9話目-⑦
6話目-⑩でエウロパ枢機卿っての名前だけ出てますけど、よくよく見返すと地龍エウロバと一文字違いでややこしいので、エウロパ→ラザロに変更しました。
ネーミングはほぼフィーリングなので誠に申し訳ありません
ダリス島のフェスティバルは年に一度開催される裏世界最大規模の大競り市だ。開催される期間は30日間だが、その間に動くお金の規模は大国の年間国家予算に匹敵すると言われている。金の集まる所に人は集まる。組織の名を売り財力を示すために、この期間は裏の世界の重鎮たちが一斉に集まる。
そんなフェスティバルはクライムコミュニティ最大派閥である三頭竜のフィクサーのズメイが責任を持って取り仕切っているが、ここで騒ぎを起こすということは、それ即ち裏世界の大半の組織に喧嘩を売るに等しいことである。
「レイフ、お前の組はお得意さんだから今回は飛び入りを大目に見るが次からはマジで頼むぞ。ここは信頼で成り立ってるんだからな」
「へへ、ロッシさん。本当にありがとうございます」
「んで今回の持ち込みは人売りで参加ね。何人だ」
「8人売ろうと思ってます」
四方山組の奴隷商人レイフに連れられた8人の男女。その内の1人葉月は顔を腫らしながら(奴隷の鎖を繋がれる際に抵抗したので殴られた)力無く項垂れていた。
奴隷貿易の大半は頑丈な亜人と使い勝手の良い女子供である。
ズカズカと眼前まで歩いてきたロッシという男はジロジロと舐め回すように商品である奴隷を品定めする。
「8人か、いつも通り、売れた額の1割はクライムコミュニティに上納金として収められる。んでもう1割は手数料としてこっちにな」
「承知しています」
「ガキはキズモノにしてねえだろうな?後で返品になった時には競り落とした額の倍を支払ってもらうぞ」
「それも重々に承知しておりますとも。問題無いかと思われます」
「1部が今夜から始まるから躾の時間もねえが、仕方ねえからガキたちは何組かで抱き合わせで売るか」
「ほらこい」
「うぐっ」
ロッシに乱暴に鎖を引っ張られ、まるで葉月は家畜のように暗く冷たい廊下を裸足で歩かされる。
一歩進む度に自分の行く末がどうなるか不安が膨らんでいく。これからどうなるかなど考えるまでも無い。奴隷に堕ちたら最後死ぬまで奴隷としてこき使われるいうことを葉月は知っていたからだ
「ほら入れ」
突然ドンっと乱暴に突き飛ばされ、薄暗い石造りの地下牢に入れられる。見渡すと明かりは四方に取り付けられた弱々しい洋燈のみである。照らされた先では何人もの子供たちが泣いて蹲っていた
「酷いわね。レディーにこんな扱いするなんて。あなた立てるかしら?」
しかしそんな中で1人だけ目に光を失わず、凛とした立ち振る舞いをした年の変わらぬ少女が葉月に歩み寄り手を差し伸べてくる。おずおずと手を伸ばすと、向こうの方から掴まえて立ち上がらせる
「あ、なたは……」
「ケガは無いようね。良かったわ
わたくしの名前は紀伊國牡丹。あなたは?」
「葉月……です」
「良い名前ね、葉月。一つ良いことを教えてあげるわ
これから悪い奴はみんなやっつけられる。だから大丈夫。怖いことなんて何も起こらないわ」
慰めではない。牡丹は確信を持って口にしているのだと葉月には分かった
ーーー
ダリス島を遥か上空から見下ろしていたのは1人の男であった。男の名前はマーベリック・スパス。同性すら思わずドキッとさせられる端正な顔立ちに加えて女性と見間違いかねないほど手入れの行き届いた美しい黒髪を風に靡かせている。上半身には僅かな布地しか纏っておらず、露わになっている部位からは発達し引き締まった筋肉が垣間見え、艶やかな刺青が更にそれを美しく彩っている。
そんなスパスは指で輪っかを作り、目を凝らしながら島を観察していると端末型魔法水晶に一本の通信が入る。記された名前はカサンドラであった
「なんだ」
『なんだじゃないわよ、スパス。あんた正気?
もうあんた以外の五勇聖は全員ラザロ総司教枢機卿に従っている。そしてそのラザロは今回の事態を静観。若しくは奈良茂の方に協力しろと仰せだ。もしかして五勇聖筆頭だからって消されないとタカを括っていない?』
「お優しいな、まさか心配してくれてるのか?でも俺はカタリナ様に言われた通りにするだけだ」
『はっ!最早力を失い隠居した先代の聖女様に推薦されただけの教皇の綺麗事に付き合うなんてバカね。
あの人はきっと心を痛めて困ってる全員を助けるなんてのたまわってるんでしょう。でもね、見た?誘拐されたリストに挙げられてる人数は最低でも数百よ。下手をしたらそれ以上。それだけの人間を保護して食わせていく財源は一体どこから出すのよ、ただでさえ莫大な社会保障の確保のためにギリギリまで軍備縮小して弱体化の一途を辿っているこの国が』
「……ラザロ総司教枢機卿の言うことも分かる。聖国連合なんて聞こえは良くても要は弱小国の面倒を見ている事に他ならない。かつて世界を牽引した力は今の聖国にはどこにも無い」
『分かってるじゃない。それに協力するなら奈良茂。理由はエルガルムで東の紀伊國と西の奈良茂はどちらも海運業で財を成しているが、近年魔獣の発生比率が西廻りと比べて東廻りは3倍も増加しているのに加えて、カビサシの縄張りもある。つまり安全性が圧倒的に乏しい東廻りは西ほど海運が成功していないといえるので将来的にも落ち目になるのが分かってる紀伊國より奈良茂の方が圧倒的に国の利益に繋がるからそちらに協力しましょうって言ってるのも分かるわよね?』
「誘拐された紀伊國の孫娘を交渉材料にして、か。仮にも万人救済を謳っている国が」
『時勢を見てよ。三大列強なんて同格扱いされているけど、皇国と三王同盟より武力という面で連合は一歩も二歩も劣る。このままじゃ、そう遠くない未来に連合はどちらかに糾合されて瓦解するのは目に見えてる。カタリナは想像もしないだろうけど。自分達の国が無くなるなんてことは。でも国が潰れて誇りも文化も奪われ新たな地で胸を張って生きていける人間が一体どれだけいると思う。そうならないように今は富国強兵に努めるべきだと私も思う。理想だけじゃ誰も救われない』
「そうだな。それは最良かもしれない。それでも俺にはカタリナが間違ってるとはどうしても思えないよ」
『……』
「互いにやるべきことをやろう。カサンドラ」
『ばか』
最後の捨て台詞と共に通信が切れる。スパスは苦笑いを浮かべながら、また先程同様に捕まえられた人たちを探し始めた
次回の更新は恐らく本日の夜です。
ダメそうなら明日になります