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8話目-⑩

貴方と会ったら何て言おう。何を伝えよう。最近は気付けばそればっかりずっとずーっと考えていた。

なのにいざとなったら笑っちゃうくらい何も浮かばない。色々な考えばかりがよぎっていって溢れる思いが形にならない。そんなあたふたしている私を貴方はそっと唇を緩めてゆっくりと話しかけてきてくれた。



「《お 身長少し伸びたね。雰囲気も変わってる。イメチェンでもした?》」



彼の声が優しく響く。前と変わらない。目頭が急に熱くなって抑える。泣かないように私は唇をキュッとしめた。泣き虫だって思われたくなかったから。



「こういうのは、成長したって言うんだよ。そっちは大分小さくなったね……

私オーウェンっていう魔導師になるための学院に入れたんだ。それでね、色んな人と会って。友達も出来て。魔法も学べて。すっごい楽しい。だからね、アーカーシャのおかげなんだよ。」



「《我なんかしたか?イルイが頑張ったんだろ。》」



声が少し震えていたのに、彼は毛ほども気にした様子は無くとぼけた言い方をするものだから、思わず笑みがこぼれてしまう。貴方はずるい。龍なのにそんなギャップを魅せてくるのだから。



「したよ。あの時助けてくれたじゃない。にしても、その我って、ふふ。似合わない」



「《かっこいいだろ!威厳が出て。分っかんないかなー!?お子ちゃまには。このかっこよさが!!》」



「そうだね、かっこいいよ。会った時からね」



「《おっふ……》」



「その子はアカシャ様のお知り合いですか?」



彼が連れていた真っ赤に燃え盛る髪の毛の綺麗な獣人の子が耐えかねたように問いかけてきた。

貴方はどうやら新たに言葉を伝える手段を得ていたらしい……な、なにを私は残念がっているのだ!色んな人とお話し出来るのは良いことじゃないか。あの時だって龍の姿を見た村の人たちは凄く怖がっていた。そんな事がこれまでだってあったはずだ。そんな思いをするべきではない。貴方の人となりを皆が知るべきなのだ。



【うむ。この世界で出来た最初の友達。イルイっていうんだ。こっちは赤空花。】



「!!? ええーーっ!!あ、貴女様があの最年少魔導師の天才魔導師赤空花様!?ごめんなさい。あまりにも可愛すぎて私全然気が付かなくて!貴女と姫さまに憧れてこんな風に成りたくて魔導師を目指しました!私もあの場所で生きてみたいと目標をもてたのは貴女たちのお陰なんです。よければ握手してください!」



【早口すぎて草。少し落ち着け。舌噛むぞ】



「アカシャ様。この子……めちゃくちゃ良い子じゃないですか。」



《あほーーー!絆されるな!

思わぬ伏兵に玉は至急この場からの離脱をpiーーー!エラー!エラー!piーーー!恋愛の波動を感知!》



【煙ふいたぞ】



「横から失礼。君がアーカーシャか。話は聞いてるよ。雪の使い魔やってるんだってね。

にしてもこんな所で会えるなんて奇遇だ。まあ是非一回くらいはお話ししたいと思ってた所だけどさ。ほら対話が図れる龍ってすごい貴重だから。」



【えーっと、黒水……ひずみ様、で合ってましたかね?】



「畏まらないでよ。歪でいい。敬称も不要だ。

あれ?勘違いじゃなければ……君、私の視認妨害の術式を突破して私の貌を視てるね。なんともないの?」



【いや 特には。】



「そう。そうなんだ。効かないんだね」



私も一度貌を視たから分かる。頭が沸騰しそうになるあの感覚は生まれつき高い魔力と魔法抵抗力を備えている私も抗えなかった。人に好かれる処か狂わせてしまう恐るべき呪い。

それが全く効かない彼は流石だが、そんな事よりも認識阻害が掛けられている黒いフード越しにも分かるほど、黒水様は嬉しそうだった。



「……雪と交渉してみようかな」



【?】



「筆頭。私の自己紹介もお願いしたいんですが」



「ああごめん。こっちは青風糸。そっちにいる空とは仲良しで親友だよ」



「「仲良しじゃない!」」



「「真似するな!」」



すごい息ぴったりである。喧嘩するほどってやつだろうか。こういうの少し憧れちゃいますね。

そういえばこの2人はいつからの仲なのだろうか。赤空様と青風様って学院は別々の筈だから、魔導師になってからのライバルなのかな?



「アカシャ様。この猫には近付かない方がいいですよ」



「心の狭さは相変わらずだな この狼は」



「なんですか。どっちが上か今赤青つけてやってもいいんですよ」



「それを言うなら白黒でしょ、バカめ」



「はいじゃあ自分が雪姫先輩の派閥で白。お前が黒水様の派閥で黒。白星は勝ちって意味だから自分の勝ち〜」



「ちょっ!ふざけるな!そんな屁理屈通るか!」



「ね?仲良しでしょ。」



「確かに」【仲良しだな】



「「違うって言ってるでしょ!」」



同時に否定する2人。やっぱり息ぴったりたった。

厨房から獣人の子が注文した物を幾つも器用に持ち運びながら出てくる。



「楽しいのは分かるけどあんまりはしゃいで目に余ると他のお客様の迷惑にゃん。警告は一回だけにゃん。次は店長が出てくるにゃん。」



そう和やかな笑みとともに最後通告をしながら注文したオムライスが置かれる。見たところ、穀物類をふわふわの卵で包んだ食事らしい。美味しそうではあるがシンプルそうに見えて、正直私でも簡単に作れそうな感じがした。複雑な工程を経ているわけでもないのに、あの金額を取るのはいかがな物だろうか。これってやっぱりぼったく……



「ここはイシュロアスのお店だ。言うことに従うべきだよ、風と空は反省しなさい」



「「しゅーん」」



他のお客様はいないけど、確かに煩くし過ぎたので店員の指示に従うべきだろう。



「よければアーカーシャと空も一緒に食べよう。

奢るよ、お姉さんだからね。」



なんだかお姉さんって言葉をやけに強調した気がする黒水様。だけどその誘いはとても嬉しい。私としても…



【あー……折角誘ってくれたのにすまん。今日は花ちゃんとデートしてるんでな。こっちを優先にしたい。だから向こうの席で2人で食べたいな、我としては。花ちゃんは?】



「え!?あ、その、アカシャ様が、それで、いいなら、自分も……」



《今日1番の確変きたーーー!!!》



「それなら仕方ない。それによく考えたらこっちもでぇとだった。さっきのは忘れて」



「《んじゃ、イルイ。学校頑張って》」



貴方はそう言って離れていった。



「あいつの料理前に食べた時より更に腕が上がってる」



「だねー。ほらイルイも食べてみなよ、中に使われてるキャラメルバターライスが絶品だよ。甘いけど食べ易い、ほらほら」



黒水様はスプーンで掬ったオムライスを私の口に半ば無理やり突っ込んだ。味が口内に広がってゆく。

だが私の目はずっと貴方たちを追っていた。私の大切な恩人が私の憧れの人と一緒にご飯を仲睦まじく食べている。喜ばしいその光景を見ているとなんだか無性に胸が。



苦しい(にがい)



「えぇっ……」



そんな言葉が思わず漏れ出ていた

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