導き手と新たな道
チビ達のパーティーが旅立って行った。我が子、ナーガロークは少し寂しそうだが、仕方ない。龍族の特徴でもあるからな。幼い龍は非常にデリケート。死に直面する可能性すらある。リスクは無いに越したことはない。
聖刻の神童と呼ばれる泳鳶がリーダーの男子パーティーだが、何故か出発ギリギリまでパーティー名を公表していなかった。今更な話だがな。アリストクレアさんやミュラーが催した簡易な出立式で、泳鳶からアリストクレアさんに伝えられ、正式に仮勇者パーティー『彗星の標』はコブを伴って第一目的地、クラバナ小国連合へ向かった。
ちなみに俺もそのコブの1人だ。
これはアリストクレアさんからの直接依頼。いつになく真剣な表情をするからどんな以来かと身構えたが、とりあえずは安心した。その理由はアリストクレアさんが目をかけて育てた天才児、泳鳶の事に端を発している。どうも泳鳶の様子がおかしいって事だ。パール嬢ちゃん経由でアリストクレアさんに伝わり、アリストクレアさんも既に婚約者として認めている節があるから、俺にお目付け役としての役を投げて来たらしい。
あと、単純にクラウゾナス帝国内部の詳細な情報が不自然らしい。先行して調査しているルビリア嬢ちゃんの眷族であるヴァンパイア達も、強い違和感があるとの事。その辺りも加味してなんだろう。真顔がむっちゃ怖かったが、あの人がクラウゾナス帝国を俺が単体戦で潰す許可を出した程だ。
あと、元から決まっていたコブも経験を積ませる為に選ばれている。一緒に向かっているのはキース、ダズ、コビン、アラン、レギウスの勇者パーティー『黒鋼の鎧』だ。コイツらの安全、もちろん彗星の標の安全も俺が保証せなならん。いざとなりゃ、龍王に認められた証を使えば余裕だが、手加減がきかねーからよ。仲間を守るためとは言え、実力行使は避けたい。できれば穏便に行きたいもんだぜ。
「レジアデス様、あの子らはホントに規格外ですね」
「あん? んなこたー前から解りきってただろ」
「にしてもですよ。あの歳で大聖獣や構築魔法、超広域探査……普通ならありえませんから」
「お前達はアリストクレアさんにスカウトされた時から一般的な判断で生きて来られたか?」
「それを言われちまうと何も言えないっすよ。俺らも似たり寄ったりの体験はしてますんで」
俺達は高度8000mの上空から、高度500m程を飛行している5人を見ている。何故こんな上空に飛んでいるかと言えば、俺達はチビ達の監察が主目的で手助けが目的じゃない。結局の所は俺達はコブだ。手を出すのは最低限にしねーと、アイツらのタメにはならん。だから俺達は付かず離れずのチビ達が俺達をアテにしない距離に居るんだ。
現在、聖刻共和国から出て半日。通常の馬車旅ならば1週間はかかる距離を、ヤツらは空を飛んで進んでいる。方法はな。それなりに高い技術力が要求されるだろう。檜枝が持っている空飛ぶ絨毯を泳鳶の大聖獣が一体、朱雀が引っ張っている。その朱雀と空飛ぶ絨毯を繋ぐ装具はマブルが構築し、コークスが簡易的な武装を配置。ブランの異能『英雄盾』で簡易の移動要塞と化している。子供とは言えども、古代人や規格外の血筋。規格外と言うよか非常識ってのがしっくりくる。余程の事がなけりゃアイツらだけでもクラウゾナス帝国は火の海だな。いや、余程の事が起きたらアイツらだけでも火の海……か?
え? チビ達の人数に対してコブの人数が多いって?
あのなー。俺なら暴走したチビ1人を止めるのはできる。複数だとキツいが……。複数同時でも多少リスクはあるが、まだまだ経験の無いお坊っちゃん達なんかに遅れは取らんさ。だがな、他のは違う。
確かにここに居るのは最低でもSSS級勇者だ。この世界の標準に照らし合わせるなら、コイツらも一人一人が国家殲滅級の化け物揃いだ。だが、コイツらもまだ若手の域から抜けられない範囲にいる。その若手を無駄に散らすなんてのは、絶対に許容できん。つまり、俺は全体の監視役なんだ。余程の事がなけりゃ出張るつもりは無いが、余程の事が起きたら俺は躊躇なくクラウゾナス帝国を焼き払うくらいの権限を与えられてんだよ。
「にしても、……平和っすね」
「だな。下の御曹司達も危なげもなく危険度Aクラス以上の大魔獣や野性魔鬼を狩ってるからな。俺らでも余裕はあるが、あんだけ安定してっと手を出す必要もねえし」
「油断は禁物だけど、僕らも暇だね」
「それはレジアデス様のおかげだよ。龍に喧嘩売るバカは限られる。しかも龍王位の大龍に喧嘩売るとか正気の沙汰じゃない」
「がはは!、ちげーねーっ!」
「……『お前らちゃんと理解してっか知らねーが、俺なんかじゃ相手にならん凶悪な人らがお前らの雇用主だからな』」
俺らも年取ったよなぁー……。まあ、長命種だから10年20年は誤差なんだが、な。俺らもあの時期は気軽だったぜ。結婚しては居るが、ヤツらもまだ若い。その内大変な目に逢うんだから。せいぜい楽しむがいいさ。
年齢が近い事や、鬼の庇護下へ同時期に組み込まれたこともありコイツらは仲がいい。きっかけは同時期に夜桜先生からコンタクトを受けた事も共通点だな。それ以前に元から知り合いのキース、ダズ、コビンの組と、別口だがアランとレギウスもかなり早い段階で馴染んだ。
下のボウズらも暇そうだし、出番の少ないコイツらをちゃんと紹介しようかね。
まずは1番影の薄いやつから行こうか。レギウスだ。夜桜先生が準備したお見合いの被害者で、今ではリーズグリュー嬢ちゃんと結婚し、レギウス・ファーランと婿入り。活動は治安維持や魔物、魔獣からの防衛だからかなり地味だが有能なヤツなんだぜ? レギウスは現在聖刻に唯一無二の刀剣の申し子。総合的な剣技だけならば、アリストクレアさんやクルシュワル様に勝てやしない。だが、レギウスの強みはその応用範囲と、先の御二方と技をもって打ち合える技量にある。レギウスは様々な刃物を自在に扱えるんだよな。1番得意なのはミドルソードと呼ばれる中途半端な長さの剣だが、刃物さえついているなら様々な武器で超級戦力と肉薄する。現在の暗黒騎士の中では、エレノア嬢に次ぐ強さを持ってんだよな。
レギウスの影が薄いのは、レギウスには広域破壊異能がないからだ。その代りに、レギウスは国に10人も居ない『剣聖』の称号を持ってる。確かに俺達と比べたら派手さはないが、並の戦力などではどれだけ束になろうが勝てやしない。特に詠唱や集中が必要な専業魔法使いには天敵だろうさ。
「ふーむ。にしても泳鳶坊ちゃんが荒れてるのか……」
「なー。泳鳶坊ちゃんはかなり理知的で思いやりもあるし、考え方も柔軟なのにな」
「だからこそかもしんねーぜ」
「だからこそ……とは?」
「泳鳶は統治者としての考え方が強い。言い方は嫌われるだろうが、秩序を守る者の心構えを母親から受け継いで……あまりにも胸糞悪い輩は許せないんだろうさ」
思い当たる節があるのか、アランが深く頷いていた。
実はこのアランはかなりの大物だ。なんせ父親は夜桜先生が認めたと言うほどの魔法使いだったハイエルフで、母親はなんと妖精人族。カルフィアーテと親戚って事になるとも聞いたぞ。実力はレギウスと同程度。それに訓練の開始が遅かったのと、我流で変な癖が体に染み込んじまってたからまだまだだがな。とは言うが、それを差し引いても聖騎士団のナンバー2だ。その戦闘力は伊達じゃない。カルフィアーテが炎と岩石の合成魔法を使うのに対し、アランは風と空間重力。なかなかレアな組み合わせのヤツだ。
我流で粗が散見していたが、アランの真髄はあらゆる格闘技に詳しく、器用な身のこなしが可能なこと。あらゆる体位から繰り出す変則的な技の数々は敵を翻弄し、風魔法による加速は時空を超え、体格差すらも空間重力魔法でねじ曲げる。速さに重さが加わったアランの技はあのアリストクレアさんすら唸らせた程だ。ただ、まだまだアリストクレアさんレベルだと技が拙くて出し抜くのには歩が悪く、勝てないみたいだがな。
俺? 俺が相手だとまた違った意味で無理だろうな。魔法、特性を抜きにしてもアランの技は俺には相性が悪い。俺は風神龍だ。風魔法は息を吸うように……加重魔法は元が龍だから大したアドバンテージにはならん。余裕とまではいかんが、大して苦戦もしねーな。どっちかと言うなら風を切り裂くレギウスのが相性が悪い。ま、レギウスにしてもまだまだ俺の鱗に傷を付けるのがやっとってレベルだ。負けは無い。
「気にするべきとは思いますが、泳鳶はそれ程問題じゃないかも知れないですね」
「んー? どうしてだよ。コビン」
「いや、ダズも少しは考えなよ。……それは置いといて。泳鳶は荒れてもどこかでストッパーなりをかけられる。最悪の方向には向かわないと思う。でも檜枝やマブル、コークスは違う。特に檜枝は泳鳶と仲がいいから要注意だよ」
「泳鳶は自力で踏みとどまれるけど、檜枝はまだその域じゃないから?」
「そうだろーな。ま、コビンの言う通りだ。お前らも気をつけて見てやれな」
コビン。コイツはいろんな意味で化け物だ。瞬間火力だけなら我らが大将、アリストクレアさんと張れるんだからな。仲間内での模擬戦では俺も油断していたから酷い目にあったよ。ただ、油断さえしなければコビンに負ける事はない。アイツには致命的な弱点があるんだよな。
コビンは魂の色が……『黒』の素質が強すぎる。
魂の色はこの世界の創世神が立てた理。俺は風神竜だからか、明るい緑色だ。んで、とうのコビンは黒。そのコビンが避けられない大問題は武器や肉体がもたないこと。体力と神通力が体にもたらすダメージから、長時間はフルパワーを維持できないことか。その点は黒の素質を持つ存在には共通してる。嫁さんのオルグリーズ嬢しかり、パール嬢ちゃんもアリストクレアさんも……神族化以前の夜桜先生もだ。だから、使う武器も魔法石に詰め込んだ、半物理半射撃と言う意味の分からない武器を使う。
しかもコビンは軍の技官としてもかなり有名だ。武器は全部時前だし、アリストクレアさんの直弟子にあたり、システマチックながら剛性を持つ武器を使うのだ。主武装は『パイルバンカー』。他にも多数似たような近接格闘を可能にする射出型兵装と、機械外装を魔力と神通力によって維持できる。初代オーガ様曰く、『ウルトラマンと特撮ヒーローを足して2で割ったようなヤツだな』と言う事だ。意味は解らなかったが、呆れてたからまあな。
「ブランは? 誰も気にしてないけど」
「あー、ブラン坊ちゃんはな。仕方ないよ。あの子は案外ビビリだから、本気で怒らせない限りは大問題はないと思うよ」
「へー、さすがは直属護衛騎士。よく知ってんな」
「ただなあ、ブラン坊ちゃんもスイッチが切り替わったらマズいな。鬼と妖精のハーフだから、半分は戦闘民族の血をひいてるんでね」
「あー、さもありなんってヤツだな」
ダズが締めくくったが、このダズもその戦闘民族の血を引く輩だ。つまり、コイツも戦うのは大好きなんだよ。ダズは口も悪いし若干ガラが悪い風貌ながら、その実面倒見がよく子供を嫌わない。むしろ子供は好きっぽくてな。父性に満ち満ちとしてやがるから、彼女のクーアが務めているアシアド様の孤児院でよく子供と遊んでいる姿を見る。
そのダズなんだが…………、見た通り脳筋思考で、神通力が体の中で高速回転すると『戦闘狂』に切り替わる。ダズの本職は古典的な武器や建築物を主に扱う職人。荒々しいタッチをしたかと思えば、精緻な細工を施す類稀な工芸家だ。だが、ダズの両腕は闘いに飢えている。ぶっとい石柱みたいな金属のヌンチャクをぶん回し、あの完全体状態の阿修羅王と楽しそうに戦っていたのだ。阿修羅王は聖獣や精霊、神霊の中では上から数えた方が早い存在。その頂上的生物に……『あやつとはあまりやりたくない。終わりが見えんからな』。……と、言わせしめたのだ。だから俺もダズとは模擬戦もあまりやらない。ダズも基本的に模擬戦を挑むのは、阿修羅王や喰蛇のメンバー。竜狩りフォンドン、太刀海先生、クルシュワル様、リクアニミスさん、……アリストクレアさん。この辺りか? そういやー、たまに夜桜先生にボコボコにされてたな。
ま、俺はあのクソでかいヌンチャクでぶん殴られたくはねーからな。
だが、真っ直ぐな性格だけあって、弱点もわかりやすいぜ。ダズは搦手に滅法弱い。特に技の匠であるニニンシュアリや武技の厚みがある太刀海先生やリクアニミスさんにもかなり手酷くやられてたしな。…………とは言っても、神獣族の一種、緋猿は龍とタイマン張れる馬鹿力に、神獣族特有の馬鹿げた神通力量。化け物だよ。マジで。
「ふーむ。レジアデス様が難しいとなると、檜枝君を止められるのは僕だけ……か」
「だろうな。キースはニニンシュアリに技術教導をうけたんだからよ。むしろ、お前以外はキツいとかじゃすまねーだろうな」
「あ、いえ、さすがに彼の構築後の魔法器物を防除するのは難しいんですが」
キースもキースでヤバいんだよな。三兄弟では長兄で、かなり謙虚な男。魔法陣学や魔晶学の学位があり、属性魔法のエキスパート。キースは元から凄まじい才能を持っていた。そして、義理の兄となった我らがリーダー、オーガ・ニニンシュアリの薫陶を受け覚醒に至った。どうも2人共が淫魔であったことも、双方を更なる高みへ押し上げる好適な条件になったみたいだしな。
キースやニニンシュアリ達の様な男性淫魔は、特別な条件下にしか生まれない。それは一族の崩壊寸前を意味する。その淫魔…こっちの国では近縁種を含めて『性鬼』とも呼ばれるが……。連中は最初は一族一血統の種族だった。しかし、迫害が強まる中、当時の女王が最も力のあった3人の娘に際立った力を分与し、各地に散ったらしい。
その散り散りになった血が、今2つの分派に分かれた上で1つになったのだ。キースはニニンシュアリから魔法を自在に操る力を。ニニンシュアリは淫魔本来の魅了の力が戻ったらしい。魔素操作は言わずもがな、魅了の力はまあな。派手ではないが、ニニンシュアリがずっと欲しがっていた異能形態。根本はよく知らないが、2人が習得した異能はどちらも強力な能力だぜ。
ただしキースもまだまだ若手の部類。ニニンシュアリやアリストクレアさんには魔法限定でも簡単にやられてた。そんな目の前にいる苦労人、キースは魔法を自在に操る上に、防除や無理やりな操作も可能になったのだ。キースは元から属性魔法に長けていて、ニニンシュアリのように呪術や黒魔術の様な儀式魔法は苦手らしいけどな。
「ははは、5人で当たればなんとかなるって。キースは肉体派ではないけど、俺やアランならフォローできる」
「だなー。ダズが居れば腕力で無理くり押し込めるし、コビンが居れば魔法より速い超遠距離射撃も可能だ」
「そうだぜ。仲間が居るってのはそれだけで強みだ。互いを信じて頑張れよ。俺らもそうやってアリストクレアさんの試練に打ち勝った訳だからな」
俺のボヤキに5人は苦笑いだ。今だから笑って話せるが、アリストクレアさんが俺達の独り立ちを許してくれた試練は……。マジで死を覚悟した。アリストクレアさん自身は殺す気は無かったみたいだが、最後に仲間の覚悟を背負った俺は……マジで…………本気で死を覚悟した。あの時のタイマン……。拳と拳の応酬は今思い出しても、背筋に冷たい物が走る。考えても見てくれ、鋼より固く打撃を無効化する俺の鱗が通用しなかったんだぞ? 神威の力を意に介さない衝撃を、直に内臓にぶつける強打の嵐。それが満身創痍で武器を失ったはずの死神からもたらされるんだぜ? 死神の本領は死を目前にした取り合いにあるんだろうな。そんで、皮肉にもその時の戦いで『龍王』の称号を受けたんだよ。その条件が……死を超越する信念を掲げる事。そして、生を勝ち取る。あの時は男には見栄も大事って事か……、とな。無理矢理に腹の底へ落とし込んだもんだぜ。
はてさて、上が上だけに俺らすら霞んじまうから言っておく。現在の世界情勢では俺達『独星の導き』だって他国からすれば目を背けられない脅威度のパーティーなんだ。確かに世界的に見ればそれなりに戦えるヤツらはあちこちに居る。だが、機動力と武力を両立し、勇者会議に食い込めるヤツは居ない。
転移や飛空術、種族特性から俺らは単独で防衛支援やらなんやらで出張るから、その有用性において同盟国内では一定の信頼がある。その力たるや、天災に匹敵する。1人1人が国軍を損害無しで食い潰せる物。そん中でも俺やカルフィアーテは目立つ。特に俺なんかは見た目が派手だからな。龍ってだけで畏怖や力の象徴って訳だ。それにこれは私的な場合もあるが、ルージュ王国が不可能な山越えを俺は定期的にしている。山向こうの国は立地的に悪いだけで、かなり同盟国と友好的だからな。時たま魔獣や魔物被害が出るから、俺が行くんだよ。諸々理由があるんでな。
「さすがレジアデス様っすね」
「そんなこたーねーよ。言っておくが、俺は独星では防御の要だ。攻撃の要は俺じゃねー」
「レジアデス様レベルがトップでないのもいろいろ問題ですが……。トップがどなたかお尋ねしても?」
「あん? まー、別に秘密にする様なことでもねーからな。攻撃能力的にはダントツでカルフィアーテだ。逆にアイツは受け止めるのには向かねー。その次がアルフレッドだな。アルフレッドは一撃だけならカルフィアーテと同等以上だが、絶級魔法はアイツでも気軽に連射できん」
俺達も外国を威圧しすぎちゃいかんからよ。今じゃ派手な表舞台にはもう出ねーけどな。この前の新興宗教国家崩壊戦線も俺らは裏方だったろ?
カルフィアーテが一撃かませば一国どころかその周辺国まで丸ハゲ。絶級魔法が数発撃てるアルフレッドも近い。個人の攻撃能力だけなら次がミュラー。ミュラーは広域破壊よりも単体撃破能力が非常に高い。で俺は龍特有のブレス攻撃や爪に牙
武器には事足りないが、1番の武器は神威種の攻撃すら無力な鱗だ。で、最後がニニンシュアリ。ただ、これはあくまでも攻撃力に限った話になる。実際に継戦能力や汎用なんかをひっくるめた『戦闘力』を比較すると、最強は誰かってんなら俺は間違いなくニニンシュアリだと思う。アイツは魔法戦術が豊富で呪術や工学系魔法などの手札が多い上、直接攻撃よりも搦手を主戦力として戦う術師タイプだ。その上で今のアイツは格闘戦もSSS級以上にはこなせる。
ま、俺らのリーダーだ。弱い訳がねー。かなり控えめではあるんだけどな。
こんな話をしていると下のボウズ達が高度を更に落とし、着陸体勢を取り始めた。ああ、日が暮れ始めたし、もうすぐにクラバナ小国連合の自治境界線に着くんだな。あの感じは泳鳶の判断で空からの入国は避け、接近は徒歩を選んだんだろう。誰とは言わねーが、誰かさんならそのまま国境の街の守護……下手すりゃもっとビッグな役人に凸る様なやつもいたから心配はしてたんだよ。この様子なら大丈夫そうだな。俺達も野営の準備だ。
「ぶえっくしゅ……。あー、誰かに悪い噂をされたかも?」
「いや、少し高めを飛んだから体を冷やしたんじゃないかな。言っちゃあれだけど、檜兄が1番体弱いし」
「うーん……、それならそれでもいいんだけどさ。んじゃ、泳兄! ここで野営でいいの?」
「ああ、頼むよ」
檜枝の持つ魔道具、『魔導絨毯』はかなりの便利グッズみたいだな。檜枝は幼いながらアレを自作したんだと。アリストクレアさんやニニンシュアリ、コビン、キースなどの精密魔導機械技師のレベルにはなく、言っちまえば日曜大工のレベルらしいけども。しかし、それでもバカにはできない。市井の野良技師のレベルでは今の檜枝にも劣るんだ。
その檜枝の魔導絨毯はいくつかの機能を持っているようだな。
かく言う俺らもそれに手を加えた様な品を、天才技術者のアリストクレアさんから貸与されてるけどな。檜枝は着陸地点から少し歩いて開けた場所の雑木林を魔法で切り開き、展開した魔導絨毯に魔力を流して変形させる。簡易の……と言えたらいいんだが、開かれた天幕みたいなもんはその辺の高級ホテル並の設備を有した簡易生活設備に立ち上がった。
アレだけでも魔法付与の技術は言わずもがな。核心的な部分に空間魔法、保存保護魔法などの時空をねじ曲げたりする高難度魔法のオンパレードなんだけどよ。檜枝の強みは何かを組み上げる際の情報処理能力にある。短気な癖に母親みたいにやらかさないのは、その辺りが関係してんだよな。しかも、冷静な時のヤツはかなりできる。父母から余すことなく受け継いだあの凄まじい量の魔力なんかいい例だな。
「ほへー……。これ便利だよねー」
「うん。僕も欲しいけど、意外とムズいんだよね」
「マブルとコークスならすぐに作れるだろ?」
「ダメ。僕だと簡単な魔法でも10以上の重複処理はまだできない。コレは20くらい並列処理されてるでしょ?」
「そだね。僕もそれは無理。いずれはやりたいけど」
「ふーん。そんなもんなんなの? まあとはいえ、マブルとコークスのが精密な魔道具組み上げは確実だし。今度コラボ商品でも考えるかい?」
「「いいねー!」」
和やかに話しながらではあるが、自分達の野営地を守る防衛施設の敷設内容がエグすぎる。
あのバカ野郎。伝説級の希少金属でゴーレムなんか作りやがって。檜枝の野郎、どこから手に入れたか紫覇鋼、碧壇鋼、青裂鋼などをボディベースにした人型ゴーレムを用意してやがった。だだ、俺の目じゃゴーレムの機関部であり、中枢であるコアの素材が解らん。しかもアレはアリストクレアさんの学派が作るタイプとは違う。アレは……完全なる檜枝のオリジナルだ。
んで、そのゴーレムを見ただけでどんなものか予想しやがった双子。
こちらに居る2人の魔法工学者も興味津々な様だしな。俺には解らなかったが、アレは鉱物擬生命を真似したらしい。ただし、アレには人格が備わっていないから倫理的にも国際法的にも問題ない……とコビンの言。よく分からんが、似人工的か自然的かは別に自我が無い場合は単純に『ゴーレム』。倫理的にも問題になる人工的な自我を持つ個体は、『機構人』と同じ呼び方でも物が違うんだとさ。そっち方面はよく分からんぜよ……。
あの檜枝が作ったゴーレムはかなり初歩的なゴーレムで、1つや2つの単純な命令しか同時遂行できない様だな。それでも檜枝のゴーレムはかなりできがよく、アレが自然発生型のゴーレムだとしたならば天災級の危険度が相応しいだろうさ。迷宮や遺跡の守護者に多いゴーレムだが、それが目の前にズラッと並んでるからな。
「檜枝、それってこの前言ってたヤツ?」
「うん、そうそう。やっぱり僕は近接戦闘に難があるし、弓で戦うにしても前衛が居たら楽かなー? ってさ」
「確かに。でも、そのゴーレムはどのレベルなの? 仲間から攻撃されるのは怖いんだけど」
「あー、それは大丈夫。制御は問題ないし、万が一が起きても泳兄が相手だと時間稼ぎにもなんないから。硬いから壊れはしないだろうけど、どうやっても泳兄やブラン相手じゃどうしようもないよ」
ただよー、そのゴーレムを何体作ってやがんだよ。1人用の護衛にざっと数えても100体以上とかバカだろ。ま、確かに檜枝は超のつく運動音痴だ。走るのはおせーし、馬鹿みたいに筋肉もかたい。自身を確実に守るなら堅実ではあるか。アイツ、弦は引けるのに機敏な動きを要求される体術はからっきしだったんだよなー。弓に関しては基本的なショートボウからロングボウ、和弓、クロスボウなんかも普通に使う。同系統かというと微妙なとこだが、何でかスリングショットもかなり上手い。あと、ダーツな。そんな檜枝が護身と作戦を加味して作り上げた策。粗も散見してるが、あのゴーレムと檜枝だけでも国崩しには十分の措置だよ。
あのゴーレムは聞く限りコアがキモみたいだ。ライブラリアの名を継ぐ森人の特異技能を核にしている。
まだまだ檜枝自身の力がキースやコビン基準で……大したことないからな。完成度はそれ程でもないだろうが、アレらに詳しいキースとコビン曰く、アレは使い方がしっかりしていればなかなか凶悪らしい。檜枝がアリストクレアさんと模擬戦をした時に使った分身の核心部分が、あのゴーレムだからな。機構の中枢部に詳しいキース曰く、あのゴーレムは文字魔法が対応されている。しかもかなり自由度の高い操作性を実現するため、檜枝がアルフレッドと紅葉嬢の双方から受け継いだ頭脳系継承異能とリンクされている。普通なら100体のゴーレムを1人で操ると団体でしか管理できん。……が、アイツは単一端末の2から3種の挙動までならリアルタイムで臨機応変に指令できる訳だ。
「フムフム……。やり方はいろいろ。魔法の組み合わせも、いろいろ楽しい」
「ウムウム……。参考になる。メモメモ、森人の秘術……知りたいな」
「でもなあ、まだまだだよ。動きは固いし、1回にストックできる指令は2つ…無理をすれば3つだからね」
「いや、それでも凄いよ。僕はそんなに器用じゃないから。3人が凄く羨ましいな」
出た。天然ジゴロ親子の子。ブラン・ワールテアルロ。傍から見た彼女候補が3桁に乗りそうな程のモテ男なのに、本人は男も女も全て友達付き合いくらいに思ってる。このブランはガチモンの天然だ。姉のノアが察しのよすぎる腹黒キャラだからある意味バランスは取れている。一挙一動がタラシみたいな言動の癖に、野郎から見ても嫌味じゃねーんだよな。性別問わずに似たような態度をとるから。
そのブランだが、けして弱くない。今のところは防御に特化した大規模異能だから、目立たないだけだ。ブランの使う『英雄盾』はシルヴィアさんに継ぐ防御能力を誇る。今のところ……と言う理由は、俺が似たような異能を使えるんだがその使い方がな。シルヴィアさんの銀結界は彼女が触れていなければ動かせない。しかし、ブランの英雄盾は任意の位置にほぼノータイムで移動させられ、強度も引けを取らないんだがよ。ま、弱点もそこにあるが。
ブランの英雄盾は……物理干渉どころか光線も捻じ曲げちまう。そんでもって神通力をバカ食いするが、2つ以上で任意サイズの英雄盾を高速で移動させられる。物理判定があるからそれで挟み潰すなんて事もできちまうだろうな。その辺に気づいているかいないかはこの際どうでもいいが、ブランはあの中で最も伸びしろが長いとも言える。
「ブランはバランス型だからね。アリストクレアさんもよく言っていたけど、騎士として君はこれ以上ない逸材だ。もちろん僕もそう思ってるよ」
「そ、そうかな。へへへ、泳兄に言われるとなんかそんな気もするかも。へへへ」
とは言え、長期作戦時での実戦経験は泳鳶以外皆無に等しい。野営やその他の雑務は教科書通りにこなしているが、戦闘時に臨機応変に対応できるかは怪しい。
心配しすぎても仕方ないが、アイツらの身に何かあろうもんなら俺らが絞め殺されちまう。だから、絶対にアイツらには五体満足で帰ってきてもらわなならん。俺は龍の中でも若造ではあるが、それなりに高い地位にあり能力は飛び抜けてんでな。アイツらを守りきらなくちゃならん。
経験的な意味や合理性から、他の連中は休ませて俺が夜番をする。確実だし、龍の姿をしていれば頭のいい神威種や実力差を理解できる魔獣や魔物ならば、俺に敵対はしない。たまに部族単位で住まう蛮鬼が来たりもするがな。
あん? 何だ? チビの中でも最も索敵能力が高い泳鳶がメンバーを叩き起し始めたな。…………。しゃーねー。俺らも準備だ。1日目からして馬鹿げた事になってんなぁ。おい。
1番荷物を出していた檜枝の荷物を手分けして魔倉鞄に詰め込み、今度は効率は無視で速度重視なんだろう。檜枝の大聖獣と大精霊でクラバナ小国連合の北端へ、高高度を維持し移動している。俺も全員を背に乗せて昼間と同高度を維持する。
「レジアデスさん。アレはヤバいかもです」
「俺の予想は正しそうか?」
「ええと、半々くらいですかね?」
「あん?」
「どうも迷宮や棲巣地が絡んだ自然発生的な大暴走ではないようです。アレは人為的な何かが絡んだ擬似的な物ですね」
「クラバナの北端への到達にチビ達は間に合うだろうが……。アイツらにやらせるには…………」
「大丈夫なのでは? むしろ、可愛い子には旅をさせましょう。特に直情的な檜枝やまだホワホワしているブランには良い体験になるでしょう」
「コビンもキースも意外とスパルタなんな。ま、俺も否定はしないけども」
レギウスの見立てと俺の見立てはそこそこ近い。だが、経験の差が出たな。俺の予想はもうちっと違う。アレは、クラウゾナス帝国が何らかの方法で、クラバナ北端と自国の境にある山を超えた攻撃。……少しどころかやりすぎ感満載だが、『脅し』だろう。竜や大型の頂上生物を利用して縄張りを乱し、引き起こしたか? クラバナ小国連合は聖刻に1番近い豪族国家へ、アリストクレアさんが干渉したことで、唯一こちらの世界に前からある国家へ歩み寄りの態度がある。比較的に近隣のクラウゾナス帝国やダイアン皇国は、この態度は面白くないはずだ。
ダイアン皇国はルージュ王国との交戦中、クラウゾナス帝国とも睨み合い。また、クラウゾナス帝国よりもクラバナ小国連合とは距離がある。クラウゾナス帝国程に直接的に手を出せる状態じゃないだろう。で、ルージュ王国、ダイアン皇国は共に睨み合いを続けるのみで、直接交戦の無いクラウゾナス帝国は、クラバナ小国連合を脅すには距離的にも軍事力的にも余裕があった訳だ。
つーかアイツらはえーよ!!
俺は風神龍と雑龍の間に生まれた特殊交雑個体だ。龍の中では現在でも年齢的、実力的に考えて最速でもおかしかない。……その俺が距離を徐々にしか縮められんってのは速度的に異常だ。檜枝の大聖獣は甲虫、『紫覇鋼王蟲』全長15mくらいの光沢質な薄紫色のカブトムシだ。それも大和種。んで、大精霊の方が……なんと、秋の季節霊『フォルフオルフェ』。紫覇鋼王蟲の角と角の間に檜枝が、空を軽快に駆ける巨大な雌鹿が姿を変えたフォルフオルフェの背に他4人だ。
「フォル、間に合いそう?」
「だーいじょーぶー。私だってこれでも季節霊なんだからねー? それよか、現場はどう収めるか早く考えときなよー」
何とも緊張感のねー間延びした声だな。
秋の気質は変人が多いとは聞くが、まさか聖獣や精霊が原因なのか? まあ、いいや。言ってることは至極真っ当。速度について問うた檜枝ではなく、パーティーリーダーの泳鳶が皆に聴こえるように指示を出している。
現在の速度ならば、魔力が津波の様に見える大暴走の第一波がクラバナ北端に到達する前に到達し、準備も十分できるだろう。その滑り出しでクラバナ小国連合の事は、クラバナ小国連合に任せるつもりなんだろう。泳鳶の舵取りは防衛の姿勢へ全切り。つまり、クラバナ小国連合の街の外で押し返す、リスキーな策をメインに据えたんだ。
まず、今回の要は檜枝とブランの2人。
特に重要なのはブランの異能、英雄盾と檜枝が入れる事になる合いの手だ。実はクラバナ小国連合へ向かう大暴走の群れは山を避け、谷合を集結する様に集まりつつある。何故かは解らないが、山の上などを無作為に突っ斬らずに、そう『指示された』様にクラバナ北端の要塞都市グランノームへ一直線なんだよな。
「不自然だよね。だから、檜枝とブランでブロック&ブレイクを主体に敵を押し留めて欲しい」
「うーん。やるのは構わないけど、それっていつか限界が来るんじゃない? 物量的にも体力的にも」
「そこでマブルとコークスの出番かな。確か、マブルの機軸操作は生物に行使するにはかなりハイリスクだけど、『死体』ならその限りじゃないよね?」
「ほほー。なるほど。僕の機軸操作とコークスの『刻閤』の合わせ技で、大暴走の後続が凸って来るのを邪魔したらいい訳だ」
「理解が早くて助かるよ。ただ、それだけだと檜枝と、特にブランの負担が大き過ぎちゃうから、マブルとコークスも少数でも打ち倒してくれると助かるよ」
「「りょうかーい!!」」
「後は臨機応変に。僕はできる限りで元凶を探るから」
……チッ。泳鳶のやつ、俺の位置に気づいてやがるな。一瞬だけ俺の居る方向へ迷わず視線を飛ばして来やがった。いきなり手出しは拙いんだが、これは既にアイツらがやるはずだった調査の範囲を超えている。ヤバそうなら俺らに助けて欲しい旨を伝えてきた訳だよ。頭が良すぎるのも問題だよな。ホントによ。よし、ボウズ共が想定していた地点に着いたな。俺らも下準備を始めようかね。残り10分もせずに第一波が到達する。実力的には下位の野生動物群だ。俺の背中の上でも連中が最後の調整中。俺は万端だ。
………………。まあ、予想しなかった訳じゃない。予想はしてたんだが、あそこまでやるか?
フォルフオルフェは到着と同時に消えた。どうやらフォルフオルフェは檜枝に着いている訳じゃ無さそうだな。だが、気配はあるから、過保護なハイエルフの族長がつけた護衛なんだろうさ。椿様、勝手はやめて欲しいんですがね。その後、大人顔負けの手際でヤツらは防衛陣を構築し始めた。中心になるのはもちろんマブルとコークス。えげつないトラップを多数配置し、徹底的に邪魔をするためのキラーダンジョン顔負けの布陣。
その遥か後ろには自身のゴーレムを半々に部隊分けし、槍衾と矢による狙撃を狙う部隊に分配。通す気配はない。加えて檜枝のゴーレム部隊に来る前に抑え込むためか、槍衾の中央にブランの姿もある。
「泳鳶坊ちゃんは遊撃に出たみたいだな」
「だろうさ、アイツは防御や広域破壊より単体での無双に向いてる。敵が暴走中の獣なら、脅威度の高い個体をピンポイントで狩る方が効率的だ」
「でも、ちょっと危ういね。泳鳶君なら大丈夫だろうけど、リカバリーを考えると余裕が無さすぎ……」
キースの言葉を遮り、転移魔法まで用いてキラートラップを敷きまくった双子の大一撃が炸裂。まさに炸裂した。……アレ、対龍装備だよな?
夜空を真昼レベルに照らしあげ、爆風で森の一部が禿げあがった。マブルとコークスが配置したのは『魔力波地雷』。しかも魔力がかなり込められたタイプで、竜じゃなく、龍の鱗すら吹っ飛ばす『戦略兵器』の1つ。ちなみに魔力波地雷は機構は1つのみ。膨大な魔力を込められる魔力タンクのみだ。それに特殊な魔法陣を組み込み設置する。その地雷原で大暴走の第一波はほぼ吹き飛んだ。運良く第一波の後続にいたヤツらも無傷じゃない。急激に加圧された、属性添加が施されていない無の魔力波をくらい、体内の魔力腺が揺さぶられてしまい体が役に立たない。
あと、空を飛んでたヤツらも軒並みやられた。魔力波地雷は込められた魔力にもよるが、最低でも半径5kmを急膨張した時の摩擦熱と空気圧で吹き飛ばせる。問題はマブルとコークスが魔力を込めた事。マブルもコークスも普通のガキじゃない。マブルとコークスが単純に魔力を込めただけな訳が無いんだ。アイツらはやる時は徹底的にやりやがる。しかもチョイスが魔力波地雷なのがいやらしいぜ。
「おー……派手に行ったねー」
「だねー。でも、まだ、改良の余地ありだね。普通の地雷とは違うんだからもっと弄れそう」
「うむうむ。遠隔で魔力を込められるから準備も楽だけど、燃費悪いし」
「それなー。でも、あと100個はあるし、ゆっくり検証しようか」
「うーい」
魔力波地雷は爆心地付近で攻撃を受けた場合、魔力波に魔力腺を揺すられて三半規管が異常を出さずとも魔法が使えなくなる。つまり、魔力により体を強化しているから故に強固である魔物は無力。神通力の淀みにより、魔獣が変遷した魔獣も根幹が魔物であるため、魔物程ではないがかなり弱体化する。それを解っていてやるあたり、あの親父殿にしてあのガキ共……ってやつだよ。機材を介した戦いでは俺でもやばいかもな。
ただ、魔力波地雷は仲間に魔法戦士や超級以上の殲滅魔法を使う術師がいると相性悪いんだよな。その場の魔力波や脈が乱されて魔法の精細を奪われると事故る率が高まる。あの状態だとアルフレッドや紅葉嬢クラスでも超級以上は避けるくらいには魔力波が荒れている。アレが自然に起きているならば、アレは魔力嵐って災害なんだがな。しかも、魔力波地雷はマブルとコークスからすれば『オモチャ』だ。相手の獣が哀れになる。
……が、数ってのは無視できないもんだ。
いくら地雷が強力でもバカのように突っ込んでくるのは獣だが、高ランクになればなるだけ突破されやすくなる。その辺はマブルとコークスも織り込み済み。魔力は地雷へ注ぎ込み、2人は火薬を使う対物ライフルを使って眼球や口内を狙っている。アイツらはホントにあの人らの子だよなあ……。
「遂に来たね。地雷で倒した死体をぶつけて突進はかなり減衰してるから、今の内は僕だけでもいけそうだけど」
「いや、あんまり油断しちゃダメだよ。僕も温存はするけど、一応やるからね?」
「おっけー! 頼むよ!」
マブルとコークスの魔力波地雷により、かなりの数が吹き飛ばされ削られはするが、さすがに上位の魔獣だと健在。つか、上位の魔獣が追われる物ってなんなんだ? 最悪俺が出るのも視野に入って来たな。ただ、まだ出ちゃならん。泳鳶が単独で遊撃しているから、コビンとキースが地上で暗躍しているが、危機的状況にはなっていない。5人がヨレるまでは俺は手出ししちゃならん。じゃねーと、アイツらの糧にはならん。
その間に近づいて来た魔獣や……なんだアレ。ポツポツと見た事のない獣がいやがる。恐るべきはその獣は中位程度の魔獣と戦えている点か。さすがに魔法的な攻撃と神通力的な作用がある攻撃には対応できていないが、それでも高位冒険者やA級以上の勇者じゃねーと危ないぞ。
それをブランのヤツは重機よろしく異能で弾き潰していく。解ってんじゃん。ブランの異能、英雄盾は純粋な神通力による構造体構築のため、かなり燃費の面で悪い。しかし、ここぞと言う時に使えば、かなり効果的だ。今のように津波の様に押し寄せる魔獣に大してなら、ブランの魔法特性、光で弱体化もできるから一石二鳥以上なのは間違いない。
「流石だねー。結構強い魔獣を強制退去か。んじゃ、僕もがんばるかなー」
「お願いするよ。さすがに、あの面積を乱発はできないからね」
「ういういー」
そんで泣きっ面に蜂ってな。
檜枝は魔法和弓を構えたゴーレム軍団から、巨大なダイヤモンドの破城鎚が雨あられと放たれはる。あれが超級魔法じゃないってのが反則だよな。檜枝は母親の高連射力で精密な魔法と、父親の高威力で正確な魔法を合わせて使えるんだ。つまり、高威力のマシンガンをぶち込まれるのと同じ事なんだよな。堅固な城壁を吹き飛ばせるダイヤモンドの巨大な杭が、巨大な壁に衝突し押しやられた獣達へ降り注ぐ。
通常ならばあの巨大な杭1本でも、熟練魔導師すら出し所を悩む物だ。それを5病に1本撃ち込むストロークで目の前の獣を殲滅するまで撃ち続けていた。難級相当の魔法を戦略的に使える上級魔導師が聞いたら絶叫しそうな話だよな。檜枝はそれだけヤバい戦力なんだ。
檜枝は魔法オタクで抜けてる所があるから、周りのチビと比較されて一段下に見られている所がある。聖刻の光り輝く部分が武門である事も一因か。だが、檜枝はまた別方面で恐ろしい存在だ。戦略級魔法とも言われる超級以上の魔法を使おうと思えば使えるチビ。また、その鬼才がこのまま成長してみろ。国を一撃で滅ぼせる魔導師がまた聖刻に増えるんだ。何人になるんだ? まあ、今は細かい事はいいや。
「あっちは派手にやってるね。でも、さすがに上位魔獣が団体で突っ込む事態だけは避けたい。何よりブランのは燃費も悪いから長続きはしないし。僕が頑張らないと……」
さてさて、背負い込むのはいいが、集団の上位魔獣を1人で抑え込むのはなかなかキツいぞ?泳鳶は1人で数体の上位魔獣を切り伏せながら、奥へ奥へと穿孔していた。スタンドプレーとも言い難いが、いくら強くても自分の実力でやれるギリギリの目算を組むのは拙い。
レギウス達が言うように、今回は泳鳶が最も危ういんだよな。だから、他のチビは固まっているのをいい事に俺が遠目に見ながら、キースとコビンに泳鳶を観察させているんだよ。泳鳶が何に対して憤慨しているのかは解らないが、泳鳶は鬼の一家が作り上げた大太刀で無双してやがる。いつもなら青い髪と瞳も血で染めた様な深紅に。カムフラージュなのかいつもの大和装束ではなく軽装歩兵の装備を緩くした感じなんだが……。全身赤黒い体液塗れ。キースとコビン曰く、凄まじい数の魔獣やらなんやらを片っ端から斬り殺しているんだとさ。
とはいえ泳鳶は1人だ。数がいる場合は全てを捌ききるなんてのはまず不可能。
それにこの大暴走は何かおかしい。完全に異常事態だって事は判断できるが、それ以上に踏み込んだ要因や目的、元凶を絞り込めねー。キースとコビンも泳鳶が零した高脅威度の魔獣をそれとなく仕留めているとも通達が来ている。何故かは施設解らんが、アイツらを敵として認識した魔獣は、一瞥すると興味を失った様に一点へ向けて走り出す。それは方角的にグランノームしかない。都市へ向けて走り続けてる。そんでもって敵対者に対して激しい反抗がない。ここまで考えりゃ俺より頭の回転がいい泳鳶なら解ってんだろうけどな。
「……面倒な事になってきた。本当は頼みたくはないけど」
『ダメダメ、泳兄。1人で楽しく無双するのはいいけど、終わりが無かったらどうすんの』
『だよ。今回は皆で1つ。僕らも動くよ。誰が適任か、任命は頼むけどね。リーダー』
「ははは、ごめんごめん。なら、コークス。街の中にアレらを誘導する何かがあると思う。術者ならできるだけ生け捕り。無理そうだったり、器物なら解析の後に破壊で」
『はーい』
泳鳶がなんか指示を出したのか? チビ達の隊列が変わった。泳鳶は変わらず脅威度の高い魔獣やなんかを中心に狩り回っている。その後列のマブルとコークスに変化があった。マブルだけが魔法石から何やら特殊な武器を取り出し、コークスは何かの術か? 黒い靄に包まれたと思ったら消えやがった。
しゃーねー。レギウスとアランに指示を出し、コークスの追跡を行わせる。俺は残りの3人の監視だ。
戦況に大きな変化はねーけどよ。ただ、これまで見られなかった鬼の双子の実力を目の当たりにした訳だわ。マブルは魔法石を取り出し、魔力を流す。展開された若干口径が大き目な銃を二丁もっている。しかも、バレルの上部には何やら発光する刃がついてやがるな。親父殿に影響されたのか、滅茶滅茶歪んだ笑顔で舌なめずり。そこからはもうな。5歳くらいのガキの動きじゃねー。体を傾けた瞬間には敵群最前列で散弾銃っぽい銃撃。面制圧の範囲をカバーする為、二丁を代わる代わる撃っては斬り、撃っては斬り。
マブルは神通力主体の機動戦闘がメイン戦法みたいだな。その辺りはお袋さんから学んだんだろうが、神通力使用のオンとオフが上手い。身体強化を恒常的に行わず、必要なタイミングに必要な量をギリギリで展開する技術。異能『機軸操作』の併用もだ。本来なら神通力をバカ食いしちまう範囲指定型摂理干渉異能。アレを使い勝手の良い物にしちまった様だし。
「僕は目立っちゃうしな〜。やっぱり裏工作はコークスのが上手いもん。残念だけどっ! 僕は僕で楽しんじゃおう」
マブルの異能、機軸操作は神鬼の固有異能である『創造』の分派らしい。アリストクレアさんの十八番、『分解消失』とも全く違う。
異能中でも摂理干渉異能は物事の方向性をねじ曲げられるとあって、かなり燃費が悪く、乱発には向かない。それを使い方を限定して用いているんだとさ。アリストクレアさん達鬼の一族でも一握りの実力者が乱発しない程だ。本当ならおいそれと使うべきじゃない。それを補ったのは女神の血筋。鬼の血筋は創造を使う上で起きちまう神通力の過負荷により体を蝕まれる。しかし、それに最適化された今の女神の血筋は違う。高負荷が続いても簡単には壊れない。さらに鬼よりも女神の血筋は内在神通力量が格段に多い。まあ、アイツらはボウズだからな。ねーちゃん達よりはかなり少ないらしいけど。
マブルは機軸操作で力の掛かる方向だけじゃなく、力の掛かり方を変えてやがる。武器は軽量化を主軸に造られたショットガンらしく、精密な射撃能力としては壊滅的。その代わりショットシェルに詰め込まれた金属球は、凶悪の一言だぜ。魔法工学者の卵だけあってか、その類の金属やら術式には詳しいはずだ。まさか直径5mm程度の金属球が、魔獣の硬い外皮を抉り飛ばす様な爆発を起こすんだからな。
「んー? 地雷の爆発が止まったぞ?」
「うん。さっきコークスが街中に飛んでったよ。だから、マブルが乱戦形式でつぶしてるんじゃない?」
「マブルかぁ。アイツは大人しそうに見えてかなりのキチガイだしなあ。……獲物、回ってくるかなぁ…………」
「それはまぁ、展開次第じゃない? あと、嫌な予感しかしないんだけど。ウチのパーティーのアサシンが行ったって事は、何か作為めいた事態に首を突っ込んじゃった訳だよね?」
「それは確実だろうね。くーっ! やっと面白くなってきたんじゃないっ?!」
マブルが大暴れする事で、大暴走の流れはほぼほぼ止められている。少数の溢れが抜けていくが、最後尾の2人が大規模異能無しで制圧できる程度の数だ。大魔獣クラスの大獲物は泳鳶が大太刀周りを演じて斬り潰し、上級魔獣クラスは死にはせずともついでとばかりになぶられている。その後に続くマブルも上級以下の魔獣などを苦もなくなぶり殺しにしているからな。数時間とか持久戦にならないならば問題なさそうだ。
問題は檜枝か? マブルが抜け駆けし始めたせいでかなり危ない発言が出てやがる。……よかった。ブランが止めてくれた。
檜枝は実際に魔法を使わせると被害が甚大になるからな。魔法は確かに威力調整が利く。ただし、それは使用者の練度による。檜枝は両親から受け継いだ魔法の素養が計り知れない。高威力で広範囲を破壊する大規模魔法ならば……、まぁ、問題が無いわけじゃないが、仕方ないと言っていい。だが、檜枝の場合は簡単な魔法を選んでも、その魔法の2ランク上の魔法へ昇華させちまうんだよなあ。それに檜枝の魔法特性は土や岩、鉱石、金属だ。この属性は火属性よりも物的被害が大きい。
「ぶー……」
「仕方ないじゃないか。僕や檜兄の魔法は使うだけで被害が大き過ぎるんだから」
「まー確かにね。地面や鉱物を使う僕の魔法はかなり広範囲を修復不可能にしちゃうし、ブランの殲滅魔法は貫通力と威力が高すぎで減衰が難しいもんな」
「そうだよ。しかも、僕はそんなに連発もできないし」
「まあ、神は二物を与えずだよな」
「いや、檜兄は何個も与えられてると思うよ」
「……『解ってねーよ。コイツ。お前もその1人だよ』」
おっと、雑談してたら城塞都市グランノーム内部で動きが起きた。レギウスから簡易な式神による伝達が来た。そうか、アイツらは念話魔法が使えないからな。こうするしかないのか。
どうもコークスが100点満点の結果を出したらしい。
解ってはいたんだが、さすがはアリストクレアさんの息子。闇に紛れ暗躍し、泳鳶やマブルが抑えている短時間に、大暴走を誘発させた魔道具みたいなもんを解析、破壊した。その後、ワザと敵を煽って無力化し、拘束後はグランノーム内で待機中と……。あ、いや、100点ではあるが、満点ではないか……。魔道具の解析と破壊はまあいい。その後の敵の洗い出しと無力化が大問題だ。
マブルが嬉々として魔獣や魔物を狩り回ってたから解るだろう? この兄弟も鬼の血族ってこった。普段は落ち着いた感じで、起伏が少ないからそんな気配はない。だが、一度スイッチが入ると極まったバトルジャンキーへと変貌する。しかも、単なる戦闘好きとは違う。アリストクレアさんは強い敵との戦いを好むのに対して、この双子はその辺に頓着しない。アイツらは戦えれば文句はないんだ。
そのコークスは魔獣を誘導したであろう敵さんの工作員の手足を全部切り取っちまったんだとよ。極まったサディストとは聞いていたがなかなかヤバい。……内部情報を抜き出すためにやったらしいんだがな。拷問にしたってやりようがあるだろう。
「全く……アイツらは」
「まさかマブルとコークスまで狂った戦い方をするとは……」
「レジアデス様……さすがにアレは俺らじゃ手に負えないっす」
「あー……、しゃーねーよ。俺だったとしてアイツらとはぶつかり稽古は絶対やらん。止めなかった事に俺は何も言わねーから」
「ですがね。あの力はちょいとヤバいかもしれないっす。マブルはまだ制御は効いているみたいっすけど、コークスのアレは制御できるできないじゃない範囲っすよ」
「……俺もあの力はヤバいと思います」
マブルの機軸操作は方向と加減を調整する事象改変異能。対象物体を意図的に増やさなければ、意外と扱いやすいとマブル自身が言っていた。ただ、コークスの場合は違う。
『刻閤』。
コークスの持つこの創造派生異能はシルヴィアさんが用いる構築系固有異能とは真逆なんだ。刻閤はかなり小さな歪曲空間を創り出し、その強烈な吸引力で常世のあらゆる物を破壊できる。無から有を生み出すシルヴィアさんとは違い、有を無に帰す異能だ。そんで、アランとレギウスが気にした点は、刻閤は弱点として発動に時間差があり、意図的に消すのにも時間がかかる事。さらに言えば使われる神通力も莫大で、使い所が限られるのだ。刻閤はかなり扱い難い。
問題はその先。コークスはそれをどうやったのかかなり気軽に使う。機軸操作を日常的に使うマブルもそうだが、コークスもかなりデカいリスクを抱え込んだ技をいろいろと気軽に使う。まさか、武器や道具に『創造』の産物を付加するとはよ。
『あーあー、泳兄聞こえてる?』
「うん。聞こえてるよ。上手くいったんだね?」
『そそ。僕らが遊びに行くのに十分な理由が聞き出せたよ。この後はどうするの?』
「その情報にもよるけど?」
『あ、僕らの予定じゃなくて、聞き出したヤツらの事』
「……まあ、できれば街の有力者に引き渡したいんだけどね。でも、僕らには信用はないし」
『なら、壊していい?』
「……うーん。ダメだよ。今回はレジアデス先生に判断をお願いするから」
あの野郎。面倒な事だけ丸投げしやがって……。
まあ、だが、その判断は正しいな。俺も気になることがある。それにどう考えても想定外の事に巻き込まれてやがるからな。こういう事があると踏んでたから、アリストクレアさんは俺に国を潰しても構わないと言ったのか?
……違うな。チビらを守るためってのが大きいかもしれねーな。アリストクレアさんは敵対者には容赦ないが、身内にはかなり甘い。間違いは正し、必要とあらば谷に突き落とす様な苛烈な試練を課す。それも愛や思いやりあって故だろう。さて、俺も彼らの意志を継いで行かなくちゃな。




