7話目-?
アルタートゥーム最北の大陸ミューヒンラフィーネの唯一国家魔国リーブルの首都ブルグ。そこには魔王軍が誇る最高幹部"三天四地"の面々を筆頭に青い龍の翼と牙のようなツノを生やしたゴスロリチックな服装をする人型の少女に身を窶した青応龍フィファニール。
個を極めたハイエンドと異なり、魔物の中でも生まれついて種を支配する才に長けその果てまで進化した最上位の"ロード"と呼ばれる者たち。
或いは七天と讃えられる大天使。或いは六罪と忌み嫌われる大悪魔。或いは上位精霊の更に上に位置付けられる大精霊。
恐らくは世界最強の国家ゼ・ブリタニアの誇る守護者たちにすら引けをとらないとさえ思える戦力が揃い踏みであった。
その全員が見据える先の中央部には椅子があった。並のものでは拒絶されてしまう一眼で王にこそ相応しい玉座のような椅子だ。
椅子の背もたれがギシリと軋む。座ったのは荘厳な空気を身に纏う真っ黒な青年であった。両目に宿る魔眼が妖しく光る。彼こそがこの大陸の唯一にして絶対たる現魔王エデルガルド・ブルグその人である
「クックック よくぞ集まってくれた 我が忠実なる配下たちよ。招集に応じたことから皆も分かっているようだな。今回集まって貰えるもらったのは他でもない。魔国全体に関わる例の件についてだ」
全員が頷く。その空気は重い。当然だ。例の件とは先日の軍事大国バルドラによる宣戦布告の件以外に考えられないからだ。
突如行方不明となっていた魔王軍の将軍が1人腐食の手ラドバウトが暗殺者空蝉なる者を手引きし、武王項遠暗殺を企み、結果それに巻き込まれた多くの人命が失われたというものであった。此方としても寝耳に水処の騒ぎではない。向こうの自作自演と疑ったが、確かに現場に残された証拠として出された魔力痕はラドバウト本人のものであった。
こちらの潔白が証明出来ない以上は、知らぬ存ぜぬが通せる状況ではなくなっている。このままでは時期に開戦となるのは必至。しかも相手は世界でも指折りの軍事大国。衝突は新たなる人魔大戦を覚悟しなければならない。故に緊急の会議を開いたのだろう
「皆も知っての通り、来週我が娘セレスティアちゃんの18回目の生誕祭であるのだが、その誕生日プレゼントが未だに決まらないのだ。そこで全員で知恵を出し合って────。みんなストップ。一旦武器下ろして?」
「なになに?何が起こってるの?そして何で怒っているの?
ビックリしすぎて腰抜けたわ」
「……魔王様。バルドラの宣戦布告の件について設けた場ではなかったのですか?」
三天の1人。蝿の王ベルゼビュートが皆の困惑したような意見を代表して問いかけるとエデルガルドはそれを聞いて、少しだけ茶化すように口を開く。
「……そこはほら俺が一人で何とかするし皆に頼るまでも無いかなって」
「そっかー。エデルガルド様って普段は仲間仲間言ってる癖に、結局肝心なとこは全部一人で片付けるんだね。私たちはそんなに頼りにならないかー」
納得出来なかった七天の1人システィーナはいつも通り満面の笑みで、だが言葉には天使らしからぬ嫌味が含まれていた。エデルガルドが自分達を大切に思ってくれているのは分かる。だが彼は仲間が傷付くのは厭うのに、平気で自分が傷付く道を選ぶ。選んでしまう。
「何か皆さん怒ってらっしゃる?」
彼が傷付く姿を見て、彼を大切に思う者たちがどれだけ傷付くのかを彼は分かっていない。分からせてやるしかない。
それ故に凄惨な折檻が巻き起こり魔王が吊るされたというのは言うまでもない事なのだ。
『私は仲間を軽んじていました』
そんなプラカードをぶら下げた辺りで溜飲を下げた全員が再び席に着く。
初めに開口したのはお菓子を乱暴に食いちぎる四地の1人アスモルデウスであった。
「んでさ、結局戦争すんの?」
「彼方の言い分は賠償金として金貨10万枚と魔王の謝罪。それに画策したラドバウト本人の首を差し出せ。前者はともかく後者は無理でしょうね。」
隣に座っていた博識そうなオークロードが眼鏡を上げて答える。
「バカバカしい。なぜやっても無い事でこのバカに頭を下げさせなければいかんのだ」
乱暴に吐き捨てたのは、三天の1人サタンであった。だがそうなると答えは自ずと決まってくる
「戦争か」
「戦うにしても始祖はどうする。あの国には始祖妲己がいる。アレに勝てるのはこちらではそれこそ魔王様くらいなものではないか」
「王を前線に出すなど論外だぞ」「しかしそうなるとだな」「戦術的にどうにかならなくても戦略的にはどうとでもなるだろう」「馬鹿者!始祖を舐めすぎだ」「個の力を侮ったから、かつての人類最強アストールに我々は負けたのだぞ」
立ちはだかる難敵について口々に話し合う。そんな中でアスモルデウスがフィファニールの方を見る
「フィファならいけるんじゃない?」
青応龍フィファニール。どういうわけかは分からないが戦わずして現魔王エデルガルドに従うことにした気まぐれがあるが、歴代魔王たちですら持て余した圧倒的な力は、魔王軍に連なる者なら誰もが知るところである。
「おお確かに」「最強種龍族の中でも最高位応龍のフィファニール様なら!」
「……」
しかし当の本人のその重苦しい反応に次第に皆が気付いて口を重くしていく
「妲己ってそんなやばいの?」
「……昔殺り合った時は奥の手アリで互角だった」
「そりゃ相当強い」
始祖の強さを伝えられ、自然と三天の1人にして魔王軍No.2ルシファスの方に意見を求める。それに気付き静観していたルシファスも漸く口を開く
「必ずしも妲己に勝つ必要はない。戦略的に機能させなければ良いのなら取れる手は他にあるだろう。
例えばフィファニールと三天全員で妲己を押さえ込み、その間にバルドラを滅ぼせばいい。我が国の戦力ならそれが可能だろう」
「たかだが一国で我が国に挑まんとしたその傲慢さを打ち砕くぞ」
士気が高まる中、現魔王がおずおずと手を挙げる
「いやいや何戦争する前提で話進んでんの」
「……しないのですか?」
「しないよ」
「そんな顔すんな。大丈夫。
俺がなんとかするから。信じてくんない?」
そこから5日後。
ティムール大陸最大の軍事大国バルドラの首都フリューゲルに青応龍フィファニールが向かっていた。
その背にはエデルガルド他数人の配下が乗っていた。
当然だがフリューゲル首都近郊には様々な防衛魔法が張り巡らされている。かつて龍王アーカーシャが近付いただけで防衛機構が反応したのは、それに引っかかったからである。
だがフィファニールはその全てを無効化して最短で武王項遠の前まで降り立っていた
「お初に。武王項遠様。それに空狐の玉藻様
突然の訪問ながら、我らが主人が話をしたいと。
お手間を取らせて申し訳ないですが、何卒お時間を頂きたい」
龍の威圧感は並のものなら動けなくなるだろう。だがこの場に限って言えば、選りすぐりの精兵しかいない。即ち王の近衛兵たちが迅速に動き取り囲む。
フィファニールから降り立ったのは3人であった。
全員が尋常ならざる魔力を秘めていた。
その中でも最も強い力を持っている黒い青年を魔王と看破した項遠が無造作に近付く。
「ヌハハ!面白いのう。だがこうも皆が殺気立っては落ち着かぬだろう。我が部屋でお出迎えしよう」
「それはありがたいです。はじめまして
俺は現魔王エデルガルド・ブルグです。項遠王」
「強いのう。一手交えてみたいが、止めておくか。着いて参れ」
「本当に主は……!
不用心過ぎる。親衛隊を呼べ!同席させる。近衛兵2千も合図があれば突入の準備じゃ。あと王都全軍に準一級防衛態勢をとらせておけ!」
頭を痛そうに抑えながら、玉藻は周囲に迅速に指示を飛ばして、勇み足で自分も後についていったのだった
正直、魔王はもっと武闘派にする予定でしたが、このご時世で戦争イケイケの指導者はあれかなって事で変えました。
そんなわけで次回から8話目となります