第3話 心変わり
白虎の代表が出てくる。
「こちらこそ、こうして黒龍の幹部を奴隷に出来ましたからね。お互い様ですよ。」
「今後とも良い関係でいたいですね。」
俺はそう言い握手を求めた。相手も応じ、がっちり手を組んだ。
その瞬間、俺は死滅魔法を発動させた。魔法が相手の精神を8割がた殺しつくし、白虎の代表は崩れ落ちた。
「何をっ!?」
白虎のヤツらが駆け寄ろうとして、
「動くな!コイツを助けたいならな!」
この言葉にピタリと動きを止める。
「どういうことだ!!」
予想通りで助かる。白虎は正義を掲げている。上の方は分からないが、今ここに立っているヤツらのような下っ端は本気でそれを信じている。故に仲間思いだ。
「コイツはほとんど死んでいる。だが、ほんの少しだけ生きている。この意味わかるな?」
「・・・人質か?」
「あぁ。」
白虎相手だからこそ通じる手。これが黒龍相手だったらそうもいかない。人質は捕まったそいつの力不足だとして無視されるだろう。
「俺たちに何をしろと?」
「簡単だ。この契約書に血判すれば良い。」
俺は先ほどと同じ契約書を取り出した。
「・・・隊長は、生きているんだろうな?」
「当然だ。俺は約束は守る性質だぜ?全員が血判した時点で身柄を引き渡そう。」
“裏切っておいてどの口が言うんだ”という無言の圧があったが、華麗にスルーする。結局彼らには選択肢がないため、
「・・・・・・わかった。」
隊長を受け取って引き上げていく。
「あの人治るんですか?」
ぽつりとセネカが呟く。それは解答を求める口調だった。
「治らないだろう。植物人間にしたからな。」
彼に出来ることは呼吸や睡眠といった体に根付いたものだけだろう。食事は噛むことだけならギリギリ出来るだろうか。
「・・・ゼノは鬼。」
ひどいな、サナは。
何はともあれ、全員無事に作戦が完了出来て良かった。
さて、次の手だ。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「今後の方針を話しておく。」
まだ弱い俺らに休息はない。拠点に戻った俺はすぐに話を切り出した。
「黒龍は俺が、白虎はセルが組織内に食い込んでいく。
俺はドルエンを操って、セルは死んだ白虎の代表になりかわって。」
「わしらはどうするのじゃ?」
「俺たちのサポートをして欲しい。ジーギスは俺たちに武器を、サナは影魔法を使った移動能力、物資運搬能力を、セネカは暴力沙汰の穏便な解決を提供して欲しい。」
影魔法は影と影の間を移動したり影に物を収納できる。
「当面は組織内での立場を怪しい新参者からたんなる新人、もしくは頼れる新人といった感じに変える。わかると思うが、後者が望ましい。
最終目標は組織の頭の相談役。参謀でも良い。組織のNo.2を目指すんだ。組織の行動に大きな影響を与えられる立ち位置になる。」
「・・・ねぇ。」
「うん?」
珍しくサナが自発的に話しかけてきた。
「・・・忘れてないよね?」
相変わらず言葉数が少ない。だがここにわはその意味が分からない者はいない。
「当たり前だろ。二大闇組織の乗っ取りは、前提条件でしかない。俺たちの目的は、もっと大きい。」
◇◇◇◇◇◇◇◇
黒龍で幹部会がある。全ての幹部級が集まり話し合うらしい。俺はドルエンを呼び出した。
「それで、どうするんスか?」
ドルエンはなぜか三下口調になっていた。
「・・・その口調どうしたんだ?正直気味が悪いんだけど。」
「なんでもないっス。」
「はぁ。まず、幹部会には盗聴器をもって参加してもらう。
そこでやってもらいたいことがある。」
◇◇◇◇◇◇◇◇
「では、これから幹部会を始める。」
そんな声が響いた。言ったのは上座に座っているヴァレスという男だ。黒龍のボス。歴代のボスの中でも最も好戦的だ。
それぞれの近況報告をしている。正直、近況とかはどうでも良いから聞き流す。思考は深く沈んでいった。
黒龍は力を欲している。何の理由もなく、目的もないのに、ただただ力だけを求めている。それは昔からだ。ただ、最近はその傾向が強くなっているだけで。俺たちにとっては僥倖だ。なりふり構わず力を集めている黒龍では新人が怪しい目で見られない。むしろ歓迎される。
そして1番大事なのは最近できた白虎。正義をかかげる集団だけあって力だけを重んじる黒龍とは相容れないものがある。また、一般市民からの支持も厚い。「正義」は聞こえが良いのだろう。上層部はわからないが、組織の末端の人間は正義を本気で信じている。
「うむ、次だ。」
いつのまにか近況報告が終わっていたようだ。
さて、ドルエンは上手くやってくれるかな?