8話目-㉒
「時にアーカーシャ。雪姫はどうした?余としても一度位は顔を合わせておきたいのだが」
【……】
「あいつ……白雪姫は少し手が離せない作業があるから、数日部屋に篭ると話してました。」
「……ふむ?誠に残念だがそれは仕方ないな。それは別の機会に取っておくとしよう」
魔導の開祖である始祖天魔エニシダ・サバトとその眷属である魔王ルーテンを否定すべく袂を分かった聖天主教マルタは当時天魔と敵対していた毒魂アナムに師事をした。
アナムの創り出した呪法を誰もが使えるように落とし込み編み出した呪術と呼ばれる類のものである。これを会得した者たちを総じて魔女と呼ぶと姫が言っていた。
魔導教会トラオムを滅ぼすためだけに生み出された魔女の宴サバト。聖天主教を頂点に御三家と呼ばれる有力な者たちが意思決定機関として存在する組織だ。
「時にアーカーシャ。親しい者とケンカをするのは別に悪いことではない。」
【いや、ケンカは、してないし。言いすぎたかも、しれないけど……っていうかいきなり何】
「フーハッハッハ。図星だな!
人と親交があればぶつかり合いや傷付くのは避けられんよ。だがケンカも戦争も振り上げた拳をずっと上げ続けるのは難儀だろうからな。早く相手にぶつけるか下ろした方がいい。」
【なんだそれ】
「余から友へのささやかなアドバイスだ」
「お嬢。待ってましたよ。で、首尾は?」
そんな魔導師たちの不倶戴天の敵である魔女たちの手によって、何度も魔導教会トラオムは全滅の憂き目に遭っている。呪術は制約を課している分、強力であり発動したらほぼ勝ちが確定するそうで1対1で勝てる魔導師は稀だそうな。
そして追い討ちをかけたのが特に古の強力な魔女たちが創り上げた魔女の遺物だ。遺物は大層猛威を振るったらしく中でもオルガノンの杖は別格だった。なにせ御三家の一つイスカリオテが直々に管理する程らしく、有する能力は"魔法術式の強制停止"。つまり魔法術式で構築される現代魔法が使えなくなるらしい。そんな物盗まれるなんて管理ガバガバ過ぎんだろ‥‥‥
「うむ。待たせた。そして作戦は変えようと思う。どうやら雪姫がいないようでな。フーハッハッハ!」
「頭痛くなってきました。じゃあどうするんですか」
【ちょいちょい え 誰なのこの人たち】
「ん?余の家族は心配性でな。お供を2人付けているのだ。余の友であるアーカーシャの力にもなるようにな。2人とも」
「何言ってるんですか。こっちも仕事でやってるだけですから。俺は"百手の巨人"所属の冒険者ロレイ。こっちのデカいのはハドラーだ」
「連れないこと言ってやるなよ。よろしくな 兄ちゃんたち」
2人の人物は対照的だ。柔和な雰囲気を纏いながらも黒いスーツでどこかぶっきらぼうな口調で名乗ったのはロレイ。俺っ子のクールな女性である。
対してハドラーの見た目は相手を威圧してしまう刺青やらピアスやらが目立つ。我の手を握り豪快に振る。ドレッドヘアのせいか粗暴が悪ければギャングと言われても思わず信じてしまう所である。
というかこの圧。強いな、この人たち。何となくこの2人がトーチカさんと同じくらい強いことが分かった。
「ロレイとハドラー?聞き覚えのある名だ。お前たち最高位冒険者の黒骨と喧華屋か。あとその手を離せ。」
「うおっ!牛の人形が喋りやがったぞ!なんだこいつ!?」
「この姿になにか文句でも?」
ペシペシと触られるハドラーさんの言動に思うことがあったのかサキの背後からゴゴゴ!と擬音が付きそうな圧が見える。
「いや面白いなって。娘に上げたら喜びそうだ」
「やめろ!私はアーカーシャ様の剣だ!そんな玩具のような扱い容認できるか!で、答えろ。アーカーシャに分かるようにな」
「お嬢の外出の時は、ウチらメルジーネが責任を持って護るって契約してんだ。これでいいか?」
「違う。そっちじゃない。作戦の話だ」
サキの問い詰めにうんざりした様相でロレイがため息をつき、自分の雇用主であるセイの方に視線を向けていたが当のセイは気にした様子も無く豪快に笑って答えてやれと言わんばかりであった。
「構わぬよ レイ」
「対象はあの魔導学院オーウェンの学生寮ガカクリョウに篭りっきりで出てくる様子はない。
で、どうしますか?無断で乗り込む場合は、どうあれ結界魔法に引っかかるからオーウェンの保有する戦力とぶつかる可能性がある。魔導師と揉めるのが面倒だから話が通じそうな雪姫とアーカーシャに渡りを付けてもらうって話だったのですが。使い魔のアーカーシャだけしかいない」
【なんかすまん】
学生寮にいるってことは、イルイと同じ学生?
それが魔女の過激派?スパイ的な感じなのだろうか?
悪い奴なら取っ捕まえるのもヤブサカではないが、だからって魔導師たちと揉める気は無い。姫や花ちゃんに迷惑をかけてしまうのだから。
「仕方ない。例の作戦で行くぞ」
【おいおい本当大丈夫だろうな】
「御安心を。アーカーシャ様に万が一も無いように私が命をかけて守ります」
【気持ちは嬉しいしジェンダーバイアスを助長するような言い方はしたくないけど、女に男が守られるのはちょっと……!】
「フーハッハッハ! そう案ずるな。
余の閃いた作戦ならなんだかんだ上手くいく気がする。」
今にして思えばどうして我はこんなアホそうな言葉を信じてしまったのだろう
先週投稿できなかった分、今週は投稿ペース頑張りたい所存。ただ少し見直しが足りないかもしれません 焦