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「うーん……」
「どうかしたか?」
一ノ瀬の部屋に来ているのだが一ノ瀬は珍しく服を見て悩んでいた。
「ええと…… 私の持ってる服って本当に地味かも」
「なんだそんな事かよ? 服なら吉原に…… あ!」
「え?」
吉原の事言い掛けて止まってしまった。 もし吉原を誘ったらあいつ来るだろうか? と考えてしまったからだ。
普通だったら…… 来たくないよなぁ。
「んん…… まぁ芽依ちゃんくらいしか私に…… あ!」
今度は一ノ瀬が途中で言葉を止めた。
「確かそういうのよくわかりそうな人がもう1人……」
「誰かいんの?」
「同じ美術部の藤崎さんって人」
「ああ。 でもあいつが?」
「へ? 周君知ってるの?」
「実は前に美術部でお昼食べてた時に鉢合わせしてさ」
「…… そうなんだ」
藤崎か。 言っちゃ悪いけど前の一ノ瀬ほどじゃないけどあいつも同じく地味そうだったから意外……
「最近部活行ってないし…… でもそろそろ行っても…… いいかな」
「スランプ脱出?」
「なんと言いますか…… 周君とその…… 若さ故の過ち……」
「なんか変な風に聞こえるからやめろ。でもお前が服装を気にするなんてな」
「ぐぬぬ…… わ、私もお洒落なんかどうでもいいと思ってたけど、ちゃんとしないと周君がえっちらほっちらと他の女の子に手を出しそうで」
「いや、俺が他の女に手を出せるような見た目に見えるか?」
「ううん」
こ、この野郎…… 即答しやがった。 わかっているんだけど……
「でも…… なんだか前よりも周君が輝いて見えるから不思議」
「それフォローしてんの?」
「うん…… あ! 本当です」
そんなこんなで悩んでもあるのは地味なパーカーとスキニーパンツばかりなのでそれに着替えとりあえず出掛ける。
「お前行きたいとことか決めてた?」
「…… いっぱいいっぱいで」
「だよな、実は俺もどこ行こうかとか全然わかんないんだよ。 なんせお前と似たようなもんだから」
まぁ実は美少女だったこいつと俺とじゃ似たようなもんだけどかなり差はあるけどな。
その証拠にパーカーとスキニーパンツだけでも今のこいつだと割と様になってる。
隣を歩いてる俺は吉原の時と同じくなんでこいつと俺がって思うくらい釣り合ってないだろうな……
「行くとこ…… 普通のか、かかか…… カップルが行きそうな所」
「おい、そういうのあんまり意識しなくていいって。こっちまで恥ずかしくなってくるだろ」
「ど、どこかお洒落なカフェかなんかに突撃した方がいいのかな?」
「んー、それ以前にお前ってあんま出歩なそうだからその辺疎いだろ?」
「周君は?」
「俺もだわ。 とりあえず満喫でも行って考えないか?」
「なるほど! その手があった」
ていうより満喫行くなら一ノ瀬の家で考えてるのと然程変わらないんだけどな、まぁ2人でどこか出掛けたかったようだし一ノ瀬的にはこれでも良さそうだ。
そして満喫へ行き受付を済まし一ノ瀬は漫画を選んでいた。
「お、おい…… お前ここに何時間いる気なんだ?」
「え? んー、長期戦になるかなと思いまして……」
「長期戦って……」
漫画を両手に顎の辺りまで届きそうなくらいに積み上げた一ノ瀬は回れ右して部屋に持って行った。
まぁいいや、難しい顔して慣れない事考えるよりは。 というよりまた同じ個室か。 一緒にどこ行くか考えようって言ったから当然だけど。
俺も数冊漫画を選んで持って行くと一ノ瀬は狭い部屋の片隅で丸くなって漫画を読んでいた。
「面白い?」
「なかなか……」
「何それ?」
「熊に食べられちゃう漫画」
「ふぅん……」
そぉいや前はここに吉原も居たな、あいつも結構楽しそうだった。 なんて思っていると一ノ瀬の視線を感じた。
「芽依ちゃんの事考えてた?」
「え? いや…… 2人きりだなって思って」
「私…… 芽依ちゃんの事過るけど…… 周君の事で今頭がいっぱい」
「一ノ瀬?」
「手…… 繋ぎたい」
一ノ瀬は下を向いて漫画を置き手を俺に差し出してきた。 少し震えている。 そっと一ノ瀬の手を握るとビクッとしてそのまま俺の手をギュッと握った。
緊張してるのかな? 俺の手か一ノ瀬の手かはよくわからないけど少し湿っぽかった。
「ここでいい……」
「え?」
「しばらく…… 周君とここでこうしていたい」
◇◇◇
周ちゃん…… ううん、渡井君はサヤちゃんと今頃何してるんだろう? デートでもしてるかな?
私はあの直後から2人と少し距離を置いた。 だから今までのように誘われる事もなく……
あはは、どうせ鳴らない携帯の画面なんか見つめて何やってるんだろう私。




