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「今日の調理実習ではマカロニグラタンを作ります、各自わからない事があったら先生と班のみんなで協力し合って作りましょう」
そう先生が言い授業が始まる。
「じゃあどうしようか?」
「手っ取り早く具材でも切るか?」
「私やろうか? 家でもたまにやってるし得意かも」
エヘッと俺に向かって言う吉原は可愛い、思わず見惚れる。
「わ、私も得意かも……」
「ふぅん……」
そしてまたまた何故か吉原の言葉に乗っかるように一ノ瀬が言ったのを伸一は冷めた感じで流す。 おい、あからさま過ぎだろ。
「一ノ瀬も料理とかするの?」
「あ、頭の中で少々……」
それはまったく出来ないと言っているように聞こえるんですけど。
「一ノ瀬さん、私と一緒に野菜切ろう?」
「へ? う、うん!」
「んじゃ俺達はホワイトソース作りでもしてるか。 周人、足引っ張るなよ?」
「はいはい」
吉原と一ノ瀬は野菜を切り始める。
「一ノ瀬さん玉ねぎ切るの?」
「うん」
「目にしみるから気を付けてね?」
「が、頑張る!」
大丈夫か? 一ノ瀬の奴……
トントントンと一ノ瀬は玉ねぎを切っていく。 そしてどんどん目に涙を溜めていく。
「うぐッ、ひぐぅ……」
「い、一ノ瀬さん、私が代わろうか?」
「グスッ…… だ、大丈夫」
なんだか可哀想に見えてくる……
「何やってんだ一ノ瀬の奴。 出来ないなら吉原に任せればいいのに」
「意外と頑固なのかもな」
なおも泣きながら玉ねぎを切っている一ノ瀬は涙で手元が狂ったのか……
「いたッ!」
「一ノ瀬さん大丈夫!?」
「まったく何してんだよ」
あー、なんか予想通り…… こんな事もあろうかと一ノ瀬と班を組むと決めた時から俺は絆創膏を保健室から貰っておいた。 早速使う事となるとは。
「一ノ瀬、指見せてみろ」
「え? は、はい」
「思ったより深くなさそうだから大丈夫だよ。 ほら、これ貼っとけよ」
「うう…… ありがとう」
「良かったね、一ノ瀬さん。 渡井君準備いいね」
吉原が俺にニコッと笑ってそう言うと後ろから伸一に肘で突かれる。
「くそ〜、周人のくせにポイント稼ぎやがって」
「そんなつもりじゃねぇよ。 一ノ瀬の事だからと思って準備してただけだ」
「へぇ〜、周人って一ノ瀬の事よくわかってんだなぁ」
「…… 渡井君」
「ん? なんだ吉原」
「あ…… ううん! なんでもない! さぁ、一ノ瀬さん大丈夫なら続きやろっか? それとも代わる?」
「あ、えーと…… 最後までやる」
やっぱり一ノ瀬って少し頑固な所あるかもな。
そうして一ノ瀬は今度は無事に玉ねぎを切り終えた頃には吉原は他の具材は全部切り終えてしまっていた。
「はう…… 面目ない」
「いいっていいって。 私は慣れてるだけだから。 ほら、渡井君達もホワイトソース作り終わったから丁度良かったじゃん?」
「吉原の奴優しいじゃねぇか、一ノ瀬の事しっかり気遣ってやって。 あ〜、俺も何かヘマすればあんな風にして貰えるのかな?」
「さぁな」
そしてバターを塗ったグラタン皿に具を盛り付けその上にホワイトソース、チーズを乗せてオーブンで焼いて無事に出来上がった。
「ん〜、美味しい! ね? 一ノ瀬さん」
「う、うん。 美味しい」
「吉原の手作り…… こりゃあなかなか食えないから貴重だ」
「伸一、俺達が作ったんだけどな」
「うるせぇ!」
「えーと…… 良かったら後でご馳走するよ?」
「へ!?」
吉原が予想外な事を言った。 伸一はバカに喜んでいたけどそれは俺の目を見て言っていたような気がしたのは俺の自意識過剰だろうか?




