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8話目-㉗

寅の面を付けた大男。名はロロカール

割れた卯の面を付けた少年。名はゲイル

辰の目隠しをした異形。名はアンタレス

酉を思わせる笠を被った侍。名はミアラタ



「仮面の集団マスカレイド。こんな得体の知れない奴らと組むなんて堕ちるところまで堕ちたね」



「マスカレイド?仮称などどうでもいいが、まあ好きに呼べばいい。それに繋がっていたというのは少し違う。私も初めからこいつらの一員なのだから」



煩わしそうに告げると同時に嫦娥の身体が影に包まれて変化していく。そして影の中から1人の女性が正体を表した。目元だけ巳の仮面を付け、顕になっている唇の下の黒子と頬から首元にかけて不老(イモータル)の呪いが込められた蛇の刺青。魔性の美貌を体現した女性マヤである。



「嫦娥。いや蝕心影傀。

古き友として一度だけ忠告する。今すぐに魔女たちを退かせろ。退かないなら全員を掃討することになる」



「不要な問答はやめろ 天峰冥君。あの人が千年戦争で死んだ時から私の決意は何一つとして変わらない。誰の命もどうでもいい。」



「……風はイルイを守って。魔導衆は魔女を可能な限り抑えて!こいつらは私1人で十分だ。」



【あの数だ。我も魔女を止める】



「ありがとう。任せた」



黒水歪。不老長寿の種族森人(エルフ)として生まれ、類稀なる魔法の才を持ち、数百年の間、知識と技術を研磨し続けた結果、彼女は数多くの旧神魔法を解析し現代魔法に落とし込み、魔導書の多くを書き記した。つまりほぼ全ての魔導師が彼女の魔法理論に基づいて流派を会得しているということになる。故に魔導師の頂点たる筆頭魔導師に君臨している。

真っ黒なローブに隠れた顔面は、帷よりも遥かに暗い闇に包まれている。その表情は窺い知れぬ。だがその瞬間に魔力はありありと殺気を漲らせた。




「カァァ!」



殺気に当てられ異形のアンタレスが口から魔法を放つ。それは或いは龍族の砲撃(フレア)のように凡ゆる万物を焼き尽くす威力があるだろう。だが黒水は別段驚いた様子もなかった。龍のソレを間近で見たことがあるからだ。及ぶべくもないそれを重力の魔法ではたき落とそうとする。



「ああ、お前の魔法はダメだ。許可しない」



マヤがオルガノンの杖を用いるとまたしても魔法術式が解除される。それは今この場において魔導師にのみ不利を強いるものであった。またしても重力の魔法が消失する。



「面倒だ、な」



だが黒水は直ぐに指一本に魔力を超圧縮する。そして放ったデコピンによる物理現象が魔法を難なく相殺していた。



「ナッ?!」



「相手は天峰冥君!最強の魔導師だ!魔法を封じたとて油断出来る相手ではないぞ」



「ならば俺が相手だ!」



「殴り合いは不得手なんだけど」



寅の面のロロカールが向かってくるが、直様に鋼よりも強固な鎧に衝撃が走る。分厚い鎧があっさりと蹴りで凹まされていた。そこから更に痛烈な拳打が流れるように叩き込まれる。

ロロカールは騎士団長の1人タジフスキンとも対等以上に渡り合った経験がある。戦闘職である騎士とそうでない魔導師の差は大きい。そのはずだ。ならこれはなんだ。ロロカールはまるで手も足も出せずに一方的に圧倒される。絶速の拳撃である。ロロカールが1手打つより彼女は過密な攻撃の嵐を叩き込んでいる。



「まず1人目……」



「隙ありだ 一之太刀」



ミアラタの刃が背後から黒水を襲う。東の大国扶桑の刀匠たちが鍛え上げた鋼の刃は世界一の刀剣と名高い。その中でも名刀の一振り"眉月卜伝"による鋭い斬り払い。水を打つような音がして、刃が肌にめり込むより早くに腕全体を捻り斬撃を受け流している。

絶技に呆気にとられるミアラタの鳩尾に蹴りを入れようとして、黒水の身体が重なり合った爆発により弾かれる。

黒水のいた一面が炎上していた。堪らずイルイが声を張り上げる。



「歪様!」



「五重爆裂だ。モロに直撃したが」



煙が割れて流石のマヤも戦慄した。



「効いた。流石に」



「嘘をつけ」



黒水に大きなダメージは見られなかった。あり得ないほどの魔力強度である。殆どダメージが通っていない。

降参するように手を挙げた。



「今更謝っても許してやらないよ」



「やはりダメか。ここまでしても。それだけ強くてなんで。白夜の奴も。全部。負けたのはお前らのせいじゃないか」



「いけ、キメラ」



魔導師が創った物は魔導具である。魔女が呪術を結集して創った物は遺物と呼ばれる。


混沌としていた。或いは魔獣に近いのかもしれない。

様々な種族を無理矢理にくっ付けて、繋ぎ合わせたかのような。ツギハギな異形の怪物が落ちてきた。



「私たちはそれぞれ大父より特別な魔法具を与えられている。黄金樹の禁断果実。それを口にした者の成れの果てを制御する遺物を創り上げることに成功したんだ。流石のお前も初めてみるだろう?くっくっく」



「私たち全員で嬲り殺しにしてやるよ」



マヤは蛇のように口が大きく裂けて怪しく笑った。



ーーー


「あははのハ。この子僕がもーらい!」



「させません」



イルイを襲ってきた卯の面を被った少年ゲイルを魔導師青風糸のレイピアが側面より穿つ。頭、首、胸の3点打ちだ。ほぼ確実に即死だろう。だがゲイルはそれをくらいなお難なく立ち上がった。



「痛いよ。痛い痛い痛い」



「〜〜っっ!デッドマン」



突然にグールと似て非なる亡者の群れが足元から大量に現れる。ゲイルは生まれつき死者を操れる魔法を扱えた。ネクロマンシーと呼ばれる禁忌の魔法である。



「この物量差は、流石にヤバいですかね」



現れたデッドマンの数は千を超える。加えて魔女の大軍。個の力量は並の魔導師たちを大きく上回るだろう。今この場で質も量も足りていない。

魔女たちが箒で空を駆けながら、物理攻撃に特化した破壊の呪いを雨のように落としていく。



【我がいる以上、誰も死なないし死なせない。これは確定事項だ】



龍王がその攻撃の全てを掴み取って握り潰していく。事象の拡張。行動の全てが認知した範囲に及ぶアーカーシャにとって、雨のような密度の攻撃だろうと決して対処不可能な攻撃ではなかった。

アーカーシャの手があらゆる速度と数を凌駕して破壊を遮っていく。

そして彼にはこの状況を打破できる手がもう一つあった。



【セイ!我の代わりにこの場にいるみんなを守ってあげて】



「友の頼みだ 引き受けよう」



項・ブリュンヒルデル・ジアハド・星はその友の頼みを一切の迷いなく引き受けた。

時に。ティムールの一部の王族の間では成人を迎えるまでは本当の名を呼ばれてはいけないというしきたりがある。俗に言う縁起が悪い諱である。

項星とは今の亡き太后陛下の名を継いでいるのである。立派に成人するまでは家族の愛によって魔除けを成すという古くからの迷信だ。そして名前が長いのにもきちんと理由があるのだが今回は割愛する。

とかく項星は亡き太后の生き写しであるといえよう。名前も姿も。そして力さえも。



項星が星のように眩い宝石を七つ装飾した国宝"七星剣"を振るい並いるデッドマンたちを切り裂いていく。



「ははは、影から見てたけどやっぱり強いね、凄まじい達人だ。剣の腕前だけみてもサキのお姉さん以上。加えて魔法の腕も超一流。でもさっき使ってた魔法じゃ強力過ぎてこいつら巻き込むから使えないんだろう。でもそれじゃあ到底間に合わないよ」



ゲイルの見立ては合っていた。セイが扱うこの力はそのどれもが出力が大き過ぎて細かな制御が出来ない。つまり周囲に対して遠慮が出来ないのだ。故に数の猛威に斬撃のみで対応する。

確実に数は減っているが、だが一度に処理出来る数には限度があった。



「イルイ!」



「お姉ちゃんの相手は僕さ。黙って見てなよ」



青風はゲイルに止められ、デッドマンはイルイに狙いをつけたようだ。今のイルイにこの数を処理する力は無い。魔法一発で倒せるとはいえ、数が多過ぎて次第に追い込まれていったのだ。魔の手が迫る。



「殺らせない」



近くにいた数体のデッドマンの首が落ちる。遠くからセイが七星剣を投げつけたのだ。



「はっはっは!あいつバカだ! 自分から唯一の武器を放り捨てるなんて!やっちゃえ!デッドマン!」



「まずいです。これを渡さないと!」



武器を失い、隙だらけの項星の元にほぼ全てのデッドマンが殺到する。だが彼女はその窮地にひたすら余裕そうに笑った



「……ん?誰が何を捨てたって?」



セイは足元に落ちてた木の枝を爪先で綺麗に跳ね上げて拾う。本当に何の変哲もない只の。苦し紛れだろうとゲイルは笑った。

イルイも七星剣をセイに渡そうと手に握って気付く。



「え!?これって……」



「何をしているのイルイ!? 早くそれをあいつに……」



「刃がないよ。これ()()()()()()



イルイの言う通り国宝七星剣は御神木より造られた王を任命する際の儀式用の儀礼剣である。つまり鋼ではなく刃はついておらず謂わゆる鈍であった。敵を両断どころか傷を負わせる事すら難しいだろう。つまりは────。



「スゥー。」



セイの手に握られた木の枝が流水のように流れた。完成された動作。そして先程と変わらずにデッドマンを容易く切断していた。



「ば、ばかな!?お、お前 どうやって!?」



木の枝で魔力強化をしていると仮定しよう。それでデッドマンを撲殺するなら分かる。木の枝は斬るための武器ではない。なのに確かに肉を裂き骨を断っているのだ。まるで名刀のように。ゲイルはこれが理解が及ばない術理のように見えた。見えてしまった。



「マヤ姉さん!こいつの魔法を止めて!早く」



巳の仮面の女がまたしてもオルガノンの杖を使い、今度はセイがその力を浴びる。魔法は確かに解除された。

それでもなお、セイの技に一切の変化は無かった。



「魔法は封じたのに、なんで!?」



「なんだボウズよ。つまらぬ勘違いだな。

そもそも余は初めから魔法なんて使っておらぬよ。それに余は魔法を使う才がちと乏しい」



「う、嘘だ。お前は確かに魔法を使っていたじゃないか。雷の魔法を」



「ああ、なるほど。合点がいったよ

お前にはあれもこれも、余の全てが魔法に見えたのだな。悪いことをした。もっと眼に見えるようにしなければいかぬかな」



この世界には様々な伝説がある。特に渡航者たちが残した逸話は、もはや神話の如く語り継がれている物も数多い。

この世で最も強い個人の感情は怒りや悲しみ。負の感情だろう。それに比肩する想いはたった一つだ。それは信仰である。

負の感情が形となり生み出されるものが呪装霊具だ。ならば信仰を形にしたらどうなるか。信仰を拠り所に神格化された物質。その名を。



「神話的概念武装。今風に言うなら、神装霊具か。

これの名は雷小槌のムニョルニルという。

そしてお前は周りを巻き込むから使えぬと言ったな。正しい見立てだ。さっきまではな」



人の身では決して抗うことが敵わない災害が形となる。セイの全身を雷の衣が覆っていた。手には雷のハンマームニョルニルがあった。



「神話的……!?まさかそれは」



「ミカヅチ」



アルタートゥームでは神という名は特別な意味を持つ。三つの終わりの三柱神然り。人の身で神に至った唯一神然り。超常たる力の根源旧神魔法然り。

そして神装霊具。この力を扱える資質を持つ者は一様に勇者、と呼ばれている


誰の見せ場を作るべきか試行錯誤してるせいで、筆が遅くなりました。


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