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古と繋ぐ星と城

「よし、ブラン? 想定区画の避難は完了したかい?」

『こちらブラン、作業関係者の避難、目視確認できました。西部統括官』

「了解したよ。じゃ、コビンさん! 檜枝! お願い!」

「あいよー」

「うーっし! ガッツリ行くぞーっ! 無限図書館(インデックス)解放……、書面流用(テキストコピー)!」


 はいはい。ミュラーですよ。

 今日は夜桜勇者塾の小さな塾生候補や、各地から移入する関係者を集めてある。目的は初歩的な魔法の教導だ。講師には紅葉嬢とアリストクレアさんがついている。できればニニンシュアリのがよかったらしいんだけど、今日はニニンシュアリと心月の巫女様は、定期的に行う必要のある儀式らしくて来ていない。

 紅葉嬢も檜枝の魔法に合わせて魔法を発動、檜枝の魔法を視覚化し、どんな行程で組み立てられるかを教えているんだ。因みに紅葉嬢は檜枝のやりすぎを抑える意味も兼ねてきているらしく、親子で張り合うようにガンのつけあいが続く。地面に両手を突いた檜枝の魔法は、今から作り上げる区画の施設の建屋を立ち上げているのだ。実際は、紅葉嬢が反対魔法で押さえつけ、説明を加えながら徐々に組み立てさせている。これも檜枝の訓練と、他の子の授業が目的。

 まあ、あの親子はな。周りから『アホ紅葉』と『バカ檜枝』などと言われるが、魔法に関しては……バカにもアホにもなるけれど、それ以外は割とまともなんだけどな。あ、いや、紅葉嬢は割と暴走気味か。檜枝は女性関係に逃げ腰だし。ギャラリーもそんな親子のバトルを楽しそうに見ている。これは娯楽の提供にも一役かっているととるべきなんだろうか?


「紅葉、趣旨を忘れんな。檜枝を教えられんのは魔法の発動規模的にお前だけなんだからな? 解ってんのか?」

「わ、解ってますから」

「おし、んじゃ、説明しようか。檜枝と紅葉先生の魔法についてだが……」


 アリストクレアさんってかなりぶっきらぼうなのに、教えるの自体は凄く上手いんだよな。息子や弟子にはわざと解りにくい表現をして、旅をさせる傾向が強いのに、基礎的な場合はかなり丁寧だし。

 今この場で教導が行われているのは、基本的に小さな予備熟成よりも小さな子供たち。まだまだ幼く魔法は使わせられないし、やれるのは基礎中の基礎である魔法の組み上げ方だ。そういう意味では好んで魔法を使う檜枝は、例示に使いやすいんだろう。檜枝は魔力を直接操作し、器物を作り上げる魔法を好む。最も基本的でありながら、最も実力差が出る魔力用法でもあるんだけどな。

 第1に魔力を確り認識できているか。これができていなければ、そもそもまともな器物を作り上げるなど不可能。できはするが、建築や防御魔法においては事故を招いたり、防御しきれないなんて根本的な問題に直結するんだ。

 第2に認識した魔力をその通りに張り巡らせる事ができるかだろう。魔力が認識できても、それを上手いことイメージして組み上げられるかはそれこそ素質で向き不向きがある。意外と難しいから基本的に反復練習だな。

 第3にそれを微細に調整し、寸分違わず形を整えられるか。これは素質よりも性格や訓練の回数が直結する。大雑把なヤツだと魔法建築は歪むし、雑な物になりやすい。まあ、戦闘魔法なら多少は問題ないが、焦りやすいヤツは気をつけた方がいい。魔法の暴発はなんにおいても大事故に繋がるから。


「最後に集中力だな。今は親子で競り合ってるが、これ程の実力者は稀だ。あまり参考にならん。だから、毎日10回でいいから、得意属性の魔法で何かを作る訓練をするといい」

「今はそんなにキチキチしなくていいからね? でも、できれば10回全部が綺麗に揃った方がいいから、頑張って!」


 最後にアリストクレアさんと紅葉嬢が締めたとたん、碧壇鋼(アダマンタイト)製の骨格や紫覇鋼(オリハルコン)の骨格ができあがる。それを見たアリストクレアさんは目頭を抑え、紅葉嬢も『あちゃ〜……』と苦笑い。

 そして、いきなり地面が揺れ、アリストクレアさんは更に盛大なため息。紅葉嬢もヒクヒクと痙攣するこめかみを抑えていた。うん。バカ檜枝だな。実は、今日作る予定だったのは泳鳶や5人の妻が住まい。敵からの襲撃時に立てこもれるサイズの邸宅……領主館を建築するだけだったんだ。それをさっきの高さから、高さを50m程を持ち上げ、台の様な形へ整形。馬車を通せられる螺旋型の周回型のスロープまで造形。さらに、その台形の高台より若干低い程度の高さに抑えた堅牢な防壁で囲ってある。ご丁寧に言語な城門までな。

 これもう城だよな?

 ただ、多分これは檜枝のせいじゃないぞ? 後ろで何やら制御盤をの様な物をいじっているコビンが指示を出してるからな。あ、アリストクレアさんはそれも気づいてるっぽいな。たぶん、アレはダスとコビンが引いた完成予想図を、文字魔法を応用した魔法でイメージ的に取り込み魔法で造形。アリストクレアさんや紅葉嬢には規模までは伝わっていなかったらしい。


「お疲れ様、檜枝。たまには大規模魔法を使わせてあげる約束だったし。どうだい? スッキリした?」

「うん! やっぱ魔法は使わないとね! 話し合いも悪くはないけど、使わないと楽しくないもんね!」


 檜枝の魔法は泳鳶の許可があったのか。まあ、泳鳶も檜枝の暴発を起こさせない為の事だろうし。あんまり溜め込むと暴発するかもだ。いくら力があっても子供。特に魔法に関してはバカになる檜枝だ。この処置は正しいな。

 ただ、やり過ぎはやり過ぎだ。

 後ろで計器のパネルをいじっていたコビンが頭を掻きながら溜息をついた。後ろで資材を運んでいる力仕事班を率いていたダズに報告している。ダズも沈鬱そうな表情をしてしゃがみ込んだ。何か予定が狂ったらしく、さらに後ろから現れたキースも檜枝にチョップを入れた。デキは良いが、材料の問題と工程を飛ばしすぎらしい。ま、泳鳶が宥めているから、想定内のようだ。コビンとダズを呼び、設計図と行程表を見ながら作業行程を入れ替えている。それを覗いたキースも笑顔になり、移住してきた魔術師達を呼んでいる。ヤーヤック老やその弟子、元宮廷魔術師、カトリア嬢、ローリエ姫、ラベンダー姫や爛華の御一家から数名。中心の城から飛び立ち、城郭の各頂点に配置されていく。

 また、檜枝は岩や土の関わる魔法に関しては万能だ。そうなると土木建築系の工事に魔法を応用するのはお茶の子さいさい。……となって、今度は農業系の知識が深いリリアーナ嬢と白麗嬢が随伴し、調子に乗った檜枝がまた馬鹿みたいな事をやらかした。外郭の一部を貫通するように用水路が通し、台地の外周を深堀して水堀として利用、その水路を市街地区画にくまなく張り巡らした上で、主要な運河級水路を少し離れた海へ流れ込むようぶち抜いたのだ。あ、これ港も作れるんじゃないか?


「これでいいの?」

「うーん。できれば水路を要塞内郭では十字にして頂きたく。私共は体が乾きすぎるのは辛いので」

「りょーかい! えいっ! 亀裂(クラック)


 あのバカ……。流石のコビンもキレ気味。ダズは興味深そうにしてはいるが呆れ、キースも庇いきれないと零して苦笑い。

 ただ、いつの間に現れていたのか、アリストクレアさん、リクアニミスさん、クルシュワル様はその造形美や機能性にうんうん頷いている。職人さん方は興味の範疇が違うらしい。しかし、アリストクレアさんはゆっくり檜枝に歩み寄り、迷わず脳天にゲンコツを入れた。あ、泳鳶が合図を出していたのか。

 今回三兄弟が考えたコンセプトは泳鳶が籠城も視野に入れた城郭を作るつもりだった。一段高い砦型の居城とその下に市街地を構える構想だった。しかも、自由に創作して遊ぶための口実に、アリストクレアさん全面出資。その台地がスロープを残して削り取られ、水路が下を通り城が宙に浮いている。まさにあり得ない桃源郷ができているのだ。ま、荒野のど真ん中に浮遊島ができたんだからね。

 これは檜枝のバカは鉱石系の魔法が得意な特性を全面に押し出し、風碌晶(フウロクショウ)と呼ばれる高純度の風魔素が結晶化した物を造ったのだ。それを盤上に形成し、城を浮かべている。また、同系統の方法で水の魔素結晶、青漣晶(セイレンショウ)で水場を確保し、土の魔素結晶である橙凝晶(トウギョウショウ)で地盤は安定。ルシェ西部に、新たな不思議スポットができてしまった。


「お~ま~え~なあ~っ! いくらお前にとっては簡単な魔法でも、そんなぽんぽんと伝説級の鉱石を作り出すんじゃねえっ! バカタレが!」

「ひぃっ! ごめんなさい! え、泳兄が住むんだし、どうせなら機能的でかっこいい方がいいかなーって……」

「はあ……。泳鳶、こいつと三兄弟を借りてくぞ。どうせならこれ以上ない不思議スポットにしてやる」

「え? これ以上派手にするんですか?!!」


 アリストクレアさんはリクアニミスさん、クルシュワル様も誘ってニヤリと笑い。「おうっ」と後ろ手に手を挙げ、図面をひったくりながら歩いていく。小脇に抱えられた檜枝は少々哀れだが、あれくらいで済んでるんだまだましか。

 こっちもこっちで引率組は阿鼻叫喚だ。檜枝がやり過ぎて夜桜勇者塾の塾生は大興奮。まー、趣旨としては外れず、魔法技術の宝庫ではある為、爛華のお姉さんや椿様まで参加して、興奮気味に説明している。アイツ、古代技術まで使ってやがったのか。ヤバいな。

 ここからは授業な自由参加。基本この場に居るのは泳鳶が経営していく領の住民だ。この土地の現実を知ってもらう意味でも、『灰氣汚染』と呼ばれる異常な氣の高まりから起こる災害が起きた事もアリストクレアさんが説明済みだ。その除染も済んではいるが、この土地は元から入植もなかったことから最後の最後まで後回しになっていた見捨てられた土地でもあった。それでも開拓民となる彼らにはここしかよりどころはないが……。いや、目の前で奇跡を起こされているからね。本当ならば夢も希望もないと言う悲痛な話をしておこうとアリストクレアさんが口を開いた矢先だったから、各種族の代表も困惑顔。とうのアリストクレアさんもその奇跡の1つに加担している始末。

 あと、奇跡を起こしているのは、檜枝やアリストクレアさん達だけじゃない。

 見学に来ている生徒達で1番興奮しているのは、ドリアドの子女達。あの子達は森に囲まれた土地に住んでるからな。今、草も花も……樹木なんて以ての外。完全な荒野だから、来た直後は寂しそうだったんだが……。途中からハイエルフの皆さんの話そっちのけで、あちこちに樹魔法を行使して草花を生茂らせていく。ただ、彼女らはまだ子供のドリアド族だ。緑化できる範囲は知れている。アレでも相当力としては強いらしいけど、樹木は無理らしい。できて若木手前の状態だ。

 悔しいらしくて、あちこちでしょぼんとしたりバタバタとだだをこねだした。……いや、まっ茶色の荒野を一瞬であちこちを花畑にしたんだから十分凄いんだがな? あと、こっちは奇跡じゃないが子供達の興奮からちょっと大変だ。蜥蜴人(リザードマン)の子供達が、新設された水路で遊び始めたのを、アワアワと白麗嬢が止めている。最終的には彼女まで飛び込み、全員を捕まえていたが。


「だ、旦那様、申し訳ございません。旦那様すらお使いになられていない水場をあのように」

「大丈夫だよ。気にしてないから。それより、寒くない? もう晩秋だから、冷えるよ?」

「だだだだだ大丈夫です! 頑丈だけが取り柄ですから!」


 水場は蜥蜴人では生活の基本だからな。衣食住の住に当てはまるわけだから。……それよりも鈍感故か。我が息子も結構誑しの才能あるぞ? 恋愛に免疫なさそうな白麗嬢はもう湯気もでそうなくらい赤面している。ああ、甘い。甘ったるい。口の中が蜂蜜味だ。パール嬢はホントに何も言わなかったし、この感じなら大丈夫そうだね。……違うな。パール嬢は未来の自宅を夢みてる。どんな妄想かは知らないが、かなり白熱しているらしい。ほっとこう。

 ただ、檜枝が居なくなってしまったせいか、リリアーナ嬢が残念そうにしている。リリアーナ嬢はクラウゾナスでは農学者の学位を持っていて、自分が役に立てる土壌改良の前に檜枝が居なくなってしまったからな。そこに先程からあちこちを花畑に変えていた子女達の父親が娘を引き連れて現れる。可愛らしい娘さん達は、ワラワラとリリアーナ嬢の方へ群がった。個々人がかなり自由な性格らしく、わちゃわちゃと指向性のない話題をそれぞれがリリアーナ嬢に言うから、リリアーナ嬢も困ってしまっている。

 そのリリアーナ嬢に自由人の遺伝原因であろうヴォーレル帝が、土を触りながら話しかけた。ほんとにドリアド族は自由だよな。ま、精霊族は総じて気まぐれで束縛を嫌うし、自由の象徴みたいなもんだけど。

 体中にドリアド族の子女を装備したリリアーナ嬢が屈んでいるヴォーレル帝に近寄る。そのヴォーレル帝はあくまで薬師。一応は樹木の維持管理の知識はドリアドだけに豊富だが、それにも限度があった。ここまで傷んでしまった土壌を生き返らせるのは……。と苦笑い。そこにリリアーナ嬢がフンスっ! っと脇を締めながら捲し立てる。


「だ、大丈夫です! 時間はかかりますが、これだけ水があれば……。私の技術も利用できますから」

「……薬品類は必要になるかな?」

「え?」

「私は帝である前に、薬師でね。薬って言うのは別に人に使うだけじゃないんだよ。使い方はそれこそ人次第。そうじゃないかな?」


 ヴォーレル帝がリリアーナ嬢と会話をしている間、個々人が自由に遊んでいたドリアド族の子女達。すると、どの子が初めにやりだしたかはわからないが、いきなり協調性の見受けられる行動を起こしだす。まだ幼いドリアドの姫様方が面白い事を始めたのだ。

 え? 数? 俺も最近知ったのだが、ドリアド族はドリアド族同士であるならば、1回の交配で10人単位の子が生まれるらしい。クラヴィディア様とでは異種間であったから、母親のクラヴィディア様に寄ったらしいけど。しかし、純粋なドリアド族の姫様達がいきなり下半身を根っこに変え、両手を地面につけた。力を溜め、姫様達は魔力と神通力を解き放ち、土を混ぜっ返した。あの子達あんな事できるんだな。ヴォーレル帝も優しく娘達を撫で回しながら……、あ、あれってドリアド族の秘術?! 

 見てよかったのかとも思ったが、ヴォーレル帝曰く、やろうと思ってやれる者はあまり居ないから……と。居ないわけじゃないんだな。

 ヴォーレル帝も苦笑いしながら、チラリと見たのは遠くで大規模建築魔法を行使している檜枝達だ。檜枝は聞いたことがあるけど、アリストクレアさんもらしい。まあ、あの人は別格だから。って……あの人たちのことはいいんだよ。どこまで掘ってもそこが見えないからさ。ヴォーレル帝が言うにはドリアド族も習熟は必要で、その秘術を練習するのもドリアドの王族、帝家には必要なことらしい。農耕とは違うが、土地を良好に保って森を保守するのは帝家の務めだからと。まだ娘さん達は種を混ぜ込んだり、薬品類を投与はできない。まだ、土に適度な空気を混ぜ込む事の練習中なのだ。


「おねーさん! どう? どう? すごいー?」

「これねー、ちちうえにおしえてもらったの!」

「どじょうかいりょうのきほんは、みずとくうき!」

「それができたらびせいぶつ? をそだてる!」

「びせーぶつがそだったらあ、やすませてー、やっとそだてられる!」

「さいごはっ! とーさまのっ! きまほうっ!」


 ちっさい娘たちの纏まりの無さに呆れを込めて、ヴォーレル帝がもの凄い苦笑いしている。それすらどうでもいいと言わんばかりに、娘さん達はわちゃわちゃと動き回る。さらに、わ〜! って言いながら、娘達が嬉しそうにぴょんぴょん飛び跳ね出した。両手を頭の上で合わせ、無軌道にぴょんぴょんはね回る。ダメだホントに精霊に近い種族はよくわからん。女神族もそうだけどドリアド族もかなり自由だ。

 呆れたままのヴォーレル帝だがリリアーナ嬢を促し、リリアーナ嬢が得意らしい水の魔術で霧雨を降らせる。それだけじゃない。それに合わせてまた姫様達が土を攪拌させ、また霧雨を降らせる。ヴォーレル帝は頷きながら、自身も指先をクルクル回し、姫様達のまだ拙い術を手伝う。そりゃ最年長で5歳、一番下の子で2歳の女の子ですから。仕方ないですね。

 一頻りの作業が終了したことで額の汗をぬぐうリリアーナ嬢。楽しそうにぴょんぴょんする姫達をまた楽しそうに見るのは、その他の子供達。聖刻本土ですらこんなに色とりどり、特に人族の子が混じっているのは珍しい。あの場に集められたのが、いかに選抜された生え抜きの子供達だとしても、いきなり魔法は使えない。……が、皆がドリアド族の姫様達の真似をしてぴょんぴょんしだした。

 もうしっちゃかめっちゃか。しかし、ドリアド族の姫様方のおかげでリリアーナ嬢が考えていた作付面積をクリア。種や苗は用意していないらしいから今日はここまでだろう。リリアーナ嬢もかなり魔力を使ったせいか、少し疲れの色が濃い。


「お疲れ様、リリアーナさん」

「え、泳鳶様……こちらこそありがとうございます。わたくしのわがままでこの様なことまでやらせていただいて」

「ははは、あまり締め付け過ぎても効率は上がりませんから。これも必要な事です『……と、言うよりもリリアーナさんとパールは離しとかないと可哀想だからな。いつか胃薬のお世話になりそうだし』」

「は、はい。ありがとう………ございます」


 泳鳶が労いの言葉を言うが、体力が無尽蔵な幼児達は、まだ目をキラキラさせている。言いたい事は『次は?』ってとこかな? 作業できるのが楽しいドリアド族の姫様達も、ギャラリーも、次は何が起きるのかを凄く楽しみにしている。

 うん。リリアーナ嬢やハイエルフの大人達もかなり困っている。今、ドリアド族の姫様達が深さ50cm程までを柔らかく鋤直した。それをリリアーナ嬢が土壌改良用の調整剤を水の魔術に混ぜて散布。それを再び姫様達が混ぜ返し、畝型に整えた。最後はお父上がムラを整えていたが。

 この土地は寝かせねばならない。……と、ヴォーレル帝が小さく呟いた。この土地は灰化現象で余程強い生き物でなければ死滅してしまっている。それは微生物も含まれた。つまり、この土地にはリリアーナ嬢が散布した微生物と、ヴォーレル帝謹製の栄養剤以外は何も無い状態。余程強い植物なら育ちはするだろうが、大半は枯れるだろうし、育っても実も不良な物になるだろう。リリアーナ嬢の計画では、良い種苗から、系統育種を積み重ねる計画らしい。その為には良い作物を作る事は必須事項だろう。


「やれやれ、仕方ないね。本当はコレをやるのはしんどいんだけどミュラー君。僕を掴んでお城のある台地まで運んでくれない?」

「あー、なら俺が運びまさー。姫様達も行きたいでしょうし」

「お、ありがたいね。龍王レジアデス君。実は僕、龍の背中は割と気に入ってたんだ」

「なら私も行きましょう。貴方だけでは何往復もしなくてはいけませんし」

「助かるぜ、ベラ」

「ありがとうございます。ベラドニア龍妃」


 レジアデスが立候補し、ベラドニア嬢も参加してくれたため、他の子達も運んで、かなり高い位置にある城の横へ着地。城自体がクソでかいな。コレ、聖刻のフォーチュナリー王城よりもデカくないか?

 その横に土の露出した水場があり、ヴォーレル帝は少しの間をウロウロ歩き回る。何かを探してる感じだな。そこにアリストクレアさんから一緒に来ていた泳鳶に連絡が入る。まだ、ヴォーレル帝は準備に時間がかかるらしい。数十人単位の娘さんを引き連れて散歩している。

 そして、アリストクレアさんが10数えるカウントダウンを聞いていたら、いきなり目線が高くなった。数十メートル単位で……な。何事かと、俺が空から確認したら、檜枝に……ローリエ姫が密着して魔法を使ったらしい。しかも、アリストクレアさんが何かの計器を使い、細かな指示をしていた様で、下にいたリリアーナ嬢は唖然。リリアーナ嬢が予定していた耕作地と、住宅を構えられる範囲の土地を囲う様に地面が持ち上がったんだから。しかも、新たに巨大な魔法陣が描かれて超広範囲の城壁が順々に組み上がったのだ。


「おいおい……。ホントに何でもありだなあ。檜枝の魔力を使わずにローリエ姫のアホみたいに多い魔力と神通力でパンプアップと……。かなりの広範囲だが大丈…あ? え? もう1段上げる?」

『おう、もう50m少々でヴォーレルがやろうとしてる事に必要な神通力が賄える場所まで引き上げられるからな。まさか、地脈が弱ってて足りないとは思わなかったぜ』

「は? それはどういう……、うわ~……」


 今度はカウントダウン無しで地面が持ち上がった。アリストクレアさんの話では地脈をぐにゃりと上に曲げる形にする様にしたんだと。理由は俺にはわからん。学者様にしか理解できない範囲だ。しかし、どう考えても無理が出て……ないな。確かに持ち上がったのは一回がせいぜい50m程度。一回程度なら誤差の範囲だけどさ。

 この作業のスグ後、ヴォーレル帝の娘さん達に覿面な変化が出た。先程の地面に手を突いた後に、手を合わせて突き上げながらジャンプする運動を始める。ドリアド族は種族的に小柄だから、お嬢様達も5歳から2歳くらいなのに小さいからか……。うん。なんか変な風景だな。しかも、ドリアド族の頭には葉や花があり、大概みんなそれが名前に由来する。ローリエ姫にはローリエの葉。ラベンダー姫はまんまラベンダーの花と言った具合に。その葉や花もいつもは重力に従い生えてんだけど、ジャンプと連動する様にピンッて伸びるんだよな。可愛いは可愛いんだが……カオスだ。

 そして、父親の周りを各々に掛け声をかけながらクルクル走り回り出した。ギュイーン! とか、ブゥーン! とか、キィーン! とか……。

 なんだ? ……というか、両手を一文字に広げてテケテケ走るから、走りにくくないのだろうか? 突っ込んでもしゃーないんだけどな? レジアデスも俺ももう絶句。ドリアド族の本当の意味での秘技を見る事になった。


「森の王たる我が御霊、心霊の契により現れたまえ。我らが尊き御心よ。我らが親しき血脈よ。此度、潮騒の血を祀らんと、我が神祖の伊吹を賜らん。()の血を、()の地を護れ、聖樹召植」


 ヴォーレル帝が唱えた言葉がどんな意味を持つのかはよく分からんが、彼が最後に地面へ手を突くとそこから小さな双葉が生えた。ヴォーレル帝もいつもならここで止めるらしいのだが、娘さん達に合図を出した。

 先程までは小さな円を描く様に、ちびっ子達がクルクル回るだけだった。しかし、10数秒後には目に見えた変化が訪れる。立ち上がったヴォーレル帝が両手を広げ、神通力を若芽に注ぐ。ただ若芽では全てを受け入れられる訳ではないのか、木の育ちは遅かったのだ。それを周りをずっと走り回っている色とりどりの娘さん達が受け止め、ゆっくり木に馴染ませるためなのか? 娘さん達にまとわりつく光の玉を、彼女らがクルクル回りながら押し返している。

 明らかに成長速度が加速し、最終的には高さが30mはあり、幹の太さが直径10mはくだらない大樹が聳え立っていた。暖かい感じのする樹だ。俺でもそう感じる訳だから、そういう感受性が特に鋭敏なハイエルフの子供達や、ドリアド族の娘さんは大樹の周囲でリラックスしてたり、無駄にはしゃいでたり歌っていたりしている。


「し、神樹?」

「アレ? コレは意図した結果では?」

「いやいや、僕もいつもどおり聖樹の植樹をしたつもりだったんだけど、こんな事は類を見ないよ。……たぶん、先輩の仕業だ。予想としては、ここって3脈の交点なんだろうね。この為か……」

「3脈? 空脈、地脈、海脈のことですか?」

「うん。そうだね。たぶんなんだけど、せ……あー、癖で出ちゃうんだ。ごめんよ。アリストクレア殿は檜枝君に指示して地面を持ち上げたじゃない? アレをする事で、元からある地脈の下に無理やり曲げた海脈をねじ込んで、城の高さを空脈の1番濃い場所に調整したんだ」


 あー、もう。ホントにむちゃくちゃだ。

 いつの間にか興味を持った鷲人、特に空を飛べる鷲人の子達が高い所で寝始めてるし。あっちこっちでハイエルフの子供達やドリアド族の姫様達が歌ったり、ぴょんぴょんしてたり、コロコロしだしたよ。……いつの間にやら俺らの足元付近まで芝みたいな植物が広がってるし……。あー、楽しそうな匂いを嗅ぎ取った小兎ちゃん軍団まで加わった。もう収拾がつかない。可愛い物好きな紅葉嬢やハイエルフの大人達はめっちゃ鼻息荒くキャーキャー言ってるが。

 檜枝はやり過ぎた事で泳鳶に怒られるのかとビクビクしていた。……が、泳鳶は檜枝に感謝の言葉を述べ、今後の事について脅しをかけている。……うん。

 まー、なんだ。人間関係ってのは大小の摩擦を生むことで起きる。良い方向にも悪い方向にもな。その中で夫婦仲や親子仲って物もある。今、それに直面しているのが泳鳶と檜枝なんだ。

 檜枝のはまだしっかりとは言ってなかったよな? 

 泳鳶は重婚であるが、檜枝は重婚を取らず、複婚という結婚形態を選んだ。檜枝の場合は3人が乗り気だった点や、そもそもそれ以外に挙手がなかったからそれが可能だった。ま、増える可能性は十分にあるぞ? 鷲人の場合みたいに濃い血を残す為に、いきなりって可能性は非常に高いとも言える。


「アルフレッド君には悪いことをしたとは思ったけど、僕も背に腹は変えられないからね。だから、ローリエやラベンダーが好いている檜枝君はどうしても欲しかった」

「ドリアド族は慣習に凝り固まり、一夫一妻だったそうですね?」

「うん。だから、あの子達の結婚にはいろんな思惑があるんだよ。そうなっても、ならずともいいんだけどね?」


 ヴォーレル帝の話ではたぶんローリエ姫は通常のドリアド族よりも様々な血を混ぜて生まれてきていると言う。それは彼の手には余り、暴発した時は手が付けられなくなってしまう。そもそもクラヴィディア様自身はドワーフの女性ではあるが、片親は龍族だ。……で、ローリエ姫の場合は魔力、神通力だけではなく龍氣まで扱えると言う。しかも、恐ろしいのが神通力に至っては若い時のシルヴィアさん並みらしく、その影響が少なからず彼女には出ている。もう十分に気圏域に入っているんだ。

 だから、ローリエ姫は彼女が好いていて、森人の力、ハイエルフの力を十全に扱える檜枝。我々鬼の一派に属する少年とのカップリングは理想中の理想だった。この先で互いを補い合う面でも、種族、技術の相性でも。

 さらにローリエ姫はお母上に影響されてか、男が複数の妻を持つ事に忌避感はない。むしろ肯定派な為、カトリア嬢やラベンダー姫も何のことなく檜枝のハーレムに加わった。まあ、ハーレムと言うよりはローリエ姫と檜枝の家庭。カトリア嬢と檜枝の家庭。ラベンダー姫と檜枝の家庭。……と3つの家庭を檜枝や妻達との話し合いで調整するんだ。ま、同じ館で一緒に住むらしいけどな。あの三人娘がめっちゃ仲良いから。


「カトリアさんは檜枝さんとのお子は考えているんですの?」

「そだねー。できたら産みたいけど、私まだ、15だから。法律的にはOKとは言っても体が伴わなくちゃね」

「はー、人間さんは大変なんですね」

「そういえばドリアド族はどうやって増えるの? やっぱり人と……」

「私達は種子交配ですね。人族の方では想像しにくいかと」


 あっちのグループは、やけに生々しいな。

 ヴォーレル帝に聞いたら教えてくるた。ドリアド族はいくつかの繁殖方法がある。人間よりも彼らは精霊に近く、繁殖に置ける自由度が高いらしい。ただ、ドリアド族は精霊としての因子が強いことから、発情しないため交配頻度が低く総数は少な目……だった。

 1つ目が組織融合生殖。男性の花や葉の一部を女性が吸収し、時期になると種を産む。その種を、プランターや花壇で育てると、小さなドリアド族が増えていく。これが1番数が増える。ドリアド族間で1番行われるやり方。

 2つ目が人間と同じやり方、性交渉による胎児出産。基本的に生まれる数が多いため、人間なら明らかに未熟児レベルの子供を生み、動き出すまではプランターで育てる。

 最後は精霊的価値観を強く押し出した融合後輩。ふたりの体を1度全て融合させ、父:母:子=4:4:2くらいの割合で分裂する。その際、男も女も新生児へエネルギーを移した分だけ若返るというおまけつき。

 つまり、相手の種族により方法を変える。ドリアド族は精霊に近くある為、食料をそれ程必要としていないこともあるからな。人前に出ないから数が少ないと勘違いされているけど、リナリア帝国には無数のドリアド族がいるらしい。正しくはドリアド族は寿命がなく、肉体を失うと木霊として生きる。このような個々人での生活環が完成している為、統制も取れないとヴォーレル帝は苦笑いしているけども。


「ドリアド族は近人で言う食事が不必要……です。できない訳じゃない……ですけど、私達は光合成の方が…効率的……なんです」

「ほへ〜……それは体質なのよね? 私達が居た世界には亜人はほとんど居なかっから凄く不思議」

「ですね~。カトリア様の魔法形態は確かに独特です。私も異界のお方とのお話は興味深い事ばかりですわ」


 恥ずかしがり屋らしいラベンダー姫がボソボソと語る。親であるヴォーレル帝曰く、彼女はかなり強い学者気質で興味のある事ならよく喋るらしい。文字通り鮮やかな青紫色の長い髪を弄っていた。少し癖のある髪質のお母上には似ず、どちらかと言うならお祖母様にあたるレリーネ前王妃に似ている。伏し目がちで少しタレ目なのもそちらに引っ張られているんだな。

 そんな三人娘を檜枝はこの先の苦労半分、希望半分と言った複雑な表情で見ていた。

 その間に、泳鳶や他のメンバーは領主館どころか、城に格上げされた巨大建造物の構築にせいを出している。それに気づいた檜枝が両手を振り上げながら、ダズやコビン、キースに食ってかかっていた。楽しそうでなによりなのだが、もうこの城が魔改造されるのが、怖くて仕方ないんだ。アリストクレアさんやリクアニミスさん、クルシュワル様の御三方なんか、嬉々として作業に加わってるしな。もう、創作意欲のままに作るのは勘弁してくださいよ。

 ……というか、アリストクレアさん達に他の思惑が見られるのは気のせいなんだろうか?


「ほわ〜! 凄いお城になったねー! ねえ、パール様、このお城が未来の我が家なの?」

「た、たぶん……」

「というか、もう国城規模なのでは? 規模的にはラセランカスの城より大きいですよ?」

「大丈夫、規模は問題じゃない。問題は中身……。あちら、アリストクレア義父上があちこちに転移魔法陣を敷設してる。あっちこっちの柱が名匠リクアニミス様の彫刻で国宝級……。そこかしこの水路にクルシュワル様が造った渡し船が…………」

「それだけじゃないです! 水路がいつの間にか御影石で舗装されてます! 上水道はまだしも下水道まで?!」


 先程までは未来の我が家にうっとりしていたパール嬢すら、2段階目の隆起辺りから頬を痙攣させている。喜んでいるのは天真爛漫な子や、まだ先を見通せないくらいの年齢層の子、……あとは非常識な常識観念のグループくらいだね。

 いつもなら特に常識的な泳鳶すら、アリストクレアさんに求められるままに御影石を決まった形に製材している。また、その御影石以外にも規格外な魔力量をフルに活かし、檜枝が石材を製作していた。あと、お金の話をするとアホみたいな事になるな。アルセタスの旅館は木造中心だったからまだいいけど、世界で五指に入る名匠、名工が創作意欲のままに城を魔改造している。第二層にもあちこちに水路が張り巡らされ、ドリアド族の姫達が組み上げられただけの花壇に花をさかせ、街路樹を植え……。

 やりたい放題だな。

 城の内装もリクアニミスさん指揮の元、布関係の装飾や金属関係の装飾を新たに加わった人員が行っている。加えて、檜枝の魔法ではできない方面の素材錬成を、クラウゾナスから渡って来た錬金術師達が行った。ヤーヤック老率いる魔術師達もキースに率いられ、城郭のあちこちに連結結界魔法陣を敷設。他の力自慢な種族が敷石の道や、歩道の整備をしてる。


「コレはもう国ですね」

「うん。国」

「宣言はないですけど、コレはもう一領主が拝領された地の居城ではないです」

「わ、私達の集落幾つ分でしょうか……。って泳鳶様がここを治められるんですよね? 私、領主夫人ではなくて、第5王妃?!」

「ま、まあ……。お爺様や叔父上、父上が手を出してしまいましたから……。これ以上の常識外の魔改造は控えて欲しいですけど」


 泳鳶の嫁になる予定の5人は、空を飛んだり高速移動したり、分身する名匠達に引き攣り笑いをしている。

 うん。……というか、もう意図が透けて見えるよ。 

 たぶんだけど、アリストクレアさん達は自分達がバックアップできる世代になる事を見越し、泳鳶をパール嬢を……他の血族のトップとなる子女を神輿に担ぎあげる予定なんだ。ここに初代たちが行ったように自分たちの子々孫々に伝えるための礎を築くのだ。

 思えば鬼の勢力が急激に力を付けたのは最近だ。以前のアリストクレアさんの地盤は御旗がお1人……。夜桜先生で他は率いられる頼りない存在だった。しかし、アリストクレアさんやシルヴィアさんが地に足つけ、畏怖と威信が根付いた今ならば話が変わる。夜桜先生という1本の古木から作られた大黒柱だけでは脆かった家。それが今では新たな大黒柱に据え替えられ、その大黒柱に負担がかかり過ぎない様にしっかりした柱がそこかしこに立てられた。

 ……シルヴィアさんが大黒柱に。アリストクレアさんは柱を風雨から護る屋根を支える梁になった。俺達は言うまでもなく柱を支える基礎だ。柱は嫁さん達。そんで、その中に住まうのが泳鳶を含む新たな輝きを放つ星の粒達だ。それを徐々にではなく、一気に固めてしまうつもりなんだろう。


「気づいちゃったねー。ミュラー君」

「ヴォーレル帝……。やはり貴方も噛んでましたか」

「ははは……すまない。怒らないでおくれよ。でも、僕も巻き込まれた側なんだ。まさか神樹を生み出す事になろうとはね。ここに来る前に彼ら、鬼の亜神の皆様に協力する様にと半ば脅されたんだ。そうすれば、バラバラに散り去り、纏まりに欠ける我々の御旗になるだろうから……とね」


 そういえば、ヴォーレル帝と2人で話すのは初めてかな? ヴォーレル帝は身長150cmくらいのかなりの童顔な……ショタだ。というか、精霊に近い族は軒並み小柄で童顔らしい。そのドリアドの帝は外観に合わず、深く濁りの強い瞳で何かを見ている。光を捉える事はもうないであろう盲目の彼だが、彼には俺には見えない何かを見ているんだと思う。

 ヴォーレル帝はいきなり自身の昔話を語り出す。昔はかなり荒れていて、太刀海先生やアリストクレアさんと共に夜の街を闊歩し、酒に暴力にとそれはもう荒んでいたそうだ。……師匠である太刀海先生もそうだが、この人もかなり意外な過去の持ち主だな。

 彼は直に王位を継がねばならない。それは薬学を何よりの楽しみとし、生き甲斐としていた彼にとっては、凄まじい重みを持っていた。彼の場合は精霊交配により生まれた為、力は強いが他に兄弟もおらずその責任と立場は重かったようだ。そんなヴォーレル帝も学園を卒業し、仮面を被りながら国務を全うしていた。そんな時に、今の第1夫人、クラヴィディア皇妃にであったらしい。


「恋は盲目とは言うが、僕も早まった事をしたよ。あの時冷静ならば、僕も光を失わずに済んだだろう。今では娘の顔すら魔法を使わねば見えない。それも光を感じてではなく、あの子達の様な強大な魔力を持つから見えるんだ。だから、魔力を全く持たない人は見ることができないんだよ」

「は、はあ……」

「ごめんごめん。いきなりだったね。でも、こんな不器用な僕だから、娘達の傘になってあげたいんだ。僕のように道を強制されず、選べる生き方を推したい。僕だけでは無理だけど、あの方々や君もいる。あの子達を護る為に、僕は傘になるんだ」


 ヴォーレル帝が笑いながら、あちこちから現れる娘さん達を撫でている。ホントに何人居るんだ?

 娘さん達は父親の決意を理解できない年齢だが、第六感っていうカンのような物は鋭い。父親と俺が少し先を見据えた話をしている最中に、……マジで何人いんの? ヴォーレル帝だけではなく、俺の体中にまとわりつく小さなドリアド族の姫達。一人一人は重くはないが、数が数だからキツくなってきた。周りの人達もビックリしてるな。確かに個々人は可愛い……。ああ、どんどん集まる。つか、片言って言うか、喃語に近い言葉でひっきりなしに話しかけてくるんだが。解らんけど、このまとまりの無い娘達はどうしたらいいんだ?!

 ヴォーレル帝が軽く言ってくれたからか、頭の上に乗っている子以外はみんな離れた。というか、繁殖の方法如何では手のひらサイズの子までいるんだな。たぶん、1000人規模じゃないか? クラヴィディア皇妃とは普通の交配だからか、ローリエ姫ともうお1人だけなのだが、他のお后……30人近く居るの? ゴホンっ……。……とはドリアド族特有の種子交配らしくてそうなると数が凄まじい事になるのは必然。ヴォーレル帝は全ての娘さんの名前を覚えて居ると言うから凄いな。

 あと、いつまで頭の上に乗ってるんだろうか? 手のひらサイズの娘さんが全く離れる気配がない。気にいられたんだろうが、さすがにずっとこの位置はなあ。


「あー、キンモクセイはこの土地が気に入ったのかい?」

「あいーっ!」

「へ? 土地?」

「うん。ドリアド族は何もリナリアの大樹海にしか居ないわけじゃないからね。隠れてるだけだよ。たぶん、その子、キンモクセイはこの土地の主である君の息子が治める土地だから、その父親の君にくっついていれば、いずれその主の場所に行けると踏んだんだろうね」


 やはー! とか、にゅへー! とか言っているキンモクセイ姫な訳だが……。精霊に近い種族ってのはとことん何でもありらしい。……と、言いますか。まったくかけ離れた種族だから、近人の認識の範囲外なんだろう。ドリアド族は人型の植物と言った方がいいらしく、長く生きたドリアド族なら他の種族の文化も理解できるらしいけどな。だが、幼いドリアド族は植物の生態に近く知能レベルはかなり低いと言うのだ。そんでもって根本を掘り返すと、ドリアド族は植物の肉体を持つ、人型精霊だ。そのよい例が今、俺の頭上にいるキンモクセイ姫。何度も言うが、ドリアド族は人型の植物精霊。キンモクセイ姫は精霊としての本能で、俺にへばりついているらしい。

 そもそも精霊は概念生命であり、神通力が漏れ上がる地脈の交点に住まう事が多い。その点で神樹の加護や、泳鳶の持つ水の加護から、ここはドリアド族が住まうには良い立地との事。

 キンモクセイ姫はその神通力を感じる部分に強い感受性があり、この城付近を好ましい土地だと理解しているようだ。加えて、アリストクレアさんが勝手に脈を弄り、泳鳶をこの土地の管理者にしてしまったようだ。これからこの土地は泳鳶の性質を加味された変化をし、聖域の様な変遷を起こすとヴォーレル帝が物凄い苦笑い。リナリア帝家の居地にある鬼の聖域と同等の物なんだってさ。


「たぶん、パール嬢の為だね」

「ああ、なら納得ですね。それなら」

「せんぱ……あ、アリストクレア殿はいつもむちゃくちゃだからね。やることなすこと。僕もあの頃は何度酷い目にあったことか……。まあ、キンモクセイのことは気にしなくていいから。時折遊んであげて欲しいけど、それ以外はあの神樹の周りで好き気ままに生活するだろうからね」

「よろ~!」

「あ、ああ……」


 と、いいますか……。自由人のドリアド姫達は再びあちこちに散ったんだけどね? 10数人のキンモクセイ姫と同じくらいの姫様達がその場でソワソワしている。たぶん、新しい住民だな。また色んな色の子達だな。

 キンモクセイ姫が俺の頭の上に居るからか、俺の後ろをぴょんぴょんしながらついてくる。俺も不思議空間の一幕に巻き込まれてるな。……そして、段々と外観が魔法建築で組み上がっていく城に近づくと、キンモクセイ姫や他の姫様方はとある施設に吸い込まれる様に飛んで行った。そこからたぶんリリアーナ嬢だろう奇声が聞こえてくる。うん。もう何が起こっても説明するだけにしよう。

 いつの間にやら現れていたオニキス嬢とその娘達が加わり、ヴォーレル帝が生やした神樹を中心に据える様にドーム型の魔晶温室ができあがっていた。しかも城に直付けする感じで建てられたそれは、最高級の透明な魔晶を贅沢に使ったハイクオリティな物だ。ただ、いくらオニキスでも植物を植えていきなり成長させることはできない。それをやらかしたのが、俺から離れて行ったドリアド族の姫達だ。中には薔薇園とガーデンテラスがある。そこは特にお気に入りらしく、集まって皆でユラユラしながら歌っている。それを「可愛い!」と叫びまくってるリリアーナ嬢の声を聞いたわけだね。……コラコラ、毛玉姉妹。いくら可愛いからって拉致ろうとしない。姫様達は楽しそうだけど、乗りとカンで生きてる様な子達だ。何が起きても責任はとれないぞ?


「お、ミュラー、やっと見つけた。内見したいんだが、どうだ?」

「あ、え? な、内見ですか?」

「おう、息子の家だからな。しっかり見てやれ。俺達もまだまだ手は加えるが、一応はもう住める程度にはできてるからよ」


 俺と隣のヴォーレル帝は苦笑いで顔を合わせ、アリストクレアさんにジト目を向けた。そんな反応をされるとは思わなかったらしく、あのアリストクレアさんが少したじろいだ様に見えて……。してやったみたいでちょっと嬉しい。

 その城を上から下まで内見する事になった。

 アリストクレアさんが指を弾くと、俺とヴォーレル帝、泳鳶、嫁さん達は1番下、おそらく最外郭の街壁前に居る。そこにはコンシェルジュよろしく、コビンとオルグリーズ嬢が居た。あ、ここからはコビン達が案内すんのね? アリストクレアさんは再び転移して消えたからな。

 コビンはいつもの仕事服らしい執事服で深々と一礼。そこから城郭の各部設備から説明が始まる。……俺とヴォーレル帝は再び顔を見合わせた。ここから説明すんの?

 マジか。……まぁ、仕方ない。付き合うか。

 この城郭は高さを55m……。いや、高いとは思ってたけど高すぎじゃないか? しかも、全面が魔晶を砕いた練り石……魔晶コンクリート製らしく、超級魔法くらいまでなら傷1つつかないとの事。城門も木製ではなく、全金属製。しかも紫覇鋼(オリハルコン)製らしく、魔法も物理攻撃もほぼほぼ無力だ。しかも、施工は檜枝による完全魔法建築のため、継ぎ目や接続が必要なく、構造的に弱い部分がないらしい。物見櫓も角の1部に取り込まれていて、堅牢さは当たり前ながらデザイン性も失っていない。


「この第3城壁の城門を抜けますと、海に面した漁業者などの区画、陸側の工業区画、他は未定ですが随時、集中区画として分けられます」

「また、アリストクレアさんとコビンの合作で、魔道駆動型のロープウェイを敷設されていますので、行き来もかなり楽です。今回は乗らず、魔道駆動車で上層区画へ参ります」


 オルグリーズ嬢が運転する魔道駆動車で割合速く街中を走行。建物も無いから寒々しいが、区画整理が行き届いた良い街並みになるだろう。あと、戦でもめちゃくちゃ強い。自給自足で自己完結できるから、よしんばあの外壁を突破し攻め込めても、各所に跳ね橋があり、ここを落とすのは無理だな。その上に上下水道や各種ライフラインも完備され、特種な施設を建設するらしい魔導設備や生物分解式の浄水場まであるな。アリストクレアさんが初期に開発したインフラよりも、かなり近代化されてるな。まぁ、あの人が初期のまま発展させないわけが無いか。

 基本アリストクレアさんは機関や外装の作成者。それを動かす為の魔法陣や魔導式を作るのが弟子のニニンシュアリである。どちらも表舞台にあまり出ていない技師であることから、技術情報の詳細が完全に秘匿されてしまい漏出もあり得ないんだろう。いや、隔絶された技術力の差から模倣すら難しいのか……。

 この市街地の図式は三兄弟がオニキス嬢の監督のもと書き上げた物だそうだ。

 あー、そりゃすごいな。オニキス嬢も今や高名な建築設計士であり魔道具デザイナーだからそれが教えたんだ。これくらいなんともないのかもしれないけど。市街地の拡張は最底辺の外郭の外を拓いていくことになるんだろう。上の市街は専門の施設を集中させてあるんだな。魔道駆動車を運転しながら淀みなく説明するオルグリーズ嬢が、めっちゃ広いドーナッツを一周した。そこからは運転をコビンに交代し、一番下の市街地から巨大なスロープ状の坂を登って行く。ここからは檜枝のアホが数か所の改変を加えたことで、彼らにも不安な要素となっていると言っている。つーか、コビンの野郎……運転荒すぎるぞ!!

 荒すぎる運転に数名酔っていたが、檜枝が改造したと思われた場所に到達。そこにあったのは酒場と宿屋のようだ。そらそーなるか。俺達はアリストクレアさんとニニンシュアリの開発した、あの魔道駆動車で走ってたからかなり速かった。だが、かなり広いドーナツの上で、かなり緩いがプリン型の外縁を走る緩いスロープ。普通の馬車では時間もかかるし馬も疲れる。あと敷設されたロープウェイは富裕層向けの魔道施設だ。経費の問題で簡単には使えないしな。


「酒場に高級宿と安宿……他にも流れ者が好みそうな施設が完備か。コレが檜枝が勝手に足した物か?」

「そうですね。考えとしては悪くないですし、俺もきつくは言わなかったんですよ。アイツ意外と施政者としても筋がいいと思います」

「ほう、やっぱり未来の義息子は優秀だね。ははは、いいね」

「……しかし、酒場と宿屋はいいですが、娼館や賭け事に関する施設はいかがな物かと」

「フフフ、パールちゃん。それは違うわよ。男性が皆さんアリストクレア様のようなお方とは限りません。それに欲を爆発されても困りますからね。犯罪の発生率もそれでだいぶ下げられますから運用次第です」

「ぐぬぬ……、確かにそうですね。リリアーナさんの言う通りです」


 ほう。リリアーナ嬢もやられてばっかじゃないんだな。言ったら殺されそうだが、彼女はただ年齢を重ねていた訳じゃない。彼女が物心つき、学び育んだ10数年の積み重ねた物はパール嬢にはまだ足りないんだ。それには一緒に妻になる予定の鷲人の二人も焦りはなく笑顔でいる。もう一人の白麗嬢はコミュニティ事態が小さな場所で、異なる文化で生まれ育ったことから今急いで学んでいるらしい。

 そんな娘達の話し合いは凄く微笑ましいな。幼い時期のパール嬢を知る面々は特にだ。

 そのまま緩い傾斜のスロープを魔道駆動車で駆け上がる。スロープを登るにつれて途中にある街の色合いも様変わりし、徐々に検問や警備の人員を詰める場所が増えていた。また、神殿に関係する施設や泳鳶と協力関係にある協会(ギルド)の施設も増えていく。施設の金のかけ方もかなり顕著な違いがみられるな。……いや、ほとんどの敷設は檜枝の魔力によるもので、アイツが魔力で錬成できない資材以外は完全無料となっている。違うな。泳鳶の私財からの補填がちゃんとあるんだね。しっかりしてるなー。我が息子。

 いくつか似たような町の前を過ぎ、コビンが上層と言う区画に来た。

 言わずもがなだが、この区画は下の区画よりも狭い。ここにあるのは下部よりも重要な施設。中でも美しい建物。それは上層区画へ上がって最初に見える時兎の神殿だ。……まだリクアニミスさんが彫刻の完成度に不満があるのか顎に手をやりながら首を捻っている。うん、あの人もいろいろアレだよね。アレって、カルナ様とルカナ様の象だよな? しかも、威厳もへったくれもないそのまんまの。


「役所関係や出張所、公の施設が集中している区画だからガードが堅いのですね」

「そうですね。ここの外郭を囲う壁は5mあります。下層から50m加えますので,1番高い場所では55mの魔晶コンクリート製になります。また、この区画はフェザーハート連邦より移住された方々に衛士をお任せする予定です」

「へー、ってことは下は蜥蜴人(リザードマン)の皆が警備するんだ。すごい数の水路が通してあったし」

「あぁ、その通りだリカンツァ嬢。だが、鷲人はまだしも蜥蜴人は数が足りていない。だから、移住者が少ない内はアランやレギウス達が率いる神殿騎士を中心にするがね」

「それで対応できない場合はわたくしが率いる鬼人メイド部隊の暗部がこの地をお守りします。もちろん我が主、パール様や奥方様方の安全が第一ではありますが」


 パール嬢はやれやれと苦笑いしているが、備えは大切だ。鷲人の総隊長になるユユ義母さんもウンウンうなづいてるし。

 少し行くと神殿騎士の詰所が見えてきた。レギウスとアランが騎士団の分団詰め所で準備している。その直属隊の中に、まさかのハミュ・ミックマンとラウシュ・ミックマンが居た。リリアーナ嬢は少し複雑そうな面持ちになる。本当なら彼女らはリリアーナ嬢の直属にもなれるのだが、それは2人が固辞した。何せカトリア嬢は早々にリリアーナ嬢の庇護を離れ、檜枝の第3妻人になってしまったからな。2人にもそれなりに思うところがあったんだろう。

 ただ、2人の鎧から見えるフリルがついた襟元とヘッドドレス……。あれはどう見てもメイド用の物では? つか、女性正規隊員の鎧下が全員メイド服? まぁいいや。俺達はそこから徒歩で中心街へ向かう。

 人が高頻度で使う施設は外角へ、人があまり使わないが絶対に必要な施設は中心区にある。もしくは内部に保管されている物が高価すぎる施設も内核部に配置されているらしい。そこには爛華のご一家のお1人が本の搬入を手伝っていた。……椿様どうしてここに? え? 隠居先? 大図書館はどうされるおつもりですか? 楓様にもう譲れる段階だから、ようやっと自分の研究に専念できる? さいですか……。

 他には大図書館系列の博物館や、アリストクレアさんが希望した工学系の科学館。あとは行政に近いけど銀行や郵便局のように、半分は私立の協会が詰める区画もあるんだな。なんでもあるなこの区画。ただ、セーフティチェックが無茶苦茶厳しい。泳鳶本人や俺まで念入りにチェックされたのは何で? あ、勇者はみんなやるの? 泳鳶本人からの指示なんだね。確かに勇者は諸刃の剣。しっかり管理しないと危ないのは確かだな。うん。


「基本的に最初の予定とは異なってる建物ばっかなんだよな? 全部檜枝のせいだ。ダズも頭を抱えていた。資材費が浮いたから良いっちゃいいんだけどな」

「アリストクレアさん……いつの間に」

「今作業が終わってな。ついでに着いてきたいって娘を数人連れてきた」

「どれぐらい浮いたんですの? 檜枝様がどれほどの力か知りたいです!」

「あー……国家予算が真っ青な額ってくらい? おかげで力仕事班の仕事がほとんどなくなったからな」


 アリストクレアさんの背後から家の三姉妹と、ローリエ姫とカトリア嬢が現れた。因みにラベンダー姫はまだ人見知りが激しく、檜枝も残ったらしい。……いきなり唐突に口を出すくらい自由人なローリエ姫。そのローリエ姫もさすがにポカンとしていた。ヴォーレル帝の説明によると、ローリエ姫はまだ国政などには知識はない。ローリエ姫はガーデニングが趣味で植物魔法が得意な天然さんなんだと。向き不向きの問題ではなく、ローリエ姫は本当の意味で温室育ちなようだ。

 コビンが発表した同盟国共通通貨の金額を聞いて、今度は青ざめている。政治にはノンタッチでもさすがに金銭感覚はしっかりしてるんだな。泳鳶もさすがに目頭に手をあて、明後日の方向に視線を向けている。たぶん、檜枝は今頃叱られてるんだろう。コビンも同じ方向を向いた後に合掌。俺も合掌。

 そこからは城の下部にあると思われる、魔道昇降機(エレベーター)がある場所へ入る。すげー荘厳だな。上の水場からカーテンみたいに水が落ちてきてる。神秘的ではあるが、たぶん、あれも防衛装置の1部だ。魔力を感じる。こえ~……。

 そこには数種類の魔道昇降機があり、一番大きな物に乗る。そこから城の前門の目の前へ出てきた。この魔道昇降機は一個師団が緊急時に出動したり、緊急事態においての避難用らしい。実はこの外郭は徒歩でも登れる。見ただけで壮麗な階段があるし。登ってたらくたびれちまうから、今回は見学のために一番大型の魔道昇降機を使ったんだと。オルグリーズ嬢の話だと、一番小さな魔道昇降機は城内直通でVIP用。もう一段階大きな物は、荷物搬入用の物だという。ギミック込々だからこの辺はアリストクレアさん監修だろうな。あ、製作はアリストクレアさんとニニンシュアリの合作なんだ。つか、これにもトラップ仕掛けてあるし……。


「何度見てもこのお城は凄いですねー」

「えぇ、大きさもそうですが、意匠や素材の端々に至るまで素晴らしいです」

「うん。いつから住めるか楽しみ」

「うん。こんないい暮らしもう手放せない」

「でも、何か違和感があるんですよ。……実家に近い雰囲気というか」


 白麗嬢が漏らした言葉からリリアーナ嬢につなぎ、率直な感想をリカンツァ嬢とレンソウミ嬢が放つ。それもそうさ、パール嬢。この城はアリストクレアさんが始祖様よりの知識から創り上げたのだから。誰も見たことがない。一部の人々以外はな。だって、君の実家、アリストクレアさんのご自宅がこの形式で、リナリア帝国と海神国の国境に居を構えているんだ。パール嬢の違和感も良くわかる。だって、門を通り抜けるといきなり通路が細くなり、くねくねと蛇行しているからな。まぁ、今回の見学者はエントランスホールに入った段階で特急機密魔法、転移魔法陣で内部に跳ばされたからわかんないんだけどな。

 この城の構造はもの凄く複雑。古代大和の時代に建てられていた形式の城をベースに、デザインと設計はアリストクレアさんとオニキス嬢だな。白色の魔晶を練り込んだ特殊な外装。白く美しくはあるがその理由もえげつない。ここからは知識のあるアリストクレアさんの説明が始まった。

 天守閣と呼ばれる天辺の一番小さなスペースから、下に降りるに従い概形は広がりを見せる。それが6層。要は天守閣含めて6階建ての大きな城なんだ。しかもこれは中心にある本館…本丸だけの規模。本丸を囲う水堀の外側には細く蛇行する通路が迷路のように続いている。ここに至るまでにまだ別棟にあたる同系統の3階建ての施設を越える必要がある。その施設が二枚目の堀の内側。さらに外側には軍用及び避難受け入れに用いる広い設備や平屋が並ぶ。ここまででも皆お腹いっぱいなんだよな。なのに、判る人には判るが、あの白い壁、完全魔法防除壁だし、各所にエグいトラップがてんこ盛り。何で判るかと言うなら、俺らはエントランスから一気に天守閣に跳んでいたんだよ。パール嬢の違和感はこれ。実は居住空間っていうのは天守閣だけなんだとさ。


「で、ではそれ以外の施設は?」

「細かく説明するのはまた今度な。個々人の要望まで詰め込んであるから割と細かいんだ」

「父上……あれほど転移魔法の乱用はお控えいただくようにと……」

「ん? いいだろ? 住みやすければさ」

「ダ・メ・で・す!! 常識の齟齬が著しいのは問題ですよ?! これから私たちが子育てするのに困るじゃないですか!!」


 パール嬢……。ダメだよ。その人には何を言っても、魔改造は止まらないから。それが学者寄りの職人の(さが)みたいな物なんだから。諦めも肝心だ。

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