの意図までは読み解けない。

だが一つだけ彼女は確信する。両者の実力は伯仲していると。



「あのひよっこだったお前さんがよくぞこそまで練り上げた。とりあえず修行は欠かさず行ってるようで感心感心。ほいっと"十字深刈"」



「その上から物言いやめてくださいよ。俺の方がもう強いんですから四本貫手"震天矛"」



仕掛けたのはカラスマだ。胴を大きく捻り放つクロスを描いた蹴り技と突きに回転を加えた貫手が接触する。達人が如何に部位を鍛え上げてようと元々か細く繊細な指と肉体を支える強靭な脚どちらの方がより頑丈であるかなど比べるまでもない。

へし折れこそしなかったが、接触と同時に左指の何本かの骨があらぬ方向へとぐにゃりと曲がる。だがスパスも負けてはいない。瞬間的に狙い澄ました脚の側面に力を加えたことでズレを生じさせた。



「いった〜」



(外れた…指…を、自分で…入れ…直した!?)



「ヤロ〜!!」



指の骨を入れ直しているスパスが隙を晒すがカラスマの蹴りも修正が間に合わず惜しくも空振る結果となる。そしてここからだ。先に体勢を整えたスパスが反撃に転じる。

手技と足技は初弾に関しては、達人であるならほぼ同じ速度で繰り出すことが出来る。だが次はどうだ。左右交互に攻撃を加えられる腕に対して、脚はその特性上どちらか一方は軸足としてしか扱えないのと相手に有効打を与える為にはタメを要する。つまり次弾に関しては、攻撃展開を繋げるのに遅れが生じるのだ。

どれほど武術を極めた達人であろうとこれを0には出来ない。そしてそれはコンマ何秒の世界で生殺与奪を取り合う達人たちにとっては明確に付け入る隙となる。



「今度はこっちの番だ」



「間に合わない…」



(あれは…入る)



次弾を装填し終えて先んじたのがスパスであるのは至極単純な道理であった。

見方を変えれば今の攻防はスパスがより相手に大きなダメージを与える為に、敢えて左手を差し出したといえるだろう



「鋼閃」



本命の右手の貫手がカラスマの腹部を大きく貫く。常人であれば問答無用で即死である。ついに均衡は崩れた…



「この手応え、重要器官がない。内臓上げか!!」



「気付くのが遅い、轟渦挟」



崩したのは、かつて聖国にこの男有りと言わしめた勇者カラスマだ。

補足であるが互いの読み合いの技量に差は無い。だからこそ、カラスマは自身が対処し易いように攻撃を誘導したのだ。

予め特殊な呼吸法と筋肉の運用で臓器を上部に引き上げ、更にはスパスの右手を肉で締め上げ引き抜かせず動きを止める。自身のダメージは最小限にしてチャンスを最大限にして博打に勝ったのだ。

その右腕を掴み上げ、内側より破壊する組み技"轟渦挟"が炸裂する。スパスの肉体は鋼といって差し支えない。聖気を纏えば尚更だ。生半可な攻撃では傷を付けることすら容易ではない。だが内部の急激な負荷の高まりに耐えられず強靭なはずの骨に亀裂が生じる音がした。正しく肉を切らせて骨を断つ一撃。



「ほーん。確実に右手をもぐ攻撃だったはずだが、土壇場で脱力を用いて腕を外し威力を分散したか。悪く無い判断だよマー坊」



「だが勝負は見えた、喧嘩か知らんがハウ坊もここらで終わっていいだろ?」



「……ダメです。最後まで戦ってください。子供の喧嘩じゃない。これは……殺し合いです」



五勇聖スパスとハウゼン(この場にはいないがカサンドラも)は幼いころからの友である。戦争と紛争で国と家族、いや全てを無くして名も無き孤児であったところを同盟国であった聖国アイトルードの"救済法"によって救われた。そこから門を叩いて同じ師に武術を仰いで、寝食を共にして、そして何度も悲惨な戦場を駆け抜けた。死線を越えた仲間の命を奪うことに僅かばかりでも思うことが無いと言えば嘘になる。

だがハウゼンは僅かにチラつく迷いを振り払うようにそう命じたのだ。



「殺し合い。ならお前が殺せ。俺は勝負がついた相手にトドメ差すなんてごめんだ。それが嫌なら…」



「分かりました」



「え、まじか」



2人の間柄を知るカラスマもその覚悟に流石に動揺を禁じ得なかった。無傷のハウゼンがゆっくりと動き始めた。

さて死に体のスパスに勝ち目があるのだろうか、少なくとも鈴虫は無謀だと感じた。故に銃を向ける



「動く、な…!近づい…たら、撃つ…」



「宣言しましょう。僕は戦いにおいて男女を差別しない。引き金を引いた時点で僕の持ちうる全ての武力を行使して応戦する」



(やるしか…ない!)



「全くよ。どいつもこいつも、なにを勝手に話進めてるんですか。まだ勝負はついちゃいないでしょうよ」



銃を向けられようと歩速を緩めなかったハウゼンだが負傷しているスパスが大きく息を吐きながら構えたことで、歩みを止めざるを得なかった。彼はまだ勝負を諦めてはいない



「認めましょう、先生。武術という点において俺は貴方に及ばない。まだね。それでも勝つのは俺ですよ」



「こらっ。減らず口。でもまあ流石の俺も今のマー坊に神話的概念武装を使われたら苦しいのは認めるが」



「まさか。そっちじゃない。使うのは聖気だ」



「?聖気ならお互いさっき使ってたろうが」



「そうですね。ある程度は」



「強がり」



「戦ってみれば分かります」



その言葉はハッタリではなかった。スパスが聖気をこれまでより大きく更に解放したことで刻まれた聖痕が大きく広がってゆく。



「内臓食ベタイ」



「!!」



「なに、こいつ…ら」



だが両者の戦いに突然水を差す者が現れた。

カビサシの肉片によりこの島の者たちが成り果てた魔獣の群れである。その数は十数体。

魔獣を目にした瞬間から、この場にいた者たちは命を預け合う仲間となった。

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