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一ノ瀬の部活が終わるまで俺は吉原と時間を潰していた。 吉原はその間2人きりになれるからとテンションが高い。
「じゃあ今年のクリスマスは3人で一緒に過ごそっか? 楽しみだなぁ」
「気が早いなぁ。 来月だろ?」
「早くなんかないよ、一大イベントじゃん! 良かったね、周ちゃん1人きりのクリスマス卒業じゃん」
「失礼な奴だなぁ」
そんな事を話していると血相を変えた一ノ瀬が俺達の元へ来た。
「サヤちゃん? あれ、部活は?」
「ハァハァッ…… 逃げてきました」
「はぁ? 逃げてきた?」
なんだ一ノ瀬? なんか涙目になってるけど……
そして一ノ瀬はキョロキョロと辺りを見回す。 はぁ〜ッと大きく息を吐いて俺の胸へ飛び込んできた。
「あのさ、何があったんだよ?」
「もしかして藤崎さん?」
「わ、私、汚されちゃったよぉ」
「「はッ!?」」
いきなり何言い出すんだこいつは……
「サヤちゃん、まずは落ち着こう? その様子だとなんかそれ相応の事あったみたいだけど」
「うん…… あの、その…… 鼻を食べられちゃった」
「「え?」」
さっきから過程をすっ飛ばして話しているからまったくわからん。
「食べられたって…… 藤崎さんに?」
「うん」
「つうか…… そもそもなんで? どこがどうなってそうなった?」
そう言うとようやくたどたどしく一ノ瀬は経緯を説明した。
「これがこうでかくかくしかじか……」
「へ、へぇ…… やっぱり藤崎さんってちょっと変わった人だね」
「一ノ瀬の事好きだったんだなやっぱり」
「そ、そんなぁ…… 私が好きなのは周君で百合の趣味は無いのになんでこんな事に……」
「あはぁん、ダメじゃないサヤったら。 お喋りなんだから」
突如聞こえた声に俺達3人はギョッとして声のした方へ振り向く。
「あ、ああああ綾ちゃん!? いつの間に!」
「かくかくしかじかの辺りから。 いきなり逃げるなんてちょっとショックだなぁ。 せっかく私の想いをサヤに伝えたと思ったのに」
「ひええッ、ご、ご勘弁をッ!」
「別に大丈夫なんだよ? サヤ」
「え?」
藤崎が優しく一ノ瀬に向かって微笑んだ。 ていうか何が大丈夫なんだよ? 健全なお付き合いでもしようってのか?
「私達女の子同士じゃない? だから私と付き合ってもなんでもないじゃない。 いちいち分けて考えるから小難しくなるんだよ? そうよ、渡井君と付き合うのは許してあげる、だから私とも付き合おう?」
「…… でも、でも綾ちゃんは芽依ちゃんの事いじめた」
「うーん、それは悪かったね。 吉原さんごめんね? もうしないからさ!」
「え!? あ…… はぁ……」
急に藤崎に謝られた吉原はポカンとする。 ていうかこいつなんとも思ってないだろ? どう見てもついでに謝った感満載だ。
「ほら、私吉原さんにちゃんと謝ったよ? これで全部丸く収まったんじゃない?」
「へ!? ええと…… 」
「おい、さっきから聞いてれば一ノ瀬の奴こんなに困ってるだろ? お前の性癖とかに口出しするのもあれだけど一ノ瀬はそんなのには興味ないそうだ」
「んん? そんな事ないなぁ。 私がサヤを気持ち良くさせればサヤは私に夢中になるもん。 てかその他のくせに私とサヤの間に入ってこないでもらえる?」
「藤崎さん、サヤちゃんの意思とかは考えてあげられないの?」
「もう、その他は黙ってて欲しいんだけど? サヤはねぇ、私と同じなの。 だからきっと私の事も受け入れるの、わかった?」
そんなとんでも理論言われたって…… それにどっちかっていうと一ノ瀬はBL派だ。
てかなんでこいつと一ノ瀬が同じなんだ? 普段地味にしてたとことかか?
「いやんッ! 私ったらその他の前でこんな事赤裸々に話しちゃって恥ずかしい! サヤへの想いが爆発しちゃったのかしら」
1人で藤崎はキャーキャー言ってる…… 学校では見せないテンションに既になっている。
「ほら、サヤ。 そんな何もしてくれない男と居るより私の方へ来なさいよ? 私サヤの事満足させてあげるから」
「藤崎さん!」
「何よ? またいじめられたいの? 偽善者さん」
「…… 確かにその通りだけど今度は違う! サヤちゃんはしっかりとした自分の意思で周ちゃんを好きになってるの。 だからサヤちゃんが望んでない事を押し付けないで」
「あー、もう。 サヤに見た目も魅力も負けてる吉原さんに言われたってねぇ。 あ、だからあんたとサヤがそこの渡井君取り合ったらあんたに勝ち目ないわよ? わかってて言ってる?」
「……ッ!」
「おい、どこが負けてんだよ?」
「い、いいよ周ちゃん…… 」
「綾ちゃん……」
「んー? なぁに?」
「私の…… 大事な友達をバカにしないで!!」
一ノ瀬にしては珍しく声を張り上げて言った。 だが藤崎は……
「あん! ごめんねサヤ。 そんなつもりなかったの。 お詫びに今日はこれで帰るから、またね!」
なんて奴だ…… 堪えるどこらかまだ嬉しそうだ。




