8話目-③
略奪者たちの王 バイデ・ワルター班4名
殺し回る狩人 ヒルデス・ハイネ班2名
怪物たちの檻 トーチカ・フロル班1名
安息の子守唄 ダニエル・ガラ班3名
頂きの塔 ブラウン・マ班4名
嘘付樹 ウタ班3名
鳥籠 コルシェカ班3名
合同特別調査隊計20名。その全員がA級。正に選りすぐりの精鋭だ
眼下には先程までスケルトンとして動いていた骨が海辺の有機堆積物のように大量に散らばっている。その頭蓋の一つをダニエルが疑問と共に蹴飛ばした。
「なんでこんなのがいやがんだ?おかしいだろ」
「なにがですか?」
班員が聞くと、コルシェカが戦いの現場を確認しながら代わりに応えた
「スケルトンはアンデット系。そして今まで此処でこんな数のスケルトンが確認された話はないからな。死霊系統の魔法を使える高ランクの魔物が新たに棲みついてる可能性が考えられる」
「高位のアンデット系、例えば高位不死者などは相性の問題もあるから人によっては詰む可能性がある」
「なんにせよ油断は禁物ってことだな。で、どうする」
「トーチカさん どう、とは?」
垂れ目でどこかおっとりとした空気を持つハイネがその意図を尋ねた。トーチカとしてもわざわざ口にしたい訳ではなかった。だがハッキリとさせる必要もある
「俺たちは同じ目的で此処に来ちゃいるが、別に仲間ってわけじゃない。調査をするなら手分けしてやった方が早く済む。だが俺としては全員で行動しておいた方がいいと思う」
これは予感だ。リッチーよりも恐ろしい魔物がいる気がしたのだ。そしてそれは当たっていた。今の彼らには知る由もないのだけれど
「トーチカさんがそう言うなら私たちは賛成です。争う必要もないですしね」
「うーん。僕も協力していいよ」
ハイネとウタが同調するように手を挙げる。3ギルドで6名。だがそこでバイデが不愉快そうに声を上げた
「つぅーか、なんでてめぇが仕切ってる流れなんだよ。」
「そういうわけじゃない。俺はただ提案を」
「そういうのうぜぇーって。気に入らねえんだよ。大体1人で来てるってのが気に入らねえ。自分だけ特別に個人で呼ばれて思いあがってやがんのか?こっちにだって"怪物殺し"のシュウがいるんだぞ」
「略奪者供と同じ意見は癪だが、俺らもいいや。こっちとしても良く知らない奴らと組むのは怖い」
「どちらの言い分も分かりますが、拙い連携はマイナスに働く。足の引っ張り合いはごめんですね、そんなわけでこちらも勝手にやります」
ダニエル班とコルシェカ班も協力を拒む形となる。そうなると残りはブラウン班のみだ。
「あんたらはどうする。協力するのか、しないのか」
「人数でみると賛成派の方が少ない。バランスを取るために賛成派にしておくさ」
「勝手にしろよ。俺らはもういくぜ」
面白くなさそうにバイデが奥の方に進んでいく。協力する気がない以上強制は出来ないし、最悪衝突する危険がある。
ダニエルもやれやれとため息をつく
「んじゃー俺らもぼちぼち行くかね」
「願わくばどちらの判断も正しいことを願いましょう」
コルシェカの方もそう言ってこの場を後にした。残された全員の視線が自然とトーチカの元に集まった。
「……俺らも行こう」
怪物たちの檻、殺し回る狩人、嘘付樹、頂きの塔、計10名はこうして先を進む事となった。
そしてこの状況は既に頭っから彼女に見られていた。
戦いの常套手段は群れから孤立した少数から叩いていくものだ。ゆっくり、静かに、確実に。減らしていく。
つまりは────。
「ボナード貴方が決めていいわよ」
「槍を持っていた茶髪の大柄の方だな。尋常な立ち会いが出来そうだ」
「そ。じゃあ私はあの神経質そうな眼鏡の方を貰うわね」
「戦士団はどうする?近くに待機させているが」
「必要ないわ。あの程度の斥候なら2人でいけるわよ」
トーチカたちと別れてから暫くしてコルシェカ班は足を止める事となる。
この場に似つかわしくない灰色の髪をした少女が現れたからだ。見た目は完全に人間の女の子だ。だが魔物たちが跋扈する魔境で尋常な存在などいるわけがない。警戒は当然だ。それを歯牙にも掛けない様子の少女、マトローナから剣呑さを感じて動けない。少女はグッと手を握り突き出す。
「はじめまして 冒険者の皆様」
「そしてさようなら」
指が何かを離した。その瞬間、コルシェカの班員2名が即殺されていた。その光景にコルシェカの全身の産毛が反射的に逆立っていた。
コルシェカは分析能力に長けている。だからこそ今回の探索採掘の依頼に選ばれたといっていい。そして当然腕前もA級に恥じぬものだ。このバルディア大山脈で自分たちのパーティーの手に負えないとされる魔物は1体だけ、最高位冒険者すら手に負えないフェンリル。それのみのはず。
では、この目の前にいる人の形をした化物はなんだ。戦うという発想は既になかった。逃げるしかない。後ろを振り向いて全力で駆ける。それに合わせてスパンと空気が断ち切る音がして、彼の視界は何故か天高く舞い上がっていた。
「良かったわ この程度なら直ぐに済みそう」
冒険者は残り17名。
ダニエル班は長い黒髪を蓄えていた男と対峙していた。彼、ボナードの見た目は人間と変わらない。だがその身に纏い立つ殺気を放たれて、武器を抜かずにはいられなかった。
様子見はやめだと言わんばかりの一閃。ボナードが剣を抜き放つもそれをダニエルがランスで受けて軽々と弾く。
「ほう」
「油断するな。強いぞ、魔物と同じ対処をする!」
「「了解!」」
班員2名が先に動いて鋭い攻撃を仕掛けてきたので、今度はボナードの方がそれを受けに回る事となる。あっちは2人、こっちは1人。単純に手数は2倍であるが、それを危なげなく流麗に捌く。剣の技量はA級2人を相手にして尚完全にボナードが優っていた。
「貫けぇ!!」
ダニエルが大きく力を溜めて、刺突を放つ。それは"強撃"という溜めを作ることで放てる物理魔法攻撃だ。その威力は到底いなせるものではない。そして班員2名も逃さないようにボナードが受けに回らずを得ない箇所から攻撃を仕掛ける。一度に捌けるのはいかにボナードといえど二つのみ。
「ちっ!」
ボナードの剣が班員2名の攻撃を止める。
そしてダニエルの握った巨大なランスがボナードを背後から一突きした。
「確実に殺った────」
確実に当たった感触。だが槍を引き抜くと先端が潰れていた。まるで硬い鉱物の塊にでもぶつかったかのように
「残念、もう少し強力だったら流石に危なかった」
ボナードの足先まで届く長い髪の毛その全てが黒漆のように光沢を放っていた。メタモルフォーゼという技能に近いその能力。ボナードは人の力ではどんなに魔力強化しようと絶対に破壊できない硬度にまで引き上げて変質させていたのだ。髪の毛の束は割るどころか傷の一つすら付いてはいなかった。
宝人族といえど、硬度まで弄れるのはボナードくらいのものだ。彼が髪の毛を振るう。それは最早しなる刃だ。
班員2名の首が飛ぶ。
「くそったれーーー!」
冒険者は残り14名。
今更ながら筆者は名前とか諸々考えるのが苦手なので、一々名前既出じゃないよな?と確認してますがダブってたら教えてくれたら助かります。