08
「え? 芽依?」
「どうかしたの?」
吉原の友達2人が吉原に問い掛けるも吉原は俺を呼び止めたのにそのまま押し黙った。 やっぱ友達とか居ると恥ずかしいのかな?
そう思い俺は「じゃあ」と言って立ち去ろうとしたら吉原にガシッと腕を掴まれた。 え?
「は?」
「「え?」」
「あッ……」
そして4人にまた沈黙が訪れる。 なんだこの状況……
「め、芽依、もしかして渡井の事……」
「嘘ッ!? 芽依が渡井を!?」
吉原の友達2人がそう騒ぎ始める。
「ち、違うッ! そ、そんなんじゃなくて……」
「ええと…… 吉原?」
「あ…… その…… 渡井君、昨日どうして私から逃げたの?」
吉原が俺を見上げながらそう言った。 やっぱり逃げたって思われてたか。 実際そうなんだけど。
俺の腕を掴んで俺を見上げる吉原の目には何故? という感情が溢れている事が俺にもわかるようだった。 まぁ当事者だから当然か……
「芽依、どういう事? やっぱ渡井となんかあったの?」
吉原の友達は俺の腕を掴んでいる吉原の手を見ながら言う。 そりゃあそうだろうな。 ていうより俺なんて言えばいい? やっぱり謝る?
吉原はやっぱり可愛い。 こんな間近で吉原の顔に見つめられると思わず顔をそらしてしまいそうで、実際恥ずかしくてそらしてしまった。 それがいけなかったのか……
「え?」
俺が顔をそらした瞬間吉原は悲しそうな声を出した。
「やっぱり私って嫌われてたんだ…… そうだよね、もとあと言えば私が迷惑かけたもんね」
「あ…… そ、そうじゃなくて」
俺が言い訳しようとすると……
「ちょっと芽依、渡井なんかに何ムキになってんのさ?」
「そうだよ、言っとくけど芽依趣味悪いよ? 渡井ってそう悪くはなさそうだけどなんて言うか…… 雰囲気が暗いし」
「だから違うってば!」
吉原が2人に怒鳴った。 何怒ってんだよ? 2人の言う事は悔しいながらも的を得ている。
再度俺に振り返った吉原は目に涙を溜めていた。 な、なんでだ?
「渡井君…… あの…… ごめん!」
「ちょッ!? 芽依?」
吉原はそう言って走って行き2人も後を追った。
「俺こそごめん……」
最早吉原に届くはずもなく吉原が走り去った後に俺は言葉を発していた。
…… なんかもっと面倒な事になったような気が。
でもなんでこのタイミングで吉原も話し掛けるんだよ? 取り巻きが居たらこういうチャチが入っちゃうのわかってたから昨日だって1人で待ち伏せてたんだろ?
仕方なく売店に行きパンを買い昼食を済ませた後、教室に戻ると吉原の友達2人からも妙な視線を送られていた。
「おい周人、なんでかお前に吉原の友達から熱い視線を送られてるような気がしないか?」
「え? 気のせいだろ?」
「なんかお前の後ろから一ノ瀬のジトッとした視線も感じるけど?」
「な、何でだろうな?」
こうなると思ったので伸一の問いにも、もう適当な感じにしか答えられなかった。 そのまま微妙な感じで今日の授業が終わる。
思ったように行かず溜め息を吐いてもう余計な事にならないように帰ろうと廊下を歩いていると横から一ノ瀬がひょこっと出てきた。
「…… 渡井君、どうだった?」
「一ノ瀬…… お前か」
「はい、私だけど……」
「なんか更に微妙な雰囲気になった」
「ええ!? 渡井君、何か酷い事でも言ったの?」
「言ってねぇよ…… いや、それすらわかんねぇ。 はぁ〜、ただ良かったのか悪かったのか周りには吉原の友達2人しかいなかった事だけど。 男子の憧れの吉原を泣かしそうになったのなんて見られたらゾッとするわ」
「渡井君!」
「ん?」
「憧れとは理解から最も遠い感情だよ!」
「今、いちいちそういうネタ挟み込んでくるなよ……」
「ご、ごめん! 元気付けようと思って……」
少しシュンとした一ノ瀬だったが俺と少し話すと部活へと行ってしまった。