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「私…… 私は…………」
ああ、言っちゃうんだ私…… 言わなきゃ良かったかな? 直前まで悩んだ、でも言わなきゃ苦しいまま。
でも言わなかったら…… このまま時間が経てば。 なんてもう言っちゃってるけどね。
私は周ちゃんに説明しながらあの時の事やこれまでの事を思い出していた。
まだ何も気にしないでいた頃…… 何も気にせずなんてのはちょっと嘘になるかな。
私は周ちゃんの事が気になっていた、自分自身気になるだけで好きなんだって思うまで結構時間が掛かった。 だってこれは助けてもらったからっていうのもあったと思ってたし……
本当に好きなんだってわかったのはあの時同級生にデパートで絡まれていた時かな。 いきなりほっぺにキスするなんて私何してんだろ。
サヤちゃんも周ちゃんの事が好きってわかった。 私よりも早くその気持ちに気付いたのも……
それにサヤちゃんは本当は可愛いからちょっとお洒落したら私なんか敵わないかもしれない。 その証拠に周ちゃんは私の事は可愛いって言わないけどサヤちゃんには言う。 ちょっとズキッとした。
でも私はサヤちゃんの事も大事な友達になっていたんだ。
夏休み明けにサヤちゃんはとても可愛くなっていた。 美容室に行ったのかな? でもまぁこれが本当のサヤちゃんなんだろうな。 本当に可愛い。
でも数日経った頃、私は何気なくトイレを通った時にサヤちゃんの噂がチラッと耳に入った。
西岡さん達の声…… 私嫌われてるんだよねこの人達に。 でもサヤちゃんの事だし気になると思って耳を傾ける。
「なんか一ノ瀬ムカつくんだけど? あいつ夏休みデビューとかしちゃってさ」
「まぁあんなに可愛かったなんてビックリだけどさ、暗いのはそのままだし調子こいてるわよね」
「あ! 吉原はさ、面倒くさい篠原達ついてるし、一ノ瀬の事シメちゃわない?」
「それいいかも〜!」
私はそれを聞いて思わず西岡さん達の前に立ってしまった。
「ダメだよそんなの!」
「あ? 吉原? てめぇ盗み聞きかよ?」
「へぇ〜、一ノ瀬人気に嫉妬してんじゃないの? その偽善振りにはドン引きするわぁ〜。 ポイント稼ぎとかしてんの?」
「サヤちゃんと私は友達だよ、人気とかそんなのどうでもいい」
「ああ、そう。 一ノ瀬さんと友達で一ノ瀬さんをあんな風にしたのは吉原さんなのかな?」
「え?」
急に後ろから肩をポンと叩かれて私は後ろを振り向いた。 そこにはあまり見かけた事ない子が……
「げ…… 綾まで盗み聞きしてたの?」
西岡さんがそう反応するって事は知り合い? でも…… あんまり接点なさそうというか。
「やっほ。 また2人で悪巧み? 聞き捨てならない事聞いちゃったなぁ。 ああ、それと吉原さん初めまして。 私は藤崎綾よ。 隣のクラスだね」
そんな藤崎さんに怪訝な目を向ける私に藤崎さんは続ける。
「ダメじゃない吉原さん。 一ノ瀬さんは私のものなのに。 なんか最近微妙な男の子と仲良くしてるみたいで気に入らなかったのに、それだけじゃなくてあんなに注目の的にさせちゃうなんて」
え? 何を言ってるの? 藤崎さんは…… そう思った途端私の肩を力一杯藤崎さんは掴んだ。
「い、いたッ」
「一ノ瀬さんが可愛いってのは私だけわかってれば良かったのに。 それに……ねぇ、あんたらさっき一ノ瀬さんの事いじめるみたいな事話してたよね?」
「いや…… うちらはただ…… 言ってただけ! 言ってただけでやる気はないんだって」
「そ、そうそう。 綾のお気に入りなら尚更ね!」
藤崎さんの前に2人はたじろいでいる。 でもちょっとわかる…… 藤崎さんって、今話したばっかりだけどなんだか少し怖い。
「んん〜、でもさぁ…… それもいいかもしんないね」
「「「え!?」」」
私達3人は藤崎さんの言う事に驚いてしまった。 この人はいったい何を言ってるんだろう? サヤちゃんの事この人だって何か特別な思いでもあるように言ってたのに。
「だってこのままじゃ人気者になっちゃうじゃん? だったらあんたらに叩きのめしてもらってまた元に戻ってくれた方が私的には嬉しいし。 まぁそんな事はして欲しくないけど愛故にね。 フフッ」
「マジで? じゃあ一ノ瀬の事シメちゃう?」
「ダメッて言ってるでしょ!」
「あー! 吉原さん。 そうねぇ、出来れば一ノ瀬さんには酷い事して欲しくないのは事実だし…… 急に垢抜けちゃったのは吉原さんとあの男子のせいかもしれないからその責任吉原さんに取ってもらおうかしら?」
「責任?」
「そう。 じゃなかったら一ノ瀬さんの事いじめちゃうかも! 元に戻るまで」
「いいね綾! それで行こうよ? 私らこいつ前から気に入らなかったんだよねぇ」
「そっか。 ならちょうどいいじゃん? 一ノ瀬さんと友達なら守らなきゃね! 覚悟はいい吉原さん?」
私がサヤちゃんに代わっていじめられろって事? そうしなきゃサヤちゃんがいじめられる?
嫌だ、そんなの私も嫌だけどサヤちゃんがいじめられるのも嫌だ。 それにそんな事になったら周ちゃんだって……
そう考えていると藤崎さんが私に詰め寄る。
「覚悟はいいって聞いてるの。 あんまり待たせないでちょうだい? 私って気が短いの、早くしないと一ノ瀬さんに行っちゃうよ?」
まくし立てるように藤崎さんはそう言った。
「わかった……」
「綾さすが〜! じゃあ吉原! 篠原達と友達やめろよ? わかった?」
「そんなッ! そんな事言われたって」
「あ? いいのかなぁ?」
「………… だってまりえ達だって私の大事な友達で」
「はぁ? 何か言った?」
「まぁだったらいいけど? その代わりに一ノ瀬さんに行くだけだから。 よく考えておいてね」
そう言って藤崎さん達は私の前から立ち去る。 どうしよう…… どうしたらいいんだろう?
そしてある日突然些細な事からそれは始まってしまい…… 私はまりえ達は大事な友達なのに酷い事を言って遠ざけた。
私は周ちゃんやサヤちゃんと同じくらいまりえ達の事も大切だったのに差を付けてしまった。 藤崎さん達の言ったようにしてしまった。 私はそんな自分が許せなくて…… でももうやってしまった事は戻せない。 周ちゃんにもサヤちゃんにもこんな事言えない。 どうしようもなくなっていた。




