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9話目-②

次回の更新はおそらく来週。


我と葉月ちゃんが市場を抜けて更に10分程歩いた所のとある一画に紀伊國屋の看板を掲げた建物が目に入った。

落ち着いた店構えとは対照的に出入り口は様々な人の往来が忙しなく行き交う。それもそのはず。なにせ商業ギルド"紀伊國屋"は"奈良茂"と共に海洋大陸エルガルムの盟主扶桑國と他の島国とを結ぶ海上輸送を主に手掛けているこの大陸で最大手の組織であり、そんな紀伊國屋は東回り航路を整備することでエルガルム大陸東方一帯の事業を請け負っているらしいからだ。(東の紀伊國。反対に西側は西の奈良と呼ばれ均衡状態を保っているそうな)



扉を潜ると、広いホールがお出迎えをした。そこで葉月ちゃんは立ち止まることなく迷いなく足を進めていく。向かう先は受付カウンター4番席だ。幸いにも人が丁度はけたタイミングである。



「弥生姉ー!」



「あ、葉月。もしかしなくても弁当届けにきてくれたんですね?ありがとうございます。忙しくて外に買いにもいけなくて、正直餓死を覚悟してましたよ」



「またまたー。弥生姉のことだからその辺に飾ってあった花でも食べてたりして」



「いくらお腹空いてもそんなことするわけないじゃないですか」



(なんかテーブルに歯型ついてるんだけどまさかね)



聞くだけで相手に安心感を抱かせる声のトーン。かけた眼鏡の奥から伺える優しい眼差し、纏う大人の雰囲気とそれに見合った繊細な手つきで弥生さんは目の前の書類を整理しながら弁当を受け取りこちらに微笑みかける。

息遣いや指先の所作一つ一つに何だかいい知れぬ大人のエロスを感じますね。

この島一番の大企業といっても過言でない紀伊國屋第六十五支部の受付には5つの窓口があり、弥生さんは4番口の受付を任されている。企業受付はその職場の顔であるというだけあって、容姿が優れている様々な美人が集められているわけだが弥生さんはその中でも一際飛び抜けている。流石に姫には負けるが正統派の美女であると……。

これ以上、容姿について言及するとルッキズムと取られて着火しかねないのでお口にチャックしておこう。鎮火ならぬ沈火である。



「あ、そうだ。アーカーシャがお金で困ってるみたいでさー

何とかならない?」



「そうなんですか。うーん、何か良いのあったかしら」



この島には冒険者ギルドがない。その為か、討伐系を除く他の依頼も全て受注しているらしく、膨大な紙束を出して一つ一つ確認している。そして渋い顔を浮かべながら一枚の紙を凝視しているので一緒に覗く



「あ、そういえばコレが回ってきてましたね」



【なになに、先日紀伊國屋会長 紀伊國崑牟の孫娘が乗った船が伊勢海にて襲撃を受けて誘拐される。襲撃犯たちの正体はA級賞金首ジャックの一味だと思われる。孫娘救出成功の報酬は……金貨2千枚を約束する!!?しかも実行犯のジャックを捕まえたら更にプラス千枚!

これいいじゃん!我が受けてもいいの!?】



しかし我の食いつきとは相反して、葉月ちゃんと弥生さんは眉を顰めていることに気付く



【そんなヤバい奴なの?】



「これ依頼者は管理局の方なんですよね。それに管理局案件は大抵ロクなもんじゃなくて、アーカーシャ君に分かりやすく言うと危険度S級相当って考えてください。寧ろこの倍でもいいくらいの案件ですね。バックに付いてるのがヤバすぎます」



「あ、所属している組織がヤバいってきいたことあるかも。たしか名前は」



葉月ちゃんの言葉を遮るように唇に指が当てられる。喋るなということだろう。そして弥生さんは周りを気にしながら、耳打ちするように声量を落として話し始める




「誰が聞いてるか分からないから。

ジャックは三頭竜っていう裏の世界で2番目に大きなクライムコミュニティの幹部です。

裏世界最大組織ブレックファストがここ数年なりを潜めた影響ですね。あいつらがここぞとばかりに幅を利かせてるんだ」



「身代金目的で金貨4千枚を要求されて、会長は既に渡したって話だけど身柄が引き渡されてないってことはそういうことかもしれませんね」



【金を搾るだけ搾り取るつもりか、若しくは既に殺したかってことか】



「紀伊國屋は管理局に色々と援助しているから、それで会長が色々と裏で働きかけたみたい。だけど三頭竜は大きな組織だ。

管理局も直接事を構えたくはないのが本音だろうね。加えて現状三大冒険者ギルドの内2つが例の騒動で消えちゃってからの戦力は正直不安が残る。けど紀伊國会長の顔を潰すわけにもいかない。といったところでしょう」



「アーカーシャ。流石に他のにした方がいい」



【……悪い。葉月ちゃん

晩御飯までには戻るから先帰っといて。ちょっと伊勢海でジャックってやつ探してくる】



「アーカーシャ!?」



【金はどうでもいいが困ってる人がいるならよぉ、助けなきゃいけないだろ!】



金貨二千枚は我のものだ。絶対に渡さんぞ。

それに小さくなってるとはいえ、正直今の我でも結構強い部類に入るのではないだろうか。だとしたら、コテンパンに出来るだろう。社会貢献もできるし一石二鳥である




「……気をつけてね」



そうして快く送り出された我は地図を見比べながら海を飛行していた。

伊勢海はエルガルムと周辺の島々によって閉じられた海のことを指し、見たところ広さは日本海の半分くらいだろうか?この中から怪しい船団が無いかを散策するのは時間がかかると思ってたが、水平線から煙が上がってるのが見えた。我の勘があそこに向かえた言っている。

急いで向かうと船が燃え盛っていた。5隻の船団のうち4隻の船上が既に血の海となっている。そして船団中央の大きな船で最後の戦いが巻き起こっていた。



200人以上の相手を一方的に倒しているのは2人だ。

1人はマスケット銃を持っていて、撃った銃弾が自由自在に相手を撃ち抜いていく。

もう1人はスラリと背の高い美人の女性だ。キセルを口に咥えながら煙を吐き出す。煙に触れた者たちが無惨にも切り刻まれていく。



『て、てめぇら俺たちが三頭竜だって知ってこんなことしてんだろうな!? 皆殺しだぞ、家族、友達、顔見知りに至る全員がな』



『ギャハハ。だってよ 怖〜』



3人目が突然気配もなく現れて、喋っていた男の首を切り飛ばす。



『おい ブツは?』



『いなかった。何人か中で拷問して吐かせたけど、本部に移したんだとよ』



『……どうする……一旦、帰る……?』



『どうせ払う埃だ。ここにいる奴らは全員殺すか捕まえる。だから最後の警告だ。投降しろ』



その会話を聞いて、船団のボスらしき男が話しかける。



『てめぇらだな!?最近暴れてる正義の味方気取りの殺し屋集団ってのは!何者だ!』



『お前たちみたいな悪党専門で仕事をしているだけだよ。冒険者みたいなものさ。非公認のな。顔と名前を覚えてもらうためにトライアドって名前を付けた。もういいか?』



『なめんじゃねえが! 俺はジャック様だぞ!手前みたいな殺し屋に易々と殺られる程、安かねえぞ!』



『ゴタクはいいからかかってこい』



煙を吐きながら女性が淡々と答えると男は笑いながら武器を振りかぶる。素手の女性に対して大剣である。避ける素振りも防ぐ素振りも見られない。結果は見えていたので我も動く。

女性の黒い指が大剣に触るとあっさりと切断される。そのまま持ち手の腕もずり落ちる。殆ど一瞬の出来事だ。ジャックには何が起きたか理解できていないだろう



そのまま、女性はジャックの首を刎ねようと手を伸ばす。

我は急降下して、ギリギリで間に割って入り手を弾く事に成功する。そして直近まで近づいて漸く女性の正体にも気付いた



【よお、久しぶりだな 桐壺】



「……もしかしてアーカーシャか?」



空蝉桐壺も直ぐに我だと分かったらしい。懐かしそうに大きな目を細めた


9話目の全体プロットは正直ゆるい回予定だったけど、話を進めたいしなというジレンマ。オチはきめてません(白目)

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