95
俺が告白してから少しの間沈黙が訪れる。 驚いて俺を見ていた吉原も顔を伏せていた。
そうなるよな、こうなってしまうってわかってたけど直面してしまうと何をどう2人に話し掛けていいかまたわからなくなる。
「ふ…… ふぐッ、ひぐッ……」
そして一ノ瀬が声をしゃくり上げる、泣いている…… いつから? 震えていたのは感じていたけど俺が吉原を好きって言った時から声を出さないで我慢して泣いていたのか?
「一ノ瀬……」
「ご、ごめんなさい、が、我慢してたんだけど…… ううん、ダメだよね。 せっかく周君が言ってくれたのに…… わ、私が水差しちゃ、ひぐッ………… う、うえッ」
「さ、サヤちゃん」
吉原がサヤの肩に触れようとした時、一ノ瀬は突然立ち上がった。
「わ、私喉渇いちゃったから買ってくる…… グスッ」
「は!?」
「え!?」
一ノ瀬は涙をポロポロと流し目が真っ赤になっていた。
「お、おい! 一ノ瀬!」
追い掛けよう、そう思った。 でも今はダメな気がした……
「追い掛け…… ないの?」
吉原がボソリと呟く。
「どうして私なの?」
「どうしてって……」
「サヤちゃん泣いちゃったよ? 追い掛ければ?」
なんでだ? 俺は吉原の事を……
「言ったろ? 俺は吉原が」
「私? 本当に私でいいの? 本当に私が好きって本当?」
どうしてだ? 吉原は待ってたはずだ、それを言うなら一ノ瀬だってそうだけど…… 俺が吉原を選んで吉原はそれが嫌だったのか?
「私本当はね、周ちゃんはサヤちゃんを選ぶんじゃないかって思ってた。 周ちゃんはサヤちゃんと話もよく合うし、サヤちゃんは時には私よりも勇気があって言うべき時にはちゃんと言ったり行動でも示してた。 私はいつも体のいい事は言ったりしてるけど肝心な時にはいつも臆病で…… 周ちゃんを避けようとしたり諦めかけた時もあって。 そんな私じゃサヤちゃんの方が相応しいんじゃないかって…… 今だってそう。 周ちゃんが選んでくれたのに私矛盾した事ばっかり言っておかしいよ私って」
「吉原…… だけどそれが吉原のいい所だろ?」
「え?」
「いつも吉原って俺や一ノ瀬の事気に掛けてくれたよな? 度が過ぎてた事もあったりしたけど吉原が居たから俺も楽しかったし、勿論一ノ瀬もそこに居た。 だけどさ、俺の中でどっちをって考えたらやっぱりどうしてもお前の顔が浮かぶんだ」
「周ちゃん……」
「それとさ、こんな時に言うのもなんだけど最初お前が言ってたお礼まだしてもらってない」
「あ……」
「お礼に俺と付き合ってくれ吉原。 お前の事が好きだ」
「…… ふふッ、そっか、お礼か。 そう言われちゃ仕方ないよね」
バフッと吉原は俺に抱きついた。
「ううん…… 本当は、本当は凄く嬉しい! お礼の使い方ズルいけど」
「ごめん…… でも」
でもと言った所で吉原にキスされていた。 そして吉原はそっと唇を離して言ってくれた。
「うん。 いいよ、私で良ければ…… 周ちゃん大好き」
◇◇◇◇◇
バカだ私、本当にバカ…… 芽依ちゃんなら納得って思ってたのにいざ周君の気持ちを聞いたら辛くて辛くて……
普段は人混みが嫌いな私なのに今は静かな場所には居たくない、だって紛らわせないから。 私は先程までカウントダウンしていた出店の方へ走っていた。 でもそんな所へ行って紛らわせるだろうか?
それに戻って来なかったら周君と芽依ちゃんに心配掛けるよね? …… ううん、戻らない方がいいのかな? 邪魔かな?
「うぐッ…… グスッ」
そう考えるとますます涙が止まらなくなる。 もう嫌だ……
「どへッ」
走っていると誰かにぶつかった。 またこのパターン、私ってぶつかってばっかり…… って謝らなきゃ!
「あ、あのッ! ご、ごめんなさいごめんなさいッ!」
「あれ? お前一ノ瀬?」
「ふえ? だ、誰ですか?」
「あー、俺だよ俺。 忘れちゃったか? 前にもぶつかられたんだけど」
「え? あ…… そういえば」
ぶつかった男の人は手を差し出した。 そう、終業式の時ぶつかっちゃった、ええと……
「相葉。 相葉哉太だよ」
「そ、そうでした。 何度もごめんなさい」
「はははッ、前見ろよ? ん? ていうかどうかしたのか?」
「あ、その……」
ハッとして私はゴシゴシと目を擦って涙を拭く。 でももう遅かった。
「泣いてたのか?」
「寒くて……」
「寒くて? あははッ、変な奴だなぁ。 1人? 俺は友達と別れて今帰るとこでさ」
「私も…… 友達と来てたけどはぐれちゃって」
何言ってんだろ私、バカ丸出し。 バカだけど……
「…… んー? それで泣いてたのか?」
「は、はい」
「はぁ〜、だったら一緒に探してやるよ? お前ってドジそうだし」
「え? え? だ、大丈夫」
「そうか? 泣いてたくせにか?」
「うう……」
これ以上何か言うとボロが出そうだから探してもらう事にした。 本当はすぐそこなんだけどすぐには戻り辛くてあっちやこっちに寄り道して…… 周君と芽依ちゃんにももしかしてこれで迷惑を掛けてるかもしれないし相葉君にも迷惑を掛けてるかもしれない。 本当何てるんだろう……
「あ、あそこ……」
周君と芽依ちゃんが居た。 やっぱり2人とも私を探していたのか私を見るとすぐに駆け付けてくれた。
「サヤちゃん!! 良かった、探したよ! ごめん、ごめんね……」
「芽依ちゃん」
芽依ちゃんは私をギュッと抱きしめてくれた。 ごめんはこっちだよ、私喜んであげられもしないで逃げちゃったのに……
「一ノ瀬、あのさ……」
「周君、芽依ちゃんごめんなさい、私、私……」
「ううん、いいの…… だってだって……」
「ええと…… なんかよくわかんないけど渡井達見つかって良かったな、一ノ瀬」
「相葉…… だったっけ? なんでここに?」
「まぁたまたまな」
「そっか、なんか悪いな」
「んー、別にいいさ。 じゃあ俺は失礼するわ、一ノ瀬はちゃんと前見て歩けよ」
そう言って相葉君は帰って行った。




