05
「たまにいるんだよね。ああいう夢見がちな子」
困ったように微笑んだオズウェルが、優雅に茶器を傾ける。斜陽が空気を赤く変調させ、引かれたカーテンの色を染めた。緊張した面持ちのロイ等がティーセットを囲み、オズウェル王子の話を聞く。突然開催された王族との茶会に、さすがのロイも戸惑いを見せていた。椅子を勧められたハルは頑なに座らず、主人の後ろに控えている。
「夢と現実が区別出来なくなっちゃった感じかな。気に入ってもらえるのは嬉しいんだけど、熱狂しちゃって、他人を害しちゃうのはいただけないな」
憂うようにため息をついたオズウェルが、茶器をソーサーへ戻して両の指を組む。俯けた視線を持ち上げた彼が、やんわりと笑みを浮かべた。
「みんながお互いを思い合って、仲良く出来たらいいんだけどね。はい、この話お仕舞い」
ぱん、両手を合わせて音を立てたオズウェルに、はたと彼等が顔を上げる。にっこりと明るい笑みを見せたこの国の王子が、カミラへ向けて微笑みかけた。
「カミラちゃん、怪我とかしてない? 大丈夫?」
「は、はい。お気遣いいただき、感謝申し上げます」
「あ、普通に喋ってくれていいんだよ? カミラちゃんはお上品な感じで喋ってたね。ロイくんはぶっきら棒な感じだったし。シャルロッテくんは元気いっぱいだったね?」
「シャルロットです……!」
「うんうん、いい感じだね。その調子でお話しよっか」
咄嗟に口をついたシャルロットが、顔色を悪くさせながら姉とロイへ目配せする。にこにこと笑みを浮かべるオズウェルは気安い仕草で、煙に巻くようなそれにロイが短く息をついた。ここで王族の希望を断り、機嫌を損ねてはならない。カミラとシャルロットへ一瞥を向け、彼が薄く唇を開いた。
「では、そのようにさせてもらう」
「ロイ様!?」
「嬉しいな。友達が出来た気分だよ」
益々オズウェルが笑みを深め、上機嫌な様子で茶器を手に取る。胃痛に耐えるような顔で、シャルロットは自動お茶飲み人形と化した。
「気になっていたんだが、何故あなたは学園にいたんだ?」
「忘れ物を取りにね。久しぶりだから懐かしくなっちゃって、護衛に無理を通してもらったんだ」
「そうか」
「ロイくんかっこよかったよ~。カミラちゃん、彼は良い旦那さんになるよ!」
「ごほっ!?」
不意打ちで器官を攻撃されたカミラが、ごほごほ盛大に噎せる。城の使用人が動くよりも先に、ハルがナフキンを用意していた。背中を擦る彼が、「大丈夫ですか?」と囁く。こくこく、彼女の頭が何度も縦に振られた。
その光景をにんまりと見遣り、オズウェルが口角を持ち上げる。楽しげな彼が身を乗り出した。
「それでね、お兄さんきみたちのことを気に入ったから、傍に置きたいんだ」
「断る」
「ロイさ、ロイさあああああん!?!? あんた何しれっと王族様相手にお断ってんですか!? 度胸のカンストレベルどうにかしません!?」
「うーん、でももうお兄さんの中では、決定事項なんだよねー」
「お兄さん!? 強行的過ぎませんか、お兄さあああああああん!?!?!?」
「断る。僕には、田舎でじゃがいも農家を経営し、大草原でロビンと遊ぶ夢がある」
「じゃがいもなら、その辺の庭で育てたらいいよ。シャルロッテくんも『お兄さんっ』て呼んでくれたし。それに、ぼくもそのロビンくんと会いたいなあ?」
「テじゃない、ト!! 俺の名前はシャルロット!!!!!!」
「お静かになさい、シャルロット」
両手で顔を覆って、シャルロットが肩を震わせる。そっとハルが彼の肩を支えた。すんすん震える背を優しく擦る。
「ロビンは可愛い。だが、僕にはロビンを連れてくる権限がない」
「カミラちゃん、お兄さんもロビンくんと遊びたいなー? その辺の庭、広いからいっぱい走らせられるよー?」
「いっぱい走るロビン……」
「くっ、何て姑息な手を……!!」
にーっこりと優しく微笑むオズウェルと、期待に満ちたロイの顔に、胸を押さえてカミラが呻く。わざとらしいまでに『閃いた!』といった顔をしたオズウェルが、似非爽やかな笑顔で手を叩いた。
「そっか! ロイくんとカミラちゃんが結婚したら、いつでもロビンくんと遊べるんじゃないかな?」
「け、結婚!?」
「……なるほど、そうか」
切れ長の目をキリリと瞬かせ、ロイがオズウェルへ尊敬の眼差しを向ける。真っ赤になって慌てふためく姉を見詰め、シャルロットが小さな声で「何にも『なるほど』じゃない」と突っ込んだ。
「そうそう。ふたりの新居は何か適当にお兄さんが見繕ってあげるから、ロイくんはお庭でロビンくんと遊んでるんだよ?」
「駄目!! このお兄さん危ない! 駄目!!!!」
「あはは! 大丈夫だよ、シャルロッテくん。きみの部屋も隣に用意してあげるから」
「駄目絶対!! ロイさん、惑わされちゃいけませんからね! ロビンの飼い主は姉さんです!!」
「カミラちゃんのウエディングドレス姿、楽しみだなー」
「はわわわわわ」
「姉さん!? しっかりしてください、姉さん!!!!」
椅子を蹴る勢いで立ち上がったシャルロットが、懸命に姉を正気に戻そうと呼びかける。しかし真っ赤な頬を両手で押さえた彼女は混乱の渦にあり、そしてロイの心は垂れ耳の大型犬でいっぱいだった。にんまりとオズウェルがほくそ笑む。しかし、不意に顔を上げたロイが口を開いた。
「だが僕は、大自然に囲まれた中でロビンを、」
「わかった。お兄さんもそこに引っ越す」
「田舎が消えます!!!!!」
あはは! 楽しげにオズウェルが笑った。
(登場人物)
ロイ
属性:クール系美人→不思議系天然
固有アイテム:万年筆
転生して、空気を読む技術を失った
カミラ・ブレイディ
属性:悪役令嬢
発生条件:ロイの好感度を一定数上げる
ロイと手を繋いだら、爆発する
シャルロット・ブレイディ
属性:年下敬語
固有アイテム:辞書
一番の功労者。一番肺活量が鍛えられた人
ハル
属性:ロイの従者
注釈:ファンディスクで攻略可能
この人、幸せそうだなあ
ロビン
属性:大型犬
注釈:一番すきなおもちゃはボール
カミラだいすき!!!!!!!
グレイス・ブレア
属性:ゲームヒロイン
注釈:ドーピングアイテム取り締まろう?
一途をこじらせちゃったタイプ
オズウェル・シンビ・ラドルファス
属性:隠しキャラ王子
発生条件:規定のイベントまでに、全ての攻略対象をときめき状態にする
金と権力を持ってはいけないタイプ
他の攻略対象
注釈:レッド、ブラック、ゴールドを抜いた五人戦隊。オトサレタンジャー
強く生きて……