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9話目-⑤

次回の更新は恐らく夜。無理だったら三連休のいずれかになります

"死んだおばあちゃん"という名前の料理がある。家畜の血を混ぜ込んだブラッドソーセージを野菜と一緒に炒めて、ザワークラウトやふかしいもを添えたやつだ。名前の由来は見た目が死んだおばあちゃんみたいにひどいから……。

アルタートゥームではどう呼ばれているかは分からないが、そんな料理が我の目の前に置かれた。向かい合うように桐壺が席に着くと同時に右手に別の気配を感じ、奇妙な動きを見せ始める。どうやらアナムが起きたようだ



「相変わらず酷い見た目だ。私が責任を持って食べてやろう」



「あいつらが起きたときの分くらい残してやれよ」



「そんくらい言われんでも分かってる」



「アーカーシャも食べて感想を聞かせてくれ。見た目以上に自信あるから」



【では遠慮なく】



桐壺の右手の人差し指と小指を器用に動かしてナイフとフォークを持ち、アナムは自身の口元に食べ物を運びガツガツと始めるので我も合わせて食べ始める。確かに言うだけあって、普通に美味しいというか、食べ易くどこか懐かしい味であり不思議な充足感を得られた。



【うん。美味しい】



「そうか」



我がペロリと平らげる様子を窺いながらも、その感嘆した声を聞いて少しだけ桐壺は僅かに口元を緩ませながらキセルに火をつけて口に咥える。



【なあ、それって美味しい?】



「煙管に興味あるのか?」



【少し…】



「マズイよ。だから絶対吸うんじゃねえぞ」



【ならお前はなんで吸ってんだよ】



「師匠の真似……」



【……】



「飯冷めるぞ」



そのまま彼女は自身の作った食事には口を付けずに、左手だけを使い本を読み始めた。それはとある哲学者が書いた本のはずだが作者名が違った。恐らく中身を知ってる渡航者が書いたのだろう



【怪物と戦う者は、その過程で自分自身も怪物になることのないように気をつけなくてはならない。深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ】



「お喋りがしたいのか?」



【ダメじゃなければ】



「"善悪の彼岸"読んだことある?」



【中身は知らん。言葉だけならあと一つ知ってるぜ。神は死んだ】



「それはツァラトゥストラの方だったかな。渡航者たちの世界ではこの分野を哲学というらしい」



【みたいだね。蝋燭の火は消えるとどこにいくのかから始まり、我々はどこから来て、我々はどこに行くのかに終わる。こういうのっていつか本当に全部分かる時がくんのかねと我は思っちゃうぜ】



「来るよ。誰かが解き明かしたものをちゃんと後世に繋いでいけばな。ちょっとずつでいいんだ。そうしてバトンを渡し続けて、いつか長い時間をかけてきっと誰かが答えに辿り着くちゃくちゃ」



「アナム。流石に食い物を口に入れてる時に喋るな、色々飛び散るから」



「これは失礼」



大切なのは向かおうとする意志である、か。解明ならぬ解命、アナムが事繁にそう答えると食事にまた没頭する



「そういえば話があった来たんだよな。アーカーシャ」



本から視線を此方に上げた桐壺にそう聞かれ、我は本題に入るために昨日の夜に別れた後からの経緯を順序立ててした。同居している1人葉月が行方不明になり奴隷として連れて行かれた場所のこと。傾聴し終わった桐壺はゆっくりと煙を吐いた。



「なるほど……ダリス島のフェスティバルか。

だがアーカーシャ、つまり私にどうして欲しくてここに来たかが見えないな。お前に私の助けが必要だとは思えないが」



【今の我が力を自由に使うにはある物を手に入れる必要がある。しかしそのためにはどうしても金がいるんだ。だがアテがない。それで、その恥を偲んでお願いします。どうかお金を、金貨70枚ほど黙って貸してもらえないないでしょうか】



「お金か、別にいいよ。100枚でも200枚でも貸してやる……と言いたいところだが、生憎持ち合わせがコレしかなくて、コレでいいなら」



そう言って拍子抜けするほどアッサリと二つ返事で承諾して桐壺は我にコインを一枚弾いて投げる。見るからに純度が特別に高いプラチナで出来ている硬貨であった。

金に疎い我でも掌で金貨より遥かに稀少で値が張るものだと重厚は存在感が嫌でも伝わってくる。



【これってもしかして聖金貨ってやつだよな、プレミアなんだよな?その、言いたく無いけど、そっくりそのまま同じ聖金貨で返せる保証はないんだが。】



「ただの聖金貨じゃないぞ。初代アンジュのだから、通常の10倍以上と考えてむぐっ!」



「黙ってろ。返せないならそれで別にいい。金を貸すときは上げるつもりでってのが私の心情だ」



【……ありがとう】



「ところで私とお前は友達だよな?」



【我はそう思ってるが】



桐壺は本を閉じて我の目をじっと見つめてくる



「友達に手伝ってとは言ってくれないのか?」



【ここまでしてくれるだけでも十分だよ】



「……」



桐壺が面白くなさそうに自身の右手に対して突然デコピンをする。食事に夢中であったアナムだがそこから何かを感じ取ったらしく会話に再度参加した。



「アイタァ! 突然なにを……ハッ!お前着いて行きたいなら、ちゃんと口で……わかった!わかったからデコピンやめろ!!

あー、そのアーカーシャ。実はその祭りには私たちの探し物があるかもしれないんだ。だから一緒に行かせてくれないか?」



【へぇ?】



我が少しだは訝しむとアナムは心外そうであった



「この時代に始祖 原書ヴァンダーリを所有しているのは魔導王であるが、つい先日それが三頭竜の連中に盗まれた。まあ今代の魔導王は脇が甘いからそうなっても仕方ないことなのだが、その回収を私たちは請け負っている。」



【ジャックの船団を襲っていたのはそれでか。我はてっきり】



「なに!?私が寝てる時に勝手に船を襲ったのか!桐!」



「……今はそんなことより」



「そんなこと!?お前はいつもそうだ!私とお前は一蓮托生なのだぞ!まず相談をだな!?」



てっきり紀伊國屋の会長の孫娘救出の為かと……。そいやブツって言ってたもんな。物か。物だよな、そりゃ。

始祖に関しては姫から色々教えてもらってはいるが、確か原書ヴァンダーリは始祖の中で唯一、特定の対象を使役し強化することで戦うことが可能である、か。要するに我と姫の関係の主従逆バージョンということなのだろう。



【ご馳走様。】



「待て。まだ話は終わってない、こちらもついて行くメリットがあるんだ。つまり、お前が島に乗り込むタイミングでこちらも原書を回収出来る可能性がある。こちらは原書、そっちは女の子。だからお互いのために共同戦線といこうじゃないか」



【……本当にそれだけか?正直我はアナム。お前のことを信じてない】



「……打算が無いと言えば嘘になる。だがコイツらがこれ以上大きくなる前に一度叩いておきたい。私たちだけでは骨が折れるがお前がいるなら楽に済むという打算だ。

本当にそれだけだ。他意はない」



【信じる、だけど信頼を裏切ったら……】



「それでいい」



そうして我はエリクサーを得るための資金だけでなく、桐壺の助力まで得られることになったのであった。

本作の評価が少し上がりました。ありがとうございます!

これを糧に更新頑張ります

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