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仕事の幅は広い

 日が昇る前、アタシが起きて着替えていると既に工房の方からは皆の声が聞こえてきていた。昨晩もアルからは何も聞かされていないため、アタシが私服のままで工房と部屋を隔てる扉から顔を覗かせる。すると、5人が一斉にアタシへ視線を飛ばしてきた。目は口ほどに物を言うとは言うけど、露骨すぎでしょ! はぃはぃ、着替えて来ますよっ! 何よ、たまには休ませてくれてもいいじゃない!

 アタシがアルに用意してもらっていた軽装な鎧を着けて出て来ると、またもや皆からの視線がアタシに集中した。な、何なのよ。確かに鎧の金属部分が減ってラインが出やすくはなったけど……。アンタらに見せたい訳じゃない! アタシは見世物じゃないんだぞ!


「ホントに正直な方なんですね」

「だろ?」

「にゃ、にゃんにゃにょよっ!」

「『焦ると呂律回らなくなるんだな。この人……』」


 いつも通りの態度と言うか、アルは動揺すらしないし。アタシがおニューの鎧を着けてきたのに表情も変わらない。ちょっとぐらい見てくれても……。くすんっ……。

 アルが先に指示を出し、彼らはウォーミングアップをする為に出ていった。それを確認するや否やじっとりとした視線でアタシを見ながら、周りをクルクル歩き回っている。しばらくすると何やら考えながらアタシに近づいて来た。鎧の留め具や端、接続部を見回し、彼はアタシに着け心地を問う。製作者としては気になるらしい。気になるのは見方がヤラシイ事。着心地をアタシから聞くと、次はアタシの体を軽く触りながら何かをしていた。はぃっ?! ちょっと……変な所触らないでよ!! よ、鎧の中に手ぇ……。

 アタシがキツく目を閉じて強ばっていたのを他所に、アルは何かを考えていた。考えが纏まりきらないのかな? 彼はまだ少し考えながら、特殊な加工を施された留め具や細部を触り、少しづつ絞めたり、緩めたりして調節している。あ、この為にだったんだ。確かに少し際どかったお尻周りや胸周り、少しキツかった太もものバンドなどを技工系魔法を用いて調整してくれた。

 アタシは闘い方が豪快とよく言われ、他とは比にならないくらい動き回る。そんなアタシのためだろう。邪魔にならず動きを阻害しない。素材も軽く作りを重視しつつ、防御面を両立した設計。だから、アタシの体格を軽く見たり、少し触って確かめ直したみたい。……だけど、触るなら先に一言は言ってよねっ!!


「気をつけ、バンザイ!」

「えっ?! ふぇっ?! あ、はい!」


 間髪入れずに謎の指令。その後にアルは特殊な手袋を着ける。体を屈ませ、鎧を触りながら装飾を弄り始め、窪みを作る加工を始めた。技工魔法が得意なアルからすれば朝飯前の事らしい。指先に付ける特殊な爪の様な道具には、かなり小型な魔法回路が施されている。それにあれは小さいだけじゃない。あの魔法回路は複数の作用が混合され、かなり込み入った物だ。

 武器に用いられる物に関わらず、魔法回路製作は製作者の腕が如実に現れる。上手い下手では片付けられないレベルの性能差が出るのだ。それに魔法回路は精密機械。下手な魔力コントロールだと小型にすればする程破裂しやすくなる。他にも理由はあり過密にすればする程オーバーヒートの危険性が高く、魔力伝導触媒の質や量が少なければ少ない程壊れ易い。アタシ、細かい道具の扱いって苦手なんだよなぁ……。それにあのサイズの道具に仕込んであれだけ微細に使うなんて、やっぱり凄い。でも……、アタシはいつまで手を上げてればいいの? 疲れた……。

 そうこうしてる内に窪みは様々な箇所に作られた。そこにはめ込むのかな? 彼が仕事用に使っているベストから白い楕円形の石を取り出している。なんだろう。体に凄く馴染む様な感覚がする。それを鎧のパーツへと取り付けているようだ。魔法石に見た目は似てるけど、以前見た魔法石とは違う。あれは魔気や魔力に反応する。触媒や素体がデリケートで本来ならば鎧や武器に付けるのは向かない。直ぐに壊れちゃうからね。魔法石の強度はガラス玉くらいかな? でも、この白い石は……魔法石じゃない。


「よし、これで完了だな。試作段階ではあるが、お前が英雄になる武器兼防具ができた」

「えっ?」

「どうした?」

「英雄ってアンタがなるんじゃないの?」

「馬鹿言え、俺じゃ役不足だ。お前らみたいに何か1つでも特出してたならよかったんだが……。俺は残念ながらバランス型でな。今も場に応じて武器を変えて対応してるにすぎない。俺ができるなら、それが1番気は楽だったんだ」


 アタシが呆然としているとアルから額を弾かれた。痛い……。アルは力を抑えているつもりでも魔鬼はあらゆる面でパワーがある。彼は確かに極端に何かが強い訳じゃないけど、いろいろな物が普通よりも数段優秀だ。そんな彼に言われても納得できないよなぁ。アタシなんて今でこそこれだけ力があるけど、学舎の卒業当初なんて酷かったのに……。

 涙を指で拭うと、待っていたらしいアルから頭が痛くなる説明が始まった。学術的な理解をするのにもアルの専門分野は難し過ぎる。長い間学問に触れていないアタシではオーバーヒートが目に見えていた。でも、理解しなきゃ使えないしね。頑張りますっ!


「まずは機構の説明だな。今はできるだけで構わない。そのうち理解してくれ」


 これからアタシが使う物。それは以前とは方向性からしてかなり違う。アタシがこれまで使っていた鎧とは違うのだ。これまではアタシが自力で造形と構築をしていた為、行程が多い分それだけ魔力に無駄が生じた。これからは鎧や外装をアタシが作らないから魔力は結界などに全て費やせる。ただ、アタシの集中力とスタミナが続く限りならば問題ないが、神通力を使うためこれまでの様な無理は厳禁とのことらしい。神通力は確かに強力な力だ。だけど、アタシの体が壊れては元も子もない。アタシの体とリンクを強めるのが神通力を使う最大の利点。その為に鎧の内側はかなり緻密に設計され、神通力を効果的に循環できる媒体である神通力線が張り巡らされている。構築や様々な工程の短縮などから始まり、変化が多くなった。これまでの巨大な外殻を運用するのと違い、小さなままで同等以上の力を用いる事ができるらしい。しかも、かなり少ない神通力の流入で、仕込まれた武装が展開できるとも言われた。

 ここまでは概ね利点と想定していたリスクだ。

 ここからが今の所アタシが抱え、どうしようも無い大きな欠点らしい。

 アタシの体は急激に神通力を動かせてしまう。しかし、いくら強度強化の異能を使えても、体がそんな急激な変化には対応しきれず、悲鳴を上げるに決まっている。だから、鎧を起動させても神通力をじわじわ動かさなければならない為、セットアップに毎度時間がかかるのだ。無理に闘いたくても急激に動かしすぎると神通力は上手く作用しない。体に馴染ませる事が大事らしい。それを懸念してかストッパーも掛けてあると教えてくれた。それだけではなく、今の所は素体強度やアタシの保護が優先の設計であるため、武装も個人用。神通力は魔力などとは桁違いなエネルギー源の為、巻き込みが多発する。そのため他の人員と合わせるのは今は難しいとの事だ。今の所は使ってみなくては解らない。戦闘データもない為、アルはアタシの体を第一に考えて設計してくれたと言う。


「バッチリ見られたな。指輪」

「あ、え? ゆ、指輪……」

「アイツらが最初に見たのはその指輪なんだ。で、お前が隠すために着替えて来たと思い込んだ様だしな」


 派手に赤面しているアタシを彼はニヤリと笑いながら見ている。勘違いしてたぁ……。相手もアタシも。

 直後、アルが後ろから抱きしめて来た。もう、何が何だか解らない。頭が上手く働かなくて、体は火照って言う事をきかなくて……。アルに説明を受けては居たが、神通力を強く持つ人は体にもう1人の自分を宿しているような物らしい。体は1つでも感情の波は2倍……いや、アタシはそれ以上かも。アタシが自分をコントロールできないのはその辺に理由があるらしい。

 神通力は魔力と似て非なる物だ。魔力は外気に満ちている。しかし、神通力は外気や無機質に宿る事は稀だ。解明はされていないが、特定の因子がなければ宿らないらしい。文献によれば、「魂」と呼ばれる概念を持つ生き物であれば、極端に弱くとも極微の神通力組成がある。

 神通力は生きていれば体を巡る物なのだ。でも、一定以上の神通力強度を持つ生き物は体が「魔装」と言って過言でない。神通力は生命エネルギーと比喩される高い動力転換効率を見せる。強過ぎる力は生き物を殺すが、それに対応している血筋が居ない訳ではない。女神族は「時兎」の家から分岐したと言われているが……ほとんどの血筋は違う。神人大戦の後の魔装大戦時、人によって作為的に作られた血筋だ。神通力に耐え、力を御する為の器として。それにも属さないアタシは? 何なんだろぅ……。気になるけど、開けてはいけない箱なんじゃないかって…ね。そう思っちゃうんだ。


「ほーぅ。もうちょい、肉が欲しいかな?」

「はぁっ?! ちょっと! 何てとこに手を突っ込んでっ!」

「ちょいと痩せすぎだぞ? 節約もいいが、体を壊されちゃたまったもんじゃないからな。俺の大切な宝物なんだから」

「……『今、そんな事言わないでよっ!』」

「期待してくれんのはいいけど、今から鍛錬だ。お楽しみは夜にな? はははっ!」


 期待してなかったと言えば嘘になる。彼の近くに居続けているとアタシはおかしく成りそうだった。彼がアタシを避けたり、離れると欲求や不満、不安に飲み込まれそうになったりもしている。そうかと思えば彼が近くに居てくれるだけで安堵や安心、安らぎなんて落ち着いた感情も……。彼の意地悪に対しての小さな怒りや小さな悲しみ。アルが構ってくれた時の強い喜び。コントロールできてない? 違う。アタシは野放しにしてきたアタシをたくさん抱えている。それを統制して、アタシと言う1人にしなくちゃいけないんだ。そしたら、アルにも対抗できるし、彼の意地悪にも対応して……。そこまでできるのかは解らないかな。相手はアルだし。

 アルの後について歩いて行くと5人は既に待っていた。そう言えば、アルが今日はフル装備でいる。……って事は、模擬戦だ。しかも、彼ら5人に対してアタシとアルの2人で相手をするみたい。額に……サークレットかな? アルに付けてもらった後にアタシ達は彼らに歩み寄った。5人が緊張からなのか強ばっている。確かに本気モードの彼を目の前に素面ってのは無理なのかな? この前は彼らも切羽詰まってたし、高揚していた様だからしかたないかな。彼はオンとオフの差が激しいからねぇ。


「これより、実戦系統の模擬戦を執り行う。殺傷性の高い物はできるだけ使うな。殺傷性が低くとも、できる範囲で威力を抑えるか寸止めする事。また、力はどれだけ解放しても構わないが暴走には注意しろ! 遠距離武器には特殊な接触センサーを用いている。急所や生身で接触すると戦闘不能となるからな。合図から20分の内に作戦選定、陣張り、分隊を完了させろ。細かい点は今から質問を受ける」


 最初に手を上げたのはアルフレッド。射撃の流れ弾が周りに出す影響についてだ。それについてはアルが備えている防犯防衛設備で対応できるとの事。アルの家には隠されたりトラップが仕掛けられているとは言え、かなり危険な武器や高価な素材が多数保管されている。防犯は当然、立場からして身を守る為に様々な設備を備えてあるらしい。その中の1つに防御結界がある。その防御結界がある為、流れ弾や近隣の家屋の破壊などには繋がらないらしい。

 淡々とした説明だけどアルもアルフレッドの細かい質問に全て答えてゆく。制度や法をあまり好かないと言うくせに彼自身は意外と堅いのよね。ルールや最低限の足場を盤石にしないと動きたがらないのはいい例。アタシもそれで待たされたみたいな物だし。15年かぁ……。長かったなぁ。


「ご説明ありがとうございます」

「あぁ、他には?」

「はい」

「カルフィアーテか。どうした?」


 模擬戦にも不測の事態や何らかの問題は現れたりする。彼らに起きる急変、魔力の欠乏や、体調不良などの場合の緊急時の連絡についてだ。現代勇者は能力を過度に解放すると、自らに囚われてしまう者が多い。アタシも類に漏れなかったし、実際にアルに助力をもらい勇者会議に登り詰めたんだからね。

 統計や国民の証言からその事象が顕著な為、近隣住民や土地の被害、彼ら自身の安全を保証する為の規則が勇者にもある。勇者協議会の実績評価ランクがAランクになり、任務実績を積むまではまともな任務が与えられない。若い勇者は特に自分の能力に呑まれてしまえば暴走する。潜在能力にもよるが暴走は災害級の被害をもたらし、居住、生産、軍事的防衛などに多大な損害を与えてしまう。それらを危惧しての問いらしい。どうやらカルフィアーテには前例がある様ね。

 アルは当然の様に答えた。彼の作る武器には1部の危険な構造を除き、全てにリミッターやストッパーの類が備え付けられていると。使用者は言わずもがなだし、近隣住民への被害が例え1%でも懸念されるならば施す処置らしい。彼らはこの前の戦績からランクを上げているが、経験は少ないはずだ。それをまだ独り歩きさせるつもりは無いらしい。それに第3中立勢力としてブロッサム様が待機してくれている為、全員の安全や暴走の処理などは問題にはならないとも言う。


「ありがとうございます。安心しました」

「ふむ、他は?」

「……あの、師匠」

「何だ? 関係のない事ならば後で聞く。いいな?」

「は、はぃ。解りました」


 何だろ? ニニンシュアリの態度が急に変わった? 

 アルが全員の様子を見ながら号令をかける。アタシがボーっとしていると今度は鼻を軽く弾かれて悶絶してしまう。蹲っていると彼が屈んでアタシに目線を合わせてきた。……? いつもと表情が違う。何だろ……。アルってボーっとしてるから表情が変わる事は何かのサインだったりするんだよなぁ。口下手だから話さずに溜め込んだり、彼が先に行動してしまう。聞き出してあげなきゃいけない。アタシは気づけたからさ。彼がホントは不器用な事に。……手先は器用なのにね。

 アルの額に額を当てて、アタシも抱きしめてみる。恥ずかしいのか、言葉が思い浮かばないのかな? 違う。悩んでるみたい。アルが深い所で悩んでるって事はアタシにも関わってくる。彼のこれからを大きく左右するんだ。ただ、アルは立ち上がりざまにアタシへ一言告げ、気持ちを切り替える様な深呼吸をした。5人が態勢を整えた事を伝える合図の魔法が放たれている。さて、アタシ達はどう出るかな?


「シルヴィアはなるだけ出るな。お前は細かい機構の扱いに不慣れだ。今は細かく見て、学べ。今回は少しだけ実力を見せてやるよ。魔解の鬼をな」

「う、うん」

「それから、終わって夜になったら少し時間をくれ」

「? 解ったわ」


 アルは攻めるつもりは無いらしい。あくまで迎撃の姿勢。しかも近接に出てくる戦闘員が少ない5人がどう来るかある程度、予想のもとで絞り込んだみたいだし。いくらアルでも……1人で5人相手は辛い気もするんだけど。

 そして、アルがいきなり草原に寝転んだ。アタシの近くを弾丸が飛び抜け、結界に当たり爆ぜた。アルが作り、ニニンシュアリ仕様にチューニングしたらしい対物ライフルだ。スナイパーライフル弾の口径ではない。明らかに弾丸が大きいからね。アタシ達を索敵できて、的確に狙撃ができる場所。場所は限られる。今のでアルはニニンシュアリの場所を突き止めたらしく、次はアルからの狙撃だった。狙撃手だって動く時は動かねばならない。見つからないと言う確証があるなら話は別だけどさ。ニニンシュアリがアルを狙撃した場所からどう動くのか……。

 いや、何かが違う。アルは長距離射撃仕様の銃を構えていない。草原に寝転んで居るのはあくまで次の狙撃からの牽制。アルが狙ってるのはもっと近い場所だ。撃ち放たれた弾丸はかなり近い場所で炸裂し、前線に出てきたカルフィアーテが姿を現す。カルフィアーテは急接近してきた。あの外装は……。あれは魔力を浸透させて外装を動かしてるんだ。アタシの前の闘い方に酷似してる。でも、カルフィアーテはアタシなんかよりも数段魔力コントロールが上手い。体に纏うようにしている外装を自由自在に操り、拳銃へ換装したアルへ猛烈な打撃攻撃を加えてきた。速いし、技のキレは凄いわね。そうか! あの子が武器を得意としなかったのはあの子が格闘家だったからなんだ。アルの体術に合わせて繰り出すアクロバティックな体術は心紅を彷彿とさせる。けど、カルフィアーテは空中や体に負荷をかけない動かし方だ。まるでダンサーみたい。攻め方も上手。外装についている蠍の尾の様な物、様々な外部機器をも織り交ぜてアルを攻め続けている。


「はぁ……はぁ……『換装や状況判断がはやすぎる。アシュだけじゃなくてアルフが狙撃を目論んでるのも読んでるんだ。必ず片方の射線を俺で潰しに来る』」

「『ふむ、冷静なヤツだな。こういう類はトラブルや責任って重荷に対して脆い。危機感はあるんだろうがどうも踏切りが弱い』」


 あれだけ猛烈に攻められてもアルは一貫してカルフィアーテに攻撃をしない。ゼロ距離での攻防は本来ならアルがあまり得意としない戦闘距離だ。拳や脚での打撃を中心としたカルフィアーテだけど、アルはハンドガンのフレームや腕を上手く使い、完全に流している。ここまで来ればカルフィアーテも技が読まれている事を解っているはずだ。

 外装を使って底上げしているに過ぎない筋力。彼がどんな技を使おうとしているのかは解らない。けどたまに兆候を見せる型の違う技は封殺されている。前線に出て来そうなのはあと2人。レジアデスとミュラーだ。その2人を出さずに彼だけが闘うのは戦術的に問題がある。どう考えてもカルフィアーテのスタミナではアルを抑えられない。

 カルフィアーテは魔力量、魔力圧が極端に高く、魔法に関する体内スペックが他のメンバーとは段違いだ。それだけではなく、体外への浸透性や魔法への利用も上手い。あれで最低ランクのCランクであったのが驚いている。しかし、彼には大きな弱点があるみたいね。魔力や知識はあっても体力がなく、肉体強度がそれ程高くないんだ。それに、彼の出身地であるヴォクランと外界の魔気は若干だけど組成が異なる。だから、彼にはこの状況はかなり辛いはずなのだ。肌に合わない魔力、ある程度使えるとは言え格闘技での長時間の牽制。相手がアルでは尚更辛いはずだ。歩が悪すぎる。


「……はっ!『レジア、あとは頼んだ!』」

「『閃光魔法で撹乱し、交代。狙撃手に狙わせる戦法か。確かに、仲間とは言えお互いの武器や新しい立ち位置が解らない以上はこうなるか。だが、甘いぞ』」


 目が眩んでしまい、アタシには見えなかった。けど、カルフィアーテはアルにノックアウトされていた。どうやら、アルの目を眩ませ、レジアデスかミュラーのどちらかと交代するつもりだったようだ。しかし、引き際が遅れた様でアルに捕まり、格闘技のカウンター技を受け、地面に叩きつけられていた。手加減されてはいるが地面に叩きつけられ、すぐに起き上がれないだろう。

 そんなカルフィアーテの体が急に浮き、彼の家の方へと流れてゆく。あぁ、ブロッサム様、そこにいらっしゃったんですね。ブロッサム様がカルフィアーテの手当てをしてくれるらしい。呆れた様な表情をし、煙管をふかしながら1度家屋に入って行く。

 次に舌打ちしながら現れたのはレジアデス。くの字に曲がった特徴的な形の武器を装備している。背中に身の丈程の巨大な物。腰に刃渡り60cm程の物を2本。各所に小さな物が相当数見られ、今は腰にあった物を構えていた。トンファーの様に持ち刃物である為、切り裂く事もできる。ただ、あの武器の持ち味はそこではない。ブーメランの様な形を採用し、極端に軽くて交換のしやすい刃を用いた新しいジャンルの武器だ。その名も「飛来剣」。刃のサイズや使い方で呼び名が変わり、レジアデスの物は飛来剣らしい。解説しながらレジアデスと闘うなんて随分余裕じゃない! そんな事してると足元をすくわれるわよ?


「『なんちゅー人だ! 技術者だから攻撃も緻密で武器に頼ってると思ってたんだが! カルフィアーテを投げ飛ばして1発ノックアウト……こりゃ気が抜けん!』」

「『ガタイの割に柔軟で発達した筋組織と強固な骨か、流石は龍の末裔。ドラグアだ』」


 闘いの中で進化する。それが勇者に最も求められる資質。運や武器の性能、知識だけじゃ生き残れない。今の時勢に戦は少ないからたくさんの勇者が生き残っている。一昔前、ブロッサム様が現役の頃は若年勇者の生き残り率はかなり低かったらしいしね。

 レジアデスはアルがどんな手を使って来るかを見ながら距離を選んでいる。風魔法の応用で走る速度を上げながら、アルの隙を狙っているようだ。確かに飛来剣の構造ならどんな距離でも闘える。今は隙のない近距離射撃による撹乱をされている為、レジアデスは満足に近づけていない。ただ、レジアデスは距離を取らない様に走っているようだ。それもそうよ。アルは本来なら遠距離の敵を的確に撃ち抜くスナイパー。場合に合わせて様々に武器を使うけど、彼が好むのはやはり長い銃だ。


「『近づけねぇ!! 埒があかんぞっ』」

「『イライラするのが早すぎる。短気だなぁ……シルヴィアには負けるが』」


 レジアデスが急加速したタイミングに合わせ、アルも跳ね上がる。レジアデスの苦虫を噛み潰したような表情とは裏腹にアルは別の挙動に移った。アルを的確に狙っているのはレジアデスだけじゃない。ニニンシュアリはまだ狙撃を狙っているんだ。防御の構えをしているアル。魔法弾を放ち、何かを止めにかかった。

 アルが発砲したのは明らかにレジアデスの攻撃を止める為ではない。ニニンシュアリか? 違う。発砲音がしなかった。そうか、アルフレッドまでもが弓を使った狙撃を行っているんだ。太陽を上手く使い撹乱を合わせた曲射。彼は緻密な魔法戦略が得意。1回の攻撃に時間はかかれど、強大な一撃を放つ事ができる。狙い澄ましていたみたいね。アルがカルフィアーテ、レジアデス、ミュラーの誰かとの闘いの中で隙を見せるのを……。でも残念。殺しちゃいけないし、トラウマを植え付けちゃいけないからアルも慎重な闘い方だけど。彼が見えている策略を真っ向から受ける訳が無い。

 途端にアルの動きが変わる。彼らの教導を行う立場の為、あまり強くは出ずにいたらしい。しかし、経験が浅く、闘い方を知らないメンバーと、闘い方を知っているメンバーが混在したパーティーを目の前にしている。そうなれば個人個人を見据える為、アルも彼らに合わせた挙動を選んで来たのだ。カルフィアーテは作戦に従順過ぎた為に引き際を間違えた。これは闘い方を知らない証拠。自分の限界を知らないから起きる1番危険な状態だ。だから、アルは早々にカルフィアーテを抑えたのだろう。


「『レジアデスは闘える。ただし、頭が悪いよりも本能や感覚に従順すぎる。だから技巧を苦手とするんだな』」

「『ちっくしょぅめぃ! 急に動きが変わってきぃよった!』」


 今のアルに攻められたら厄介だ。勇者にもいろいろなタイプがいる。アルはどちらかと言うと作戦を用いて相手を陥れたり、戦力を削り瓦解させるタイプの闘い方を好む。彼には単体で使える広範囲破壊能力や大規模防衛能力が無いからだ。戦況へ一撃での変化を与えられないため、彼は表立たない闘い方をしている。その分の緻密な分析や考察からの転換がアルの強み、ネチネチと長時間つつかれ続けたらたまったもんじゃない。……アタシも毎度毎度の口撃に負けてるし。はぁ〜ぁ。

 前回の闘い方からして、レジアデスは個人での前線ヘイトキーピングが得意らしい。仲間を守り、自らや前線を押し上げる強い意志。ずば抜けた体質やスタミナ、内在ポテンシャルは本当に素晴らしい。だけど、彼には一発逆転を狙える大味な攻撃が無いんだ。それを補いたくて大剣を使い、派手さやパワーを演出していたみたい。でも、それは虚勢に過ぎない。アルに対してそれは通用しないんだ。だから……気をつけて、レジアデス。貴方の長所をより伸ばして闘わないとアルに一撃で……。



「『何とかミュラーにひきつがねー…しまっ!』」

「『体力的に限界か』」


 レジアデスが急に跳ね飛ばされた。カルフィアーテの様に地の筋力や体力は低くないはず。だから、彼は目の前に詰め寄り、さすがに2人目で体力が減ってきているはずのアルを鎮めるつもりだったらしい。少しは頭を使わなくちゃ。アルがそんな安直な考えで倒せるようなら、アタシは苦労なんてして無い。アンタ達は5人。アルは1人…とアタシがおまけ。最初からアタシを出すつもりは無いみたいだから、彼1人で5人を抑えてしまうつもりだったんだ。体力や魔力、残弾を温存する為に無理な攻撃をしていないはず。策士よねぇ。

 無理やりに突っ込んできたレジアデス。アルは空気弾魔法の出力を上げて放ち、自分とレジアデスに空間を作り出したのだ。レジアデスも反撃の為に飛来剣を投げるが……。やはり来ちゃったか。アルが何故、魔解の鬼なのかと言う事だ。

 魔法のスペシャリストと言う意味のこの二つ名。確かにアルの常用魔法は石化魔法、風化魔法、衝撃魔法など。戦術的に魔法を幅広く使い、敵を封殺する闘い方をする。蘇生や回復をさせず、敵を立ち上がらせない手法だ。でも、その魔法の根本は別の所にあるのよ。それは……捕縛魔法。いいえ、魔力や魔気を縛り、相手に魔法を使わせない技。これが彼の戦術においての基本なの。


「『嘘だろ……』」

「『まぁ、この年齢にしちゃ及第点かな?』」


 レジアデスは気付けなかったんだ。アルが防除魔法を用意していた事にね。レジアデスの武器が即座に落下し、アルは急に前進した。比較的に魔法弾の威力が小さな拳銃で衝撃魔法を繰り出す。威力はかなり絞られてたけど、あれじゃ再起不能だろう。例に外れず、ブロッサム様がレジアデスを回収していた。

 すると、太陽の方から雄叫びが上がり、このタイミングを狙っていたかの様にミュラーが直滑降の居合を繰り出す。今までの状態からしてレジアデスとミュラーは肉体派みたいね。何よりも動きが軽い。引き合いに出したら悪いけど、カルフィアーテは型に縛られ過ぎていて動きが悪い。レジアデスやミュラーには野性的な本能の様な物が強いのかな? 代わりに彼らはあまり考えていない様に見えるけど……。

 ミュラーの奇襲はアルには見切られていた。ミュラーは空振りを物ともせず、翼に加速魔法を利用してアルを攻め立てようとしている。後がないのも有るのだろう。だが、それよりもミュラーは楽しそうに刀を振り抜く。彼には対人の戦闘経験や決まった武器は一切無い。新しい事に挑戦し、過酷な環境にも負けない気持ちの持ち方。アルは責め立てられてはいないがレジアデスの時とまた違う対応を始めた。ミュラーに合わせているんだ。

 ミュラーの刀は彼の持つ魔気特性を反映し、魔気で刃を構築している物だ。炎や風などの現象が現れ、不定形物により造形された刃とは違う。魔気は現象の因子で魔力よりもさらに検知しにくい物でもある。魔力は魔法へ直接作用できるが、魔気は魔法としては直接作用できない。だから、魔気を無理矢理に集め、現象としての特長を示す刃をつくるのだ。魔気は極微の粒子。種類事に硬度がある訳では無い。魔気を造形し、構築する為の性能差は武器の質と使用者の気持ちによる面が非常に強いのよ。……アタシの銀の結界も似た感じ。銀の元素に着いている鉱石属の魔気を無理やり集約してるからね。


「『凄い! 力が漲るぞっ!』」

「『炎か、そんな気はしていたが。型もないから雑味もある。教えこまねば……暴発するな』」


 アルがまさか近接戦闘技術を見せるとは思わなかった。大口径の拳銃を残したまま、彼は腰のホルダーから円筒型の物を引き出して構える。伸縮式の特殊警棒? ミュラーのフルスイングは物の見事に流されてしまい、受身をとったミュラーは隙を作らないようにしている。だが、アルは器用だ。特出した力を持たないからと何かを避ける様にしているアル。技量、道具、知識で才能へと挑む。

 数回の打ち合いの末、ミュラーが後ろに下がる。両手で柄を握り、押し通るつもりらしい。アルはどうするつもりなのだろうか。ニニンシュアリとアルフレッドも未だ動きを見せない。そこも気にしなくてはならないはずだ。それでもアルは動かない。


「『は? う、動かな…ぐはっ!』」

「『成長は見込める。だが、詰めが甘い』」


 ミュラーのフルスイングを警棒の先端で止めた。……方法は心当たりがあるけど、あんなタイミングで決められるような魔法じゃない。アルは暁月さんの言うように戦略魔法の専門家である。だけど、呪縛系の複雑な呪いをあんな使い方で持ち出すなんて……。

 これがカルフィアーテなら通用しなかっただろう。アルが彼に魔法を使わなかったのには理由がある。カルフィアーテは魔法が見える。ヴォクランに住まう種族の多くは未だに精霊を視認できるのだ。ヴォクランの外界に住まう人々にはそれが失われている。それができるのは古代人の血を強く残すヴォクラン人達だけなんだ。精霊と共存し、精霊の様に生きる彼らには精霊と同じ様にある程度魔力の流れや種類を知覚できるらしい。カルフィアーテはそれがあるから生き残れてきた。でも、知識を武器にするアルには通用しなかったみたいね。

 レジアデスやミュラーは強い魔法が使えないらしい。しかも魔力量も魔力圧にしてもかなり低いみたいね。だから、彼にはあのタイプの武器なんだ。アルはあえて同じ類の武器を使い、ミュラーの知識や観察力を試した。あの警棒は外気から吸入された魔力を纏う事で強度を増し、体内にある魔力の特性で能力を添加できる。つまり、魔法を待機状態で警棒に認識させれば、それなりの時間や準備はいるが、比較的簡単に発動できるのだ。ミュラーは自分の武器も理解できていなかった。初めて使った武器だから? 違うわ。アルなら使い方くらいは教えてたはず。なら、気づかなくちゃ行けないわ。それが……勇者って人種なのよ。膠着は長く続かず、ミュラーは衝撃魔法でレジアデスと同様に無力化されてしまった。


「さて、ニニンシュアリ。俺と近距離での銃撃戦をしようとは……いい度胸だな!」

「くっ!『カース・ミストを認識された?! しかも背後だぞ?!』」


 カルフィアーテから始まりミュラーが倒されるまでは、打撃や斬撃などの比較的近距離の戦闘だった。それが一転して今度は激しい近距離の銃撃戦。アルフレッドは近距離に出てこれない様で、ニニンシュアリが出てくる事は理解していたらしい。ニニンシュアリがアルの事をよく知っているなら、尚更彼を前には出さないだろうし、同じ舞台で闘うのは避けねばならない事も理解しているはず。

 アタシがアルと出撃する時に索敵や無理な一撃必殺、広範囲破壊をしないのはアルの技術を知っているからだ。彼の実弾射撃、魔法射撃や応用射撃は我が国随一の精度を誇る。いくら銃が得意な金の卵だったとして、そんなプロに挑んで勝てる見込みは……。本人が一番よく解っているんだろう。だから、ニニンシュアリは自身の種族特有能力を用いて一発逆転を狙いたかったらしい。

 でも、残念。アルの力は何もスナイピングだけじゃないのよね。あらゆる隠密や潜伏、斥候など何でも行う。そんな人の探知能力が弱い訳が無い。ニニンシュアリは激しく動揺してたけど、アルは的確にニニンシュアリを抑えにかかる。


「『狙いはいいが、焦ると精度を欠くな』」

「『全部読まれてる! なんでこんなに先読みできるんだよ!』」


 あぁぁ、あれは可哀想……。完全にアルのペースじゃないの。ニニンシュアリがどれだけやれるのかを知りたいが為、彼の動きをコントロールするダミーを加えているんだ。自分が踊らされている事にも気づけないくらいに追いつめられているのかな? それにしても嫌味よねぇ。解っててあぁやってるんだから。勝たせる気がない……。レベルを徐々に上げる為に何度も叩き潰すつもりなんだ。我武者羅しているニニンシュアリは諦めない。アルは食らいついてくるニニンシュアリに一貫して真剣な眼差しを向けている。どこで止めるか、無理をさせずに抑えるかを見ているのだろう。前回の戦闘でニニンシュアリは自身の疲労や集中力の低下を隠し、無理な闘いを敢行していた。勇者はそれを絶対にしてはならない。特に彼の様な後方支援要員は尚更だ。いつ味方を巻き込むかも解らない。彼らには味方を守る為の力がある。だけど、それは味方を無防備な面から巻き込む諸刃の剣でもあるのよ。

 そんな時、アルやニニンシュアリに予想打にしないできごとが起きる。アタシも驚いた。ニニンシュアリとアルが撃ち合いをする合間に黒い蛇の目傘が割って入ったのだ。しかも、蛇の目傘は銃撃が止まった際、アルに向けて振り抜かれた。咄嗟の判断でアルは後退し、武器の状態を変更して本気で闘う意志を見せる。アルが個人戦で出し惜しみ無く闘うのは珍しい。

 これまではいかに模擬戦であっても彼が攻撃の手を激しく見せるのは珍しかった。今でさえとても珍しいのだ。学舎時代にも彼は実習の模擬戦すら手数を見せず、最低限の技を駆使して相手を無力化していた。……ブロッサム様の意図は解らないけれど、アルは手を抜かずに立ち向かうつもりらしい。魔法石に魔気を流し込み、解除と展開を行ってブロッサム様に対応できる布陣を見せたのだ。


「アルや、弱い者虐めはいかんぞ? お前さんもたまにはやられる立場にたってみな」

「手合わせは初めてですかね。お手柔らかにっ!」


 ブロッサム様が前に立ちはだかり、アルからの射撃を空気の壁で無力化している。その間に気力を使い切ったらしく、座り込んだニニンシュアリ。彼をアタシが回収し、起き上がって来ていたカルフィアーテ、レジアデス、ミュラーと共に見学している。カルフィアーテの精霊魔法でアルフレッドにも帰還を促す連絡を出させた。アタシは結界を張り、最低限この子達だけでも守らなくちゃ! ブロッサム様の戦闘はこの目にした事はないけれど、あの暁月さんの隠す事ができない恐れを引き出した程だ。余程の災禍となるのだろう。アタシは何が起きてもいいようにしていた。アルは恐れもせずに大勇者と向き合っている。

 ブロッサム様は自分の孫とて容赦ない。ニニンシュアリや他のメンバーの安全が確認された途端に凄まじい魔法の乱打を始めた。ブロッサム様は空間の覇者。爆発や空気の圧縮、魔法により可能な広範囲攻撃ならばどんな場所でも的確に打ち出す。凄まじい速度の手数と攻撃に当たらないアルも凄いが、そのアルの的確な反撃を完全に無効化するブロッサム様。もうアタシには流石としか言い表せない。どちらも現代主力勇者などとはレベルが違う……。

 そんなブロッサム様には現役の最後まで頑なに抑えていた案件がある。アタシも長い間不思議に思っていた。序列が高い勇者がいかに進言してもブロッサム様は首を縦には振らなかった事案らしい。それは彼の勇者会議への入席だ。あれだけの実力があれば、彼も上位席に座る事ができるだろう。でも、アルには何かの理由があるらしく、様々な派閥に所属すらしていない。アタシが足取りを追えなかったのもその辺に理由がある。資格を持っているはずだが、頑なに勇者会議や上位勇者協議会、果ては勇者協議会にさえ彼は席を置かない。おかげで太刀海に借りを作ってまで探し出すはめになったんだからねっ!


「……クリエイト」

炸羅符噴(さくらふぶ)き……『シルヴィアが大切なのかねぇ。解ったよ。自由におやり』」


 体が既に蛇の容貌を見せるブロッサム様。体表の鱗や瞳孔、舌、足がよく解る部分だ。それにしても強烈な魔力? 違う。あれは……神通力。ブロッサム様は素体が弱い所もアタシに近い。でも、ブロッサム様は……体が魔法でできていると言って過言でない人だ。体内の神通力強度の話を聞いたことはないはずなのに。それなのに彼女は体から神通力が漏れ出ている。アタシなど比にならない強度だ。ビリビリと振動や感電に近い痛みとして知覚してしまう。気を抜いたら意識を持ってかれそうだ。それだけではない。カルフィアーテとニニンシュアリ、アルフレッドが苦しみ始めている。アタシも自己防衛を兼ねて銀の結界を張り、後ろの後輩達を守った。

 聞いた事しか無かった「国喰いの大蛇」がどの様な物かが露わになっているのだ。ブロッサム様も恐らくアタシと似たタイプ。アタシと違う点と言えば、内在魔力量がずば抜けて高い点。同様の点と言えば彼女の体はその内在している能力を全力投球できない脆弱さ。それを隠している。脆弱さを補う為、アルのお爺様がブロッサム様の武器に施したのは……。周囲の環境中から魔力を吸い上げる力を強化する機構。そして、ブロッサム様の力を最大限に活かす為の助長を魔装に行わせているんだ。ブロッサム様が何故、「喰らう」のか。ブロッサム様は……魔力は愚か神通力や他の生命エネルギーを吸収できる。ただし、それ相応の対価を払ってね。


「さすがばーちゃん。容赦ねーな」

「当たり前さね。アンタはアタシの孫だよ? 手を抜いて勝てない事くらいわかるよ。でも、残念だ。アンタはアタシには教えてくれないんだねぇ」

「今、見せる訳にはいかないんでね。それから、これは模擬戦なんですが?」

「そうだなぁ。よしっ! 殺しはしないが、数日は動けないくらいは痛めつけておこうかね『我が家の嫁に言わなくちゃならん事もあるし』」


 冷や汗を見せるアルなんて初めて見た。ブロッサム様が先程から準備しているのは彼女の十八番。何かを呟いていたアルへそれを繰り出すつもりらしい。

 「炸羅符噴き」とは。周囲の生物、物質から神通力や魔力を吸い上げ、体の周りで作り出した火の粉へ添加するのが魔法の下拵えだ。一見は冴えないし、暑いだけの加熱魔法なんだけど、火の粉の散る量が多ければ多い程に威力は増してゆく。体の周りに何かの鎧を作ったアルは先程の警棒を突き出し、ブロッサム様へ突進した。だが、ブロッサム様は蛇の目傘で抑えるに徹している。炸羅符噴きはもう十分な威力になっているはず。なのに何故? 舞う火の粉の量は増え続け、ヤバい。ヤバいよこれっ!!

 銀の結界を作る剣を突き立て、アタシも間合いに飛び込む。アルが何故、隠密や伏兵に徹するのか……。それは彼に一撃必殺が無いだけではないのだ。重量級の攻撃を防御できる術を持っていないかららしい。彼の構築能力は作り上げるだけならばアタシなんかよりも数段よくできても、強度に自信を持てないとよく話していたし。彼がいくら頑張ってもあの技を凌げるとは思えない。事実、彼が構築した黒い鎧や盾では炸羅符噴きの連爆を防御しきれていないのだ。力の差もあるはず。ブロッサム様は何故このタイミングに?


「『ダメか……。やはりクリエイトでは強度が持てない』」

「アル!」


 ブロッサム様が始めた着火は次々に誘爆し、彼らを包む様にして広がる。間に合わ無かった……。アタシも近づく前に吹き飛ばされ、何とか体勢を立て直す。その程度しかできなかったから……。身を守るので精一杯だった。

 あれが過去の敵国を呑み込んだ災禍の桜。勇者でも防御できないようでは通常の軍隊では対応すらできなかっただろう。これがまだ若く、力に欠けた暁月さんが見た景色。生命エネルギーを喰らいながら、大軍勢を1人で食い潰す様はまさに「魔王」であったと。意識がなく、所々火傷が目立つアルを魔法で運ぶブロッサム様。アルが完膚無きまでに追い込まれ、倒されるなんて……。彼女が何も無くあんな事はしないだろうけど。

 アタシとブロッサム様でアルを手当し、部屋のベッドに寝かせていた。ブロッサム様は優しく、愛おしそおに孫の額を撫でる。優しい瞳だ。とても、綺麗。アタシの視線に気づいたブロッサム様。彼女が台所に歩いて行きながら教えてくれた。ブロッサム様はアルの育ての親らしい。アルのお母様はアルの出産から少しして亡くなったらしく、アルをここまで育て上げたのはブロッサム様のようだ。その後はブロッサム様がお茶をマグカップと湯呑みに入れ、マグカップをアタシに手渡す。自分で淹れたお茶を不味いといいながら啜ってる。ホント……不思議な人達だなぁ。


「ガキ共には買い出しをさせてるよ。今夜はアンタらの祝いをしなくちゃだからね」


 アタシが周囲を見回している事に気づいたらしく、その答えも教えてくれる。男の子達には仕事を押し付けて下町に向かわせたと言う。ブロッサム様がわざわざアタシを残したのかがやっと解った。アタシに何かを言わなくちゃいけないらしい。

 アルが何故、このタイミングでアタシを抱き込みながら事を起こそうとしたのか……。憶測でしかないと前置きをしながらブロッサム様は口を開く。触りは暁月さんから聞いていたけれど、ブロッサム様からは当事者しか知らない詳細を語られた。ブロッサム様の旦那さんが亡くなったあの事件は異変の一部に過ぎないと。アルはそれを個人的に追っているらしい。ブロッサム様にはまだ解らない事ばかりで、知り得る情報はアルが魔装に取り込まれそうになった事件しか無いと言う。でも、魔装が動き出したと言うことは、何らかの波が迫っている現れなのだと……。ブロッサム様は呟いた。


「アタシの先祖、初代オーガは異界の民だったらしい。異界で何が起きたのかまでは解明されてはいないよ。だが、初代オーガは彼の同士を異界へ返す為、自らはこちらの世界に残っている。アタシはその後にこちらで根ざした子孫だ」


 アルが読み解いた古文書によれば、古い血筋に魔装が寄り添う事。それは大戦の始まりを意味する。初代オーガは「クリエイト」と呼ばれる力を持ち、銃撃を得意とした。彼は異界の民であり、力を持たなかったようだ。だが、彼の意志(オモイ)が形作った銃により、彼の望みを成し遂げたらしい。問題は初代オーガとアルには似通った点が多すぎる事。彼はそれを調べる事も同時にしている。それは彼が忌み嫌う騒乱を生み出さない為の行動なのだとか。初代オーガは……国に伝わるお伽噺では騒乱の血と呼ばれた。何故なのかは今をもって解らないが、初代オーガはあらゆる闘いの伝承中に現れている。

 彼がニニンシュアリ達や女子パーティーを受け入れたのにはこの辺りに理由が有りそうだ。伝承によればこの世界にはまだ何人もの初代勇者の子孫がいるはずなのだ。初代時兎から連なる暁月さんや心紅。水研の家には太刀海と潮音。ニニンシュアリ達……。アタシ、彼自身…………。英雄となった彼らの血が耐える事はない。なぜなら、その様に運命づけられて居るからなのだ。彼はこれを「呪い」と表現した。この世界は波によって姿形が変わり、新たに形作られていく。初代達が神から勝ち取り、人を滅ぼそうとした魔に抗い守り抜いた。それが終息し、一時の平穏に人は浸っていたんだ。

 そして、事件は始まりを迎えた。アルのお爺様とアルは神人大戦の勇者の血筋。かなり弱い血筋ではあったらしいからお爺様の方は目立たなかった。だけど、アルやリクアニミスさんは違う。暁月さんも言わずもがな。昔の勇者とは違い、実力や素体の整わない勇者には魔装は使えない。だから、彼はいちはやく自らに降りかかり、危惧される災禍を払おうと動いていたのだ。その為に彼自身は……。


「あの子が歪めてしまったから事実は異なるんだよ。今も当時もあの子は魔装の研究者。祖父を助けたくて…祖父を助ける為に全力を尽くした」

「アル……」

「瀕死の重傷を負いながらも尽力してくれた弦月を助けたくて……。できなかった無力な自分を呪ってるんだ」


 アルは自分が取り込まれたと話したらしい。しかし、アルはお爺様の名誉の為にそれを隠し、自らが取り込まれたと話した。お爺様はハイエルフと人のハーフだったらしく、魔装には耐性が無かった。魔装を触り続ける内、神通力を吸い尽くされつつあり、彼は……取り込まれた。アルはそれに気づき、何とか祖父を救おうとしたらしい。でも、当時の彼では分析はできても対抗策がなく、酷い手傷を負ってしまった。

 アルのSOSもあり、お爺様が取り込まれた時、異変に気づいたブロッサム様と弦月様が臨場した。その時アルは祖父を助けようと無理に闘い、片腕を失っていたという。弦月様も魔装を抑え込む為に闘い、手傷を負ってそれが原因で亡くなった。ブロッサム様も大怪我をしたが何とか一命を取り留め、塞ぎ込んでいたアルのケアに徹していたらしい。そのアルが最近心を開いた。何が原因なのかを知りたかったのだと言う。


「あの子はあの人にそっくりなんだよねぇ……。まったく、似なくてもいい所ばかり似てしまったよ。あの人も多くを語らないし、口下手だからか人付き合いも下手だったしなぁ。なのに、この子はアンタには……違うんだよなぁ」


 ブロッサム様の瞳が人の姿から変化する。ブロッサム様は魔力や神通力の影響を受けず、感情の変動で聖獣の姿が露顕する。全く隠す気も無いみたいだしね。アタシの首へ長い舌が巻き付き、アタシの反応を見ているようだ。素直に、怖い……。

 アタシが震えているのを他所に、舌を納めて顎を直しながらアタシにじっとりとした視線を向けてくる。あぁ、アルやアルのお父様の観察する視線はブロッサム様に似たんだ。ブロッサム様は湯呑にもう一度お茶を入れてから、そのまま無表情に話しだした。ブロッサム様から淡々とアタシのプロフィールが並べられて行く。アタシや1部の知人しか知らない様な物まで……。アタシの出生、学位や成績、職、資格……。お茶を飲みながらそこまで言われると怖くて仕方がなかった。無意識に体が震え、寒気も止まらない。果てはアタシの現在のプロポーションまで言い当てられた。な、なんの為に?

 あまりにもアタシの反応が面白く無いのか、ブロッサム様はそれ以外を語らない。だが、ここからはブロッサム様が苦笑いしていた。踏ん切りがつかずにいたアタシの15年へのダメ出しだ。アルのお爺様もそうだったらしいけど、彼らは引っ張り込まないと振り返りはしてくれないのだと……。だんだんとブロッサム様に笑顔が見え始めた。彼女の話した内容からすると、ブロッサム様は昔からかなり危ない人だったらしい。昔の彼女は見境なく力で事を片付けた。彼女の機嫌しだいで力を使うし、完膚無きまでにボコボコにするし、と……。


「そりゃ、アタシは酷い跳ねっ返りと言われたよっ! はっはっはっ! だからこそ今は落ち着いていられるのが落ち着かなくてねぇ」

「あ、あの、ブロッサム様。アタシに何をお求めに?」

「ん? そんなに気になるのかい? ……ふむ、そうだね。家の鍛冶師としての家名はアルが継ぐ」

「鍛冶師としての? とは?」

「解っているのに聞くのかい? 猫かぶってるアンタは可愛くないよ! ふふっ、頭のいいアンタなら解ってるんだろ? アタシがアンタをこんなに調べ込んだ理由をねぇ。さぁて、どう煮焼きしてやろうかなぁ」

「ひっ!!」


 それから酷い目にあった。アルの望む形を目指すのにはアタシは力が足りなすぎる。戦闘力とかではなく、生活感や周りを観察する視野、何よりも経験と抗う為になりふり構わない覚悟とか。これからの人生……アルと一緒に歩んで行くと言う事は波乱を共に乗り越える覚悟が要る。しかも1つや2つじゃない。アルに振り回されるのは諦めなくちゃならないし、アタシはそれでもアルを愛し抜く覚悟を持たなくちゃならないんだ。

 そして、ブロッサム様もアルとは別に探していたらしい。自身の後継を……。アルのお母様もリクアニミスさんのお母様も既に亡くなってしまっている。実力もあったらしいから、継がせたかったらしいけど。

 暁月さんがセッティングしたお見合いを知り、ブロッサム様はアタシに的を絞ったらしい。実はアタシがお見合いの時に着ていた着物は暁月さんとブロッサム様がアルに作らせた物らしい。アルがアタシを調べたり、囲って居たのは知っていたのだと言われた。お茶を飲み終えて、玄関口で煙管をふかした後に物凄ーく怖い笑顔をアタシに向けてくる。にたぁっと笑ったブロッサム様はアタシをもう逃がさないつもりなんだ。……アタシの足元にはブロッサム様の足? 蛇化した尾が忍んでいた。いつ巻き取られてもおかしくはない。

 そんなブロッサム様は大和の名を「夜桜」と言う。古来より防人として名高く、戦に生きた鬼の家柄、オーガ家。その名は初代オーガが名乗り、彼が初代水研と共に大和を作った。国防を生業としたオーガの一族、その末裔であるオーガス・ブロッサム様は……戦鬼(イクサギ)の名を受け継いでいる。彼らの一族は鍛冶師として有名だからか、その名は知られて居らず。当主とは別に代々を女性が受け継いできた家名。自らの代で絶えるのか…と憂いていたらしい。そんな折にアタシと言う都合のいい嫁が来たのだ。これはまたと無いチャンス。ただ、この話はアルがいる場所では話せなかったと言う。アルはブロッサム様から見たら不自然な程にアタシへ手をかけているらしい。だから、アルに気づかれたとしてもアタシの意志を先に固めたかったらしいのだ。アルはブロッサム様譲りの頑固さもある。簡単には折れてくれない。それに……ブロッサム様も嬉しかったらしいのだ。子共や孫は皆が男性。ブロッサム様の愛する大和のファッションを共有できる女子の家族ができることが。


「家は皆、男ばかりで華がなくてねぇ。あの着物も髪飾りも……アタシがアルに作らせた。化粧品や他の小物は暁月が加えた様だがね」

「で、でも、アタシは……血を受け継いでは」

「血筋なんか関係ないさ。これは……内密に頼むよ? アタシは養女なのさ。名は継いだし、近い力は確かにあるが、今更さね」

「アタシはブロッサム様の様に強くは……」

「そうさねぇ。アンタは確かに今のままなら弱いさ。でも、アンタもあの子の横に居たいんだろ? なら、アンタは忘れちゃならないよ。アンタは1人じゃない。必ず誰かが居る」


 年齢的には60を超えているはずなのに若々しくて瑞々しい肌。肌荒れひとつなく、美しい。そんなブロッサム様に見とれていると……。痛いっ!! ブロッサム様の爪は長くて鋭利だ。額を弾かれ、またもや悶絶していた。日に当たるのを嫌うせいか不自然に色白のブロッサム様。ブロッサム様がアルのベッドへ近づき、アルのポーチを探っている。目当ての物を見つけたのか取り出し、掌に乗せてアタシへそれが何なのか問うてきている。真っ黒い球体。キラキラと絶え間なく何かが弾け、消える様な…光を閉じ込める様な…不気味な感じがする石だ。アタシの体が引き込まれて行くような気味の悪い感覚。まさか、これって……。

 ブロッサム様は頷き、これをアタシに見せた事を絶対に秘密にしろと言われた。ブロッサム様はアルのポーチへ戻し、少し離れて再び話し始める。あれは……魔装だ。武器の形をしていない魔装をアタシは初めて見た。ブロッサム様曰く、アルは魔装を低リスクで運用する方法や魔装の設計理論、構造、循環方式を既に紐解いたと言う。それなのに魔装を使う事を推奨していない。自身が使うのに? ブロッサム様が今度は自身の額と胸元を見せる。痛々しい傷跡の中心と額に空いた空洞には……何らかの輝石がはめ込まれている。この石もアタシを惹き付けてしまう。ブロッサム様が何を言いたいのかは解った。でも、受け入れることができるかと言えばそうではない。

 ……アルがアタシに魔装を使わせない理由。それはアタシ自身が魔装に耐性が無いから。魔装は使用者を選ぶ。魔装には感情はなく、とにかくプログラムされている内容を遂行できるエネルギーを欲しているだけなのだ。アタシの内在する神通力ならば1つの魔装が蘇っても死には至らないと思う。目覚めている魔装がアタシに取り憑こうとしている様だが、アタシが今は拒否しているから問題にはなっていない。問題は魔装にも様々な特徴がある事。アルはそれすら突き止め、アタシを守る為に遠巻きにする事をやめた? ブロッサム様の意見と初めて体感した数種の魔装による反応。危機感と表すには生易しい感情が芽生えていた。アルへの感謝や…心に現れた恐怖。


「……アタシは何度か死にかけて居てね。旦那に助けられて生き長らえ、胸の魔装で歳を取らない。アタシは時間を糧に生きてるんだ。死ねないのさ」


 ブロッサム様は神通力は強くない。しかし、神通力が強い様に見えるのは亡くなったはずのお爺様が関わっている。まさか……ここでその言葉が現れるとは思わなかった。

 縛心の呪い。

 本来ならば死に直面した人間へもたらされる呪い。しかし、魔装をどの様にして作るのか。そこに縛心の呪いが関わっているのだ。お爺様は……最後の力を振り絞り、魔装を乗っ取ったのではないかとアルが言っていたらしい。ブロッサム様を対象者とし、お爺様が自身と化した魔装を糧に縛心の呪いをかけたのだ。魔装に必要なエネルギーは神通力。神通力は生命エネルギーの様な物だ。魔装が神通力をブロッサム様に提供する代わりに魔装はブロッサム様を依り代にして形を残した。お爺様の意志は生きている。愛した人を生き長らえさせることで……。

 ブロッサム様は望まなかったと言う。そこまでして生きながらえる様な歳でもなく、愛した夫を救いきれ無かった。でも、ブロッサム様は今を歩むと決めた。お爺様の思いや苦悩を背負うアルを1人にはできない。自らの運命を受け入れ、自身が必要とされなくなるまで、こうして気ままに生きると決めたのだと。


「魔装ってのは厄介なもんだ。心を縛心の呪いで武器に押さえつけ、エネルギーを得たら目的だけを貫かせる様に作られた兵器なんだから。でも、魔装は……依り代となった心によって姿を変える。アタシとあの人は今、一緒さ」

「アタシとアルもそんな夫婦になれるでしょうか」

「ん? 勘違いしちゃいかんよ。アタシとあの人の人生は幸せは少なかった。小さな幸せを守る為にアタシは闘ったつもりだったけど。アタシ達の様にはなっちゃいかん。アンタ達は……幸せにならなくちゃね」


 ブロッサム様はアタシの頭を撫でながら、優しい笑顔を向けてくれた。だんだんとアルがアタシを遠ざけたりしていた理由が浮き彫りになり始めている。彼と歩むべき道を定める覚悟もしなくちゃね。アタシを選んでくれたアルとアタシの幸せを願ってくれる方を安心させなくちゃ……。アタシも決めなくちゃ!


「解りました」

「んぅ?」

「お祖母様。お祖母様の家名を受け継ぎ、7代目の戦鬼となる為、精進いたしますっ!」

「はっ! はっ! はっ! よく言った! ビシバシ扱いてやる。覚悟おしよ!」

「はぃっ!」

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