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そんな事があってから次の日吉原は学校を休んでしまった。
あいつよっぽど怖かったのかな? まぁ怖いに決まってるよな、あんな事2度もあったら。 俺だって怖かったしまたあったらどうしようかと思うし。
「あー、ついに休んだよ」
「もう来ないんじゃないの?」
なんて声が聞こえてくる。 だけど午前の2時間目が過ぎた頃、吉原は遅れて学校へやって来た。
「吉原、お前大丈夫か?」
「…… うん、もうへっちゃら!」
嘘くさい…… 吉原は空元気でそう言ってるのがバレバレだ。 チラホラと「なんだ、来たじゃん」とか聞こえる中、その日は過ぎていった。 そして放課後になり……
「今日は心配させちゃったかな? えへへ」
いつもの調子に戻り、そんな事を言えるくらいにはなったものの……
「そりゃ心配するわ。 昨日の今日だし」
「サヤちゃんまで怖い思いさせちゃったし……」
「あれはお前のせいじゃないだろ?」
「うん、DQN先輩のせい。 芽依ちゃんのせいじゃない」
「あいつらまた絡んでこないかな?」
「東堂先輩に睨まれたから…… 大丈夫だと思うけど」
「あの人ってそんなおっかないの?」
「ああ見えて喧嘩強いらしいし」
「さすが藍染惣右介……」
一ノ瀬の目には東堂先輩はもう藍染惣右介にしか見えないらしい。
「じゃあまた明日。 バイバイ」
「え? 芽依ちゃん?」
「もう帰るのか?」
「う、うん。 それじゃあ」
最近は少し寄り道しながら一緒に帰るってのはよくあったしそうじゃなくても放課後3人で少し話をしたりってのが日課になっていた。 なので今日はほんの少し話をした程度で吉原は帰ってしまった。
「まぁいくら吉原でもすぐ復活するはずないよな。 俺も帰ろうかな」
「あ、私も帰る!」
そして一ノ瀬との帰り道、俺はふと一ノ瀬がなんで部活行ってないのか気になりだした。 スランプと例の美術部員の藤崎と一ノ瀬本人から聞いてはいたが本当なのだろうか? そんな思いが急に込み上げて来た。
一ノ瀬は黙っている俺をさり気なくチラチラと見ていた。 そして一ノ瀬から口を開いた。
「…… 静かだね。 周君もだんまり」
「なあ一ノ瀬、聞いてもいいか?」
「あ、うん、何を?」
「お前一体いつまで部活休む気なんだ? スランプって本当か?」
「な、何故そんな事を」
一ノ瀬は聞かれたくないのかタジタジしている。 やっぱりなんか胡散臭い。
「部活でお前の描いた絵とか見てみたくなってさ。 なんか独創的な絵とか描いてたりするのかなぁって」
すると一ノ瀬はなんとも言えないような顔になる。
「急にそんな事言われても……困る」
「ごめんな、でも聞こうとは思ってたんだよ前から。 いろいろあったから聞きそびれて」
「…… どうしても言わなきゃダメ? 芽依ちゃんがあんな事になってるのに」
「吉原に何か関係あるのか? だったら尚更だ」
そう言うと一ノ瀬は立ち止まる。
「部活にはまだ行く気ない。 絵は…… 絵は捨てちゃった」
「捨てた? せっかく描いた絵をなんで?」
「ゴミ……」
「え?」
「急にゴミみたいに思えたから。 自分の描いた物、自分の今までが」
「あの時…… 夏休み前焼却炉で燃やしてたのは自分の描いた絵か?」
「…………」
一ノ瀬は無言でコクンと頷いた。
「どうしてそんな事……」
「ああでもしないと…… 私自分を奮い立たせる事が出来なくて。 だから」
「だから…… なんでなんだよ?」
そう言うと一ノ瀬は下を向きプルプルと震えた。 だがピタッと止まりこちらにキッと何か覚悟を決めたように向き直る。
「好き……」
「は?」
「私、周君の事好き! 好きになってた…… だから変わってみようって、もし、もしそれで何か変わるならそう思った。 周君と…… 芽依ちゃんが私にそう思わせた」
好き? 俺の…… 事が? 俺と吉原が一ノ瀬にそう思わせたって?
「私は…… 芽依ちゃんみたいにキラキラしてないから。 根暗だしオタクだし……」
一ノ瀬はそのまま言葉を続けた。
「嬉しかった。 こんな私と一緒にお出掛けしてくれた事…… 私に自信持てって言ってくれた事、可愛いって言われた事、触れてくれた事…… 私この気持ちが何かよくわからなかった。 でも芽依ちゃんが周君と仲良くしてて、なんだか胸がズキズキしてこれって私、周君の事好きなんだって気付いた。 でも、でも…… 芽依ちゃんは私に凄く優しくしてくれて芽依ちゃんの事も好き。 だけど私も私だって周君の事好き」
「い、一ノ瀬、私もって…… その言い方だと吉原は……」
「…… い、言いたくない!」
「…………」
言葉が出てこない。 一ノ瀬が俺の事を好きって事も、吉原が俺の事をどんな風に思ってたって事も……
俺は…… 吉原と一ノ瀬の事をどう思ってるんだ?




