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「一ノ瀬」


「はひッ! では私はこれで失礼」


「おい!」



こうなったのは少し前の事……



最近一ノ瀬が妙な眼差しで俺を見ていた。 最初は気付かなかったが気付いてしまうと気になって仕方がない。



普通に話か掛けようと近付くと一ノ瀬はササッと退散してしまうのだ。



あれ? これって俺が吉原にしていた事と似ているような…… 吉原の奴もこんなもどかしい思いをしてたのか。



「おーい」



授業が終わり一ノ瀬に話し掛けるもガタッと席を立ち俺が呼んでるのに気付いていないのか行ってしまった。



そして別の日…… 一ノ瀬が女子トイレの前でモジモジしていた。



何やってんだあいつ? トイレに行きたいならとっとと入ればいいのに。 するとトイレから数人の女子グループが出てきて一ノ瀬はサッと背中を向ける。



出た事を確認するとようやく一ノ瀬はトイレに入っていった。



俺もコミュ力底辺クラスだと思うけど上には上がいるもんだ。



そして俺はしばらく待ち一ノ瀬が出てきたので話し掛ける。



「よッ!」



普段ボ〜ッとしている俺だが頑張って元気よく話し掛けてみた。 だが……



「…………」


「ん?」


「………………」


「おい」


「ど……」


「はぁ?」


「ど、どちら様でしょう?」


「あ? 渡井ですけど? お前は一ノ瀬だろ?」


「いつから……」


「え?」


「一体いつから私が一ノ瀬だと錯覚していた?」


「おま…… あッ!」



一ノ瀬は苦し紛れのネタを言ったかと思うとその場から走り去ってしまう。



「どうかしたか?」


「うわッ、お前かよ」



いつの間にか横から伸一が出てきた。



「なんかしたの?」


「一ノ瀬が俺を変に避けてるみたいなんだけど」


「あー、わかるわ」


「え? その理由は?」


「周人みたいなのと一緒に話してるといくら一ノ瀬でも恥ずかしいんじゃねぇの?」


「お前ほんとクソだな」


「はははッ、冗談だって。 一ノ瀬はまったくわかんないよな。 普段から何考えてるか読めねぇし」


「だよなぁ」



それから一ノ瀬は吉原が話し掛けても避けるようになった。



「一ノ瀬さんどうしちゃったんだろ……」


「ついに吉原も避けられるようになったか」


「ついにって…… 私渡井君にも避けられておまけに一ノ瀬さんにも避けられるってどういう事?」



吉原は俺に避けられた事を思い出し、そして友達と思っていた一ノ瀬にも避けられ珍しく機嫌が悪そうだ。



「まぁまぁ吉原。 一ノ瀬はああいう奴なんだからさ、それより俺と話そうぜ?」



ここぞとばかりに伸一が吉原を誘うがタイミング激悪だろ。



「…… 渡井君、あとで一ノ瀬さんを2人で捕まえてみよう?」


「え?」


「おーい……」



伸一は華麗にスルーされた。 だからタイミング悪いんだって……



そして一ノ瀬が俺達を避けるようになってから数日たった放課後。



「おい、お前待ち伏せ好きだよな」


「サプライズの意味を込めて待ち伏せしてるんだから。 誰かさんはそんな私の気も知らず嘘ついて逃げたけどね」


「う…… 痛いとこつくなよ」


「しッ! 来たよ」



一ノ瀬は部活が終わり昇降口へとやって来た。 というより俺は何をしているんだろう? 一ノ瀬が関わって欲しくないならその気になるまで待ってやればいいんじゃないかと俺はだんだんと思って来たのに。 こんな事に付き合わされる羽目になるとは……



「わッ!!」


「どひゃあッ!!」



吉原が影から出て脅かすと聞いた事もないような叫び声で一ノ瀬は尻餅をついた。



「あ…… だ、大丈夫一ノ瀬さん!? ちょっとビックリさせすぎちゃったかな?」


「吉原さん、それに渡井君も……」



俺と吉原を交互に見て一ノ瀬は目を丸くして驚く。



「不覚……」



そう言って一ノ瀬は俺と吉原の隙をついて逃げようとした。



「あッ! 渡井君!」


「はぁ〜、やれやれ」



だが俺は逃げようとした一ノ瀬の腕をガシッと掴んだ。



「く…… 隙を生じぬ二段構えという奴ですか」



いや、単にお前がすっとろいだけだと思うけど?



こうしてようやく一ノ瀬を捕獲?した。


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