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吉原が買い物に行き、時計を見ると10時を過ぎたばっかりだ。 いやぁ、まさか平日にこんな時間帯に家に帰れるなんてなぁ。
どうしよう? てかあいつ何作るつもりなんだろう?
俺はとりあえずキッチンへ行き材料は吉原が買いに行ったけどその他の物が不足がないか調べておく、何せしばらく使わなかったから洗ってないしな。
なので吉原が使いそうな物を洗っていく。
ううん…… 改めてこんな展開になるなんて予想外だった。
洗い物を済ませリビングへ行きテレビを付けてみる。 この時間帯だとこんなのやってんのかぁなんてどうでもいい番組を観ていると携帯が鳴る。
吉原か? そう思い見てみるとまた伸一…… 今度はなんだ?
「お前吉原と一緒に学校抜けたから出来てんじゃないかって噂されてるぞ」
大体想像ついた。 好き放題言ってるんだろうな。 ふぅん、と思いお前もそういうの言ってそうだなとは返さずに既読スルー。
相変わらずの手のひら返しで伸一は上手くやってるな。 俺も吉原なんて放っておいて我関せずを貫いていたらどんなに楽だっただろう。
だけど吉原が悪いんだ…… ここまで関わり合いになっちまったら放っておくに放っておけない。 なんてそれも俺らしくないな。
一ノ瀬にしてもだ。 なんなんだ? なんでこんな事になってるんだ? 俺が吉原が先輩に絡まれてたのを見て見ぬ振りして去ってれば吉原も俺の事なんて眼中になかったろうし一ノ瀬とも何もなかった。
そして何も問題なく過ごせてたんじゃないのか? あれ? じゃあそもそもは俺のせいか?
俺が吉原にとっての疫病神なのか? ってそんな事…… 起こる事なんて誰にもわかりはしない。 こんな事考えても無駄なだけだ。
「周ちゃん、周ちゃん!」
「あれ?」
「寝ちゃってたよ? テレビ付けっぱなしで!」
「あ…… そうだったか。 てかいつの間に戻って来たんだ?」
「ちょっと前にね。 はい、携帯落ちてたよ?」
吉原に携帯を渡された。 そしてハッとした。
俺携帯にロック掛けてない…… もし吉原が俺の携帯を見ようと思ったらすぐに伸一のLINEへと飛び学校から出た時とさっき送られてきた文章を見てしまったかもしれない。
一緒に遊んだ事もある伸一にもそんな風に思われてるなんて知ったら少なからずショックを受けるかもしれない。 吉原は今は元気だけど空元気のはずだ。
俺に吉原の気持ちなんてわかるはずもないけど……
それは考え過ぎか。 考え過ぎだよな? ガラにもなくさっき変な事考えていたからそんな風に気にしてしまうんだ。
「どうしたの?」
「ううん、ありがとう」
「さて! ご飯出来てるんだよ! ジャン!」
吉原が元気よくそう言うとキッチンのテーブルにはお昼ご飯が置かれていた。
時計を見ると12時15分前…… 結構寝てたんだな。 ていうよりぐっすり寝てたのか吉原が帰って来たのも料理作ってるのにも気付かず寝ちゃってたのか。
吉原が作ったお昼を見るとご飯に焼き魚、それにサラダと味噌汁。
「これって……」
「うん。 周ちゃんってお母さんいないって前に言ってたでしょ? だから家庭の味的なの作ってあげようかなって。…… もしかして嫌だったかな?」
吉原はちょっと不安そうな顔で俺の顔を伺う。
「いや、そんな事ないよ。 凄いなって思っただけだよ」
そう言うと吉原はホッとしたような顔をした。
「良かったぁ。 もしかしたら嫌な気分とかになったりして? なんて思ったから内心不安だったんだよ。 食べて食べて!」
吉原は椅子を引いてどうぞと俺を促す。
「じゃあ…… いただきます」
「はい、どうぞ」
一口二口食べる。 あれ? 美味しい…… 吉原は料理が出来るのは知っててそれなりに上手だってわかってたつもりなんだけど美味しいのは当然だってわかってるんだけど……
「どうかな?」
「美味しい……」
「うん、気持ちを込めて作ったからね。 でも結構緊張した。 あはは」
父さんや俺が作った料理と全然違う…… 似たような物は作ろうと思えば作れるはずなのに。
「良かった。 そんなに美味しそうに食べてくれるなら頑張って作った甲斐があったよ」
「本当に上手なんだな」
「そうかなぁ? これくらい練習すれば誰でも出来るよ。 でも嬉しいな、ありがとう」
そう言って吉原はとても穏やかな顔で俺に微笑んだ。 その笑顔はとても優しく俺にも母さんがもし生きてたらこんな風にしてくれるのかな? と思ってしまった。




