幼き領主と勇者達
「お祖母様方、叔母上方、お初にお目にかかります。わたくしは父をミュラー、母を潮音。潮騒家が長男 泳鳶と申します」
「同じく、長女の海雨にございます!」
「同じ、次女、麻雨」
「同じく三女の歌雨にございます」
朗々と名乗りをあげ、既に大人顔負けの礼を取る自慢の息子。それに続く様に愛らしい娘達も順々に礼を取る。しかし、うん。麻雨は少し潮音さんに鍛えてもらわなくちゃいけないかも。ちょっと雑じゃないかな? 本人は『どう?』って感じで自慢げに鼻息を吹かしているが……。
改まった場ではない為、向こうも微笑ましい物を見るように、横一列に並ぶ我が子らを見やる。……そんな中で、我慢ができなかったのか、実母のメーニ母さんが動く。あの人は元踊り子だけあり、動きが軽い。たぶん一目で気に入ったのだろう、1番華やかな大和装束を纏う、長女の海雨を撫でくりまわす。それを見て箍が外れたのか、次々と母上軍団と姉上軍団が我が子らを撫でるために殺到した。中でも1番人気は海雨。少し小生意気だが愛くるしい表情に、古代人魚の血が濃いために現れた美しい美髪と、艶やかな鱗、しなやかな手足。まだ幼いのにこれだけの美しさなのだ。母上軍団が魅了されるのもよく分かる。あの子には魅了のパッシブスキルがあるらしいしな。そして、彼女ら古代人魚の見た目は終生若いままだ。変えようと思えば変わるらしいけど。
その次に注目が集まっていたのが、今回の主役でもある泳鳶だ。
泳鳶は鷲人の外観がある為、母上方も興味はあったようだが、男児である為に気づかいがあったのだろう。古代鷲人の血族、代表格がそろい踏みの為、泳鳶の今後の立場などについても今説明してしまう。泳鳶もたまに口を挟んで補足して来るから、大したもんだ。その話から発展し、泳鳶は武芸にも秀でている話になり、鷲人の大半が驚いた。中でも鷲人では珍しい女性戦士のユユ義母さんは、武人でもある泳鳶をめちゃくちゃ気に入っていた。ユユ義母さんの流れに乗ってか、鷲人団の代表になる予定のクナメト義母さんも、泳鳶の佇まいと人柄をたいそう気に入り、しっかりと握手をしていた。まあ、まだ11歳だと言う話をしたら、皆さん顎が外れかけてたが。
「皆可愛らしいわねー。……ところで、ミュラー君の後ろに居るお嬢さん達はどなたなの? その子達もムス…めにしてはちょっと年がね。背の高い方はミュラー君の第2婦人さん?」
「あー、いえ……、クナメト義母さん。この子達は……あ、そうだ。この際だから泳鳶、お前が紹介しなさい」
「はい。父上。皆様、僕の婚約者達を紹介致します」
泳鳶が促した事で、まずは第1婦人予定のパール嬢から。
2人の記憶にはないだろうけど、お互いに赤ん坊からの付き合いだからな。この世界の風習には珍しく、幼馴染で完全な恋愛結婚を遂げようとしている2人。まだ幼い顔立ちには似合わずその挨拶は凛とし、水を打ったように周りに静けさを与える。母譲りの覇者の風格を備えた独特の迫力と、一挙一動が美しい所作が垣間見えた。さすがは鬼の長子。元王女の母を持ち、父は近代の裏社会を支える英雄。その存在感は大きいが、隣に立つ泳鳶をたてる事を忘れない佇まい。既に妻の姿勢ができあがってるのが、俺としては凄い不自然。だってまだ婚約しただけなんだからさ。
その後に続いたリリアーナ嬢。年齢のことはまあね。夫よりも6つ上で、この世界ではこちらも異質。旦那の年齢が高い場合はままあるが、妻が年長なのは珍しい。それにリリアーナ嬢も気品ある所作と、泳鳶、……あと絶対的不可侵領域であるパール嬢をたてる配慮。第2婦人となるリリアーナ嬢は小さくなり過ぎず、かと言って主張し過ぎない挨拶を見事にクリア。うん凄くいい塩梅だったよ。
……じゃないと泳鳶を挟んで反対側から目を光らせているパール嬢に、後でどんな目に遭わされるかわかったもんじゃないから。頑張ったね。リリアーナ嬢。
「……? ねえ、ミュラー君?」
「はい、何でしょうかテッセオーマ義母さん」
「そちら、うん。黒髪黒目のパールさんなんだけど。もしかして、貴方が属する派閥の首長のお嬢様なんじゃないの?」
1番頭が回るテッセオーマ義母さんは学者であり、一族の財務担当だった。そういえばテッセオーマ義母さんは観察力も高かったな。うん。そだね? 俺が曖昧にそちらを向くと、2人は少し離れた場所に居た。完全に外野とはならないが、わざわざ顔を合わせる程でもないのだろう。アリストクレアさんとシルヴィアさんは娘がしっかりと挨拶できているかを、酒を片手に遠目から見ていたようだ。
そんな時にこちらの一族の大人から、視線が集中したのを感じたのか、2人は黙礼を返してくれた。首長崇拝主義の事は既にアリストクレアさんには話してある。文献などでご存知だったらしいアリストクレアさんも、どの程度徹底されているのかまでは解らなかったからか、無難な挨拶を返したつもりだったんだろう。
うん。文化の相互理解って大切だよね。
その彼女らにとっては破格の対応に慌てふためく母上軍団。そのテーブルに座る人々を見てさめざめとした表情で、いきなり五体投地を始めるリフォリル姉さん。リフォリル姉さんの態度が更に拍車をかけもうてんやわんや。アリストクレアさんとシルヴィアさんのテーブルは、今まさに神様大集合となっている。人の姿で受肉現界している上位神族の御三方に、昨日盛ってて叱られてた上位神族夫婦。あとは肉体の枷が残るのみのアリストクレアさんとシルヴィアさん。あと、……給仕役で上位の概念神族であるペルセポネとティタノアリザが居る。…………ペルさんとティタさん、メイド服めっちゃ似合ってるな。神様なのに。
「母様方と姉様達は落ち着いてください。やはり土地が違えば文化も違う物ですから。それからあのお方は、高く持ち上げられる事をそれはもう嫌がります。お気をつけくださいね?」
「わ、解りました。善処しましょう。し、しかしっ! 首長のお、おおおおお嬢様を嫁にもらったのです。何か相応の返礼を!」
「そうです! クナメト、貴女の娘、リフォリルやレンゼイラは先日未亡人になったばかりでは?」
「都合がいいですね。我々からの気持ちとしてアレらを差し出すのが1番良いでしょう。我々年増ではいろいろ楽しめないですがあの娘達ならまだ……」
「言わんこっちゃない……。母上方! そう言うのが不必要な気遣いなのです! 死にたいんですか?! 一族ごと滅んでしまいますよ!!」
うん。しばらく俺はつきっ切りにならないと、いろいろ拙い気がしてきた。太刀海先生には知らせておかなくちゃな。あっちは余程の事がない限り、俺個人が必要なことにはなり得ない。そんな事態となれば真っ先にアリストクレアさんが動くからね。
まず、全力で母上軍団を抑える。流石の潮音さんも唖然とする始末で、事の収拾が大変だった。パール嬢に協力してもらい、父君の事を説明してもらっている。母上方はある程度納得してくれたようだ。特にシルヴィアさんとの長い時間をかけた恋愛結婚とか、リーナ嬢との縁組とかを重点的に頼んだ。あと、彼の性格や好み、1番は怒りのスイッチだな。
パール嬢は返礼としてどうしても何かを出したいならば、たまに鷲人のチビッ子達と夜桜勇者塾へ遊びに来て欲しい……。と言っている。
パール嬢上手いなぁ。口車というか、条件付けと自分の立場をよく理解してる。さすがはシルヴィアさんの娘さん。もう母上軍団がパール嬢勢力に取り込まれたのは間違いなく、リリアーナ嬢もあの話術には脱帽の様子。
それにこの展開は良い。潮音さんの要望では泳鳶には潮騒の家督を継ぎ、当主として領運営に注力させる。その上でパール嬢に将軍職を引き継いでもらいたいといっていた。外部から何か口出しはあるだろうけど、俺もそれには賛成だ。武力という面と、魔鬼は強い。……と言うのは聖刻共和国近辺では周知の事実。中でも、今ではアリストクレアさんがその旗頭でもある。その娘も10歳にして戦の最前線を暴れ回っていたんだから証拠は十分だしな。
「……解りました。お嬢様ご自身からのご提案。しかと承りました」
「ははは、そこまで肩肘張らずにお願いします。私も潮騒家へ嫁ぐには年齢から最低でもあと5年はかかりますので。それまでにこちらの風習についても慣れていただけると」
「御意!」
「「「「御意!!!!」」」」
うん。懐かしい風景だなー。首長の前ではこの挨拶が当たり前だった。フェザーハート連邦では割とよく見る光景だったけど、こっちではそれなりだからね。
とりあえずの挨拶が済み、今度はそれなりの年齢の子供達とも交流が始まっている。様々な種族が入り乱れ、あちこちで談笑しているようだ。男性陣もそれなりに楽しんでいるが、特に活発なのが女性陣。全体の人数が多いのもそうだが、年齢問わず、興味をそそるものがあちらこちらにあるからな。豪華な料理や様々な種族に文化、女性陣の注目の的は衣服や調度品などだね。
今1番と言うなら、独特なデザインで華やかなリリアーナ嬢の一張羅であるドレス。そしてパール嬢がまとう物。黒地に光沢を持つ大きな鱗を銀糸と金糸で縫い上げた豪奢な大和装束。フェザーハート連邦は衣類産業が未発展で、正直に言えば機能一辺倒。貫頭衣と皮鎧の中間と言った方が近いくらい質素で味気ない。
この場の一部には女性の鷲人が集まっていて、15から20くらいまでの女性はリリアーナ嬢に。10歳くらいの子らはパール嬢に各々で挨拶に向かう。この行動はフェザーハートだけではないけど、階級意識の強いフェザーハートの子達はかなり積極的だ。これは顔の売り込みだね。体格の良い武門の出ならば侍従にとりたててもらったり、歳が小さくても職人家出身や下働きができるなら女中へ召し抱えられる。首長筋の名家で働けるだけでステータスになり、彼女らの未来は安泰。あと欲を言えば自分達も2人のように、美しい服や装飾品で着飾り華やかになりたい……。って感じかな?
まあ、その点は年代問わず女性には共通か。
顔の売り込みを果たした少女達の母親層も、パール嬢の衣服や扇などの飾り物に興味津々。遠慮がちに遠目から見るだけだった母親達。対してその手のデザイナーである母を持ち、作品を選ばない職人が父であるパール嬢。彼女がシルヴィアさんとアリストクレアさんの事を語ったのだろう。恐れ多いなどと言いながら、しっかり衣服を整え直して目通りを願っていた。……整理番号をよういしなくちゃな。絶対にシルヴィアさんのファッションブランド、シルバーローズのエウロペ本店に大挙するぞ。
「はーいー! 皆さん! お話もいいですがー、ご飯はいかがですー?」
「お肉ですー!」
「お飲み物あるですー!」
「お菓子ですー! 甘々ですー!」
「成人された皆様にはお酒類もご用意がございますので、ご用命くださいませ」
「ぶーっ!! 睦月様ノリ悪いですー!」
「貴女達はまだ40そこそこでしょう。250を過ぎたおばあちゃんが、お酒ですー! なんて言っても可愛くないでしょう?」
睦月さん、残念ながらめちゃくちゃ可愛いです。貴女も周りの小兎ちゃんも大して体格が変わりませんし、見た目も大きな変化がないので……。
今度はカオス軍団が大挙した。時兎の家に仕える小兎ちゃんの数は、もはや目算は不可能なレベル。毛並みの違いや耳の形くらいしか差異がないから、見分けもかなり難しい。まず、睦月さんとその娘さんの卯月さん達が統括する、『御屋敷班』だけで500人は超えてるらしい。また、フォン嬢の事務所には、1000や2000ではきかない数のウサミミがピコピコしてるらしい。今回この場に居るのは、御屋敷班の精鋭100人とプラスアルファ役職付き。ワラワラワラワラワラ…………と、どこからともなく湧き出てくる。盆を頭上に耳と両手で器用に支え、ラセランカスからの難民団の皆さんや、フェザーハート連邦からの移住者団の人々の周りを動き回る。……なんか面倒臭いのも見つけたぞ。シレッと混ざってるが8代目様と嵐月嬢が居るし。
そして、俺の背中を突き「ばぁっ!」などと、わざとらしく大きな声を出したルカナ様とカルナ様。この前の演説と言うか兎の園は、泳鳶とパール嬢の婚約発表宴会での段取り説明会だったんだな。凄く影が薄いが、見事な手並みでシェイカーを振るうフォン嬢とクードさん。バーカウンターにはクルシュワル大先生と不知火さん達が入り浸ってるし。あ、いや、クードさんはチラチラ奥さんのフォン嬢に目がいってるな。この前のバニーガール姿だから。
なんだ、ニニンシュアリも出店してんじゃん。ニニンシュアリの担当は甘味か。横一列に並び、出待ちしているドリアドの姫様方と蜜月君に請われ、淡々とマカロン製造機と化しているニニンシュアリ。その横では何故か心月様が氷の彫像を双剣で作っている。……その小さな氷片を使って小兎ちゃんの何人かがかき氷機係をやってるし。他は? あー、爛華のハイエルフが大人組だけで出し物してたんだな。祭りの定番、チョココーティングされた果実類だ。他は……、フォンドンとレミ嬢、レジアにサフィーナ嬢が竜肉の焼肉各種か。もう祭りだな。
「ここはいつもこうなのですか? パール…さん」
「今日は特別ですよ。それから……。呼びにくそうですね。ちゃん付けで構いませんよ? さすがに7つ上の方からのさん付けは少し気が引けます」
「そうですか?」
「ええ。それに私は泳から1番愛されていれば、それ以外は大して気にしませんから。私生活くらい気楽に行きましょう」
「……わかったわ。でも、もうあまり脅さないでね? 凄く心臓に悪いから」
「脅し? はてなんの事でしょうか? 私、そんな事はしませんよ? ふふふ」
「ヒッ!!」
………………。こっわ。一瞬で笑顔から般若の様相へ、また瞬時に笑顔へ。あの器用な豹変術を覚えてみたいもんだぜ。そう簡単ではないだろうが、あれは覚えられたらば相当便利だろうし。
このお祭り騒ぎもまだまだ続くだろうから。俺も潮音さんと改めて飲み直す為、自分達にと用意された席に座って語らう。
潮音さんは思い出した様に俺の素性だったり、あまり話さなかった故郷の悪習などを引っ掻き回す。出自の辺りは特に念入りにくどくどと……。完全に潮音さんの中では貸1って感じの空気だ。別に言わなかっただけで、聞いてくれたら話したんだが……。
なーんて、夫婦の会話を続け、日が傾く頃に縁もたけなわ。小さな子供が居る親から順々に……帰れなかった。
特にまだ幼いハイエルフやドリアド、鷲人の抵抗が物凄く激しかったんだよな。
まず、全体的に各種族にバラけた原因が、友達とまだ一緒に居たいと言うもの。新しくできた友人と離れたくないと言うわがままが、そこかしこで勃発。鷲人の子供などは俺も体感したからよくわかる。今までが狭いコミュニティの中で限られた友人と、決めつけられた身分差による階級区分により、子供達にも自由が少なかったのだ。それが今日になり、彼らは解き放たれ、自由になったんだからな。気持ちは理解できる。
「やーだーっ! うさちゃん連れて帰る!」
「ふふふですー」
「ダメよ。その方達は時兎家の使用人さんなんだから」
「お、お母さん。私も1人連れてきたい」
「いかないのぉー?」
「……」
次に多かったのが、時兎家の使用人である小兎ちゃん達を連れ帰ろうとした鷲人の子達。友達やマスコットみたいに見てるが、その小兎ちゃんは40超えてるらしいですよ? ……あと、ヴォーレル帝の娘であるドリアドの女の子をいたく気に入ったらしい15歳前後の鷲人の女の子達が、抱っこした彼女らを離したがらなかった。いや、一部が姫達を拉致ろうとしてことが発覚したんだけどな。
特にドリアドの子女は、リナリア帝国の最高権力者である帝の娘だからね。あんまり無下には扱わないようにな? まあ、どっちかと言うと、今回はドリアドの姫様達のが乗り気なんだよな。本人達は親に監視されずに外出できる、かっこうの口実を見つけた訳で大喜びみたいだったから。
そんでもってコレもなかなかカオスだった。
レジアデスの息子、ナーガローク君が発端。ナーガローク君は現在3歳。龍だからね。言葉は流暢だし、体の育ちもまー早い。それに何よりも可愛らしい。ベビードラゴン姿などはヌイグルミよろしい為、母親達からも人気なのさ。
そんな彼を巡って争いが起きたのだ。サフィーナ嬢、ドリアドの子女3名。ハイエルフの女の子5名。鷲人の女の子数名や他の女の子達が取り合った。
最初は彼を独占するサフィーナ嬢からの威嚇程度だった。それが口喧嘩に発展し、すぐにくんずほぐれつの取っ組み合い。最終的に魔法や異能も交える大乱闘へ。そんなナーガローク君争奪戦をしだした。当のナーガローク君本人も口喧嘩辺りで身の危険を感じたのかその場から逃げ出した。女の戦いと言う物が相当怖かったのか、安全地帯であるクルシュワル大先生の頭の上から今も絶対に離れない。最終的な勝者であるサフィーナ嬢が、かなり沈んでいた。
こんな感じで大小様々な子供達の問題が発生し……。シルヴィアさんが特例を出し、夜桜勇者塾の金星館に母親同伴でなら滞在を許可。そこでもまた問題が勃発するんだけどな。
「ぎにゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ?!?!!!!!」
前にもあったんだけどな。今はパール嬢ではなく、イタズラ大好きなハイエルフの娘のなん人かだが。オニキス嬢の尻尾を触りたがるんだ。何故かオニキス嬢の娘達は母親とは違い、触られても大して嫌がることはないのだが……。オニキス嬢はそれはもう嫌がり大絶叫。まあ、なかば恒例化してるから、本人以外は生暖かく見守る程度。だが、やられてる本人は溜まったもんじゃない。
あと、金星館には最初から滞在している女子生徒が数名居る。プラスアルファでその従者各人。
で、子供の方は良かったんだが、親御さんがな。夜中に金星館の厨房でお気に入りのナイフを研いでいたルビリア嬢。その研ぎ音と一緒に居たリッチを目撃し、親御さん達はパニックを起こした。かなりの恐怖体験だった事だろう。
次は夜にトイレに向かった親子。たまたま夜の警備をしていたエメラルダ嬢の従者の子。蟲魔族の幼い娘と鉢合わせし失神。エメラルダ嬢にその妖蜘蛛の娘から報告がいって、謝罪の為に介抱していたエメラルダ嬢を見てしまった。またまた超恐怖体験。エメラルダ嬢は色白だし、普段は無表情な上に死の魔眼の暴発を抑えるため、両瞼を縫い付けてる。だから、初見の人には凄く怖がられるんだよね。
あとは、ありがちな女子トーク問題。夜まで騒いで寝ない15歳から20歳前後の女の子の声はよく響く。騒音問題で寝付けずに、幽鬼のようなエレノア嬢によりちょっとした騒ぎが起きたくらいか?
泊まった人数が格段に少なかった独星館は平和だったぞ? ナーガローク君がクルシュワル大先生から離れなかったのと、子供達の枕投げが多少白熱したくらいで。
「はあ、世話が多くて大変でした」
「誰やねん! ウチの尻尾を最初に掴み出したんは!」
「あ、そのごめんなさい」
「耳が良いのも考えものよねー。そのあたり赤裸々に語るのはいいけど、限度ってもんがあるわよ」
「は、はい、申し訳ありません」
「まー、収穫はあったけどねー。ベッドが大人用だから小さい子達なら向きを考えなければさ、たくさん寝られて超可愛かったわ!」
「あーそーかい。アンタは平和で良かったなー。紅葉ぃ」
辟易しているのはエレノア嬢とオニキス嬢。オニキス嬢は特に疲れている。寝ている間にも触りに来るらしく、金星館での熟睡は諦めたらしい。いつもは触りに来る人数が少ないのに、昨晩は絶対数が4倍近かったからな。そうなれば小さい子になら興味本位って子も出てくるか。
エレノア嬢が何を聞いたのかはさておき、その年齢の子女が集まればまあな。恋バナなんかで盛り上がるのは明白なんだし、あんまり責め立てないであげたらどうかな? 君らだって入塾当初は似たような物だったんだろうからさ。
そして、一連の流れを踏んで、また日常が回る。
アリストクレアさんを発起人に旧ルシェ領西端の再開発を前倒しするとのお達し。甘いと取られるかもしれないが、子供の力は偉大なのだ。特に娘の力は。
その旗持ち役に任ぜられたのが、我が子泳鳶が率いる『彗星の標』達だ。
新たに編入した地方を暫定的に『四葉地方』と名付けた。アリストクレアさんの構想では、廃都されたラセランカスを中継開拓地にする腹積もりらしい。その前段階の準備として、自身の娘を嫁がせる泳鳶が管理することになる開拓地西部を、早めに興して置く方がいいからだろう。また、俺への配慮とアリストクレアさんが調べた結果から、もう1つの件もある。
「は、はあ……。フェザーハートの跡地をご当主様がお引取りになられるのですか?」
「ああ。この前は生き残りの救出と、アンチアンデッドの魔法処理が優先だったから。しっかりとは調べてないんだがな。あそこは見るものが見れば財宝の山が放置されたままなんだよ」
「と、申されましても。我々は此度の件でご当主様には大恩がございます。その上にこの様な大金は受け取れません」
何でもフェザーハート連邦の跡地の地質は、魔晶が豊富に含有された地層が露出していたらしい。
それに留まらずアリストクレアさんが武具を作る上で必要不可欠な、超希少金属や隕石が手付かずのまま放置されている。フェザーハート連邦は言っちゃ悪いけど、かなり文明も遅れていたからな。あそこは絶海の孤島な上に大陸としては小さい。また、植物が根付くには土質が痩せている上に、内陸部には魔素溜まりがあり、近づくのは難しい。
今を思えばよくもまあ、あんな土地に住んでたものだ。だが、外界を知らないならばそんな物だよな。消息不明ではあるが、兄さん達が帰らなくなるのも頷ける話しさ。普通なら首長筋先祖代々の墓を護らねばならないはずなんだけど……。その元首長の妻だった母上軍団が、もうこちらの生活は捨てがたいみたいだもの。姉さん達やその子供達も同じだし、移り住んだ鷲人は軒並み帰りたがらない。その気持ちもよく分かるから否定しにくいんだよな。
「し、しかし金額が……」
「んー、まあ、ぶっちゃけるとだな。鉱石を俺が予想量を正規価格で買ったとしたら、その100倍はくだらないぞ?」
「ひゃっ…ひゃ、100倍?!!」
「それに、お前達は家財すら持ち込めていない。その分の補填を入れる大義名分だよ。値段も値段だからな」
ま、アリストクレアさんとしては、貯まりに貯まったお金を吐き出すいい口実みたいなんだよね。だから、俺も協力して、口車に乗せた。アリストクレアさんとしては純粋な土地の代金。ちょっとアホみたいな値段だよ。……これでも値段的には安すぎるらしいけど。
母上軍団の代表であるクナメト義母さんへの説明としては、同時に移り住むクラウゾナスの民には給付金が無い。……実際はあるけど、義母さん達には伏せます。コホンっ…………なのにフェザーハートの民だけに、給付金を出しては不和が出る。それを遠回しに島を買う代金として支払う。……とね。
鷲人は割と単純だから直ぐに納得してくれた。一部はその迂遠な手段にまで推察が回っていたが、武門のユユ義母さんなんかは感謝しきりでオイオイ泣いてた。
「そんな訳で、仮なんだけど君らを僕の家臣ってことにして、アルバイトして欲しいんだ」
「んー? 別に構わないけど、今までみたいにパーティーメンバーのよしみじゃダメなの?」
「あはは、これから僕は西部開拓管理官だから。役職に着いたからには、しっかりと収支も明確にしなさいって母上からね。支出や、団体名がしっかりしてないといけないんだ」
「ほほう。僕らが彗星の標だと領主である泳兄本人も含まれちゃうし、そんな無駄金の処理を作るくらいなら、最初から僕らを抱き込んじゃうんだ」
「そういうこと。それだけで幾つか中間の処理が減るし。勇者評議会や会議に提出する書類やら、決算報告書とか……。あとはやり過ぎた時の始末書や報告書だね」
「ぜ、善処するよ」
檜枝が冷や汗混じりに逃げの一手だな。
確かに面倒な書類仕事は潮音さんのストレスの元だから、是非とも軽減してあげて欲しい。泳鳶の統括する管理区の報告書は潮音さんに直に行くから、それが少ないだけ潮音さんの仕事も減るんだよね。あの人は家事仕事はテキパキやるのに、書類業務は大嫌いみたいだから。数日書類漬けになると、かなり不機嫌になるし。
……ん? なんだ? 檜枝の様子がおかしい。いつも変なヤツではあるんだが、なんと言うか、あそこまでキョドったりはしてないんだけどな。
まあ、今はいいや。泳鳶の言葉に耳を傾けながら、幼い領お抱えの仮勇者達は、役職を割り振られていく。因みに、外へ旅立つ訳ではなく、無理な戦闘や能力解放もないので、龍王子ナーガローク君も輪に加わっている。やっとこさ自分にも役割が回ってきたからか、鼻息荒く意気込みも激しい。そんなナーガローク君には苦笑いの一同だが、まずはサブリーダーの檜枝に役職が振り分けられた。
「じゃ、檜枝には魔法顧問を任せるよ」
「魔法顧問かー。具体的な仕事内容は?」
「基本的には相談役だね。例えば、農林畜産への応用や、土木建築への利用とかの知識的助力かな。直接行使の場合は必ず僕の立ち会いが必須だから。よろしく」
「うへぇ……。マジかぁ……。できれば僕自身でがーっ! てやりたかったのに!」
「残念だけど。コレはアルフレッド先生からの指示でもあるから。僕だけの意見じゃないんだよね。まぁ、頑張って!」
清々しい笑顔の泳鳶が、項垂れる檜枝の肩を軽く叩きながら激励する。檜枝は9歳ながら魔法使いとしては、控え目に言って規格外な存在だ。今の泳鳶ではオーバーテクノロジーを多数抱える知識爆弾のような、凄まじい奇才の檜枝を十分に使いこなす事はできない。泳鳶は真面目だが、リスクテイクにおいてはかなりギリギリを攻める傾向にある。多分、泳鳶に檜枝の力の行使を制限なしに手渡したら、外部がちょっとアホみたいな被害を被る可能性すらあるからな。
幼い間に失敗を繰り返す事は悪いことではない。だが、取り返しのつかない失敗と、取り返しがつく失敗とでは物の解釈が変わるんだ。泳鳶達には経験して欲しいが、業を刻んで欲しい訳じゃない。敵の息の根を止める事に躊躇ないアイツらは、その力が身内に向いた時にどんな結末を迎えるかをしっかりとは理解していない。俺達が意図的に抑えてはいた。俺達だから問題は起きなかった。
しかし、それが一般人に対して不意に向いたとなれば話は全く別になる。特に放出力に長け、微細な調整が苦手な檜枝が事故を起こせば被害は計り知れない。
「ま、仕方ないかあ。塾の先生達なら僕の魔法も大丈夫なんだろうけど。民間人が居たらね……。巻き込んだら嫌だし」
「そうだねー。それだと僕も相談役とか?」
「ナーガの場合はまたちょっと違うかな。ナーガには各種族や団体のリーダーさん達と、その折衝や話し合いの調整係をお願いしたいんだ」
「な、なんか難しそうだね? 僕にできるかなぁ……」
「大丈夫。ナーガはレジアデス先生の息子なんだよ? ナーガの持ち味は立場とか関係なしに話をしっかりと聞ける所だから」
龍族は近人と比べてもかなり性質が異なる高等生物だ。幻想生物群とも括られる神威種に属し、その精神構造や成長過程は完全な謎に包まれている。人に親しく、人には括られない種族ではあるが、他の野生種と比べて人寄り。その中でも人との交流を重視する龍派閥の長を『龍王』と呼び、実力で受け継がれていく。
ナーガローク君はその龍王レジアデスの長子であり、男児だ。次代にはほぼ確実に龍王位を継承し、近人種との繋がりも受け継ぐ。その彼は現在の環境としても、これからの展望としても、たくさんの人種と関わりを持つべきだ。これは完全に過保護で、仲間思いなレジアデスの入れ知恵だな。アイツ突っ張ってるみたいな態度をとってはいるけど、仲間内では1番過保護で穏健なんだよな。しかも、かなり雑そうな物言いだけど、めちゃくちゃ真面目で几帳面なやつなんだよ。
ナーガローク君はそんな義に篤い父親と、ちょっと思い込みは激しいが真っ直ぐな性格でとても正義感の強い母親を持つ。あの子自身がどんな性格かはよく知らないけど、泳鳶がアレだけ親身に話すなら、次期龍王である龍王子ナーガロークは賢王となるだろう。そして、友人としても、政治の上でも、未来を共に歩める仲間だと認識しているんだ。
「そーだね。父上みたいにいろんな人と仲良くなって頑張ってみるよ!」
「その意気その意気! でも、難しい事があったら、考え込まずに僕の所に来るんだよ?」
「はい!」
めっちゃ素直な子だな。この子の未来の妻が、あの海龍姫サフィーナ嬢か。今のところ暴れん坊の代名詞みたいなあの子だ。この子も絶対に苦労するだろうな。
そのナーガローク君を肩車したのが、鬼の双子の片割れ、コークスだ。無口で何を考えているのか分からない子なのかと思いきや……。あの子は感情の上下が激しく不安定な子だったらしい。双子の片割れ、マブルから聞いたからどれ程急激に変わるかは分からない。けれど、どこかお調子者みたいな雰囲気も持ち合わせている。
そのマブルとコークスにもちゃんと仕事はある。マブルとコークスはとても優秀だ。悪ふざけさえなければ、アリストクレアさんも手伝いを許すだけの技術者の卵なのである。
とはいえ、マブルとコークスはまだ1から設計、予算との擦り合わせなどの折衝、サンプル作成など……と、正式な段取りを熟すにはいささか幼すぎる。だから、2人は今回は泳鳶が雇った技官の補佐が主業務になるようだ。2人の仕事は現場とデスクとの仲立ち。おそらく、2人が1番苦手な事だ。
「「え〜?! 僕らは触れないのっ?!」」
「君達ねえ、ラセランカスで僕のお願いを何回無視したか覚えてる? あと、アリストクレアさんからも監視を頼まれてるから、袖の下も甘言も通らないからね? 実力行使をしたら……」
「わー!! 待った待ったマジ勘弁! ちゃんと真面目にやるってば!」
「うんうん!!!! 絶対はっちゃけないから! 鬼鍛練はヤダよ!」
「よし、その言葉、ちゃんと聞いたからね? 破ったら、アリストクレアさんに報告するから」
「「あ゛ぁ~……。せっかく自由になれたのにぃ~」」
そこにタイミングを合わせたように現れたのはダズ、キース、コビンの三兄弟だ。
実はこの3人、アリストクレアさん、リクアニミスさん、クルシュワル大先生などの鍛冶仕事の師匠達から、独り立ちの許可が出たらしいのだ。3人は3人とも技術の傾向が違い、先に挙がった師匠連にニニンシュアリとオニキス嬢を加えた『鬼の鍛冶師』の新たな子工房として新たに立つのだ。
その為にアリストクレアさんからの勧めもあり、泳鳶のお膝元を起点に勢力を伸ばして根をはれと言う事らしい。
今回はゼロから都市を創るのだ。その上で地質学や構造学、素材毎の強み弱みを上手く扱えるコビン。ニニンシュアリとオニキス嬢の技術を良いとこ取りした新技術を使い、高度な魔導設備を敷設できるキース。あらゆる加工に精通し、2人よりも組み立てや現場作業に強みがあるダズ。タイミングよく独り立ちした3人を、無闇に野に放つのは勿体なさすぎる。そうなると必然だが、これから大いに発展する兆しのある開拓区に根を下ろせるならば最高だ。
「おーっす、泳坊! 来てやったぜ!」
「中々忙しそうだけど大丈夫かい? 無理はしないようにね」
「泳鳶なら、俺らくらい上手く使えんだろ。あ、忘れる所だった。俺はパール嬢の執事長だから、そのまま潮騒家でも世話になるからな」
「あ、え、あっ! はい。よろしくお願いします」
ほー、コレは拾い物だな。コビン・アスラーン。アルセタスで拾われた孤児の1人で、ニニンシュアリ、オニキスの弟弟子に当たる。アリストクレアさんからも機構学や魔法工学を習い、アリストクレアさんの私兵部隊で前線隊長にもなっていた。魔族の中でも力に長けた種族。黒蛇の魔族と魔人族のハーフでもあり、様々な方面に高い能力を持っている。
実はこの3人、凄まじい栄典劇を演じてるんだよな。
コビンもそうだが、キース、キース・ニーザン・オーガもそうだ。キースは潮音さんのお気に入りメイドのアーリア女史と結婚。今では娘を養う父親であり、潮騒家の家臣筆頭も務める。アルセタスから出た後、オニキスの弟子となり、魔晶精製と魔法工学では有名人。
はい、最後のダズだな。ダズ・マーセック・サンドリア。ダズはコビンに隠れてはいたが、実はクルシュワル大先生派閥に属する鬼の従者なのだ。クルシュワル大先生から鍛造製品と皮革、紐細工などを習いながら、リクアニミスさんからも彫刻や造型製作を学ぶ。工芸家としては既にリクアニミスさんに追随しうる実力を持ち、無手での戦闘においては三兄弟の中では段違いの物を持つ。
「がははは! 俺らが監視役だ。諦めな、マブ坊、コー坊!」
「ゔー!!」
「そうだね。泳鳶様に迷惑かけちゃダメだよ? 君らは確かに器用だけど、もっと学ばなくちゃいけない事はたくさんあるんだよ?」
「ゔー……」
「俺も君らにはかなり手を焼かされた。姉上様にもお仕置きされるぞ? 俺はパール様の侍従長だからな。諦めな」
「「くっそー……」」
そして、まだ指名されていないブランがソワソワしている。ブランは力の上ではそれ程6人の中では目立たない。しかし、ブランは6人の中で、唯一平均的な処理能力を持っている。あの歳で事務能力はもちろん、調理とかいろいろな技能に長けているわけだ。
そのブランへ視線を向けた泳鳶は、その真後ろに居た2人も含めて役目を言い渡す。
特化型でない分、ブランはどこに置いても何をやらせても成果を得られる。ブランに任された職務は、言わば防衛大臣のような職務。その職権はかなり幅広く、先に言い渡された4人よりも格段に職務上の自由が保証されている。しかし、反面ブランの職権はその責任も大きい。何故ならブランに与えられたのは、この西部開拓地の防衛のあらゆる立ち上げの全てに置ける指揮権だったのだ。
それを理解できるだけ頭が回るブランは、一気に顔を青ざめさせていた。ブランは彗星の標では、何の役にもついていない。だからこそブランはその場に応じた形に合わせて自身の形を変え、泳鳶の求めうる最高の成績を叩き出す。あくまで泳鳶が不得手な魔法の全てを支える檜枝のように、1つの役割を飛び抜けた効率で運用する必要がある訳じゃない。
「ブランにはこの領の防衛の全権を任せたいんだ。いずれは僕の妻になるパールが将軍となる。その前にブランには堅固な足場を立ち上げて欲しい」
「い、いや、でもだよ? 僕にはそんな大役は……」
「だーいじょうぶだって! ブラン坊ちゃんにはこのアラン・ネルベーレンが付いてる!」
「俺もいるんで、手足に使ってくださいよ。レギウス・ファーラン、参上いたしました」
時兎の神殿騎士、聖騎士派に属する魔法拳闘士。アランだ。ネルベーレンはカルフィアーテが与えた新しい性で、聖刻の聖騎士へ正式に迎えられた中では初の栄誉だ。そして、戸籍を得たのと同時にアランは殲滅戦力級の勇者階級へ正式に任ぜられ、その実力と共に広く名を轟かせている。カルフィアーテの話では書類仕事は苦手らしいが、兄貴肌で聖騎士派、暗黒騎士派の両派の若手から慕われる現場での花形だ。
その次に現れたのが、レギウス・ファーラン。鬼の名家、ファーラン家のお嬢に見初められ、実力も確か。書類仕事に家事雑務、子供の世話に魔獣退治。やらせれば器用に何でも熟す万能なヤツなんだが、若干自己評価が低くてあまり目立ちたがらない。部下からは慕われてるんだけどな。
2人もめでたく結婚し、子宝にも恵まれているからな。聖刻の狭い場で抑え込むのではなく、新たな場所で新たな経験を積ませたいんだろう。2人は神殿騎士団の潮騒分団団長と副団長を務める予定なんだ。時期的にも人柄的にも問題なし。最高の人材をカルフィアーテが出してくれたわけさ。
「アランさん! レギウスさん!」
「なんだー? 情けねーぞ? ま、初めてだもんな。それは俺も一緒だ」
「その通り。我々と共に作り上げましょう」
「お2人が居れば心強いですよ!」
実は、2人だけじゃない。勇者戦力だけでは開拓は上手く回らないんだ。その為の人材としてはまさかの人材が送り込まれている。これまではあまり関わらなかった人達から、厳しく人選び抜かれた人員がね。
まずはシルヴィアさんのお母上であるアシアド様から、クーア嬢が修道院長として送り込まれている。また、事務能力の達人として、フォン嬢から彼女の部下を10数名。拠点を整える為に兎の女神族、睦月さんから娘の卯月さんを。……などと各派から人が送られている。半ばお祝いと、これからの関係を維持するためにね。
お、子供達が俺達に気づいたな。
一斉にこちらに走り寄り、泳鳶を中心に並んで俺達からの言葉を待っている。ま、ニニンシュアリはこのパーティーには子供は関係……え? 蜜月君が相応の歳になったら泳鳶の所に修行に出す? だから、その依頼と設備投資の話なんかの為に顔を出したようだ。
まずはレジアデス。コークスに肩車されたままの息子の頭を撫で上げ、ちょっと突き放す感じではあったが、とうの息子は誇らしげだ。ここ最近、妙に不機嫌そうだったアルフレッドも目線を息子に合わせ、重々しく2つの報告をする。
「檜枝も頑張るんだぞ。やり過ぎない程度にな」
「はい。父上」
「でな? ちょっと報告がある」
「はい?」
「檜枝、お前も兄ちゃんになるぞ。まだ3ヶ月だから性別は分からないが、ハイエルフだから多分妹だろう。そのつもりでな」
「えっ?! い、妹?」
「だから、お前も年貢の納め時だ」
「……あ、あの件ですか?」
ここで檜枝が挙動不審だった理由が顕になる。アルフレッドが後ろを振り向き、……俺達の更に後ろにいる人達の、1人に視線を飛ばした。そこにはアリストクレアさんに連れられる形で後ろに立つヴォーレル帝が居る。何となく察したが、ヴォーレル帝は袖に手を通したまま、深く一礼するリナリア特有の挨拶を返したのみ。アルフレッドも改めて檜枝を激励し、俺達の列に戻った。
最後はカルフィアーテが歩み出す。真剣な表情で胸に手を当て、神殿の敬礼を取るブランに同じ動作を返す。
カルフィアーテはしゃがみこみ視線を合わせ、同じ毛質のフワッとした髪をクシャクシャと撫で回す。緊張が解かれたブランは少し驚いてはいたが、カルフィアーテからの無言の激励に再び神殿の礼を返す。カルフィアーテも立ちあがり、再び同じ礼を取って俺達の列に加わる。
後ろで待ちきれない人達が何人か居るからな。
最初に詰め寄ったのはエレノア嬢。父親のカルフィアーテとは違い、強く抱き締めて何度も心配だと言うが、後ろから現れた紅葉嬢に引き剥がされる。
「コラコラ。エレももっと信じてあげなよ。それに会えなくなるとかじゃないんだし、塾にもまだ通うんだから」
「うー……。わかってる。でも……」
「まあ、気持ちは解らなくはないわ。檜枝! アンタはやり過ぎないようにね? しばらくしたらお兄ちゃんなんだからさ」
ブランと檜枝は2人とも少し複雑な表情をしたが、2人は揃って母に向け頷いていた。
次はアリストクレアさんとシルヴィアさんが揃って現れ、その後ろにはリーナ嬢が生まれたばかりの娘を抱いていた。アリストクレアさんは無言で頷き、2人の頭を撫で回した後に歩いて行ってしまう。その後はヤレヤレとばかりのシルヴィアさんが、リーナ嬢を手招きして2人には初お目見えだ。
実はリーナ嬢は泳鳶達がクラバナへ旅立った頃に、産気づき無事に娘が産まれていた。
これで鬼の兄弟で1番下だった双子もお兄ちゃんになる訳だ。マブルはどう反応したら良いかわからないような顔をしている。コークスは肩車したままのナーガローク君と共に覗き込み、嬉しそうに満面の笑み。鬼の家に、左右非対称の新たな角をもつ姫がまた誕生したのだ。シルヴィアさんの話ではリーナ嬢はかなり積極的らしく、すぐに次をもうけるだろうってさ……。まじか……。
そして、あまり現れない人までが現れた。
そこには潮音さんと共にその兄上のお3方と、海神の巫女様である公孫樹様が来てくれていたのだ。もちろん泳鳶のために来てくれたのだが、豪華すぎる。
「久々に見るが、大きくなったな。ボウズ!」
「ははは、赤八も私も君の活躍を海神で聞くだけであったワケだが、成程。さすがは潮音と赤羽の子だな」
「お久しぶりです。赤八叔父上、白槍叔父上。お2人もお元気そうで何よりです」
「こやつらが元気でない訳があるまい。元気が有り余っておるくらいだからな」
「太刀海叔父上まで……。御足労ありがとうございます」
太刀海先生が実質的に治めている海神国。その代表本人がこちらに赴いたのは泳鳶が、彼の住まう国家に接する土地を管理するからだ。そして、その立場は叔父と甥の関係。その上で年功序列の慣例が強いこの周辺の土地で、目上にあたる叔父が新任の甥の土地へ赴く事は一定の意味がある。
太刀海先生は国の立場を背負い、甥が管理をする予定の土地に赴いた。聖刻に新たに編入する事になったこの土地。旧ルシェは長い間を人が住まなかった。怪異により崩壊した首都から漏れ出した高濃度の魔素と、神通力はその土地を生き物が死滅する不毛の地へ変えた。灰化と呼ばれる生命体の崩壊現象が、土地のそこかしこで起きたのだ。
その土地は周囲との交易路としてはとても有用な土地なのに、元からだだっ広い荒野で再開発に向かず最後の最後まで除染が進まなかった。それがついになされ、同時に新たな思想による統治が始まる。その時に最初から血筋の上での上下があるのは良くない。
太刀海先生は甥と対等な立場で、手加減抜きで付き合いをする……国を背負う者として。……と、言葉にはしないが態度と圧で示しているんだ。泳鳶はそれすら理解している。規格外の11歳の新代表をヤレヤレと苦笑いで見やるのは、政の際に、実務的な書類仕事や交渉を行う白槍さんだった。そして、泳鳶の背にある身の丈程もある翡翠色の宝玉を輝かせる大剣をしげしげと見やる赤八さん。最後に、潮音さんて俺の息子を、晴れやかな笑顔で見ながら手を差し出す太刀海先生。我が主だが、この人に仕える俺はこの先泳鳶や潮音さんと交渉をしなくてはならない。はあ……。また、手強い相手が増えたな。
「とりあえず、すぐにできる顔合わせはこんなもんだな。ただ、この先も変化はするだろう。それから、あまり背負い混むなよ?」
「は、はい……」
「俺や潮音さんは海神の調停官である前にお前の父親で、潮騒公である前にお前の母親だ。身分、肩書き、影響力何かをすっ飛ばして、辛くなったらいつでも頼れ。コレだけはぜったいだぞ?」
「狡いですよ、父上。そこまで言われたらいくら僕でもきますって……」
ちょっとじんわりするだろう親子の掛け合いをぶった切ったのは、いつも恒例の小兎ちゃん軍団。
口々に「ですー!」とか言いながらあちこちで、テーブルや一段高い宴壇、代表的な移住者達や顔見知りを先導する小兎ちゃん達の姿。
その中には、なんか増えてないか? 明らかに別種族的な人達も居れば、身内でもあまりこういう場に来ないメンバーもフォーマルな感じで現れている。前のお祭り騒ぎとは異なり、今日は正式な式典だ。アレは移住者の歓迎会的な意味合いが強く、俺の故郷からの避難民の受け入れや両家の挨拶も兼ねていた。いろいろ詰め込んだために凄く、言い様がない程にカオスだったけど、今日は小兎ちゃん軍団以外は意外と行儀いい。
特に驚かされたのがサフィーナ嬢。あの大乱闘で想い人のナーガローク君に怖がられてしまったのが、相当堪えたらしくかなり一気にお淑やかな雰囲気に。気味が悪いくらいだな。ついでに言えば、そんな姉を見たからか、ルビリア嬢も突飛な態度はかなり抑えられている。
「なあ、パール嬢。本当に良かったのか? 頼まざるをえなかった俺が言うのもなんだけど」
「ふふふ、構いません。以前のお話し合いでも申し上げましたが、泳には嫁を私含め5人は養う甲斐性が今でも十分にあります。今、5人。私が1番であれば、特に何もいいませんよ」
「パール様が心の広いお方で本当に良かった。わたくしはリリアーナお姉様と力を合わせ、分家衆として末永くお支えしていく所存です」
「ええ、我々はぶんは弁えておりますゆえ」
言わんでも解るだろうが、泳鳶の婚約者が本人も知らぬ内に増えた。コレには複雑な理由があってだな。……誤魔化すのはやめよう。直接的に言うと、純血に近い古代鷲人の血筋を後世に残すためなんだ。
突然だが、俺には30人近い兄弟姉妹が居る。だが、俺以外の兄弟姉妹は俺の異母兄弟になる。父親は同じだが、母親が違う人物ばかりだ。それで問題になるのが先頃に起きたアンデッド襲来と、海洋汚染からの疫病モドキ騒動。死亡してしまった男性の鷲人は元から絶対数が少なく、中でも古代鷲人ともなれば首長筋以外には居らずかなり希少となる。
つまり、血筋的に俺か泳鳶に白羽の矢が立つのだが、俺はそうそうに候補から外された。……泳鳶一択になるわけさ。
理由は俺の身分。フェザーハートの首長筋が健在ならば、俺は末子だから家内の優先順位は最下位。しかし、フェザーハートの首長筋の男性が皆討死、たまたま救援に来た組織の中でも高位の立場に俺が来る。その首長が俺に避難民の進退を一任している点から、彼女らは俺より下に扱われ、その妻の潮音さんが重婚や複婚を許していない。こうなると、必然的に外れるのだ。
また、フェザーハートの文化上、俺と縁組できるのは俺より2階級下以内の身分の女性のみとなる。身分はな。こちらは気にしないが、向こうは酷く気にする。今の俺は首長と同じ天頂位。対象にできるのは母上達か、姉上達の誰か……となってしまうのだ。さすがに血の繋がりはなくとも母親は無理。姉上達などもっての外。
「泳様はとても魅力的、私は1番でなくても構わない。お相手としては義父様も凄く魅力的だけど、私では身分が釣り合わないから」
「だよねー。それに欲を言うなら歳はなるべく近い方がね。頑張って男の子を産まなくちゃだし!」
「うん。そこが重要。ちゃんと古代鷲人の次代を担う」
今回、我が子の泳鳶と新たに縁組をしたのは、俺の姉上達の娘達だ。リフォリル姉さんの娘、クジャクの古代鷲人のリカンツァ嬢。レンゼイラ姉さんの娘、オオタカの古代鷲人のレンソウミ嬢。どちらも15歳の古代鷲人でフェザーハートの文化上でも結婚して大丈夫な年齢。因みに、フェザーハートの結婚とは子作り可と言う意味だ。2人とも怪しい目を泳鳶に向けている。
ちょっと野性味のある文化だからな。仕方ない。ちょいと扇情的な花嫁衣装を身に着けた2人もかなり乗り気だ。しかし、聖刻法でもフェザーハートの文化でも泳鳶はまだ結婚不可。なので、家族同士の縁を結ぶ式と、この領地に加わる種族の代表の娘を縁組させたと言う形にしたわけさ。言わずもがなリリアーナ嬢はクラウゾナス代表の花嫁。リカンツァ嬢とレンソウミ嬢がフェザーハート代表の花嫁。そして、新たな花嫁の3人目が居る。一応、これまでも居たんだがかなり謙虚な人物らしく、あまり主張しない。というか、その2家族は合わせて80人近く居るのに、ビビりまくって皆隅っこでビクビクしている。普通なのはサフィーナ嬢と談笑しながら飲み食いする末娘の藍雅嬢くらいか?
そう、夜桜先生が拾い育てたと言う不知火さんのお嬢さんのお1人の娘さんなんだよ。その人は組を抜けて海神に住んでいたらしい。その土地で陸の海神人である蜥蜴人と結ばれ、白槍さんの妻、華箕嬢の部下に居たんだと。そして、花嫁はそのまた娘。
「私は末席でお、大人しくしておりますので……、ど、どどどどうか……お、穏便に……」
「え、あ、いや。そこまで怯えられると……」
「と?」
「逆に虐めたくなるのですが?」
「ヒィェっ?!」
空気になりきっていたその子を冗談に聞こえない冗談、ブラックジョークを叩き込み震えこませ、パール嬢自身が困惑していた。そこからはリリアーナ嬢がその子、白麗嬢を抱いてあやしている始末。実はこの5人、1番の最年少が正妻であり第1婦人予定のパール嬢なのだ。次が海神からの花嫁の白麗嬢で13歳。ここからはリカンツァ嬢、レンソウミ嬢、リリアーナ嬢。ま、年齢はいいか。問題は5人もいきなり娶る事が決まった泳鳶の心の問題。一応、思春期真っ盛りで多感な男子だから。あまりに刺激が強いのはね。この辺りは改めて各派から出された花嫁と母親達で話し合いがなされ、いろいろな決め事もできたんだけどな。
まず、最初に変えられたのが、子作りの順番だ。
俺が第1子はパール嬢との子と言ったが、ここは母親全員に改められる形になった。最初の2人だけならそれも良かったが、いきなり5人になり、寿命が短い人族のリリアーナ嬢が最年長だ。しかも、パール嬢が成人し、嫁入りするまでに5年。子を安全に産めるようになるまでにまた3年は見た方が無難だと言われた。つまり、リリアーナ嬢への配慮の為だ。
「でも羨ましいよねー。歳の近い幼なじみがいるなんて」
「うんうん。私達は居なかったもんね。下手したらかなり歳が離れた人と結婚するしかなかったし」
「そ、そうだったんですか?」
「あー、白麗ちゃんはどうして泳君とこに来たの?」
「わ、私の、い、一族は……怪異で沢山亡くなってしまって。そもそも個体数が居ないんです。泳鳶様は古代人魚の血を引くお方。私も父が古代人魚の血を引く蜥蜴人だったので、血筋的にも年齢的にもちょうどよかったのです」
あー、この子も怪異関係だったのか。海神は海の種族が大半のイメージが強いが実際は違う。泳鳶が管理を始める西部開拓地やアグナス国、海神国、アルセタス、リナリア帝国との国境沿いには陸の種族も居る。今回は内陸部ではなく、海浜に近い河川付近の種族。それ以外にも川辺を居住地にする種族もたくさん居たのだ。その内の1種族が蜥蜴人族。人型ではあるが、魔族に近く強靭な肉体をしているが、その生活感から水辺の近くしか居住できない種族でもある。その一部族に古代人魚の血が受け継がれ、周囲の土地での総代表的な役割もしていたらしい。そこに不知火さんの娘さんが嫁ぎ、卵で産まれるまであと少しだったのが、白麗嬢だった。
その頃、海神の怪異が起きた。多数の死者を出したものの生き延びた者達だけでとりあえずは復旧できた。しかし、それは間に合わせでしかなく、次世代の子供を増やすに至っていない。それだけだと立ち行かず、より強い権力者による庇護を求め、他の土地に分派を作っておくことにしたのだと白麗嬢が言う。
フェザーハート出身の2人はへ〜って感じ。この子らも血のためによる婚姻だからな。愛情云々よりも、玉の輿に乗ってお気楽ルートってのが考えとしては先に立つ。リリアーナ嬢などは愛情ではあるが、国が滅びているし、それ以上に事情が複雑だ。パール嬢? まんまベタな恋愛結婚だしな。
「私は泳に1番に愛される事、それだけです。別に先に子供を産もうがいい家に住もうがどうだっていいんです。もっと言えば、種族も結婚の理由も特に関係ないんですから」
「ほ、ほえ~」
「私もパールちゃんにはずっと驚かされてるわ。でも、この子は嘘は絶対につかないし、私達は姉妹も同然。ゆっくり仲良くなりましょ?」
そんでもってリリアーナ嬢の配慮以外にもう1つ。
パール嬢が語った通り、パール嬢より先に子を儲けようがなんだろうが気にしないらしい。その上での決め事が、家や土地などの継承権の問題で、最優先がパール嬢の子供になるのだ。そして、分家衆という言葉が作られた。分家の4家はリリアーナ嬢を筆頭に、リカンツァ嬢、レンソウミ嬢、白麗嬢となる。この順に子供の継承権が上下する。そんなルールが作られたのだ。それなら最初から重婚をやめればいいのにな。……その辺は当人達にお任せしますけどね?
それよりも何よりも俺がずっと気になるのは、そんな花嫁達の話を真剣に聞いている3人の女の子。
メンバーとしては1番食い付きの良いリナリア帝国の第1皇女、ローリエ姫である。次がラセランカス出身の魔法使い、カトリア嬢。最後にローリエ姫の妹のラベンダー姫だ。うん。まあ、ネタバレと言うかなんというか、アルフレッドが最近機嫌が悪かった理由の1つなんだよ。アルフレッドと紅葉嬢の間には檜枝しか居なかった。しかし、ヴォーレル帝はいずれは帝の位を継がせられる後継者を欲し、ローリエ姫がベッタリ張り付いている檜枝を欲しがった。紅葉嬢は反対しなかったらしいのだが、アルフレッドが猛反対。檜枝は森人の血を引く数少ない文字魔法の継承者でもある。それに息子を外に出したくなかったらしいのだ。
しかし、状況が変わった。紅葉嬢と鬼灯嬢が懐妊。その報せをこれ幸いと、ヴォーレル帝が檜枝をかっさらうに至ったらしいのだ。
「しょうがないわよ。アルフ」
「……。はぁ、いつまでも意地を張ってられないからね。僕も切り替えてるよ。とはいえ、ねえ。何で君も檜枝を婿に送ることに賛同したんだい?」
「あ、不機嫌だったのって……」
「そうさ。で? 何故?」
「うーん。カンかしらね? コレばっかりはそうとしか」
「……なら、そうなんだろう。君のカンは凄い。それは否定できない」
あー、年貢の納め時か。何やら小兎ちゃん達がトンテンカンと宴台を新たに新造している。しかも釘を使わない組み立て式のヤツ。小兎ちゃん達は馬力は無いが、数でカバーする。
あちこちからワラワラワラワラワラワラワラワラ……と、無数に集まり、最後に檜枝とさっきの3人を担いで宴台の上に用意された席へ座らせた。お祝いですー! とか言いながら。




