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一ノ瀬どこ行ったんだ? ああ、HRまで間に合うかな? 吉原はあのままでよかったかな? 最悪帰ってたりして? いや、気不味いだろうしその方が……
なんていろんな考えが駆け巡る。 ぐちゃぐちゃだわ。 そしてHRなどに当然間に合わずウロウロしていると先生に見つかると面倒なのでとりあえず屋上に移動する。
昨日に引き続き今日はなんて日だ…… 俺が昨日一ノ瀬に急に聞いたりしなければこんな事にならなかったはずだ。 今更だけどな。
ガチャッとドアを開けると「ぶあッ」という声がした。 なんだ!? と思い開けたドアの裏を見ると鼻を押さえて涙目な一ノ瀬の姿が……
こんな所に…… そりゃぶつかるよバカ。
「い、いひゃい…… 鼻が潰れ…… え? 周…… 君?」
一ノ瀬はとても驚いたような目で俺を見た。 と同時にまた一ノ瀬の目から涙が溢れてきた。
「周君…… 来てくれたんだ」
吉原に追い掛けてと言われなければどうしてたかわからなかったけど…… 一ノ瀬もこのまま放っておけないもんな。 生まれて初めてこんな俺の事好きって言ってくれたんだもん。 だけど吉原の顔が頭の中にチラついてしまう。
「私あんなに優しい芽依ちゃんを叩いちゃった…… いくらなんでも嫌いになったよね?」
どうだろう? でも吉原の考えてる事なんて俺にはわからない。 でも嫌いな相手を追い掛けてなんて言わないと思うし……
「後で謝ればいいと思うよ。 まぁいきなりビンタするとは思わなかった」
「わ、私もどうしてあんな事しちゃったんだろうって…… 周君に好きって言ったら…… 我慢出来てたものも我慢出来なくて」
「一ノ瀬、俺は……」
「私の事…… 嫌いになった?」
「え?」
「芽依ちゃんにあんな事したし…… 根暗でウジウジしてるし空気読めないし」
空気読めないのは自覚してたんだな。
「それに…… 周君も芽依ちゃんの事好きだと思うし」
「俺が? 吉原の事を?」
好き? 吉原を?
そう言われた瞬間何かピンと張った糸がプツンと切れるような感覚に陥る。
俺は他人をそんなに気遣うような奴らじゃなかった。 どっちかっていうと吉原の陰口を言ってる連中と大して変わらない側の存在だ。
全部バカらしいとかそんな風に思ってた。 だから他人の事で動じたりなんかしない。
だけど吉原と一ノ瀬にはこんなに心乱されたり、体張ったり元気付けてあげたいと思った。 どうしていいか眠れなくなるほど考えたりな。
友達ってだけじゃ俺はここまで必死になれる人間じゃない。
そうか、これって俺…… この2人の事好きなんだ。
「一ノ瀬、だったら俺はお前の事嫌いだと思うか?」
「え? だってさっきも言ったけど芽依ちゃんに私……」
「うん、でも俺一ノ瀬の事…… 嫌いじゃない」
「え? え? 嫌いじゃないってどういう…… 好きじゃないけど嫌いじゃない…… 普通って事なの? うう……」
いや…… 恥ずかしくて好きって言えなかっただけなんだ。 ごめん。
でもこれじゃダメだよな、 一ノ瀬だって勇気を出して俺の事好きって言ってくれたんだ。
「そうじゃないよ。俺お前の事好きだ」
「ふえ? 幻聴?」
「もう言わないぞ…… 」
「う、嘘です! 本当? 夢じゃないよね?」
「お前さっき顔面ぶつけてたろ」
「そ、そうでした。 しゅ、周君が私を好き…… 好き。 えへッ…… えへへへ」
一ノ瀬は泣いてたと思ったら笑い出した。
「周君」
「なんだよ?」
「もう1回言って欲しい」
「ええ? やだよ、恥ずかしい」
すると悲しそうな顔でこちらを見つめる。 なんだよ、そんなに言って欲しいのか?
「好き…… だよ?」
「ふえ〜、うはぁ…… これがリア充、縁がなかったのでとっても恥ずかしい」
「俺もだよ」
HRの時間はとっくに過ぎてしまっていた、吉原の事が何度もチラつくけど…… 結局俺はどっちも好きだったんだ。
そして一ノ瀬を好きと言った今も。




