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「返事は…… くれないんだね?」
「ごめん、今のままじゃまだ……」
「………… うえッ、ひぐッ」
一ノ瀬はボロボロと泣き出した。
「言っちゃった…… 私…… 私ッ、初めて、初めて勇気出して言ったのにッ」
なんて…… なんて言ったらいいのかわからない。 だから……
「一ノ瀬」
「…… は、はい……」
「一ノ瀬の気持ちはわかった。 だから少し待ってくれ」
「…………」
一ノ瀬は何も言わない。 だって都合良すぎだよな俺。
「わかった…… 」
「え?」
「待つ……」
こうして俺は一ノ瀬の告白を保留にしてしまった。 これがどういう事になるのかもわからずに。
翌朝、ろくに眠れないで学校へ行った。 一ノ瀬の事と吉原の事を考えていたらいつの間にか朝になっていた。
教室へ行くと吉原はもう居た。 今日はちゃんと朝から来てたんだな。 そう思っていると吉原が俺を見てニコッと微笑んだ。 だけど俺はうまく返せなかったのか吉原はキョトンとする。
そして席へ着く。 ダメだ、なんか今までのように吉原と一ノ瀬に接する自信がない。
すると「あ、吉原が渡井の所へ行くよ」 という声が聞こえた。 やっぱ変に思ったかなと思い顔を上げると吉原が目の前にもう居た。
「周ちゃん、どうかした?」
「ええと……」
「…… ここじゃなんだし廊下に行かない?」
ヒソヒソ声が今の吉原には気が散るのか俺の腕を引っ張る。
「あれ〜? 大胆だねぇ吉原。 渡井どこに連れてくの〜?」
「学校で何しようとしてるのかなぁ?」
西岡達のグループがそう吉原に言ってくるが吉原はそそくさと俺を連れて行った。
あまり人気がない場所へ移動し吉原は俺に向き直ると……
「何かあった? 周ちゃん」
「…… いや、別に何も」
「何もなくないよ? 周ちゃんちょっといつもと違うよ? もしかして東堂先輩に言われた事とか気にしてる? それとも………… 私の事で嫌な思いとか…… した?」
「お前さ、なんでこんな目に遭ってるのに俺や一ノ瀬の事ばっか気にしてんだ?」
「…… え?」
あまりに予想外な事だったのか吉原は一瞬硬まる。 俺もなんでこんな事言ったのかわからない。 寝不足のせいなのか思考がよく回らないのかそれとも昨日の一ノ瀬の事があったからなのか俺自身どうしたらいいのかわからないからか……
「いや、だっておかしいだろ? お前悲劇のヒロインになりたい願望でもあるのか? お前が篠原達と喧嘩してまで触れて欲しくなさそうだったから今まで遠慮してきたけどさっさとあいつらと仲直りでもして解決すりゃいいじゃねぇか? 篠原達は何も言わないけどお前の味方なんだぞ? 俺だって何とかしてくれくらいお前に言われれば俺なりに言ってやるよ? なのになんで1人で耐えてんだ?」
ダメだ、言ったらもう止まらない。
「………… 周ちゃん、本当に何があったの? 私は大丈夫だって」
「はぐらかすなよ。 どっちかって言うと何があったんだよって聞きたいのは俺なんだけど? 」
「私は…… 私はそれでも耐えられる」
「はぁ?」
「周ちゃんが、周ちゃんが居れば耐えられる。 それだけ……」
「それって……」
一ノ瀬の言った事が過ぎる、本当に…… 本当に吉原は俺の事を。
そして吉原は俺の両腕を掴んで言う。
「周ちゃん…… 私って周ちゃんが思ってるほど明るくて強い子じゃないの。 周ちゃんが私のそばにいてくれるって思えば、私周ちゃんの事が………… あっ……」
吉原が何かに気付いて硬まる。 そこには一ノ瀬の姿が……
「…… サヤちゃん」
「芽依ちゃん…… 」
一ノ瀬はツカツカと俺達の元へと近付く。 なんだろう…… 少し一ノ瀬の感じがいつもと違う。 そして次の瞬間……
頬を押さえる吉原。 一ノ瀬が、あの一ノ瀬が吉原に向かってビンタしていた。
「周君を取らないで…… これじゃ待てないよ」
「一ノ瀬ッ!」
一ノ瀬は走り去って行った。 追い掛けようとしたけど吉原にグイッと腕を掴まれる。
「周ちゃん! 待って!…… 待てないって…… もしかしてサヤちゃんに告白された? 昨日?」
困惑したような顔で吉原は俺に聞いてきた。 もうめちゃくちゃだ、既に容量オーバーだったのに更にこんな事に……
「…… ああ」
「そう…… そうなんだ。 そっか」
吉原の頬から一筋ツゥッと涙が流れたと思ったら……
「行けば?」
「え?」
「サヤちゃんの所に…… 追い掛けなよッ! 行って!!」
吉原が狼狽えている俺の背中を強引に押し出した。 俺は吉原の言葉に流されて走り出した、チラッと吉原を見ると俺を見て立ち尽くしていた。
俺が…… 俺が吉原を傷付けてしまってどうするんだよ? 何が悪かった? 一ノ瀬への答えをすぐ出さなかったからか? それとも吉原にもっとちゃんと向き合うべきだったのか?
もういい。 今は吉原の言ったように一ノ瀬を追い掛けよう……




