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この前は一ノ瀬に付き合い今度は吉原か……
少し俺の前を歩く吉原がクルッとこちらに振り返る。
「じゃあ何されたい? 渡井君」
「は? 何って何か決まってたんじゃないの?」
すると吉原は決まりが悪そうに言った。
「実はまた渡井君が逃げちゃうんじゃないかと思ってずっと渡井君をどう引き止めておこうかって考えてたら。それで実際はあっさりついてきてくれたから…… あはは」
つまりはノープランって事ですね、はい。
「いや、別にいきなりそう言われてもなぁ……」
「ん〜、なんかあるでしょ?」
吉原俺の顔を覗き込んで伺う。 だから近いんだっての。
「なんでもいいから言って! あ、でも私の出来る範囲になるけどね」
「じゃあこんな時間だしどこかで夕飯でも食べる?」
「え? それだけ? な、なんか違うような……」
「だって急に言われてもな」
「はぁ〜、私からすればここまで来るのに避けられたり逃げられたりでとてももどかしく感じたんだけど? なんで私がここまで振り回されなきゃいけないの?ってまで思ってようやく今に至るんだよ?」
「じゃあ放っておけば良かったんじゃないの?」
「それは嫌! だって私が巻き込んじゃったみたいだし渡井君はボコボコにされるし次の日渡井君はなんかみんなに白い目で見られてるしで私凄く凄く責任感じてたんだからね? それに渡井君って俺に構うな的な雰囲気出してるから事情を話していいのかわかんなくなるし…… 」
ああ、それで半ば意地のような執念を見せていたのか。
「でもさ、それはそれ。 だんだん考えてたら渡井君と友達になってみたくなったし。 てことで今決められないならとりあえず今日のご飯私が奢ってあげる」
「え? わざわざ俺にお金使わなくていいよ。 後で考えとくから割り勘にしとこう?」
「ん〜、先延ばしかぁ。 でもちゃんと考えてくれてるならいっか! 別にこれくらいいいんだけどそう言われると嬉しいし…… うん、じゃあ渡井君のお言葉に甘えて! ふふッ」
吉原はここらで美味しい所知ってるから教えてあげると言って先導する。
うーん、でもよくこんな可愛い吉原と友達になれたもんだなぁ。 あの時関わらなかったら今のこの瞬間はなかったろうし、そして一ノ瀬ともなんともなかったかもしれないし不思議なもんだ。
まぁ別にその2人が居たら俺の何か変わるのだろうか? と聞かれればそんな事もないよなと思うが。
ああ、まぁこんな可愛らしい奴とご飯行くなんて一生ないかもなくらいかな。
「そういえば!」
俺が考えていると吉原は思い出したかのように俺に向き直り詰め寄る。 今度はなんなんだ……
「渡井君が私に嘘言って一ノ瀬さん連れて逃げた時2人で何してたの?」
「な、何って……」
「私あの時少し泣きそうになってたんだからね? なのに! 渡井君と一ノ瀬さんは何してたか気になるじゃない?」
「別に本屋行ってご飯食べて帰っただけだよ」
「本当かな?」
さらに吉原は詰め寄り俺の目を見て言う。 いや、これは近づき過ぎだろ、顔が目の前……
と思ったら吉原はニコッと笑って顔を離す。
「んふふッ! ドキッとした? ちょっと渡井君の態度がやっぱりよろしくないのでからかってみましたぁ〜」
「はぁ? いい加減にしろよ、たく……」
吉原みたいに可愛い顔でそういう事されるとないないとわかっていても心臓に悪いのでやめてほしい。
「でもさ、一ノ瀬さんってよく見ると凄く可愛いよね?」
「え?」
「髪の毛とか物とか手とかでよく顔隠してるけど一ノ瀬さんってびっくりするくらい可愛いよ」
「なんだ、吉原も気付いてたのか」
「あー、渡井君まさかそれで一ノ瀬さんと友達に?」
「んなわけないだろ?」
クルリと俺に背を向けた吉原は聞きたい事も聞いたしお店に行こうとまた歩き出す。




