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8話目-㊷

次回の更新は恐らく明日……は無理かもしれないですけど応援してくださると嬉しいです。

命の燃える音がした。



【此処から先に後戻りはないよ、××】



「《分かってる》」



建物が崩れ落ちて、耳を塞ぎたくなる断末魔が聞こえる。

命が燃える音がした。



【でも征くんだね?】



「《……うん》」



何人死んだのだろう?何人殺されたのだろう?

命が燃える音がした。



【変わってあげようか?あの夜みたいに。あの時みたいに。私様が殺してあげても良いのだけれど】



「《これが我のケジメだから》」



【そっか……なら征ってらっしゃい】



「《征ってきます》」



この世界に来て本当の意味での全力。力がそこかしこに漲る。生まれ変わったような気分だ。万能感に酔いしれそうになる。

音はもう聞こえない。

自分自身を鼓舞するように大きく息を吸う。吐き出して振るい立たせる。



【マイクチェックの時間だ オラァ!!!!】



暴力による解決は嫌いだ。この思いに嘘はない。話し合いで解決出来るのならそうしたい。

でも、目の前に広がるこの惨状を見て、もうその段階はとっくに過ぎたのだと理解する。

こうならない為の何かを為せるだけの力があったのに我は何をしていた。何とか出来るだけの力があったのに何かをしたのか。何もしてない。なにも。なに一つとして。我はしてこなかったのだ。

誠に愚か極まりない。力での解決は悪か?否だ。いざという時に凡ゆる事態に備えをしなければいけなかったのだ。盲目的に、楽観的に、現実として存在する問題から目を背けることこそが悪。王であるなら尚更だ。困難に向き合わず王が惰弱で臆病で暗愚であればあるほど、その割を食うのは王自身ではなく、信じて付いて来てくれる無辜の民草だ。そう。いつだってそうなのだ。為政者の掲げた理想のために傷つき血を流して傷付くのは彼らなのだ。




正しいことを言っているとは思わない。理解が欲しいわけでもない。例え我が王器足り得ないとしても、流れた血の分以上に、手を汚さなくてはならない。そうしないといけない責務がある。応えなければいけない義務がある。我はアーカーシャなのだから。



【先ずは火 消すか】



我の動作を分かりやすく理解してもらう為にゆっくりと行ったのは柏手だ。両方の手の平を打ち合わせて音を立てる儀礼的な動作として手を打つ。要するにただの拍手だ。

だがそれだけで天を焦がすほどの猛火の全てが、まるで地の底まで平伏すように一瞬で消え去った。



「ああっ……ああっ……!」



「いや……もう、これ、」



「こ、こんなの、どうすれば」



次に指を一本だけ天に掲げた。そこから光を上回る速さの輝きを持って我のエーテルを展開してバルディア全土を覆う。敵と味方の全てを瞬時に判別した。



【無量無辺恒河沙・一極】



魔力の宿る天候や地形、その全てに今なら命令出来る。だから命じよう。心の赴くままに。



「退避を!退避を急がせろーーー!」



【閉じろ】



開いていた花弁が閉じるように、バルディアの大陸と丁度接している大地がせりあがった。もう逃げ場は無い。どこにも。誰も逃がさない。何人かが転移魔法を使って逃げようとしているのを感じる。無駄だ。別空間から逃げることを我は許可しない。



「て、転移が使えない……」



「なんで!?なんでなのーーー!!」



無抵抗では困る。だから腹を括ってもらう為に一言宣誓しよう。我の確固たる決意を示す必要もある。思念伝達を全てに繋げる。



【我の名前はアーカーシャ。このバルディアの王である。先ずは勇敢なる冒険者諸君。君たちはその勇気と強さを持って闘争を開始した。そして我が民と兵を大いに蹂躙した。その気概にいたく感服し、敬意を称して我が直々に相手をすることにした】



「こ、降参します!」



「馬鹿野郎!そんなんで見逃してくれるわけねーだろ!戦うしかねえんだよ!俺たちは」



【……相手が強いと分かったら降参する。立派な戦略だ。戦う気が無い者は仕方ないな。

うん、分かった。戦わないものは武器を捨ててくれ。こちらで戦う者を選別するから】



冒険者の多くがあっさりと武器を捨てた。現時点で我に抗おうとしてるのは千人にも満たない。こんなにもあっさりと。腹が立つほどに潔く。

戦意を失った者たちだけを城の前に移動させる。15万人以上いる。密過ぎるな、これは。



「これは、転移!?」



「いや違う、もっと高度な何かをされた。それもこんな一瞬でこれだけの数を!」



【準備出来たし、じゃあ来たれ、龍王の眷属たち】



我の呼びかけに応えて、2匹の巨大な龍が空間を裂いて現れた。そのまま2匹は我の足元に傅くように首を垂れる。



「ひぎぃ……」



「あぁ……ああっ……!」



「うそ、だろ。あの2匹とも龍の最上位種の応龍だぞ!そそそんなのを呼び出したっていうのか!!?」



「八大応龍 青のフィファニールが此処に」



「八大応龍 黄のイオスガドルが此処に」



【足元の彼らを見よ。彼らは冒険者だ。武器を持って、我が地と民、そして我を打ち倒しに闘争に来た。にも関わらず、この現し身を拝謁して伏した醜い者たちだ。全くもって見るに耐えない。端から叩いて潰せ、あの蠢く虫たちを】



「「ははっ!王の御心のままに」」



我の意図を汲み取った2匹の美しい龍たちは、極力この地を傷付けないようにフィファニールは青を基調としたゴスロリチックな少女の姿に身を窶し、対してイオスガドルはメイド服を来た金髪の女性に変わって、其々が優雅にこの地に降り立った。その2人に15万人だ。それだけの数の屈強な戦士たちがまるで赤子のように彼女たちの前で咽び泣いて命乞いをしていた。




【さて、千人の真なる冒険者たちよ。これは戦争だ。けど我もそこまで悪魔じゃない。なにも首根っこ引っこ抜いて脊髄剣になんかしたりしない。龍らしく尋常に立ち会う事を誓うよ】



「俺が相手だ! アーカーシャ!!」



我の呼びかけに最初に動いたのは、2丁の拳銃を持った既にボロボロの中年の男性だ。さっきまでフェンリルと戦い決着はついてない筈だが、なるほど、こちらを優先してくれた様だった



銀の弾丸雨(シルバーレイニィ)



【へぇ。一瞬で我の周囲を弾雨で逃げ場を無くしたのか。やるね】



「すまない!トニー君。少し合わせるのが遅れた。超魔光爆ぜる斧(クワン・ト・カット)



爽やかな青年が強い光を踵に集めて現れた。こちらも既にラーズとの戦いでほぼ相打ちに近く消耗しきっている。どちらも死に損ないだが、その気迫には些かの疲労も感じさせなかった。



【お見事】



指で銀の弾丸の一発目を刹那で弾く。弾かれた弾丸は別の弾に当たり、更にそれは別のに当たっていく。連鎖するように全ての弾が勝手に外れていく。



「くっ!」



【攻撃のためとはいえ、今の我に近付くのは賢明ではないな】



今の我の肉体を覆うのは魔力ではなく、より星と世界を構成する純度が高いエーテルだ。近付くだけでも太陽の熱波にその身を晒されるのに近い。金色の弾丸が後押しするように青年の心臓に撃ち込まれる。攻撃では無い。中年の男の聖気を込めた弾で青年の肉体を限界以上に活性化させたのだ。



「押し、きれぇぇぇ!!!」



【勇敢だな。だが足りない】



「《■》」



強めに吠える。それだけで音は指向性の物理的破壊力を持って、青年の身体を遥か先の盛り上がった大地の壁に叩きつける。



「ブルーノート!! 大丈夫かっ!」



【よそ見するとは余裕だな。右手を貰うぞ】



それなりの力を込めて尻尾を振るう。魔力強化した動体視力でも影すら見えない速度だ。反応が追いついたとて最適の動作をもってしても躱すことは容易では無い。だがトニーと言われていた男性は、銃の火力を推進力にして辛うじて回避に成功したようだった。いや、回避に成功したと思っている。



「ばか、な。今の、完璧に躱した、ろうが」



回避したが右手は切断されていた。



【人が虫を観察して、或いは干渉して行動結果を操作するように、上層の域にいる者は下位の層にいる者たちの行動結果に干渉して操作することが可能である】



【我はお前の右手を切断する為に尻尾を振るった。そしてお前は()()()()()()()。それだけのこと。】



【過程があるから結果がある?違うな。時として結果の後に過程が付いていくこともある。】



「なにを、いって、この化物、がっ……」



中年の男性の上から我のエーテルで構成した巨大な張り手がハエを叩き落とすように彼を墜落させた。

実際にはそんなことをしてないし、誰の目から見てもそんな攻撃は無かったし我が何もしてないように見えるかもしれない。

だがしたのだ。過程が立証されなくても、その結果のみを我は既に観測しているのだから。



【理解はいらないよ。これから先、お前たち人間が理解出来ることなんて何一つとして起こらないんだから】



最早悲鳴の一つも上がらなかった。ただ、千人の勇敢なる冒険者の内の誰かが絶望して武器を落とした。それだけのことだ。

ちょっとした補足説明

アーカーシャの攻撃はあれです。本来なら攻撃という過程を経てからのダメージという結果に、トニーの回避したという行動を割り込ませずに起こりえた結果の一つのみを観測した結果の描写です。ちょっとした概念干渉系です。つまり概念には概念をぶつけてなんやかんやしたら回避も防御もできます。

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