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9話目-⑮

戦闘に入る前に背後をちらりと盗み見る。やはり気のせいでは無い。葉月ちゃんともう1人の子(多分だが件の紀伊國の娘さん)、そして2人とも我に近い存在になってる。そのお陰で負った怪我も殆ど完治しているようだが‥‥‥力の残滓的に紀伊國ちゃんの方が始祖の眷属になってるな。

そうなってくると花宴の方がヤバいか。血こそ止まっているが、腕が丸々一本無くなっているのだから。彼女は気にするなと言いた気に手をひらひらとしている



「あたしらのことはいいから、よそ見すんな。強いぞそいつ」



【忠告どうも。でも安心しろ。絶対我の方が強いからちょちょいと蹴散らしてやるさ】



改めて眼前の敵に集中する。こいつを例えるなら菌類の胞子が人の形を組成していると言った方が適切だろうか。個というよりは群だな。そして菌の集合体の癖に核はうまく隠されてる。アーカーシャの目を持ってしても直ぐに看破は難しいな。

にしても見れば見るほど細胞の全てがコイツに対して強烈な嫌悪と拒絶を示している。まるでゴキブリと同じだ。同じ空間で息を吸うことすら途轍もなく不快に感じて殺さなきゃいけないという猛烈な使命感に駆り立てられる。

そうでなくても審判の日を迎えるより早くに世界を滅ぼす一因なので、生かす気など毛頭無いのだが



【お前が最上位魔獣ラスウルカウルの子供だな。名前は、確かカビサシか。】




「■邪魔ヲするなぁぁァ■■■」



【化物の子供らしく元気いっぱいって感じだな。

じゃあ心してやり合うとしますか】



カビサシは力を漲らせて瞬時に腕を剣の形状に変異させて高速で振るう。人間の反応速度では回避すら難しいだろうが、始祖である我にとっては瞬きをするくらい余裕がある。攻撃の威力を見極めて我に傷を付ける脅威には至らないと判断して受ける。ジワリ、接触した瞬間に鱗に傷みとは異なる気色の悪い不快感。即座に腕を払い除けて、尻尾でカビサシを薙ぎ払う



【!……っと、今のは迂闊だったな。物理的な防御は無視か。鱗から我の身体を瘴気が侵食しようとしたのかな。触れればほぼ勝ちか。思ってたより強いな】



「■痛い痛い痛いぃぃぃ■■■」



【とはいえこの程度の瘴気じゃ始祖にとっては無害と何ら変わらない】



苦悶の声を漏らしたカビサシは受けたダメージを周囲の魔素を吸収していくことで高速回復しているようだった。

並みの生物なら腑が飛び出るぐらいの重傷だが、あれだけの損傷が時間にして3秒もかからずに傷が癒える。

普通の攻撃を通さない強力な外骨格に即死レベルの損傷すら癒やす高速再生。オマケに攻撃は当たれば勝ち。脅威的な強さだな、少なくともこの存在に正面から勝てるのが人間側にいるとは到底思えないのだが、今までどうやって他の上位魔獣を討滅せしめてきたのか興味が湧く次第である。



【ふんっ】



「■!?■」



追撃として高速で尻尾を再度振るうがカビサシが同じ速度で腕を振るい、尻尾の斬撃を他所に弾き返すことで後方の山が切り裂かれていた



【目が無いのによく見てる。感覚受容体どうなってんだよ】



【だけど見えてるのは尻尾だけかな】



ダラダラと戦う気はない。口に魔力を貯める。そして回避の暇を与えずに放つ。龍の息吹"砲撃(フレア)"だ。我の現在持つ手札の中で最も火力のある攻撃。それがカビサシに直撃する、これで倒せないならお手上げである



「■うぐぁぁぁ■」



【手応えあり】



「■やったぁ、ぼくの勝ち■」



光に包まれたカビサシは我の攻撃で肉体の7割以上を消失していた。弱点とも言える核が露出し損傷している。

姫曰く、生物的にほぼ無敵ともいえる魔獣でも核に過度な損傷が見られた場合はその限りではない。外側の肉体の制御を完全に失い崩壊する。だが魔獣の厄介な点はその強さだけではない。

核に内包している膨大な瘴気は肉体という行き場を失い、所謂核の異常結晶化という状態に陥った後に臨界点に到達して瘴気の放出を引き起こす。つまるところ瘴気を体外に全て放出するのだ。それは個体の侵食率が高ければ高いほど、濃度が高く広範囲に分布される事になる。それに生物や土地が巻き込まれることを指して瘴没とされている。

上位魔獣を討滅した場合に引き起こす瘴没は計り知れない。故に倒す場所を選ぶ必要がある。そうでなければ取り返しのつかない犠牲を払う事になる



「■お前以外みんな終わり■」



【したり顔の所悪いが、それに対する手段は既にある】



翼をカビサシの核に突き刺した。アーカーシャの権能は"虚空"

あらゆる力を0にする。それは瘴気であろうと例外では無い



────淡雪に会って私様は××をアーカーシャにした理由に確証を得た



────‥‥‥



『淡雪ちゃん。そんな不安そうな顔するなよ。俺も何となく分かってる』



────察しがいいな。ならわざわざ口にするぞ。この世界で唯一アーカーシャだけが瘴気の問題を無かったことにできる。魔獣を倒すって意味でじゃない。どういうことかというと



『現在処理能力を超えて限界を迎えてる聖杯、或いは玉って呼ばれている存在を見つけて、溜まり切った中身を虚空で0にする。少なくともそれで瘴気がある日突然頭の上から落ちてくるのは無くなるわけだ』



────言うほど簡単なことじゃ無いけどね。虚空でも直ぐに中身を0にできるわけじゃないから、それこそ何百年も‥‥‥『皆まで言わなくていいよ。俺にしか出来ないっていうなら頑張るよ』




強く醜くドブのように澱んだ瘴気を溜め込んだカビサシの核は、徐々にであるが綺麗で潤沢のある宝石となって浄化されていく。それに伴い、再生もせずに肉体は徐々に風化していく砂山のように崩れていく。



「■あああ、こんなことがあってたまるかぁぁ■」



誰も殺せない。そう理解したカビサシの顔は確かに悔しそうに歪んだ。ここで勝ったのだと気が緩んだ。

カビサシは時期に終わる。それは間違いない。だが魔獣は元々の生命力が他とはかけ離れている。死にかけであっても、エネルギーの総量が違うのだ。



カビサシの肉体は既に初めの2割も無い。その残った2割が爆弾が破裂するかの如く周囲に勢い良く弾けた。

カビサシの肉の破片が島中に飛び散ったのだ。肉は瘴気に汚染されている。当たれば忽ち魔獣と化してしまうだろう。



肉片の数は確認できただけでも、300と少し。全部が当たるわけでは無い。だが相当数の魔獣が生まれるのは間違いない。対処が遅れればこの島でどれだけの命が消えることになる。


焦燥の最中で背後の葉月たちが目を覚ましたのか、布が擦れる音がした。そして遅れて息を呑む音と共に悲鳴を上げていた。

振り返るともう取り返しがつかない事になっていた。



「あ、アーカーシャ!この人、血が、く、黒くなっていってる」



「あー、なんかこれ、マジィかな〜」



カビサシの肉片の一部が花宴の腹部に突き刺さっていた。そしてそれは瞬時に花宴の侵食率の限界値を容易く踏破していた。

魔獣が出る話は基本的にダークにしていきたいけど、塩梅が難しいなー

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