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8話目-㉞

今回もお話しメインなので進んでる気がしない

略奪者たちの王様(ヴァイキング)の方針を決める戦略会議は、基本的に固定として最高位冒険者の中からはギルドマスターアレクセイ。副ギルドマスターディートリー。そして"魔の超直感"を有するグラナドのみだ。他は戦略や情報分析に長けた支部長クラスがその都度招集される運びとなっている。


だが今回は違う。今この場にはヴァイキングが誇る最高位冒険者11名が集っているのだ。ギルド最高戦力の揃い踏みしている姿は圧巻であり、唯一呼びつけられたバイデも思わず生唾をごくりと呑み込み気圧されてしまう。



「さて、本題に入る前に先ずは皆にこれまでの戦局の推移でも聞かせてもらおうかな。バイデ君」



「は、はい。」



普段見せるアレクセイの言動とは乖離した気色の悪い丁寧な言葉遣いに僅かに怖気が走ったのを隠せなかったのだろうか。



「顔色が優れないようだが大丈夫かな! バイデ・ワルター君!」



爽やかな容貌で見るからに人当たりも良さそうな好青年が心配そうに立ち上がり声をかけた。最高位冒険者No.15ブルーノートだ。実力のある冒険者はアクの強い者が多いが、その中でもバイデが手放しで尊敬できる数少ない冒険者の1人。



「だ、大丈夫です。」



「そうか!ではよろしく頼む!」



「1日目はご存じの通り、敵戦力の把握も兼ねての先遣隊1万を送り込んでのバネテス平野の戦闘です。互いに1万での開戦でしたが、陣容の厚さではこちらが勝っていました。

しかし戦局は終始魔物側に翻弄されてしまい、結果として死傷者と離脱者合わせて7割超えの大打撃を受けています。

最終的には最高位冒険者フランクリン様とシチー様のご活躍により敵部隊は壊滅しました。」



「厳密に言うなら敵の指揮官を倒したのは私だけどね。」



「ぶーぶー!何言ってるですか!私が1番多く敵倒したですよ!」



「2人とも張り合ってる場合ではないかと。」



「……2日目。我々ヴァイキングは3つの大規模な局地戦闘展開の為、8万から成る3つの部隊を編成しました。

一つ目のヒッタイト草原での戦い。敵はオークを主力とした10万の大軍でしたが、これを第一軍は数的不利をグラナド様の指示の下、覆すことに成功しています。ですが連日の戦闘でこちらの被害も小さくはありません。オークの首魁と目されるウルクや多数の強力な地竜により多数の損壊を被っています。」



「二つ目のイピロス山岳地帯での戦闘です。こちらは多数の魔物の混成部隊でした。敵の城の多数確保に成功してますが、フェンリルの出現により第二軍はほぼ壊滅的な打撃を受けました。死者と離脱者の損耗率を考えたら、とてもじゃないですが軍としての復活はあり得ないと推察されます。よってイピロス山岳地帯突破は断念。残った方を第一軍と第三軍に編入しています。」



「フェンリルって確かトニーさんが相手するって話だったよね?アーカーシャって奴が控えてるし、やっぱり何人かで今のうちに協力して討伐した方が良いと思うんだけど」



グラナドの問いにトニーは答えない。決して無視したわけではない。彼はこの中でも堂々といびきをかいて寝ていたのだ。代わりに隣に座っているNo.34グラスホッパーが答える



「俺たちは各々個人で腕を磨いてきた者が多い。故にチームとして連携することは不得手だろう」



「拙い連携がかえって互いの足の引っ張り合いになりかねない、そういうことか?」



マクスタフの言葉にグラスホッパーは頷いた。

基本的に最高位冒険者はその高い実力も相まってソロで活動することが多い。同業者に手の内を明かしたくないのもあり、少なくとも一つのチームとして、本来の実力を発揮できることが可能な者はヴァイキングの中には1人としていなかったのだ。



「フェンリルの対応はトニーに一任した方が良い。少なくとも俺はそう感じた」



「フェンリルに対しての対応は変えない。それでいいな」



「……最後に三つ目のラガシュ森林。ここは昆蟲族という非常に強力な魔物の群生地の為に開戦以後各所で苦戦の報告が続いてました。」



「そういえばここだけやけに支部長クラスを集中させていたね!その戦局打破のためにかい!」



「それは敵の幹部の1人と目された灰色の人型魔物。マトローナと呼称していた彼女が蜘蛛の糸に似た性質の力を有していたからです。高い確率でマトローナはこの森に出現する可能性が高いと踏み、支部長クラスを集中させました。その結果、マトローナの他に強力な骸骨将軍一体とガイアセクターなる高位昆蟲族ニ体の討伐に成功しました」



「情報は正確に頼む。バイデ・ワルター

俺の耳にした話だとマトローナって奴は致命傷こそ負わせたが、トドメを刺す前に逃げられたと聞いたが」



No.39セブンスヘブン。イヤホンを付けて話なんて聞いてないように見せかけてしっかり話を聞いてるらしい彼は酒をあおりながら鋭く凍りついた目線でバイデを睨みつける。



「そ、それはフードを被った妙な邪魔者が入ってきたからで!でもあの傷で生きていられるはずが無い!」



「正体不明の邪魔者は巨大な戦斧を使っていたらしい。マトローナを助けたことからも敵であることは確定的だな。」



「どちらにせよ最高位に次ぐ強さを持つ支部長クラスが死亡者と離脱者含めて既に20名以上って幾ら何でも犠牲を払いすぎな気もするがな。どう思う ギルドマスターアレクセイ」



「敵戦力の底は見えた。明日約束の時刻になったも降伏の意思を示さないなら、即座に予定通りに君達に動いてもらう。それで終わりだ」



アレクセイは不敵に笑った。まるであの結界防壁魔法に対して何か考えがあるといわんばかりに。








仮に戦術級の魔法を撃ち込まれようとアカシア城一帯は無傷だろう。それほどまでにこの結界防壁魔法には一分の隙も見つからない。

しかしその範囲は決して広くは無い。守り切れる場所には限度があった。故に冒険者に奪取された結界の外はほぼ焼け野原となっている。大量のススが舞い上がるとともに、上昇気流が発生して雲ができて雨が降っていた。空気いっぱい漂っているススを取り込んでいるからか、暗雲が立ち込め黒い雨になっていた。

バルディアを一望できる城の1番高い部屋からアヤメは独りそれを眺めていた。



「話し合いはどうだった?」



背後からの突然の問いかけにも驚いた様子はなく、ただアヤメは力無く首を横に振った。



「まあ、だろうな。私としてもなんとかしてやりたいがはてさてどうしたもんかな」



最高位冒険者No.06にして殺し回る狩人(キリングバイツ)ギルドマスターのミリアス・アンクタス。彼女も困ったように天井を見上げた



「……ミリアス様。そういえばお礼がまだでした。マトローナの件ありがとうございます」



「ん?あーいいって。あれ完全に人間の子と勘違いして救護義務として助けちゃっただけだからさ。魔物だって知ってたら助けなかった。だからお礼なんて言う必要ないよ。」



「……そういえば他の方たちに会わなくても良かったのですか?」



「今回の件はハイネたちに任せるって言った手前、顔を出すのはちょっとな。」



「でも元々心配になって来たんですよね?会えば良いのに」



「そんな簡単な話じゃ無いんだよ」



「……私ももっと簡単だと思ってました」



外を見るアヤメの背中越しに唇をきゅっと噛む音が聞こえたので、ミリアスは上げていた視線を落とす。



「で、結局戦うのか。それとも逃げるのか。」



「……」



「迷ってるなら逃げた方が良い。迷いは大勢殺しちまう事になるぞ。敵も味方もな」



「……そうね。それがいい。西南を支配するガリアか。東の不毛な地でも行くかな。

待って。それとも海を渡らせるってのもあるわね。あーいいわね。それが1番いい。船でも今から造ろうかしら」




「……もう少しだけ上手くやれると思っていたわ。

今この場に私じゃなく、アーカーシャ様と雪姫様がいてくれたらと願わずにはいられない」



アヤメは思う。上に立つ者として必要なものは何なのだろうか。その国の誰よりも優秀な賢人であることか?否だ。

ではその国1番の腕っ節が強い者か?否だ。

個人の優秀さと他者を率いて導くのは別物である。故に王が他者より能力で必ずしも優れている必要は無い。

なぜなら万能な王も万能たり得ない万民も。その道は交わらないからだ。

少し考えれば分かる。仮に優秀で万能な者が王であったなら、その者は自分より遥かに能力が劣る臣下に決して何かを任せたりはしないだろう。愚かな民に耳を傾けたりもしないだろう。なぜなら、自分の考えに基づいて全てやったほうが最良の結果を導き出せることを知っているからだ。

これは傲慢ではない。なぜなら指導者しての"責務"が伴って一切合切そうさせてしまうからだ。少しでも悪くなる可能性があるのなら、人は大事なことを他人任せになんかしたりしない。どれほど困っていても、猫の手を本当に借りる奴はいない。

失敗もしないなら変革も改革も上手くいくのだろう。だがその成功し続ける速度に失敗し続ける万民はついていけるだろうか?足の速い者の歩みに足が鈍い者はついていけるはずがない。待っているのは選民だ。



だからこそ、アヤメは強く思った。上に立つ者として最も大切な才とは、皆を一つに束ね、誰かに頼る力なのだと。

以前に君臨すれども統治せずとアーカーシャは口にしていた。その言葉にアヤメは酷く感銘を受けていた。アーカーシャはあの力でその気になれば何でもできる。あらゆる物事が思うがままだ。だがそうしない。我関与せずの態度は信頼の裏返しだ。その為に必要な委細は全て自分たちに任せてくれたのだ。そして幸運なことに役立てる王佐の才をアヤメは幾つか持っていた。ならばこそ全てを懸けて信頼に応えようと思ったのだ。



「あの方たちにここまでしたことをスゴいなって驚かせたかった」



自身の才を活かして国造りに勤しんだのには一つの目的があったからだ。



「あの方たちに良くやったって褒められたかった」



褒められたかった。認められたかった。アーカーシャと雪姫に並び立ちたかった。それだけだ。アヤメの原動力はそこだけに集中している。



「何を勘違いしていたんだろう。私は……。

私の見通しの甘さが全部ぶち壊した」



この地に住まう多くの同胞(はらから)をアヤメの指示で失った。最早ここからの巻き返しは現実的では無い。


アーカーシャが言っていた事がある。渡航者たちがいる向こう側の世界に命を表す文字が無数にあり、その一つ"Iife"には、もしもという意味を持つifが含まれているのだと。アーカーシャはこう解釈していた。命は一つであるし、その選択肢は常に一つに限られる、だが有限であれど選べる数だけの可能性が無限に広がっているのだと。



「ううっ」



ならあったのだろうか?本当に。違う道を模索すれば。こんな犠牲を皆に強いなくても良かった未来が。

選べたのだろうか?最善を尽くせば、人と魔物が殺し合わずに済んだ結末を。



「ぅぅぅ…」



もしも。もしも。もしも。



こうするべきだった。ああするべきだった。

後悔ばかりが意味のない"もしも"を求めてしまう。

意味のない自問自答がいつまでも終わらない。



この世界では。否。どこの世界であろうとも。考えを貫き通すには力が必要なのだ。まかり通すだけの力が。

結局のところ、アヤメにはその力が足りてなかった。



「ごめんなさい みんな」



虚しく言葉は溶けて消えた。この世の全ての不利益は当人の能力不足。それだけの話であるときっと誰かは口にするだろう。





 

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