01
お久しぶりです。 今回は書き溜めもなく結構ゆっくりなペースで連載していきますのでお許し下さい。
いつもの日常。 それは中学を卒業して高校に入ってからも変わらないと思っていた。 何事もなくただひたすらいつも通りの刺激のない毎日を送るんだと。
自分は今まで別に心動かされる人とかそんなのとは無縁なんだと。 だって今までそうだったから。 中学までの気心知れた奴とは仲は良かったりしたけどそれだけによく知ってるよと思っていた。
だが高校ともなれば知らない奴らは結構いる。中学からの同級生も何人かは俺と同じ高校へと入学していたけどそんなに多くはないしもともと友達と呼べる奴もあんまり多くなかった。
今の高校へ入学してから早3ヶ月、季節は夏に差し掛かる。
「おい周人、人の話聞いてんの?」
「え? 何?」
「まーたそれかよ…… だからさ、絶対こっち見てるって吉原の奴」
ボケーッとしていた俺にしつこく話してくるのはこの高校で知り合った中村 伸一。 いつの間にか仲良くなってた。 まぁいつもこいつから俺にちょっかい出してくるだけだけど。
そんな伸一の言葉に俺は面倒だけど吉原に視線を向けた。 吉原 芽依、1年の中でも特に可愛いって言われている女の子だ。 栗色の綺麗な長い髪の毛にスッと鼻筋の通った整った顔、大きな目に艶っぽい唇、まぁそりゃあモテてるよな。
俺も彼女の事は噂に違わぬ可愛さだなとは思ったけれど今はあんまり関わりたくない。
げ…… ていうか本当にこっちを見てる。 俺はそんな吉原からサッと視線をズラし窓の方を見た。
「な? 本当に見てるだろ? もしかして俺に気があったりして」
「んなわけねぇだろ」
「ああ? だったらお前か? ありえねぇぞ? だってお前みたいな根暗野郎、俺が話し掛けなきゃぼっち確定のような奴にさ。 いきなり怪我して登校とかもあったよな、あれで更になんだこいつ? 状態なのに」
「そんなぼっち確定の俺によく話し掛けてるよなお前も」
「ん? 確かにそうだな。 まぁいいや、でもまぁ吉原に見られてるからって俺らとは限らないしな。 ここ窓側だから外の風景見てるとか」
「自分から見られてるかもって言っておいてなんだよそれ? でもまぁ確かにそうだな、外見てるだけだよきっと」
俺は伸一に合わせるようにそう言った。 きっとそうだよ、俺はそのまま伸一の言う事に相槌を打ちながら机に突っ伏してHRになるまでの僅かな時間仮眠をとった。
それからお決まりの授業の時間も過ぎて放課後になり早く帰りたい俺は帰るのに差し障りのない部活に入っていた。 なので俺はそのまま帰ろうと教室の扉をガラッと開けると女の子が目の前に居た。
ちょっとビックリしたけどその子もいきなり俺が目の前に現れてビクッとしていた。
確かこいつは…… ちょうど俺の列の席の1番後ろの地味な女の子だった。 そういえば居たな、俺みたいにあんまり目立たない奴が。 ええと確か一ノ瀬…… 一ノ瀬 沙耶華だ。
彼女は長い前髪で顔を隠すように下を向いた。 やっぱり地味だな…… ってあんまり仲良い奴いない俺に言われたくないか。
「ビックリした、いきなり目の前に居るから」
「わ、私もビックリした…… え、えっとじゃあ……」
そう言って彼女は俺の横を通り過ぎて自分の席へと向かっていった。 忘れ物でも取りに来たのか? そう思って何気なく彼女に目をやるとあっちもこちらをチラチラと見ていた。
「ええと…… な、何かな?」
「あ、いや…… そういえば喋ったの初めてだなって思って」
「え? そ、そうだね! 私も渡井君と喋ったの初めてだ……」
別に俺が初めてって言ってるんだから一ノ瀬もそう返さなくていいのに…… なんか微妙な空気が流れる中、一ノ瀬はさっさと教室を出ようとまた俺の横を通り過ぎた。
「おい一ノ瀬」
「へ?」
「鞄取りに来たんじゃないの?」
俺が一ノ瀬の気を散らせたのかよくわからないけど一ノ瀬の机の横には鞄が掛けられていたので見ていてそれを取りに来たんだろうと思った。 だけどテンパっていたのか一ノ瀬はそのまま教室を出ようとしていた。
「あ、あううッ! そうだった、ありがとう、ごめんなさい!」
何故かお礼とごめんなさいを言われ一ノ瀬はペコッと俺に頭を下げた。 大袈裟な奴だなぁ……
だけど隠れがちな一ノ瀬の顔がチラッと見えた時雰囲気も地味でよくわからなかったけどこいつって意外と可愛い顔しているんじゃないかと思った。
恥ずかしかったのか髪の隙間から見えた一ノ瀬のウルッとした大きな目と口をキュッと閉めた表情がとても可愛かった。 もったいないなこいつ。
もうちょっと垢抜けて髪型変えれば吉原並じゃんか。
「別に謝る事ないだろ? まぁ俺はあと帰るから。 じゃあな」
「え? うん。 ま、また明日ね!」
なんだ。 こいつも俺と同じであまりクラスの連中と話している所見掛けないから暗い奴かと思ったらそうでもないのかな? いや、今まで一ノ瀬の事なんか眼中になかったし。 俺がこいつの事を知る由もない。まぁ明日からはまたいつもの通りだろ。 そう思っていた。