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「お、お見苦しい所をお見せしました」


「まったく…… 一ノ瀬らしいって言えばらしいけど」



一ノ瀬兄も去り地味な私服に着替えた一ノ瀬はペコリと俺に頭を下げた。 白くて細いんだな一ノ瀬って。 下着姿を見た印象だ。



そして一ノ瀬は髪を纏めた。 もう隠すとかしないんだな。



「へ、変かな?」


「お前に変じゃない所ってあるか?」


「うにゅ……」


「嘘だって。 変じゃないよ、 じゃあ行くか?」


「うん!」



一ノ瀬はパァッと微笑み返事をした。 変なのは俺の最近の状況の方が変だ。 こうして一ノ瀬と居て吉原やその友達とも遊んで……



ちょっと前の俺だったらこんな事想像もしてなかった。 そしてこうやって一ノ瀬の用事に付き合うのも。



一ノ瀬の家を出て駅まで向かう。 確か会場は○メッセだよな。 こんな事ない限り行く事ないしな。 東京のコミケじゃないし大丈夫だよな?



いつもよく行く街は政令都市の部類に入るけど東京とじゃ天と地の差ほどあると思うし…… ていうかそんなとこでコミケなんかやってたのもこいつが居なきゃ知らなかったな。



「一ノ瀬、ニヤけてるぞ?」


「はうッ! 戦地に赴くのにいけないいけない。 周君こそそんな装備で大丈夫?」



そんな装備って…… 手ぶらで悪いの?



「デジカメとか持って来た方が良かったのか?」


「だ、誰を撮るつもりなんですか!?」


「撮るかよ…… お前がそんな事聞くからだろ?」



そうして電車に乗り街へ着き○メッセの会場に着くとそこには多数のレイヤー集団が…… 当たり前か。



イメージだと暑い中ずっと待っていてな感じを想像したけど地方コミケじゃそこまでじゃないようだな、第一こいつが寝坊したせいでそんなに早くに来れなかったし。



「ふわああ!! 夢の国だ!」



一ノ瀬はどこかのランドでも来たかのように目を輝かせて外をキョロキョロ。



「凄い、凄いよ周君、あっちにはガ○ツスーツの集団が! ほら、あっちにはフリー○様が!」


「ああ、なんか確かに凄いな。 クオリティがとんでもないのも居れば微妙なのまで……」



一ノ瀬は狂喜乱舞している。 どんだけ喜んでんだ? と俺もつい口元が緩む。



そして一頻り見終わると一ノ瀬は会場の中へ入り辺りを散策してワナワナしている。



「あった…… まさかこんな地方コミケにまで来て下さってるとは……」



一ノ瀬は同人誌売り場で興奮していた。やはり薄い本に行ったか。 売っている人は女の人だ。 どれどれと値段を見ると1800円…… 信じらんねぇ、こんな薄い本が。 いや、自費で作ってるから高いのはわかるけど。



「いらっしゃいませ」


「ああああ、あの! 握手して下さい」


「え? ああ、はい」



いきなり何言い出すんだこいつは…… だけど相手は快く握手してくれた。



「だ、だだ、大好きです! いつも読んでます。 こ、これ下ちゃい!」


「そうなんですね。 こんな可愛い方に読んで貰えて嬉しいです」


「はうッ! 胸が…… 胸が…………」



大袈裟だしカミカミトークだぞお前。 一ノ瀬は薄い本を胸に押し付けて抱きしめ満面の笑みというか……



「ぐふふ…… なんて日でしょう」


「おい、顔ヤバいぞ?」


「こ、これだけは仕方がない」



ところが一ノ瀬の顔色が変わる。



「どうした?」


「う、うひぃ…… 落ち着こうと思ったら急に…… ト、トイレに行きたい」


「トイレ?」



そう思いそれらしき場所を探すと…… なんてこった、行列の出来ている所がトイレだった。 しかも女子トイレばかりに。



「一ノ瀬…… あれは無理だ」


「そ、そんなぁ……」



一ノ瀬は脚をクネクネさせてこれじゃあトイレ行きたいですと言わんばかりだ。 さっき飲んでたお茶のせいか?



「しゅ、周君…… 私がもしお漏らしても…… と、友達で居てくれますか?」


「はぁ!? そんな事言ってないでトイレ探すぞ! ていうかメッセから出たとこにコンビニあったよな、そこまで我慢しろ!」



一ノ瀬の腕を掴みコンビにへダッシュする。 一ノ瀬はもうヤバいのか変な走り方してるせいか可愛いからか知らんが通行人の目を引いてしまう、なんか俺恥ずかしくなってきた。



なんとかコンビニまで間に合い一ノ瀬はトイレに駆け込んだ。 まったく朝から騒がせる奴だ。 走ったせいか暑い。 汗がダラダラと落ちてくる。



少し外で待っていると申し訳なさそうな顔とスッキリしたような顔が混じった一ノ瀬が出て来た。 手には買った本と別にもう1つの袋をぶら下げていた。



「あ、ありがとう…… その…… これどうぞ」



袋を渡され中には冷たいお茶が入っていた。 今の今までこれのせいでお前はトイレに駆け込んだのに俺にも勧めるとは…… でもせっかく買ってくれたんだし貰うか。



「ありがとな」


「あ……」


「ん?」



一ノ瀬は何かに気付いてバッグを漁る。 そしてハンカチを取り出した。



「汗かいてるよ?」



そう言ってハンカチで俺の額の汗を拭いた。 一ノ瀬らしからぬ行動にビックリしたがまた意識させると面倒なのでありがとうと自然な感じで済ます。



そして帰り道……



「今日はついてきてくれてありがとうございました。 しっかり戦利品もゲット出来ました」


「そいつは良かったな。 さっきまで漏らしそうになってたのが嘘みたいだな」


「うぐぅ…… 面目無い」


「それにしても吉原も連れて来れば良かったかもな」


「…………え?」



そう言った瞬間少し一ノ瀬の顔が曇る。え? なんなんだ? だってお前ら仲良いだろ? と思うと一ノ瀬は何か考えるように……



「う、うん! そうだね! 芽依ちゃんも一緒だったらもっと楽しかったかも」


「? そうだな」



なんだったんだ今の間は…… そうしてその後何度か吉原とも遊び夏休みは過ぎていった。 このひと時が後に起こる吉原と一ノ瀬の関係を変える嵐のような出来事が起きる前の静けさなんてのはこの時の俺にはまったくわからなかった。





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