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9話目-④

次回の更新は恐らく来週の今頃……

葉月ちゃんが帰ってきていない。それが何を意味しているか。事件か事故かというのを考えている暇すら惜しい。

家を飛び出してなけなしのエーテルを全て五感の活性化だけに回す。そのまま魔力感知をして、島中を駆け回る。



(いない。いない。いない

どこだどこだどこだ)



だがどれだけ探しても葉月ちゃんの魔力をどこにも感じない。この場合、考えられるのは二択。島にいないか……死んでいるか。

今この場には如月がいない。そうなると後者の場合もう取り返しがつかない。考えるだけで喉が干上がりそうになる。

前者の場合には事件に巻き込まれたと考えるのが妥当だろう。そもそも見落とした可能性もまだある。



(もっと感覚を拡げろ……限界を越えろ!)



無理矢理感覚を拡張していくと頭の中で細かい血管らしきものがブチギレていくのが分かるが構うものか。数秒にも満たない時間だが、我の五感が島中を覆い尽くす。その瞬間情報の波が津波のように脳内に押し寄せてくる。それを刹那で処理していく



『明日の待ち合わせは』『早く寝なさい』『どうも最近腰が痛くて』『お兄さん私といいことしない』『葉月ー!どこなのー!』『ほんと見たんだって、ありゃ幽霊さ』『推理小説って初めにオチから読んでしまうのよね』『知ってる?暗示にかかる人って生真面目らしいよ』『おい最後に攫ったガキはあれ睦月のとこのやつじゃないか?』『あ?だからなんだよ。んなの知らねーよ。ガキから目を離す方が悪いだろ』



「《見つけた》」



その言葉を聞きとった次の瞬間には我はそいつの目の前に着弾していた。

目の前には呆気に取られている中年の男が2人。どっちだ?どっちが攫った。手に力が入る。次に発した言葉で我は判別して動いた



「ひあ、あ!ワイバーン!?」



「な、なんだぁ!?ま、魔物!」



【……お前だな】



「ひぐぇ……っ!」



「お、お助け〜っ」



我の拳が右側に立っていた男の顔面に即座に突き刺さり、鼻がひしゃげ、前歯を全てへし折った。痛みにのたうち回る男の胸元を掴み今にも沸騰しそうな思考を抑えながら穏便に問いただす



「おまっ待てっ!待って!置いてかないで!」



【おう こら】



【黙って聞かれたことだけに答えろ。

攫った子供は今どこにいる。】



「……こ、殺ひゃないれ!」



男の足があらぬ方に捻じ曲がる。絶叫が耳を劈いた



「&/#!!!」



【もう一度聞く。葉月はどこだ】



半殺しにした男の話をまとめると男たちはどこにでもいる人攫いだった。そして偶々容姿に優れていて1人だった葉月ちゃんに目をつけてガラを攫った。時間を逆算して今から2時間ほど前であり、奴隷商人に引き渡したと。

奴隷商人の行き先は決まっており、裏で奴隷オークションが行われるダリス島であるということだ。

問題というほどでもないがそこは三頭竜のトップの1人ズメイが直々に取り仕切っているシマであり、この時期はフェスティバルなるものが大々的に開催されているそうだ。集まっているのは主にクライムコミュニティに属している300の組と総員5万。そして表向きにはフェスティバルと銘打たれたこの祭りの間はズメイの名の下に様々な商品が合法的に競売として取引されることが許されるそうだ。




「か、管理局に通報しよう。それで葉月を……」



現在この場には3人しかいない。我と姫と睦月さんだ。そしてそう提案したのは我の話を聞いて顔色を悪くした睦月さんであった。



「ダリス島での年に一度のフェスティバルは私も聞き及んだことがあります。それとダリス島主はズメイの子飼いで、島のあらゆる犯罪行為が黙認されているともね。

エルガルム大陸の盟主扶桑国もこの件に関してはダンマリを決め込んでいる以上、管理局に通報してもどうにもならないでしょう」



「じゃあどうしろっていうのよ!」



【睦月さん。これは全て我のせいです。だから葉月は何があっても絶対助けます。約束します】



睦月さんに頭を下げる。それから姫に向き直る



【姫。ちょっと準備を整えてくる。

朝には戻るからそれまで少しだけ待っててくれ】



「分かりました。言うまでもなく私も参加しますよ。どんなことがあってもね」



【……分かってる】





調べてみるとアドリアーノ島は1.2平方キロメートルもない小さな島であり、元々100人程度しか住んでいなかった。そして三頭竜の暴力に晒された現在において、既にほぼ全ての資源が略奪されて無人島になったと記録では記されている。当然人は誰一人としていなかった。


その全てが当然廃墟であるが、標高が1番高い場所にトルムはあった。二階建であり明かりが僅かに灯っているのが目に入る。一応廃墟とはいえ玄関から入るのがマナーだろう。



【お邪魔します】



「うおっ!びっくりした〜。おー、誰かと思えばアーカーシャ?だったよな。なんだ、もう遊びにきたのかよ、夜行性だなぁおい」



壁際に宿木が筆を手にしながらも、我に気付いて手を振ってくる。薄々思っていたがこいつまじで気配が無いな。今のアーカーシャでも魔力も気配も察知出来ないなんて、存在がほぼ足のある幽霊と同レベルである



【ちょっと急ぎでお願いがあってな】



「はっは〜ん。深刻そうなツラだな。まっどっちにしろ朝にしてやれ。今まだ2時だぜ?2人とも寝てるっての」



【……そういうお前はなんで起きてるの?】



「ん?別に大した理由じゃねえ。人を殺した夜はコレをするって決めたんだよ。今日は死体を多くこさえちまったからな」



宿木の目の前のテーブルには幾つもの人物画が綺麗に描かれていた。しかしこの構図上手だが引っかかるモノがある。



【変な絵だな】



「別に誰かの理解が欲しいわけじゃねーよ。こんなん自己満だよ自己満」



そう言って、宿木はまた絵描きに没頭し始める。仕方ないので彼女の横に座ってその工程を眺めることにする。



「何見てんだよ」



【ダメなんか?】



「別に。ダメとは言ってねーだろ。

でも面白くねーだろ。こんな変なの見てもよー」



【自覚あるんだな。なんで後ろからの構図なの?】



「あたしがそいつを殺す直前を絵にしてっからだよ」



【お前、めちゃくちゃ趣味悪いな】



「ぎゃはは。自覚あっから安心しろよ」



数十枚の絵を一つ一つ確認していく。変な言い方だがどれもよく描けていると思う。だがその全てが後ろ姿というわけでもない。正面からの絵もあるにはあるが表情が描かれてなかった



【なんで顔は描かないの】



「描かないんじゃなくて描けないんだよ」



「……あたし生まれつきビョーキなんよ。頭の

人の表情とかわっかんねーの。雰囲気と気配掴むのは得意だから他人の判別には困ったことないけどねー〜」



「絵を描くときはどうにも不便なんよな」



【そっか。でも我は結構好きだぜ

モネの日傘を差す女みたいで】



「……誰だよ、それ」



簡単にいうが恐らく相貌失認というやつだろう。

理由こそ異なるが、画家のモネも妻の死後は表情を描けなかったというし、凡人の我にはそれでも変わらず魅力的に見えた。同じく宿木の描く顔の無い絵からもしかしながら色彩や技法を通して素人の我にも感じ取れる何かがあるように思った



「……」



【……】



「……」



【……】



「あんがとよ」



【なにが】



「いや、だから、その、絵を……褒め…ごにょごにょ」



【照れてんの?】



「はっ?ちげーし!べつにテレてねーし!

キッモ!おまえキッモ!!何勘違いしてんだこのハゲ!」



【照れ隠し下手すぎんだろ。刃物投げんな!危ないだろ!!】



「集中すっから!すっげー集中すっからもう喋んなよお前」



宿木がそこから絵を全て描き上げたのは空が既に白じんでいる朝の5時半ほどであった。宿木は精魂使い果たしたのか描き終わるのと殆ど同時に寝ていた。爆睡である



【ここで寝んなよ、風邪引くぞ】



呼びかけても反応せず放っておくのも気が引けたので宿木を抱え仕方なく2階に上がることにする。2階には部屋が幾つもあったがどれが宿木の部屋なのだろう。1番近い部屋を開けようとドアノブに手をかける。

ガチャリと向こう側から勝手に開いた。



「……。おはよう アーカーシャ」



【おはよう。あのさ】



「待て。今日は私が朝ごはん担当なんだ」



桐壺はそう言って、別の部屋に入って朝ごはんの支度をし始めた。とりあえず我は桐壺が先程まで入っていた温い布団の中に宿木を放り込んだ




来月からは曜日と時間を固定した方が良いのかなと考え中

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